表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/78

第31話 癒しのスーハ―


 スーハ―スーハ―と真珠ちゃん、吸われております……。


「主要国の政治家への根回しがやっと終わった。真珠、パパはパーフェクトIDカードの法案が可決したら、育児休暇を取るからな。トップが率先して前例を示さないと、男性の育児参加が浸透しない。最低でも一カ月は休むから、そうしたらパンダ見物でもイチゴ狩りでも何でも連れて行ってやるからな……!」


 なんか世界各国を飛び回っていたらしい闇王パパ、残念ながらイチゴ狩り動画で送った生イチゴの賞味期限に間に合わず、今日はもう金曜日。それも朝! どうにか時間をやりくりして三十分だけ帰宅した闇王パパに抱っこされて、真珠ちゃん、くんくんスーハ―されてます。


 まあ、今週から毎日小学校に行き始めた月白お兄様にも朝な夕なにスーハ―されてるし、白絹お祖母様も精神安定剤のように真珠ちゃんの匂い求めてくんくんするから慣れちゃったけど……。

 そんなにいい匂いなら自分で嗅ぎたいけど、自分の匂いってよくわかんない。わたしはばあやのふわふわお胸の匂いが一番好きだよ。

 闇王パパもどっしり安心する匂いだけどね。

 

「ぱぁぱ、あーん!」


 ちなみにあの日収穫した生イチゴは、闇王パパ用って別にしておいたのも含めて翌日にはぜんぶジャムになった。

 だけど、あの部屋、イチゴプランターがめっちゃ大量に運び込まれてるから、六月くらいまでは収穫し続けられるらしい。プロ庭師さんたちのお手入ればっちりだし!

 なので、真珠ちゃんの日々のルーティーンにイチゴ狩りお散歩が入ったんだよ。


 朝、月白お兄様を玄関でお見送りして、それからイチゴ狩り部屋までよちよちちょっとだけ歩いて、ほぼ抱っこしてもらってお散歩。

 そしてイチゴ摘み。

 といっても、わたしが真っ赤なイチゴを指さしたら、すすきさんが摘み取って容器に入れてくれるようになったんだけど……幼児の手先、不器用! ジャム用しか摘めない!

 だから今、食卓に並んでるイチゴは昨日の朝すすきさんが収穫したのだけど、つやつやぱつぱつに輝いてる! その真珠ちゃん印の新鮮生イチゴを横から月白お兄様が差し出してくれたから、闇王パパにあーん!


「いぃご、んまんま?」


 闇王パパは誰かさんみたくわたしの指を食べたりイチゴ丸呑みしたりしないで、ヘタも取って噛み噛みごっくん。


「ああ、おいしい。ありがとう、真珠。パパからは何が欲しい? チョコやケーキは早いか……ぬいぐるみか? おままごとセットか?」

「おかぁり、ぱぁぱ!」

「真珠……!」


 そういえば朝食中に突然、闇王パパ帰宅ですぐさまスーハ―タイムになったから忘れてたけど、おかえりの練習したんだった!

 毎日「おかぁり、にーた!」って月白お兄様をお出迎えしてるから、すっかり上手になったよ。ふふん、舌も顎も日々成長!


「真珠、すごい! パパおかえりって言うの、ちゃんと覚えてたんだね。うん、真珠がおかえりって言ってくれるの楽しみに、僕、今日も動物園、耐え忍んでくるよ。まあ、今日は知的レベルが動物園の連中とリアル動物園に行くから、ふだんのアドベンチャーアニマルランドよりましなはずだけど……」


 月白お兄様、かなりブルー入ってます。

 毎朝ぶつぶつと「今日も動物園か……ミジンコ以下の単細胞生物も色気づいたメスガキも一生分見飽きたのに今日もまたあのキャンキャンけたたましい動物の学校で我慢忍耐エンドレス無間地獄……」って、出発ギリギリまでわたしを抱っこしてイヤイヤぐずりタイム。

 帰宅後なんて「今日も疲れた真珠可愛い! いい匂い! あったかい! 真珠大好き!」って、ラブラブスーハ―ヒーリングタイムが日々長くなってるからね……。


「ああ、そういえば月白は今日は遠足だったわね。真珠と動物園に行く前の下見だと思って、楽しんでいらっしゃい」

「動物園か。ああいうところは現金が必要だろう。財布を頼む。月白、これで何か好きなものを買うといい」


 闇王パパってば、背後に控えていたスーツ姿のお兄さんからお財布を受け取って、お札何枚か抜き出して月白お兄様に手渡し。

 そうそう、最近の朝ごはんって白絹お祖母様の部屋のリビングでこじんまり家族一緒にって感じだったんだよね。闇王パパ帰ってこないし、次男三男もどこかでお仕事中だし。

 でも、白絹お祖母様のお部屋だけでも庶民のおうちが丸ごとごっそり入る以上に広いから、こじんまりって規模が違う。


 当然、闇王パパが渡したお札も一万円札。その一万円って数字はわかるんだけど、見たことない色と模様の紙幣。なのに、肖像画に見覚えあるような……ねえ、それって、もしかしなくても黒玄グループ初代の黒玄新月氏? 紙幣の顔になるって、もうすでに日本のレジェンド!?


