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第34話 美的感覚の問題

「僕から紹介した方がいいかな。こちらの女性がDNA上、真珠の母親に当たる沙華さえかさん。沙華さん、あちらの赤ん坊を抱いているのが僕の母親で、隣が僕の息子。あの赤ん坊がきみの産んだ子供だよ。あとの人は真珠の育ての親みたいな人たちだけど、きみが関わることはないから気にしなくていい」


 気を取り直して場所を改めて、離れの応接間。

 わたしは白絹お祖母様に精神安定剤代わりに抱っこされてて、両隣は月白お兄様とばあや。背後にすすきさん。さすがにクアアは本館のわたしのお部屋でお留守番。

 憲法は向かい側の一人掛けのソファに座って、その横の三人掛けソファに沙華さんとその腕で寝ているヒロインちゃん。

 宵司は外、お庭でステイ!

 で、最初に憲法がお互いをざっと紹介してくれたんだけど、ものすごく適当だった……。


「宵司兄さんが二十メートルだったから、闇王兄さんは十八メートルくらいかな。僕が付けてる魔力封じの腕輪の効果を上げても、兄さんたちだと顔と大きさで怯えられるだろうし、やっぱり真珠と沙華さんが特殊だと考えた方がいいね」


 破壊的な大音量で泣き叫ぶヒロインちゃんを落ち着かせるために、憲法がこの離れ一帯に魔力を遮断する強力な結界を張って、あれこれ対処。おかげでようやっとヒロインちゃんが落ち着いて寝たみたいなんだけど、相変わらず、素直にすごいと思えない口の利き方をする人だよね……。


「は? あたし? 特殊って……?」


 憲法の言葉に首をかしげる沙華さん。

 対する憲法は思考のマッドサイエンティストっぷりに拍車がかかってるみたいなんだけど、見た目はそう思えないのがまた微妙……。


「先天的な魔力量が多いのに加えて、魔力に対して鈍感な体質なんだろう。ああ、悪い意味じゃない。興味深い事例だけど、真珠にはあまり近寄らせてもらえないからね。きみの協力があればもっと理論的に解明できるな。沙華さん、きみ、僕と結婚するかい?」


 うん、ほんとに完全に頭おかしいのに、憲法ってば見た目は眼鏡がよく似合うインテリ系優男。というか、今日は銀縁の眼鏡かけてて、眼鏡姿初めて見たけど、めちゃくちゃ似合ってる。

 実際、頭脳明晰、超高収入。闇王パパとか宵司みたいに威圧的でもない細マッチョで、眼鏡の奥の目が笑ってなくても、口元はやさしそうなイケメンアラサー。

 王子様とはちょっと系統が違うけど、そんじょそこらじゃお目にかかれない超優良物件に突然求婚されて、声をひっくり返す沙華さん。


「はあっ!? なんでそうなるの!?」

「いや、きみに懐いているその子は僕の娘だし、きみが宵司兄さんの妻になるより、僕の妻になる方が実験の協力を頼みやすい。でも、年齢的にはきみが僕の娘でもいいのか。その子と一緒に僕の子供になるかい?」

「あっ、あの、ぜんぜん話がわかんないってか、わけわかんなさすぎるんだけど、えーと、それより、ごめんなさい」


 おおっ! 意外や意外! ここでのぼせ上ってすぐOKしないとは、わたしの産みのお母さん、なかなかのツワモノ! それどころかちゃんと頭を下げて謝ってる!


「あの、赤ちゃんの取り替えってすごく悪いことだよね。ほんとにごめんなさい。でも、この子、服とかはもらいものばっかで貧乏くさいけど、毎日おチチはいっぱいあげてたし、あの、あせもはできたことあるけど、おむつかぶれとまではいかなくて、健康優良児ってお医者さんからも言われてて……」


 この部屋に来てからひたすら黙ってわたしの頭をスーハ―していた白絹お祖母様が、ここでようやく口を開く。


「あら、ぜんぜん気にしなくていいのよ。むしろあなたのおかげでわたくしは生きる希望をもらったわ。あなたがわたくしの可愛い真珠を欲しがらない限り、息子でも他の孫娘でもなんでもあげるわ。だからお願い。真珠に関しての全権をわたくしにちょうだい!」


 憲法も憲法だけど、白絹お祖母様も今日はちょっとキテるよね。問題発言多すぎ……。

 たぶんドリーミングな理想と違いすぎたんだろうけど、おかしいな。犯罪者のはずのわたしの産みのお母さんが常識的に思えてきた……。


「あ、あの、あたし、警察につかまるんじゃ……?」

「あなたが宵司を訴えたいなら弁護士から何から全面的に協力するけど、その前に真珠をわたくしに! ああ、そうだわ。あなたをわたくしの養女にすればいいのよ。そうすればこの先何があっても、真珠はわたくしの孫になるわ!」


