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第36話 ふれあいタイム


 北海道旅行で気分転換した白絹お祖母様と月白お兄様は、しぶしぶ風花ちゃんとのふれあいタイムを作ることにしたらしい。


 ヒロインちゃん改め、風花ちゃん!


 といっても、ふだんの呼び名はミルクちゃんで、他の名前で呼ばれても見向きもしないとか。

 彼女には憲法の娘の黒玄風花としての戸籍以外に、沙華さんの娘の相済一花って戸籍もある。

 ダブル国籍ならぬダブル戸籍! 違法! 犯罪!!


 なんだけど、実は月白お兄様やわたしにも複数の戸籍というか、別人名義の戸籍があるんだって。

 黒玄家ってお金持ちすぎて犯罪組織に狙われまくってて、闇王パパも、その前の世代の白絹お祖母様の旦那さんの夜壱お祖父様も赤ちゃんのときから何度も誘拐されそうになった。

 だから、新月曽祖父様は初孫の闇王パパが生まれた時に日米双方の国籍を得られるように手配。さらに色々と手をまわして、孫のために別人名義の海外国籍も用意したとか……。

 まあ、そんな黒玄家だから、月白お兄様に最初から複数の戸籍を準備するのは当然だったし、風花ちゃんが生まれるにあたっても準備は万端だった。


 想定外だったのは露茄さんの死。 

 精神崩壊を起こした憲法がまったく使い物にならなくなって、闘病中だった白絹お祖母様もさらに気落ちして寝たきりになった。だけど、闇王パパはがんばって手配してくれたらしい。


 一応、わたしは一歳過ぎまで憲法の娘の黒玄真珠って扱いだったけど、その後、闇王パパの娘として『真珠』が登録されて、憲法の娘は『風花』に改名。

 でも、憲法の娘が真珠って名前だったときも、黒玄真珠は生まれつき病弱で極秘入院してるってことになってた。

 その上で黒玄家はわたしと同じくらいに生まれた病弱な赤ちゃんを世界中で支援。

 建前としては闇王パパが姪っ子と同じ年くらいの赤ちゃんを哀れんだ。だけど、深読みする人にとってはその病弱な赤ん坊のひとりが憲法の娘なのではってことになる。

 そういうのに加えて、ミルクちゃんは一花と風花って最初からダブル戸籍!


 なんだかんだと、これってお金かかるよね。偽造も秘密保持も大変そう。

 でも、ピッドカードの百万円バラマキ大作戦にくらべればはした金だから大丈夫! 黒玄家は余分にお金使って経済をまわしてくれてるってことで。

 ヒロインちゃんは将来的に黒玄風花か相済一花か、本人が好きな方の名前で学校に通うことになるけど、とりあえずの呼び名は『ミルク』。

 月白お兄様も白絹お祖母様もふれあいタイムのたびに仲良く愚痴ってる。


「ミルクってペットの名前みたいだけど、本人がそう呼ばれたいみたいだから別にどうでもいいんだけどさ。僕、あの子にもう二度と、一生会えなくても一瞬たりとも後悔しないし、むしろなんでわざわざ真珠との貴重な時間を削って、あんな凶暴なおデブ横綱とふれあう必要があるのかわかんない……。兄妹の情って、あのお父様の息子の僕がそんなの大事にするわけないのに」


「見た目の問題だけじゃないのよ。真珠は最初から泣き声も性格も素直で可愛い赤ちゃんだったの。ええ、ミルクの映像を小春にいくら送ってもらっても長生きしたいなんてこれっぽっちも思わなかったでしょうし、直接会うために元気になりたいなんて希望のかけらも芽生えなかったでしょう。だから、もう老い先短い年寄りが無理する必要はないと思うの。真珠と同じだけのお金はあげるから、どこか捨てて……いえ、真津子さんと沙華さんによろしくお願いしましょう」


 二人ともミルクちゃんと会った後はわたしを抱っこしてスーハ―してちゅっちゅして、スキンシップ過多。寝るときも離さない!って感じになる。


 それは闇王パパもで、北海道旅行から帰った日も闇王パパ、おうちでわたしを待ってた! その夜は闇王パパと一緒に寝たよ。月白お兄様も加えて仲良く三人で。

 ていうか、その週末の間に本社機能の一部を黒玄家本宅に移したらしい。企業トップ自らテレワークの時間を増やして、異次元の働き方改革でワークライフバランスをどうたらこうたらしていくんだって。


「血の繋がりは同じ姪っ子でも、私の娘は真珠だけだ。あの子を保護したことで縹家への義理は果たした。これからは家で仕事して毎日、真珠と会えるようにするからな。会議や出張のついでに夏休み旅行? ああ、それはいいな。真珠はどこに行きたい? 伊勢志摩辺りで真珠に似合うパールを買い付けようか。それともピンクの淡水真珠にするか?」


 闇王パパの甘やかし方はやっぱりダメダメっぽい……。

 すぐにばあやから教育的指導が入った。


「誤飲の可能性がありますから、パールのアクセサリーは真珠お嬢様が小学生になるまで禁止です。七五三の七歳のお祝いの時にでもプレゼントしてあげてください」


そうそう、まだ赤ちゃんだからキラキラパールよりパパの魔力の方が嬉しいよ。

 最近は指ガジガジもあんまりしなくなったんだけど、時々闇王パパが齧ってほしそうに手を出してくるから甘噛みさせてもらう。

 やっぱり魔力は闇王パパのが一番おいしいんだよね。そのあとでクアアをぎゅっとすると、わたしからオートチャージで魔力補給してるらしいクアアも普段よりぴょんぴょんが高くなる。可愛い!


