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第33話 不快周波数


 お手て洗ってうがいした月白お兄様と二階のサンルームでもぐもぐタイム。

 今日のおやつはイチゴミルクにパリパリおせんべいとチーズキャンディ、フルーツはメロンだよ!

 真珠ちゃんはクアアと分け合ってちょっとずつ食べたけど、月白お兄様は小魚スナックもプラスしていっぱい噛み噛みしてた。ストレス解消にいいらしい……。


「真珠の実のお母さんかぁ。かなり若いみたいだから、真珠もお母さんの方が好きになるのかな? でも、今まで会ってないし、その分も真珠は僕の方が好きだよね?」


 なにやら不安げな月白お兄様に、もちろん真珠ちゃんはスマイルゼロ円!


「あい! にーた、ちゅき!」

「真珠、大好き! うん、そうだよね。真珠は僕と結婚するし、僕の妹はお父様が責任取ればいいから、僕と真珠の生活はこれまで通り……あ、もし、お祖母様があっちの子の方が可愛いって言いだしたら、真珠は僕の部屋で二人で寝ることにしようね。僕は妹がどんな子でも、真珠がこの世で一番大切だからね」


 おおっ! 真珠ちゃん愛され! 将来安泰ですよ! 好き好き抱っこでちゅっちゅされて、お返しに真珠ちゃんもちゅー。


「まじゅ、にーた、だぁじ!」

「うん、真珠は本当に世界一可愛い! 真珠のCM見てから、メス属はさすがに自分がいかに不細工か自覚したみたいで声かけてこなくなったんだけど、その分も真珠を紹介しろって下等なサルどもがうるさくて今日も最悪なアニマルランドに、泳ぎ続けないと生きていけないマグロもどきの回遊魚が教室を水族館と勘違いして徘徊しつづけて……」


 月白お兄様、相変わらず順調にブルーな学校生活なようです。毒吐き度合いがアップしてる気がするけど、まあ、人間関係のストレスは多少の耐性も必要だからねぇ……。

 その点、真珠ちゃんはストレスのない幸せな赤ちゃんライフを送らせてもらってるから、月白お兄様のストレス軽減になるならいくらでもスーハ―吸われますとも。

 あ、クアア、チーズキャンディ気に入った? もう一個欲しい?


「あい、くああ」


 はいどーぞ、って器に盛られた丸いチーズを一個取ってクアアにあげたら、月白お兄様にしみじみ言われた。


「真珠はこんなちいさいのにペットに自分の食べ物までわけてあげられるのに、どうして小学二年生にもなってあのサルどもは給食の余った唐揚げの配分で泣き叫んでつかみ合いの喧嘩なんて始めるんだろう……。こういうのって、先天的な資質? あのサルどもに分け合うとか慈悲の精神とか、まともに理解できる日が来ると思えないから、真珠は無理して学校に行かなくていいからね」


 横からせっせとわたしの手や口の周りを拭いたり、お水を飲ませてくれたりしてくれていたばあやも頷く。


「そうですね。真珠お嬢様が通われるとしたら女子校、それも周囲が分別のつく年齢になってからでいいでしょう。こんなに愛らしく素直にお育ちなのに、目や髪の色でいじめられてはお可哀相です」

「そうだよね。真珠は可愛いから変な男に見せちゃ駄目だし、学校の先生も女の人だけにしてもらって、海外出身の人も増やさないと。いっそインターナショナルスクールかなぁ。あと、盗撮盗聴対策もお父様に万全にしてもらわないと!」


 いやいや、月白お兄様も十分すぎるほど美少年だと思うけど、まあ、真珠ちゃん、東洋人の見た目じゃないからね。でも、それより一番の希望は、


「くああ、いっちょ?」


 クアアも一緒に連れて行っていいかなぁ?


「うわぁ、『いっちょ』って真珠可愛い! うーん、そうだね、ペットは学校に連れていけないから、テイマーの学校作ってもらおうか? あ、そうだ、黒玄魔法アカデミーに幼年クラス設置してもらおう。自分で魔力循環のできる十歳未満の子供向けってことにしてもらえば僕も通えるし、竜胆お兄様に先生になってもらえば、あとはお父様にお任せだね」


 月白お兄様、大人の使い方が上手! 最近会ってないけど、たしかに竜胆叔父様は喜んで保育園とか小学校の先生やってくれそう! 着ぐるみ制服でお願いすれば余裕だね。真珠ちゃんはパンダコスプレがいいなぁ。

 なーんて、月白お兄様とキャッキャもぐもぐしてたところに、


「うぎゃああああぁーっ!」


 すさまじい音量の泣き声が聞こえてきた。

 この家ってめちゃくちゃ広いし、防音設備が整ってるから庭や一階の音ってほとんど二階に聞こえてこない。時々、数カ月に一回くらい憲法印の防犯システムに反応した何かが爆発して、振動でちょっぴり揺れることはあるけど、人の話し声とかは全然気にならない。

 もし聞こえるとしたら、それは同じ二階にいる人の声だけなんだけど、「うぎゃぎゃーっ! ぎゃぎゃーっ!!」って、けたたましい大音量が聞こえてくるのは明らかに下の階から。