「え、ありがとうございます、闇王伯父様。じゃあ、真珠におみやげ買ってきます。真珠、何がいい? パンダはいない動物園だから、ピンクの動物って……うーん、でも、子豚のぬいぐるみは違うよねぇ?」


 黒玄家のすごさにくらっとしたけど、子豚と言われて、幼児の頭はすぐにそちらでいっぱいになる。


「うーた!」

「ん? 豚でいい? じゃあ、可愛いの買ってくるね」

「あい、にーた!」


 おおっ! 可愛い豚のぬいぐるみなら、クアアと並べたら可愛さ倍増! そして、月白お兄様もめでたくリアル動物園遠足に前向きに!


「月白は本当にいいお兄さんだな。安心して真珠を任せられそうだ」


 闇王パパもにっこりしたけど、向かい側からばあやのイエローカードが入った。


「月白お坊ちゃまは何一つ問題ありませんが、闇王様は父親として零点ですからお気をつけください。小学二年生の遠足のお小遣いは多くて二千円、ジュース代として五百円が妥当なのに、五万円は論外です」


 あ、よかった。そうだよね。物価がよほど違うのかと思ったけど、五万円って小学生には大金だよね。

 ばあやからのダメダメ指摘はまだまだ続く。


「なにより、男性の育児休暇が浸透しないのは、子供との遊び時間をさも育児参加しているかのごとき認識でいらっしゃる方々が多いからではないかと。闇王様は真珠お嬢様がお好きな布地の種類や、かかりつけの小児科医の氏名をご存じですか? 離乳食を作れとは言いませんし、そのための調理器具や食材を買ってこいとも言いません。そういう生活の細かいことはすべて人を雇えば済むことです。人には向き不向きがあります。ええ、闇王様は他の誰にもできないことができるのですから、真珠お嬢様との思い出を作りたければ、さっさと仕事を片付けて普通の休暇をお取りになればいいでしょう」


 えっと、これって一応イエローカード二枚? すでに三枚分、レッドカードな気もするけど、まあ、そうだよね。

 そもそもわたしの生活全般の面倒をみてくれてるのはばあや。そのばあやでさえ料理は人任せ。というか、掃除洗濯とか買い物だって別の人がやってるこの豪邸で、一般的な『育児休暇』を闇王パパが取るってねぇ?

 そこで白絹お祖母様がはたと気づいたように言った。


「そういえば真珠が生まれてからこの一年とちょっと、小春も薄も一度もお休みがなかったわね。二人同時にっていうのは困るけど、交互にだったらお休み取ってもいいのよ? でも、真珠が泣くかしら? 長期休暇は真珠がもう少し大きくなってからにしてくれると助かるけど……」


 はっ! そういえば、真珠ちゃん、いつもべったりばあやとすすきさんに甘やかされてきた! 途中で一カ月くらい意識も記憶もない期間があるとはいえ、いつも一緒にいてくれた二人だからね。抱っこの時間的には二人ともお母さん!

 わたしが大好きな二人は、相思相愛、わたしのことも大好きだった。


「休んでも真珠お嬢様が気になってなにも手につきませんし、真珠お嬢様の顔を見ない日なんて考えるだけで胸が痛くなりますよ」


 ばあやは真珠ちゃんファースト宣言だし、すすきさんも労働環境にまったく不満がないみたい。


「むしろ世界一可愛らしい真珠お嬢様の成長を見守るというご褒美を日々いただいております。その上さらに衣食住すべての手配をしていただいて、毎晩きっちり睡眠時間を確保させていただいておりますから、休暇など一日たりとも必要ありません」


 よかった。でも、すすきさんてまだ若いのに、友達とか恋人とか結婚とか、そういうのは大丈夫なのかな? まあ、わたしもずっと赤ちゃんってわけじゃないから、もうちょっとしたら母離れ……寂しい……。


「そう? じゃあ、あなたたちの厚意に甘える代わりに一緒にお買い物に……真珠を外に連れて行くのは難しいから、今日は小春と薄のために外商を呼ぶわ。従業員への福利厚生として美容師には毎月来てもらっていたけど、離れにエステサロンを作って、皆がいつでも使えるようにしましょう」


 やばい! やばいよここんち! おうちの中にエステサロン! おうちじゃなくて、ちょっとした町! そのうち病院とかもできそう! いや、設備はもうあったような……。

 闇王パパに抱っこされてるわたしを見ながら、白絹お祖母様はふふっとほほえむ。


「真珠もそろそろ産毛で筆が作れるかしら。月白のは露茄さんが早めに作ったようだけど、真珠はまだ一度も髪の毛を切ったことがないんですものね。切るのがもったいない気もするけど、上手な美容師さんにもっと可愛くしてもらいましょうね」


 おおっ! 赤ちゃん筆ですか。赤毛の赤ちゃん筆っていうのも可愛いかも!


「真珠が髪を切るとこ、見たいです! 僕のお休みの日にしてください」

「真珠の初めてのヘアカット……後で動画を送ってくれ。真珠、パパはお仕事がんばるからな。買い物も掃除も洗濯も料理もパパには向いていないから、がんばって仕事して、真珠が一生困らないようにするからな……」


 おつきの人にせかされて、闇王パパ、退場! じゃなくて、出勤。

 なので、白絹お祖母様に抱っこされた真珠ちゃんは必殺得意技!


「ばいばい、ぱぁぱ!」


 本当はいってらっしゃいって言ってあげたいんだけど、まだそこまで舌が滑らかに動かないんだよね。

 その後、玄関で月白お兄様にもお手てフリフリ「ばいばい」してあげて、今日も楽しくイチゴ狩り。

 順調な幼児生活。もうダントラいらないからね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