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番外編① セイボマリア

※沙華視点。文字数増量しましたが全5話……。

 R15、シリアス注意、ほのぼの家出中。たぶん読まなくても話は通じます。ほのぼの希望の方はスルーしてください。


 おなかすいたなぁ、なにか食べ物ないかなぁって、いつもいつも思ってた。

 シセツってところにいたときも、他の子は一日何度か食べ物もらえるみたいなのに、あたしはぜんぜんもらえない日も多くて、朝から晩までホウシ活動。


「せっかくの白人ロリだ。だが、もう九歳か。これ以上成長すると価値がなくなる。マリアには食わせるな。水だけにしろ」


 だから夜中にこっそり台所に入ってゴミ箱あさってたんだけど、見つかりそうになって隠れたらそのまま外に運ばれてた。

 なんか、ハイヒン回収って仕事してるおじさんが、あたしが入った空きビンのゴミ箱を朝早くトラックに積んでゴミ処理場に持ってきちゃったんだって。


「あの施設じゃ白人の子供が買えるって噂があったが、本当だったのか? 名前はマリアちゃんか。なあ、マリアちゃん、これあげるからおじさんにいいことしてくれないかい?」


 あたしがくぅくぅおなか鳴らしてるのをみて、おじさんがアンパンっていうのをくれた。初めて食べたけど、甘くてすごくおいしかった。

 それからしばらくはおじさんの家で暮らした。おじさんのところには毎日男の人がやってきて、毎日ホウシ活動するのはシセツと一緒だったけど、食べ物は毎日もらえた。アンパンもよく食べさせてもらえた。

 だけど、クミとかハンシャっていうのに目をつけられて、あたしはハケンのショウフになったんだって。


「今日からおまえはうちの店の従業員だ。あのゴミ屋によるとたぶん十二歳って話だが、その見た目なら十八で通るだろう。ほら、身分証。マグダラのマリアからマドレーヌ・マリーって名前にしてやったから、客にはこれを見せるんだぞ」


 呼び名がマリアからマリーに変わって、ホウシがバイシュンになったらしいけど、やってるのはこれまでと同じこと。

 ただ寝るところが毎日変わって、寝ない日も多くなって、食べ物ももらえたりもらえなかったり。

 だから、おなかすいたなぁってつぶやいてたら、お客さんがチップっていうのをくれた。チップは紙のオカネで、オカネを持ってお店に行ったら好きな食べ物が買えるんだって。

 でも、お店ってなに?って言ったら、お客さんは時間をエンチョウして、コンビニってところに連れて行ってくれた。


「綺麗な顔してるのに可哀そうな子だねぇ。いいよいいよ、今日はおっちゃんが好きなだけ食べ物買ってあげるよ。ほら、このカゴに食べたいもの何でも入れなさい。なるべく日持ちするお菓子がいいかねぇ。いや、コンビニくらいまた連れてきてあげるよ。また今度指名してあげるね」


 買ってもらったお菓子とジュースとアンパンはどれもすごくおいしくて、次のお客さんにその話をしたら、そのお客さんもコンビニに連れて行ってくれた。

 前のお客さんもまた指名してくれたし、他のお客さんも買い物に連れて行ってくれるようになった。中には服とか靴とかバッグとかアクセサリーを買ってくれるお客さんもいたけど、


「上から下までハイブランドの一級品貢がせるたぁ、やるなおまえ。ほら、さっさと脱げ。おまえにゃいつもの布きれで十分だ」


 食べ物以外はハケンのお店の人がすぐに持って行く。だから、コンビニでアンパンとジュースを買ってもらうのが一番うれしかった。

 ジョウレンになってくれたお客さんたちは、そのうちあたしにごはんを食べさせてくれるようになった。帰りにおみやげの食べ物をくれるジョウレンさんも増えた。

 ハケンのお店のウンテンシュさんも移動中の車の中でお弁当を食べさせてくれるようになった。なのに、食べても食べてもおなかがすいた。


「エネルギー効率悪い女だな。いや、実年齢はまだ十六歳くらいか。この四年で胸も腰も立派に育ったってのに、そのお花畑な頭じゃまともな店には出せねぇが、身体は丈夫だし、まあ、一回だけならごまかせるだろ。いいか、マリー、今夜おまえが会う客はおまえが想像したこともないくらい雲の上の偉い人だ。何を言われても何をされてもハイと言え。いいな。ハイだ。うまくいったら明日は休みで、アンパン食べ放題にしてやる」


