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第35話  きりのなか

※ここから後編『ヒロインとあそぶ!』編となります。

 伏線回収編とも言います。


「霧が見たいわ」


 白絹お祖母様がおっしゃって、気がついたら摩周湖でした……。


 いやぁ、昨日は沙華さんとミルクちゃんに初対面して、それから白絹お祖母様の気分転換に一緒にお風呂に入ったんだけどね。お風呂の中でわたしをアヒルさんで遊ばせながら白絹お祖母様が言い出した。


「温泉に行きましょう。ああでも蒸気もいいけど、もっと壮大な霧が見たいわ。朝靄に包まれて音のない静かな風景の中で心身リフレッシュしなきゃまた病気になりそう。いいえ、真珠、あなたはいくら騒いでもいいのよ。あなたの声なんて小鳥のさえずりより可愛いし、泣き声だって音楽みたい。なのに、どうしてあの子はあんなに宵司そっくりなのかしら……」


 白絹お祖母様の強権発動。

 というか、その前に月白お兄様と三人で北海道旅行に行こうって話になってたからね。お風呂の後で合流した月白お兄様もめちゃくちゃ乗り気だった。


「霧って摩周湖が有名ですよね。前にお母様と行った時はよく晴れてて綺麗だったけど、霧の摩周湖も見てみたいです。お祖母様、今すぐ北海道に行って、明日の朝、摩周湖の散策を楽しみましょう。僕、これ以上、あんな横綱みたいな赤ん坊見たくないですから」


 実は月白お兄様、ミルクちゃんとの初対面のあいだ、ずっと無表情だったんだよね。

 子供って下の子ができたら赤ちゃん返りするし、父親の憲法が沙華さんとミルクちゃんのそばにいるからちょっと妬いてるのかなとも思ったんだけど、そういうのじゃなかったみたい……。


「そうよね。あの子、あんなにブクブク太って、おすもうさんみたい。なのに育ての親の沙華さんはあの細さでしょう。きっと宵司みたいに周りの人間のエネルギーを吸い取って『俺最強』な子に育つのよ。可哀相に沙華さん、あんな子拾ったばかりに苦労して……」


「あれだけ不細工でうるさいのに可愛がってるみたいだから、沙華さんは本来の性質が底抜けに善人なんだと思います。宵司伯父様はともかく、人として終わってる僕のお父様に似ても困るから、あの子はこのまま沙華さんに任せましょう。その分も真珠は僕が可愛がってあげるからね!」


 なんか最近、一緒にいる時間が長いからかな。白絹お祖母様と月白お兄様が似てきた気がする……。

 まあ、でも二人ともわたしのこと可愛がってくれるし、わたしの産みのお母さんにも同情的だからね。


 沙華さんの罪を公にすれば、宵司の未成年淫行が問題になる。

 この世界の法律よく知らないけど、買春も犯罪だよね。それだとわたしの血縁上の両親が犯罪者! なので、わたしの未来のためには沙華さんの罪を不問にするのが一番!

 これってめでたくダントラ回避? あれ? でも、そもそもの原作小説の『ダンレン!』ってどんな話なんだっけ……。


 前世のわたしはその小説を自分で読んだわけじゃない。実はラノベ作家だったらしい職場の新人から細切れのあらすじを聞いただけだから、絶対的な知識量が少ない。そもそも聞き流してたし……。

 その上、赤ちゃん転生。毎日、頭の中は食う寝る遊ぶでいっぱいだから、前世の記憶が薄く遠くなってしまった。いや、それなりの年齢のおばさんだったことは覚えてるんだけど、そのおばさんの子供の頃のこととか最初から思い出せないしね。


 でも、たぶん北海道出身じゃなかったかも。北海道と聞いて思い当たることがない。まあ、忘れてるだけにしても、旅行って嬉しい!