 色々ぶっ飛ばしてるけど、白絹お祖母様の最優先はわたし、真珠ちゃん! ぜったいに離すもんかという勢いでぎゅぎゅっと抱っこされております。

 白絹お祖母様の大きくなった声に、寝ていたヒロインちゃんがふえっと起きかけた。沙華さんはすかさずよしよしとあやす。


「いい子いい子、ミルク、まだねんねしとこうね。だいじょうぶだいじょうぶ……って、それで、あの、おっ、奥様はその子のことが可愛いの?」

「愛してるわ! この子はわたくしの命。この子のために生きているの。お願い、わたくしから真珠を奪わないで!」


 慣れた手つきでヒロインちゃんをあやしながら、沙華さんは白絹お祖母様とその腕の中のわたしをじっと見ている。彼女の瞳に映っているわたしは、赤みがかった金髪に菫色の瞳のお人形みたいに可愛らしい赤ちゃん……なはずなんだけど、


「あの、それって、あとでイヤにならない? 生まれたばかりのときは二人ともそっくりだったのに、なんか、ぜんぜん違うっていうか……その子、肌も目も、ぜんぶの色が薄すぎて、気持ち悪くない?」


 けっして好意的ではない戸惑いが沙華さんの瞳には浮かんでいる。

 沙華さんは赤毛のショートカットヘアだけど、前世のわたしの常識的には明るく染めた若い子らしい髪色。でも、地毛なんだろうね。目の色は完全に青だし、目鼻立ちもいわゆる彫りの深い白人。むしろ黄色人種の血はまったく混ざっていなさそうで、白い肌にそばかすが目立つ。しかも今は痩せすぎて頬骨が飛び出ている。

 なので、十八歳という実年齢より十歳は老け見え、苦労してきたんだなぁという感じ。


 それに対して、彼女の細腕に抱かれている黒髪の赤ん坊はむちむち健康的。まあ、赤ちゃん特有の体形ってだけなんだけど、丸顔が横に広がると目が細く鼻が低くなっちゃうからね……。

 客観的に見れば、その赤ちゃんはわたしに較べて可愛くない。おまけに泣き声がすさまじくて、白絹お祖母様の夢は打ち砕かれてしまった。


 だけど、愛情って見た目じゃない。

 沙華さんにとっては腕の中の赤ん坊がいとおしくて、その子を健やかに育てるために寝食削ってがんばってきたんだろう。それこそ、わたしの見た目に違和感を覚えるくらい、沙華さんにとって一番可愛く見えるのは取り替えた他人の赤ちゃん。


 そう、愛情は血でもないね。

 わたしが一番大好きなのはばあやだし、あとの家族やすすきさんももちろん好きだけど、産みのお母さんがどんな美女でもばあやよりきれいだとは思えない。血の繋がらないばあやのふっくら笑顔に勝るものはないから、こういうのはきっと相性と好み。

 そういう意味ではわたしと白絹お祖母様の相性と好みもばっちり!


「こんなに可愛い真珠が気持ち悪いなんて誰が……あら? そういえば、あなたって真珠に目鼻立ちが似てるわ。ほっぺにもう少しお肉がついてそばかすを消して皺をのばして……あら、失礼。でも、おなかすいてない? お昼ごはんは食べたの?」

「あ、た、食べました。でも、あの、ミルクのごはん、あとでもらってもいいかな。離乳食、ふつうの白いごはんが一番好きだから」


 ああ、ほんとにお母さんだね。赤ちゃん優先。

 でも、さっきからヒロインちゃんのこと、『ミルク』って呼んでる? それって気のせいじゃなくて名前? もしかしなくてもキラキラぶっとばしたペット系ネーム?

 え? それって、わたしとその子が入れ替わったら、『ミルク』がわたしの名前になったりしないよね!? やっぱりダントラ! 先行き不安になってきたけど、白絹お祖母様は名前問題をスルーしてため息をついた。


「白いごはんね……。食の好みは憲法譲りかしら。ほんのちょっとでも胚芽が残ってると投げ捨てるくせに、かといって白いおせんべいやパンも見向きもしなくて。人見知りも激しいし、本当にそんな手のかかる子をこれまでよく育ててくれたわ」

「いっ、いえ、あの、あたし、だって、赤ちゃん、取り替えて……」

「そうね。できれば、宵司の娘を産んだって名乗り出てくれればよかったんだけど、あの子のあの性格じゃ何も言えなかったのも無理はないから、こちらはあなたに非があるとはまったく思っていないのよ」


 と、ここで沙華さんはきょとりと首を傾げた。


「え? ショウジ? ショウジの娘? ……って、あの、さっきからショウジって言ってるけど、それって、冒険王のこと?」

「ああ、そうか、きみは真珠の父親が誰かわかっていなかったんだね。ついでに、兄さんの名前も。さっき玄関にいた僕の兄が宵司って名前で、きみの娘の実の父親だよ」


 謎が解けたと言わんげな憲法に、わたしを抱く手に力がこもる白絹お祖母様。

 さすがダントラ! ダンジョンの数だけ罠がある!! 根本的なところでアウトなのは、登場人物全員だったよ!

※ここまでお読みいただいてありがとうございます!

 評価ブックマークいいね!そして感想までくださった方にはさらなる感謝を! 大変励みになっております!!

 この物語はここまでが前半『ヒロインをさがせ!』編です。

 後半の『ヒロインとあそぶ!』編に入る前に明日からは沙華視点の番外編となりますが、番外編はR15でシリアスなのでご注意ください。

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