 移動中のお弁当は大盛りで、しかもその日はおやつのアンパンまでもらえた。生クリームが入ったおいしいのが三倍のアンパンだった。

 だから、少しはおなかいっぱいでそのお客さんに会ったんだけど、終わったときにはおなかぺこぺこだった。

 なのに、ジョウレンのおじさんたちと違って、そのお客さんは食べ物もくれずに紙のオカネをばらまいた。


「やっぱ臭ぇな、ガイジンさん。ハイハイつまんねーし、それ持ってとっとと帰れ」


 いつもと違う高そうな服に着替えさせられて、美容院で時間をかけてセットとメイク。到着したのはものすごく立派なホテルの地下駐車場で、そこから最上階の夜景がきれいな部屋に連れていかれて、ベッドのシーツはとろけるようになめらかな感触。

 だけど、どんな豪華できらびやかな空間でもやってることはいつもと同じ。むしろいつもより疲れたし、おなかすいたし、からだ痛いけど、チップを持って帰ったらアンパン買ってもらえる。

 客がシャワーを浴びている間に服を着て、オカネを拾った。いっぱいあった。迎えに来たハケンのお店のウンテンシュさんもびっくりしてた。


「チップだけで百万。さすがは世界に名だたる黒玄家の冒険王だな。また指名ってのは無理だろうが、ほら、小遣いだ。明日はパン屋に連れて行ってやるから、食べたいものを好きなだけ買え」


 紙のオカネを一枚もらって、アンパン食べ放題ってよろこんだけど、そのあとあたしは熱を出した。丸一週間も寝込んだ。

 ハケンのお店はいろんな安ホテルに女の子の待機部屋っていうのを借りてて、そこの一室であたしはずっと寝てた。ほかのショウフが仕事のあいまに面倒みてくれた。


「大赤字とまではいかないが、結局トントンだったな。むしろ未成年を使ってるってバレるリスク考えたらマイナスだ。まあ、ガイジンは好みじゃねぇって二度と指名もなさそうだし、次からはあの冒険王を神と崇める素人主婦でも斡旋してみるか」


 仕事に復帰したけど、食べても食べてもおなかがすく。おなかペコペコ具合が前よりひどい。それまでの三倍食べてもおなかすくようになって、いつも頭の中は食べ物のことばかり。 


「腹減ったって、おまえ今、弁当食ったばっかだろ。しかもそんだけ食ってんのに最近、痩せたか? ああ、次の客とは駅のメシ屋で待ち合わせか。しょうがねぇな。これやるから、先に店入って、なんか食ってろ」


 ウンテンシュさんが紙のオカネをくれたから、駅の待ち合わせ場所に行こうとした。なのに、途中でぱぁーんっておなかが痛くなって一歩も歩けなくなった。


「どうかしたの? もしかしてあなた、破水したの? 大丈夫よ。私は助産師ですからね。そこの帽子のお兄さん、救急車呼んであげて」


 ハスイとかジョサンシの意味はわからなかったけど、妊婦っていうのはわかる。妊娠した女性。時々ハケンのお店の女の人が妊娠して来れなくなったって、臨時で仕事をまわされることがあった。

 チュウゼツとか、ヒニンヤクっていうのもわかるよ。あたしは必要なかったし、セイリも年に何回かだし、風邪ひとつ引かないくらい身体が丈夫だから、ショウフが天職なんだって。なのに、いつ妊娠したんだろう?