「え? これってもしかしなくても……?」

「……むしろ、宵司坊ちゃまのお血筋はこちらの方かもしれませんね。いえ、血縁という意味ではたしかに宵司坊ちゃまの姪っ子ですが、これはまた幼いころの宵司お坊ちゃまにそっくり癇の強そうな……」


 ばあやが深いため息をついたその時、バタンとサンルームの扉が開いた。


「真珠ちゃん! 真珠、どこ!?」


 って、白絹お祖母様は飛び込んでくるなりわたしを抱っこ。

 くんくんスーハ―何度も深呼吸しながら、錯乱した様子でわりとひどい言葉を口走る。


「ああ、可愛い! ええ、真珠、わたくしの孫娘はあなただけよ。あなたは闇王の娘でわたくしの可愛い可愛い孫娘。宵司そっくりなうるさい赤ん坊なんて、お金で解決しましょう。もういいわ。真珠だけが特別だったの。真珠と、そうね、月白も一緒にスイスに静養に行きましょう。耳が痛くて頭が痛くて胸も全身が痛いわ。この家も何もかもあの子と宵司にあげるから、どこか静かなところで余生を……」

「まぁま、たいたい?」


 なんか大変そうなので、じいっと見上げて『痛い?』って聞いたら、白絹お祖母様もはたと我に返ったらしい。


「……そうね、痛いけど、痛くないわ。真珠、あなたがいるし、子育てのたいていの問題はお金で解決できるもの。しかも孫ですものね。立派な父親がいるんだから、最終責任はあちらに任せて、老い先短い年寄りは今を楽しまなきゃ。今日のおやつはおいしかった? イチゴとメロン、どちらが好き? やっぱりイチゴ?」

「いぃご! めろ、めろ、んまんま!」

「ふふっ、メロンも気に入ったのね。可愛い。よくわかったわ。あなたが世界一可愛いの。憲法の言うように他の孫なんて放っておけばよかった。ダンジョンに入ったらスキル覚醒して縹家を頼るか、でなくとも宵司並みの図太さでゴキブリみたいに生き延びていったでしょうに……」


 いやいや、それだと『ダンレン! ~ダンジョンの数だけ恋がある~』の原作通りになって、真珠ちゃん、悪役になるかもしれないから困ります。

 それにヒロインはヒロインなんだから、本当は可愛いと思うよ。今は赤ちゃんだから泣いてるだけ!


 ていうか、赤ちゃんは泣くのが仕事なのに、わたしが泣かなさ過ぎて勘違いさせちゃったかなぁ。反省。

 でも、ここんち、みんなでたっぷり構ってくれるから泣く暇ないし……。

 ばあやもすすきさんも魔力操作で身体強化できるから、わたしを長時間抱っこしても筋肉痛にならないらしくて、いくらでも抱っこであったか。おなかすいたって気づく前に目の前に食べ物があるし、転んでも発熱してもすぐにちやほや治療。オムツは高性能で遊び道具はいっぱいあるし、月白お兄様はやさしいし、クアアは可愛い! そして、大人は白絹お祖母様筆頭に甘やかし放題!

 うん、これで泣けって、メンタル大人の転生者は逆に困る。歯が生えてくるもぞもぞもなくなったから、いつでもご機嫌ニコニコな真珠ちゃんです。


「つくづく自分勝手なババアだな。で、どうすんだ、あの女と赤ん坊?」


 白絹お祖母様がバタンと開けたままだった扉のむこうから、宵司登場。

 いつのまにか階下の泣き声はやんだみたい。相変わらず迷彩柄のTシャツ姿のゴリラを、白絹お祖母様はそっけなくあしらう。


「いい年して母親を頼らずおまえと憲法で対処しなさい。おまえたちが蒔いた種よ。わたくしはもうとっくに死んだものと思ってくれていいわ」


 そして、わたしを抱っこしたまま月白お兄様の隣に座って、ドリーミングタイム突入!


「真珠、明日から旅行に行きましょうね。梅雨がうっとうしいから、北海道がいいかしら。お花畑で遊びましょうね」

「にーた、いっちょ?」

「そうね、月白ももう二カ月も毎日学校に通ったんだから、そろそろご褒美が必要ね。三人で一緒に北海道観光を楽しみましょう」

「くああ、いっちょ!」

「ええ、もちろんそのペットも一緒よ。ああ、可愛い!」


 好き好き抱っこでスーハ―スーハ―、真珠ちゃんを存分にドーピングする白絹お祖母様。

 あ、ちなみにばあやとすすきさんが旅行の同行者か聞かないのは、聞くまでもないから。わたしとセット! ばあやとすすきさんが一緒じゃないと、わたしの一日はまともに始まらない。


「北海道は久しぶりだなぁ。今の季節は日照時間が長いから、朝から晩まで楽しめるはずだけど、その分、真珠は移動中にお昼寝しないとね。ホエールウオッチングならテイマースキルも大丈夫かな。まあ、お父様の魔道具持っていけば何とかなるか」


 月白お兄様もワクワク楽しそう。だから、もういいやって気がしてくるけど、よく考えなくても何も解決してない! ヒロインとわたしの産みのお母さん、どうなっちゃうの!?

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