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第41話 家族会議


 悪霊退散してだれかさんがあっち行ったらみんなの具合がよくなったから、お昼ごはんを挟んで家族会議になりました。


 とはいえ、研究所にいる憲法を呼び出すのも時間がかかったし、ダンジョン直帰でたっぷり魔素汚染されてた有害生物を除染するのもいろいろ大変だったらしい。

 宵司ってば、そもそも闇王パパとの面談の途中にこっそり抜け出してきててね。気力回復した白絹お祖母様と闇王パパにダブルで叱られながらの拷問ランチタイムだったってブチブチ文句。


「ここんち、おかしいだろ? これが地球の救世主を迎える態度か? 覚えてもいねぇ過去の発言をネチネチしつこく呪いやがって……っな、くっだんねーことより、ダンジョン崩壊を未然に防いだ世紀のヒーローを褒め称えるべきだろ?」


 えー、そんなこと言ったって、真珠ちゃん、まだ赤ちゃんだから、筋肉にもゴリラにもダンジョンにも興味ないしぃ? 俺スゲーはよそでやって。


 あ、沙華さんは一度ミルクちゃんのところに戻ってお昼ごはん。

 沙華さんは今、黒玄家の離れのひとつに相済さんとミルクちゃんと住んでるんだよ。主に警備の都合で。


 そして、わたしは月白お兄様とばあやといつもの楽しいお昼ごはんだった。もちろん、すすきさんも一緒。


 家族会議の参加者もわたし、月白お兄様、白絹お祖母様、黒玄家三兄弟に加えて、沙華さんとばあやとすすきさん。最後の二人はもちろんわたしの家族枠。必須!

 場所が白絹お祖母様のお部屋の居間だから、ひそかにスライムクアアもソファの下に忍ばせてる。ペットは家族。

 ブタさんぬいぐるみを抱えたわたしは月白お兄様に抱っこされて三人掛けのソファの真ん中。その両隣に白絹お祖母様とばあやが座って、横のソファに沙華さんととすすきさんが並んで着席。

 黒玄家三兄弟はテーブルを挟んだむこうで一人ずつ椅子に。真ん中の闇王パパが両脇の二人を見張ってる感じ。


「お父様、さっきまで宵司伯父様が放出していたレベルの魔力に耐えられる人間って、地球上にどれくらい存在しますか?」


 最後に部屋に入ってきた憲法が椅子に座った途端、月白お兄様はすぐさま尋ねた。うん、ひとりで愚痴る宵司は無視でいいもんね。


「しかも、その強烈な魔力で体内の魔素バランスが壊れて具合の悪くなった人間を、軽く触れるだけで無意識のうちに治療してしまうって、そんなことできるの、竜胆お兄様レベルの魔医療師ですよね? 一歳で魔医療師のスキル覚醒する赤ん坊って、真珠以外に存在しますか?」


 でもさ、月白お兄様、これ、質問じゃなくて確認だよね? さすが子供なストレートっぷり!

 憲法以外の大人全員が「え?」って顔になった。

 自分のことだけど、わたしもびっくり! なにそれ? わたしそんな難しいことやってないよ。魔医療師のスキルってなに? ああ、でも、だから「無意識のうちに」なのかな? ……って、納得してる場合じゃない!


「これまでもこれからも真珠以外は不可能だ。真珠に較べれば月白でさえ普通の赤ん坊だったし、僕たち三兄弟でさえダンジョンで親がすることを真似て初めてスキル覚醒したんだからね」


 憲法、きっぱり断言。

 まあ、憲法だもんね。月白お兄様の父親っていうか、言葉選ばない系っていうか、露茄さん以外は等しく実験動物。オブラートに包まずにずばりと言っちゃうよね……。

 

「真珠は根本的に普通の赤ん坊じゃない。一歳の赤ん坊なんて自分のことしか考えない、訓練された犬以下の知能だ。なのに、真珠はその幼さで状況判断して、他者を思いやることができる。真珠がテイマーのスキルに目覚めたのはスライムからばあやを守るためだったが、今回、魔医療師のスキルに目覚めたとすれば、それは月白を癒すためだろう。他者を想う慈愛の精神はもうすでに露茄レベルかもしれない」


 えー、それって前世おばさん記憶の滅私奉公精神のことぉ? わたし、生まれ変わってまで過労死したくないんだけどぉ?