 だって、妊娠したらおなかが大きくなるよね。おっぱいだってパンパンになるって待機部屋で女の子たちが話してた。そういう女の人が好きな男の人もいるから、それはそれで仕事があるって、妊婦さんとすれ違うこともあった。


 だけど、あたしはぜんぜん違う。胸もおなかも変化なかったし、むしろ最近やせたのに身体の中で赤ん坊が育ってたとか意味わかんない。

 それにしても痛い。おなかすくよりもっと痛くて、嫌なお客の相手するより全身苦しかったけど、ジョサンシさんが連れて行ってくれた病院であたしは無事に大きな赤ん坊を産んだ。

 いや、大きいっていっても、手とか足の爪ってびっくりするくらい小さいんだけど、ついさっきまでこれがおなかに入ってたって、びっくり。

 

「元気な女の子ね。お母さん、よくがんばったわね」


 生まれたばかりの赤ん坊を見せてもらったその時、急に耳がキーンと痛くなった。直後にぐらっとして、ドーン、ガッチャン、明かりが点滅する中、揺れと物の壊れる音が次々に襲い掛かってきた。

 あたしが分娩台から落ちなかったのは、お医者さんとジョサンシさんがしっかり支えてくれてたから。


「非常電源に切り替わったな。よし、赤ちゃんもお母さんも無事だな。みんな怪我はないか? どこかでダンジョン崩壊が起こったんだろうが、手分けして状況の確認を。こちらの処置が終わり次第、私もすぐ外来に行く」

「せっ、先生! 大変です! 緊急事態です! とにかく正面玄関に来てください!」


 でも、お医者さんを呼ぶ人が来て、それから辺りはものすごく騒がしくなった。

 だけど、あたしはそれどころじゃなくまたおなかが痛くなった。なんかアトザンっていうので出産の時みたいにいきんでああしろこうしろって、出産より疲れた。なのに、赤ん坊にショニュウ与えろって、胸にほやほやの赤ん坊を渡された。


「産声はあげたけど、この子、もう眠いのかしら。お乳飲まないわね。初乳がこんなにいっぱい出てるのに。でも赤ちゃんにとってはお母さんの体温が一番だから、そうやって胸にぴったり抱っこしておいてあげて。そうそう、うまいわ。それにしても人生ってわからないものね。お金がいくらあっても健康は買えないっていうか、隣の手術室に運ばれてきた妊婦さん、あの黒玄家の奥様ですって。発明王の三男のお嫁さんで二人目の出産だったっていうのにこんなことになるなんてお気の毒に。黒玄家って長男も次男も子供ができないって話だし、やっぱり高ランク冒険者の子供って、奇蹟的に妊娠できても出産リスクが高いのよねぇ」


 ジョサンシさんはつらつら喋りながら、あたしの身体を拭いて予備の手術衣に着替えさせてくれた。着ていた服は血とかで汚れまくってたし、靴は救急車の中で脱がせてそのままだからって、スリッパも準備してくれた。


「不安でしょうけど、隣の応援に行かなきゃいけないからここで待機していてね。外よりここの方が衛生的だし、赤ちゃんの目が覚めたら初乳あげてみて。腕がだるくなったら、あそこのベビーベッドに寝かせてもいいけど、すぐ避難することになるだろうから、お母さんはもう少しがんばって起きててね」


 ジョサンシさん、すごく親切で赤ん坊だけじゃなくあたしにも紙オムツはかせてくれた。

 なんかこういうのってくすぐったいっていうか、でも、親切にしてもらったらオカネ払わなきゃいけないんだよね。あたしのバッグ、どこにあるんだろう。ウンテンシュさんにもらったオカネが入ってるはずだけど、靴と一緒に救急車の中かもしれない。お店との連絡用のスマホもバッグに入ってるから、見つけないと困るんだよね。

 まあ、まだおなか痛いし外の騒ぎが収まってないからここにいるしかないけど、わけわからなすぎる。

 一番わかんないのは腕の中の赤ん坊。

 全身真っ赤で頭つるつるでくしゃっとサルみたい。ちっちゃいんだけど、ずっしりみっちりほかほか熱いし、ふにゃふにゃ柔らかくてむにゃっとしてる。


 シセツにいたころ、赤ん坊はよく見た。ここまでちっちゃいのはいなかったけど、ほぎゃほぎゃ泣いて、可愛い子はすぐヨウシにもらわれていった。ヨウシになれないのは可愛くない子とか、手のかかる子。ミルク飲まずに朝起きたら冷たくなってた子もいた。