 ヒロインちゃんが見つかったけど、やっぱり真珠ちゃんは黒玄家の不動のナンバーワンアイドル。

 だけど、成長すればみんなミルクちゃんのほうが可愛くなるよね。なにせ、本物のヒロイン!


 小説『ダンレン! ~ダンジョンの数だけ恋がある~』の詳しい内容は知らないけど、ヒロインはダンジョンの数だけ恋するみたいだから、枯れたおばさんが中身の真珠ちゃんより見た目も性格も可愛いに決まってる。

 でも、たとえ月白お兄様や白絹お祖母様や闇王パパの愛情がミルクちゃんに移っても大丈夫! ばあやとすすきさんは絶対的にわたしの味方! クアアもいるし!


 その辺りの愛情問題は机上の空論で理論武装が完璧な憲法が手配してくれるらしい。子育てに関する知識だけなら誰より詰め込んでるからね。愛情についても、プロストーカーっていうか、憲法、自他ともに認める精神異常者みたいなものだし……。


 わたしの安全基地となるべく、ばあやとすすきさんは今度もわたし専属。この二人はわたしの前でミルクちゃんを抱くこともなければ、ほかの赤ちゃんを可愛がることもしない。

 まあ、そこまで気を使われなくてもこの転生幼女は大丈夫なんだけど、肉体年齢に引っ張られて赤ちゃん返りする可能性もなくはない……って、一歳はまだ赤ちゃん! 泣きわめいてイヤイヤするのは、年齢相応!


 だから、見知らぬ環境ですぐに泣くミルクちゃんが普通なんだけど、そのミルクちゃんの養育はこれまで通り、沙華さんと沙華さんの養母になった相済真津子さんが担当。


 相済真津子さんはあいすみ母子寮って母子生活支援施設を運営していた人で、ミルクちゃんを抱えて路頭に迷っていた沙華さんを支援してくれていたらしい。

 真津子さんは白絹お祖母様と同年代で、そろそろ母子寮の寮母を引退しようかと考えていて、この機に別の人に母子寮の運営をバトンタッチ。

 で、これからは沙華さんを養女にして、祖母としてミルクちゃんを沙華さんと一緒に育ててくれるんだって。


 真津子さんは高校の国語教師だったけど、大規模ダンジョン崩壊で夫と息子二人を一度に失くしてしまった。その家族の遺産や保険金、自分の退職金を元手に母子支援活動に携わることを決意。これまで十年余りに渡って数多くの母子を支援してきたらしい。

 だから真津子さんはある意味、子育てのプロだし、精神的に問題を抱えた女性への対応にも慣れている。


 沙華さん、まだ十八歳なのに実は相当ヘビーな人生を送ってきたようで、月白お兄様やわたしの前で具体的な話をしにくそう。

 だけど、今の月白お兄様の年齢どころか、沙華さんが覚えてないだけで予想では今のわたしの年齢くらいからR指定性犯罪にさらされてきたっていうのは、周囲の大人が悪いっていうか、犯罪者も犯罪行為も滅びろ!って感じだよね。


 でも、そうすると、その犯罪者の代表格がわたしの実の父親になっちゃうわけで……。

 父親の犯罪行為の結果に生まれた子供って、ものすごく悲劇的な生い立ち! これって性格歪んだ悪役令嬢になる布石って感じ。

 だから、生まれてきたことが罪だなんて、今もこの先もわたしに絶対に思わせちゃいけない。将来的にもわたしの父親は闇王パパオンリー。母親は沙華さんの遠い親戚だったってことにするかって、白絹お祖母様と闇王パパが深刻な顔してお話合いしてた。


 その場に月白お兄様はいなかったけど、わたしは赤ちゃんだからね。闇王パパに抱っこされて聞いてた。といっても、クアアや『うーた』と遊んでたから話半分聞き流し。

 クアア、もとがスライムだから、ぷにっと気持ちいい手触り。

 月白お兄様が買ってきてくれたピンクのブタさんのうーたもふわふわもこもこで気持ちいいけど、そのふわもことぷにゼリー感触を交互に触るとまた気持ちよさ倍増!

 わたしが両手で抱えたうーたの上をぴょんぴょんするクアア。クアアのバランス絶妙。すごい! どっちもピンクでめっちゃ可愛い!