 月白お兄様もこの二カ月毎日通学がんばったしね。GWは観光地に人が多いし、動物のいるところは真珠ちゃんが近寄らない方がいいからって、ふつうに海辺の別荘でのんびりだったし。


 あ、そうだ、あの時も「海が見たいわ」って白絹お祖母様の一言で、朝起きたら一島丸ごと黒玄家所有の島の別荘にいたんだ!


 波が穏やかな瀬戸内海だったらしいけど、場所はわかんない。

 だって、観光地に行くわけじゃなくて、波打ち際でスコップ片手に砂遊びしただけだもん……。

 海は綺麗だったし、ぱちゃぱちゃ海水にも触れたけど、泳ぐには冷たいねって別荘の温水プールで月白お兄様とぷかぷか遊んだ。

 憲法印のいろんな魔道具があったし、すすきさんとか月白お兄様の護衛のお兄さん方ががっちりガードサポートしてくれたから、真珠ちゃん一歳にしてスイミングデビュー!


 ……って、あれ? その前の春休みは中国パンダ会えない日帰り旅行にも行ったし、なんか毎月、白絹お祖母様と月白お兄様と遠出してる気がしなくもないような……。


「老い先短い年寄りが孫とのかけがえのない時間を大切にするのは当たり前でしょう。おまえも早く後継者を育てて、引退してから真珠と旅行すればいいじゃない」


 行きの飛行機の中で白絹お祖母様が闇王パパとテレビ電話してたんだけど、闇王パパってば娘との晩ごはんを楽しみにしておうちに帰ったんだって。

 闇王パパ、このところすごく忙しかったけど、今日はその忙しさの最終目的であるヒロインちゃんっていうか、わたしの実母の沙華さんが見つかった。だから、偉い人との会合キャンセルして、沙華さんを保護してくれていた人を迎えに行って、今後についての三兄弟会議。

 うん、闇王パパってば、結局いろいろやらかしてる弟二人のお世話係……。


 でも、せっかくおうちに帰ったんだから、闇王パパとしてはわたしとの父娘タイムがあると思ってたのに、帰ったときにはわたしは入浴中。

 お風呂の後って白絹お祖母様はもちろん、赤ちゃんなわたしにも肌や髪のお手入れがたっぷり必要で、そのあいだ月白お兄様は子供だから部屋に入ってきていいけど、大人な闇王パパは立ち入り禁止。


 で、優雅なお手入れタイム終了後、白絹お祖母様はそのまま月白お兄様とわたしを連れて北海道に出発! 今日はもう息子たちの顔を見てこれ以上、血圧上げたくないから、晩ごはんは飛行機の中のほうが気楽って……。


 なので、ばあややすすきさんや月白お兄様のおつきの人たちとみんなで一緒においしい機内食を食べて、まったり飛行機の中で過ごしてたら闇王パパからクレーム電話が入っちゃった!

 でも、わたしも月白お兄様もうとうとしてたから、向こうの音量は最小、ほとんど白絹お祖母様の声しか聞こえない。


「おまえの後継者が月白? 何言ってるの。おまえみたいな働き方する男と結婚したら、お嫁さんになる真珠が可哀相じゃない。毎日二十四時間分刻みのスケジュールで働いて、移動時間も全部仕事って、仕事人間にもほどがあるわ。どうしても月白に後を継がせたいなら、グループ全体の働き方改革して週休三日体制を作るのね。ああ、でも、子育て中はそれでも無理ね。一日六時間労働くらいが妥当かしら。もちろん夜の会食はなしよ」


 いいね! 週休三日一日六時間労働の会社ならわたしも喜んで入りたいよ! 闇王パパがんばって!