 この子はどうなるんだろう。あたしに育てられるのかな。

 あたしが産んだから、あたしがお母さんなんだけど、ハケンのお店の女の人の話聞いてても『お母さん』って難しそう。おっぱいあげて、おむつかえてあげるだけじゃダメなんだって。

 愛情とか教育とか、おカネもいっぱいいる。この子の分の食べ物も寝る場所もいる。あたしみたいにおなかすかせたら可哀相だけど、あたし、この子に毎日食べさせてあげられるかな。

 でも、しばらくはおチチでいいのか。あたしの胸から勝手に出てくるおチチ。赤ちゃんはこれを飲めばおなかいっぱいなれるはず。なんだけど、この子、ぜんぜん飲まない。眠そう。ってか、寝てる。むにゃむにゃ可愛いけど、どうしようって思ってたら、


「この子に初乳を飲ませてあげてください!」


 ジッシュウセイって呼ばれてた女の子が部屋に飛び込んできて、あたしの腕に泣きわめく赤ん坊を押しつけてそのまま出てった。

 いや、さっきからすごくうるさかったよ。

 緊急事態だってお医者さんと他の人たちの叫び声と赤ん坊の泣き声がギャーギャー聞こえてくるし、廊下からも怒鳴り声と駆けまわる足音とガチャ―ンって物が壊れるみたいな音。時々ドーンと鈍く足元が揺れて、もっと遠くの方からの警報音とか人の叫び声もこだましてる。

 ダンジョン崩壊とかモンスター氾濫の怖さはシセツにいたころからよく聞かされていたし、ハケンのお店でさえ避難訓練があった。

 ていうか、突然、待機部屋のホテルが変わって、ジョウレンのお客さんと会えなくなったこともある。ダンジョン崩壊したらお店の場所が変わるんだって。いざという時は頑丈な建物に逃げ込めって言われてるから、ここにいるのが一番だと思うけど、


「つーか、ショニュウ飲ませろって、他人の赤ん坊、押しつけるかよ。しかも自分で生んだ子はぜんぜん飲まないのに、金持ちのうちの子は意地汚く吸いついてくるってさ。ほら、おまえも飲めって」


 オンギャーって泣くわめく赤ん坊に乳首くわえさせたら、ゴクゴクものすごい勢いで飲み始めた。泣き止んでよかったけど、これってなにか違う気がする。

 だって、あたしもおなかすいてきたし、あたしの産んだ赤ん坊もなにも食べてない。

 なのに、この連れてこられた赤ん坊ってすっごい金持ちのうちの子だよね。金持ちの子があたしのおっぱい飲んでおなかいっぱいになって、あたしもあたしの赤ん坊もおなかすかせてるって、こういうのを不公平っていうんじゃないかな。


 しかもクロゲン家って、たぶんあの時のおっさんの関係者だよね。

 一晩っていうか、三時間くらいだったけど、ものすっごいホウシさせられて、たった一人の相手したとは思えないくらい疲れたのに、『やっぱ臭ぇな、ガイジンさん』とか言ってオカネばらまいた人。

 チップいくらもらったって、あとあと一週間も寝込んだし、結局アンパン食べ放題もできなかったから、いつもの仕事のほうがよかった。

 だけど、ハケンのお店の人があのおっさんのこと、『世界に名だたる黒玄家の冒険王』ってすっごい気をつかってた。

 待機部屋であたしの看病してくれたショウフ仲間も夢見るみたいに話してた。


「え? あの冒険王と寝たの? すっごい、いいなぁ! 超高級娼館しか使わないって話だったのに、この店、そんな伝手あったんだ。すごい! タダでいいからあたしも呼ばれたい! ってか、むしろご褒美! 貢ぐよ最推し! あー、でも、あたし、魔力少ないから、キスだけで腰砕けかも」