「くああ、うーた、かぁい! いーこ!」


 闇王パパのおひざでわたしがキャッキャしてたら、白絹お祖母様と闇王パパの会話が色んな意味で終わってた。


「ああ、本当に可愛い子。真珠と同い年なのにあのおでぶちゃん、まだ泣き叫ぶだけで喋れないし、ぬいぐるみにも興味がなさそうだし、こないだは月白に庭の石拾って投げたのよ! 自分の周りで月白が一番小さいからって、会うたびに月白に噛みつこうとするし……真津子さんったら、小さい子にはよくあることだって笑うけど、ああもう、絶対に真珠をあの子に近づけちゃダメだわ。真珠がいじめられるに決まってるじゃない!」

「あちらの子供と沙華さんは真津子さんにお任せするのが一番でしょう。成長して露茄さんに似てくれば、憲法が可愛がるだろうし。ああ、いっそ出会う機会を物理的な距離でなくすためにも、私と真珠がしばらく海外で暮らせばいいのか。真珠の母親とは現地で死に別れたことにすれば後々のつじつま合わせにもなるし……」


 闇王パパ、ドリーミングタイム発動!

 外見は似てないけど、やっぱり白絹お祖母様の息子だったんだね。海外逃亡計画っていうか、壮大な現実逃避が始まっちゃった……。


 でも、わたしはそろそろミルクちゃんと遊びたい。

 だって、月白お兄様は規格外の天才児だし、周りが大人ばかりで基準がわからないっていうか、ふつうの幼女のふりをするには本物の幼女と接するのが一番だよね。


 それに物語のヒロインって立場の子にも興味ある。

 わたしとミルクちゃんの未来は『ダンレン! ~ダンジョンの数だけ恋がある~』の原作とはもうすっかり違ってしまったと思う。だけど、念には念をっていうか、えーと、こういうの、たぶん、バラフライ・エフェクト。

 ちいさなことが引き金になって、あとで大きなことが起こるかもっていうような考え方だったよね。はじめのわずかな差が後々の大きな差になっていくから、ほんのささいな出来事がきっかけで歴史は動くのかもしれない。


 だとしたら、子供のころからわたしとミルクちゃんがいとこ同士として仲良く暮らしてたら……?

 悪役令嬢の黒玄真珠はダンレン!原作ではたぶんミルクちゃんをいとこだと知らない。取り替えっ子だったっていうのはあとで判明するのかな?

 でも、今、わたしが生きている世界では出生の秘密が解明されてしまった。


 わたしとミルクちゃんはいとこ同士。


 これってちいさな事実じゃなくて、物語としては核心的なことなんだと思うけど、そこにさらにいとこ同士が仲良くしていた……なんてのが加わったら、歴史はもっと大きく変わるはず!

 そして最終的に目指すは、わたし、黒玄真珠の悪役令嬢設定回避!


 まあ、もうたぶんなんとかなってるとは思うけど、ミルクちゃんだってダンジョンの数だけ恋しなくていいと思うんだよね。

 いや、恋愛ハンターみたいな子だったらそういうの楽しめるかもしれないけど、おばさんの古い記憶に港々に女がいるような船乗りの映画があったみたいだけど、ふつうの女の子ってそんなに数多くの恋愛を追い求めたり……する人はするだろうけど、とりあえずおばさん的には恋愛って疲れる。


 恋って貫けば純愛だし、いい面もいっぱいあるけど、別れたら破局、失恋絶望投げやりその分も仕事に……って、いやいや、前世のわたしの経験とは限らないけどさ、一般論としてダンジョンの数だけ恋するのはよほどの恋愛中毒患者だけだと思う。


 なにしろこの世界って、活断層の数だけダンジョンがあるかもしれないんだよ。活断層って日本列島だけでも二千とかいう話じゃなかったっけ? 友達百人作るのも難しいのに、恋愛対象者二千人はムリムリ、多すぎ。

 だから、物語を根本から変える意味でもわたしはミルクちゃんとふれあいたいんだけど、


「幼少期の思い出作りって、もう写真とか動画だけ適当に編集すればよくない? お父様に頼んどけばうまく捏造してくれるよ。どうせあのおばかさん、大きくなっても合成動画と本物の区別なんてつかないだろうし、あの子の皺のない脳みそには今の記憶なんてかけらも引っかからないね。それに、あの子に会うたびに僕のケガが増えて、DV証拠資料集みたいになってるんだけど、これってあの子に被害請求しろってこと? こういうの、僕が全部覚えててネチネチ指摘するのもあの子の将来の負担になると思うんだよね」


「わたくしたちに会うのがあの子のストレスになってるかもしれないわね。やっぱり心の中で可愛くないって思うのが伝わるんだと思うの。わたくしも月白も嘘が苦手だから、こういうのは何考えてるかわからない憲法が適任よ。むしろ憲法は真珠に会わなくていいし、ミルクも実の父親には懐いてるみたいだから、憲法に全部任せましょう。どうせあの子が大きくなる頃にはわたくしはあの世なんだし、祖母としての義理はお金で果たすわ」


 月白お兄様と白絹お祖母様のミルクちゃんとのふれあいタイムはほんの数回で終了!

 さすが、ダントラ! それともダンレン!原作の呪いがかかってるのかな? わたしがミルクちゃんと仲良く遊ぶ日はまだまだ先みたい……。

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