 将来、危険なモンスターと戦う冒険者とか、ブラック労働環境な魔医療師になんてぜったいにならないし、お金は白絹お祖母様がくれるっていってるもん!

 やっぱり理想は就職どころか学校にも行かずにニートなひきこもりして、祖母と父親にゴロゴロ甘えて遊ぶ生活だよね。このおうち広いから掃除くらいは手伝うし、庭の手入れも楽しいし、大きくなったら自分でイチゴジャム煮て、お菓子作りとかやってみたい!


「真珠、僕のために……」


 月白お兄様は腕のなかのわたしと目を合わせて、悲しげに謝る。


「ごめんね、真珠。またスキル覚醒なんて、不甲斐ないお兄ちゃんでごめんね。僕が守ってあげなきゃいけないのに、こんな小さい真珠に守られるなんて……!」

「にーた、おうた! おうた、ららら!」


 えー、大丈夫だよ、お兄様。別に真珠ちゃん、今回はなにもしてないっていうか、特に身体に異変はないし、スキル覚醒した自覚もないから。

 それより遊んでほしいな。さっき、お歌の練習途中だったしね!


「うん、お歌ならいくらでも歌ってあげるけど、その前に大人に対策してもらおうね。真珠、こんなに小さいのにまたスキル覚醒なんて、身体に相当な負担がかかってるよ。お父様、竜胆お兄様は今、どちらに?」

「フロリダにいるはずだが、月白が電話すれば仕事を抜け出して帰ってくるだろう。この端末ならすぐつながるよ」


 憲法は上着のポケットから取り出した携帯端末をふわっと魔法で浮かせて月白お兄様の手元に飛ばしてきた。この人、ほんっとこういうの器用!

 だけど、フロリダってアメリカだよね? このダンジョン世界も地球なんだから、前世と同じく時差があるはず。前世のおばさん知識だと日本とフロリダは時差十四時間。だけど、サマータイムのあいだは十三時間。

 で、今、ここの壁時計が午後二時を指してるってことは、あっちは今、真夜中の午前一時なんじゃ……。


「もしもし月白です。竜胆お兄様、起きてください。真珠が大変だから今すぐ来てください! 聞いてますか? はい、竜胆お兄様が必要なんです。仕事です。僕が雇います。今の仕事の違約金もお父様が……え? 魔道具? そんなのお父様にいくらでも準備させますから、今すぐ来てくださいね!」


 電話の向こうではほぼほぼ寝てるような声がしてるけど、さすが子供の我が儘! 月白お兄様、強引に竜胆叔父様との約束を取り付けちゃった!


「姪っ子が見つかったと聞いてもさすがに当面は仕事優先、動画での安否確認で我慢するという話だったのに、竜胆はとことん月白には甘いね。まあ、僕も人のことは言えないが、それで月白、真珠のスキルについて僕が先に確認しておこうか? それとも竜胆に診てもらうかい?」


 月白お兄様は一切の迷いなく答えた。


「真珠に関してはぜんぶ竜胆お兄様にお願いします。お父様はそれより真珠の安全確保と、竜胆お兄様が必要な魔道具を揃えてください。欲しいものリストは後でメールするそうです」


 携帯端末をテーブルの上に置いて、月白お兄様はマッドサイエンティストをわたしに近づけないとばかりに抱えなおした。おかげでブタさんうーたが床に落ちちゃったよ。

 こういう時、たいてい横に座ってるばあやがすぐに拾って渡してくれるんだけど、あれ? ばあや、まだびっくりフリーズ顔?

 そういえば、家族会議なのに月白お兄様と憲法の父子会議になってる。やたら静か。きょろきょろ見まわしたら、ばあや同様、みんな唖然茫然、開いた口が塞がらないって感じ。


 だけど、テイマーのスキルはクアアってだれもが目に見える証拠があったから実感できたけど、魔医療師。それも病気やケガじゃなくて、魔素バランスがどうのこうのって、当のわたしも自覚のないスキルなんだよね。

 半信半疑といった声で白絹お祖母様が尋ねてきた。


「月白、その、真珠が魔医療師のスキルに目覚めたっていうのは本当なのかしら? おまえを疑うわけじゃないけど、さっきのはおまえの身体が宵司の魔力に慣れたとかじゃないの?」