 別にキスなんてしなかったけど、クロゲン家の冒険王はとにかくすごい人なんだって。制覇したダンジョンがいくつもあって、この地球をモンスターの魔の手から守ってるらしい。

 クロゲン家っていうのは日本どころか世界の支配者みたいなもので、中でも三兄弟の真ん中の冒険王は実力世界一、老若男女問わず人気ナンバーワンだって延々聞かされた。


「だって、長男の闇王皇帝陛下も三男の発明王も娼婦なんて及びじゃないのに、冒険王だけ庶民派ってか、あたしらだってワンチャンあるかもしれないんだよ。あー、いいなぁ。でも、相当高ランクの冒険者引退したような女しか相手しないって噂だったけど、ね、どうだった? やっぱり熱出すほど激しい? やーん、あたし、立候補する! ねえ、黒服のお兄さん、上の人に次は絶対あたしって推薦しといてね!」


 あたしの胸にきゅうきゅう吸い付いてる赤ん坊はたぶんあの冒険王の兄弟の子供で、だから、親も親戚もばらまけるくらいのオカネ持ちだと思う。あたしのおチチなんて飲まなくても、いくらでも食べ物買ってもらえるはず。

 だけど、あたしが産んだ赤ん坊はあたしのおチチしか食べ物ないのに、乳首くわえさせてもぺいって横向いちゃう。


「うーん、おいしくないのかなぁ。でも、飲まなきゃ死んじゃうよ。ほかに食べ物ないし。なんか、世の中ってほんと不公平。金持ちのうちの子は食べ物に困ることもないし、寝る場所もあるのに、おまえもあたしもこれからどうしよっか?」


 病院の人に頼めば今夜はここに泊めてくれるかもしれないけど、赤ん坊つれて仕事に行くわけにはいかないし、この子の食べ物、どうすればいいんだろう。

 赤ん坊用のミルクって高いってショウフ仲間が愚痴ってた。たぶんアンパンより高いってことだよね。あたしがアンパンにして、この子があたしのおチチ飲んでくれればなんとかなるけど、シセツにはミルクが合わずに死んでいく子がいた。アレルギーで拒絶反応が起こるんだって。

 だけど、こっちの赤ん坊はご機嫌であたしのおチチ飲んでるのに。あたし、おチチはいっぱい出るみたいなのに……って、いいこと思いついた。


「あ、そっか。取り替えちゃえばいいのか。まだ毛も生えてない赤ん坊なんてよく似てるし、こっちの子はあたしのおチチ好きそうだし。おまけにあいつがあたしの赤ん坊を自分の家族として可愛がるってサイコー。あーあ、男の子だったら、あいつにおしっこかけてやれって言えたのに」


 女の子にはおちんちんないから、おむつ交換でおしっこかけてやれないね。まあ、あのおっさんのごつい手で赤ん坊のおむつ替えたら可哀相だけど、親戚ならたまには会うよね。冒険王にはヨメも子供もいないって話だから、その分もこの子のこと可愛がってくれるかもしれない。


「ねえ、赤ちゃん、大きくなったらあいつのこと、思いっきり困らせてやってね。クサいオジサン嫌いって、わがまま放題、死ぬほど貢がせて、あんな奴、破産させちゃえ」


 あたしがこのままここにいて、二人の赤ん坊を見比べられたらバレるかもしれない。だから、こっそり今のうちに出て行っちゃえばいい。片腕に他人の赤ん坊を抱いたまま、あたしは自分が産んだ赤ん坊をベビーベッドにそっと寝かせた。


「もう一生会うことはないけど、元気でね、あたしの赤ちゃん。あんたはあたしよりましな人生、送れるといいね」


 いつもおなかをすかせて食べ物ほしがる毎日じゃなくて、もっとましな人生を送ってほしいな。

 それがあたしとあたしの赤ちゃんの永遠の別れになるはずだった。だけど、この日からあたしの人生は思わぬ方向に転がっていった。

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