 子守唄代わりの白絹お祖母様の声を聞きながら、ねむねむすやすや。


 そして、気がついたら霧の摩周湖だった。


 朝、まだ寝ている間にばあやに抱っこされて展望台に来たみたいで、月白お兄様は白絹お祖母様と手をつないでじっと湖を見てる。

 湖っていっても、霧に包まれてるから水面は見えない。たぶん大人の目にはものすごく雄大で神秘的で感動する風景なんだろうけど、けっこう顔が寒くて思わずばあやのおむねにむにゃむにゃ……。


「真珠お嬢様? ああ、寒くて目が覚めたんですね。憲法様の魔道具で結界内の温度も変えられるようですから、すぐ暖かくしますね。観光もいいですが、お風邪をひいては台無しですからね」


 ばあやがなにか操作してくれたら、ぽわっと耳のまわりの空気が暖かくなった。持ち運び暖房なのかな。憲法印の魔道具、相変わらずすごいね。


「あ、真珠起きたの? おはよう。霧の摩周湖も綺麗だけど、やっぱり真珠の方が可愛いね」


 ばあやの手から月白お兄様に渡されるわたし。

 月白お兄様、小学二年生にしては発育がいいほうだけど、わたしももう十キロくらいあるからね。ふつうなら不安定な抱っこになるだろうけど、ここで登場するのが憲法印の補助魔道具。月白お兄様は安定感のある手つきでわたしを抱っこしてくれる。

 でも、ほっぺたすりすりされると冷たい。月白お兄様、冷えてるよ!


「ふふっ、あったかい。あ、真珠は冷たい? ごめんね」

「にーた、おは!」


「うん、おはよう。今朝も美人だね。せっかくだから霧の摩周湖と晴れてる摩周湖と、両方の記念写真撮っておこうね。真珠はどっちの湖の前でも一番可愛いよ」

「にーた、かぁい!」


「僕も可愛いの? でも、僕は男だからかっこいいの方がいいなぁ。かっこいいって、言いにくいかなぁ? じゃあ、好きでいいよ。真珠、大好き」

「にーた、だぁちゅき!」


 月白お兄様は二年くらい前にここに来たことがあるんだって。もちろん両親と一緒に。


「お母様はまだ真珠を妊娠前で……って、そうか、お母様のおなかから生まれてきたのは風花だね。その後、妊娠がわかったから、妊娠前の最後の旅行が北海道だったんだけど、安定期に入ったからって、冬は風花も入れたら四人で沖縄旅行だったんだよ。真珠は今年の夏に僕とお祖母様と沖縄に行こうね。お父様に真珠用の日よけ対策グッズ作ってもらわなきゃ」


 北から南から、旅行計画着々です。でも、さすがに闇王パパが可哀相かもしれない。


「ぱぁぱ、いっちょ?」

「ん? 闇王伯父様? うーん、どうだろ。そういえば、前も摩周湖に来る前に洞爺湖のホテルで闇王伯父様に会ったっけ。国際会議があったみたいだったから、じゃあ、夏休みは闇王伯父様の出張先についていってあげようか。そしたら家族旅行っぽくなるもんね」


 月白お兄様の家族旅行からもうすでに実の父親と実の妹が除外されてる気もするけど、闇王パパと一緒の旅行はいいね! 闇王パパは百パーセント仕事だろうけど!


「にーた、まぁま、ばぁば、ねーた、くああ、いっちょ!」

「すごい! 真珠、みんなの名前、ちゃんと言えるんだね! うん、家族みんなで旅行に行こうね。夏休みが楽しみだね。うん、もう、七月に入ったらすぐ夏休みってことにしようかな……」


 今日は学校さぼりな月白お兄様、ちょっと危険な方向に!

 でも、学校に行くとストレスマックスみたいだから、息抜きは必要だよね。今朝の月白お兄様はとってもさわやか笑顔。あれ? 目元、ちょっと赤い?


「にーた、たむたむ?」

「ん? 寒くないよ。真珠はとってもあったかいよ。ずっと一緒にいようね、真珠」

「あい、にーた!」


 霧の摩周湖、もやもやした霧ばかりで赤ちゃん目線からはイマイチよさがわからなかったけど、白絹お祖母様と月白お兄様は心安らいだみたい。ホテルに帰ってから温泉も堪能して、午後から晴れてる摩周湖の前での記念撮影もばっちり。

 翌日はマリモのいる湖にも行って、温泉と北海道グルメでのんびりゆったり楽しかったよ!

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