 ぬいぐるみがなくなって空いたわたしのちいさな手を、月白お兄様は背後からぎゅっと両手で包みこんだ。顔は見えないけど、頭にすり寄せられる月白お兄様の頬はあったかい。


「体の中をぐるぐる暴れ回ってたなにかが、真珠に触れられた途端にすうっと消えて、真珠を抱っこしたらむしろリラックスできたから間違いないです。今も真珠に触れていると、普段、闇王伯父様や宵司伯父様から感じる強い魔力の威圧感をまったく感じません。もしかしたら魔医療師とは違うのかもしれないけど、真珠が魔素や魔力に関するスキルに目覚めたのは確かです」


 おおっ! 真珠ちゃん抱っこでリラックス効果なら、お互いにウィンウィン! わたしも月白お兄様に抱っこされるの癒されるよ。ほっぺたぷにぷにで柔らかいし、ちょっと甘いこどもアロマに高め体温で相乗効果!


「にぎにぎ、にーた、あくちゅ!」


 月白お兄様の指を一本ずつにぎにぎして、すべすべお手てと握手したりまたにぎにぎしたりとキャッキャ手遊び。

 白絹お祖母様はふふっとほほえんで、わたしの手ごと月白お兄様の手を両手で包み込んだ。


「家族だけの秘密にするのはいい判断だったわ、月白。おまえは真珠をきちんと守れている。だから、あとは大人に任せて真珠と遊んであげてね。ええ、竜胆さんはわたくしの体調不良で呼び出したことにしましょう」


 そして、白絹お祖母様は息子たちに次々に指示した。


「憲法は竜胆さんを迎える準備を。魔医療師以外の人体と魔素に関連するスキルをすべて調べて、その道の第一人者から詳しい話を聞いておいて。闇王と宵司は今日中にこの屋敷の警備体制を整え直しておくように。最優先が真珠と月白なことは変わらないけれど、次に優先するのは沙華さんよ。沙華さんとミルクちゃんたちにはこの館の三階に移ってもらいましょう」


 ここで名指しされた沙華さん、さらにびっくり。


「は? あたし?」


 だけど、白絹お祖母様は沙華さんの目を見てきっぱり言った。


「真珠の能力も問題だけれど、宵司とのあいだにそんな特別な子供を授かったあなたの価値が計り知れないの、沙華さん。実際、あなたは宵司のあの膨大な魔力にも耐えられた。許容量の問題なのか、変換あるいは無効化スキルなのかはわからないけれど、あなた自身が奇蹟のような存在なのよ」


 うーん、スキルとか、大人のお話、難しいね! 真珠ちゃん、もう飽きちゃったから、月白お兄様、遊ぼうよ!


「にーた、おうた! にーた、ぱぁだ! とーぶ!」

「ん? 真珠、パンダのぬいぐるみで遊びたいの? ああ、うーたが落ちちゃってたね。はい、どうぞ」

「あーと!」


 子豚ぬいぐるみを渡してもらって、ありがとう! にっこり笑顔なわたしにテーブルの向こうのおじさんたちがぼそぼそつぶやいてる。


「真珠用にもっと安全な家が必要だな。より強固な地下シェルターを作るとなるとまず候補地の地盤調査して、各階に真珠の遊び場所を設けて私の仕事部屋を隣に……」

「テイマーにヒーラーって、そのチビ、もうダンジョンに連れてった方が早えんじゃねぇのか? レベルアップして勝手に最強……いや、もう自衛スキル、マックスか。ここんちの二大ラスボス、ババアと冷血兄貴、これだけ手なずけてるんだから、現時点でもハルマゲドン級のドラゴン、テイムできる気が……」


 えー、ほんとゴリラって頭おかしいよねぇ。わたし、一歳の赤ちゃんなのにダンジョン行くわけないしぃ? 

 月白お兄様も冷ややかな声でわたしに教える。


「真珠、次はヘルプミーって覚えようか。ドントタッチミーの方がいいかな。闇王伯父様には大好きって言えばいいけど、宵司って聞いたらさっきの言うんだよ。復習してみようね。宵司に続く言葉は?」

「ちょーじ、ごあぇい! ぐばい!」


 よくできましたって月白お兄様にちゅうされて、真珠ちゃん、ごきげん。もう夏休みだもんね。今日から月白お兄様にいっぱい遊んでもらえるから楽しみ!

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