表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
26/78

第25話 パンダまであと少し


 中国の空港に着いて発覚したこと!

 黒玄家の飛行機、一機で飛んでたわけじゃなかった! もう二機が護衛攪乱用に先行してた!

 しかも、その二機に最新式の空飛ぶ車がいっぱい載ってて、出迎えてくれた政府高官に白絹お祖母様が笑顔でプレゼントしてたよ。


「これから現地まで我が家が使う分の車も、帰る時には合わせて全部プレゼントすると伝えてちょうだい。孫が気に入ったら、またパンダを見に来ることになるでしょうし、日本の政府関係者が近いうちに新たなパンダの貸与について話し合いたいと言っていたわ。多少は融通を聞かせてくれると嬉しいわね」


 ほほっと白絹お祖母様、双方の通訳を介して偉そうな人と会話してるけど、わたしは知ってる。こっそり月白お兄様にペンダント型の翻訳魔道具のスイッチを入れさせて、相手の喋ってる中国語に続いて翻訳された日本語音声が聞こえてるってことを。

 いやぁ、ぬいぐるみに擬態したスライムクアアを抱っこしてばあやに抱っこされて、月白お兄様の隣にいるわたしの耳にも聞こえてくるからね、憲法の声での日本語音声……。

 うん、そうだよね。元が露茄さん用に作った魔道具なんだから、そりゃ愛する妻に聞いてほしいのは自分の声だろうね。


 でも、さすがの憲法クオリティ。ちゃんと翻訳言語を聞かせる対象も選べるみたい。もちろん、魔道具の有効範囲内にいなきゃダメみたいなんだけど、飛行機内で月白お兄様と白絹お祖母様が色々試してた。

 ペンダントに白絹お祖母様とばあやとわたしだけ追加登録して、すすきさんを登録せずに秘書のひとりに中国語で話しかけさせてみたら、すすきさんだけ憲法の日本語音声が聞こえてこない。登録していても、ペンダントを持っている月白お兄様から一メートル以上離れたら圏外。

 しかも中国語って、共通語の標準話以外に七大方言とか、広い国土だけあって地域差の多い言語だけど、そこに英語やフランス語が混ざっても、複数登録すれば一緒くたに『日本語への翻訳』機能が働いちゃう!


 でもって、ペンダントの設定を変えられるのは所有者として登録されている月白お兄様だけ。白絹お祖母様が首からかけても操作画面が出てこないし、そもそもその操作画面を見ることができるのも月白お兄様オンリー。わたしにも見えない。

 おまけにこの魔道具、小さいのに位置情報発信と盗聴機能までついてて、月白お兄様の魔力が一定時間以上感知できないと、緊急信号が憲法に送られるんだって。迷子防犯対策ばっちり!

 息子想いなんだか、こういうのぜんぶ露茄さんへのストーカー行為のために作ってて怖いっていうんだか、ほんっとに残念な人だよね、憲法。


『いやいや恐縮です。一台でパンダ百年分のレンタル料の価値があろうかという黒玄グループの空飛ぶ車を我が国に何台も無償で提供していただけるとは……』


 というか、今、空港のラウンジにいるんだけど、ここってVIPラウンジってものなのかな。きらびやかで広いのに、人がまったくいない!

 いや、もちろんいっぱいいるよ。こっちもあっちも黒服のボディガードがびっしり。ラウンジの窓ガラスの向こうにずらっと整列してる制服の人たちは軍人さん? だけど、他の一般客の気配ゼロ。

 これってまさかの空港丸ごと貸し切り?


『黒玄グループは今後、莫大な経済支援を全世界で展開していくとか。お孫さんにはぜひペットとしてパンダを差し上げたいのですが、さすがに目立ちますからな。代わりに何かご要望のペットがあれば申し出てください。愛玩用ではなく、単純な番犬であれば、チベタン・マスティフなどいかがでしょう?』


 でもって、出迎えてくれてるおじさん、白絹お祖母様に対してめっちゃ低姿勢なんだけど、相当偉そうな人なんだよね。

 でも、前世の中国って国のトップみたいな人が何人もいたから、どういう偉い人かわかんないというか、この世界の社会主義とか民主主義とか、どうなっているんだろう……。


 よく考えなくても、前世の社会とか科学の知識って、この世界で通用しないよね?

 第二次世界大戦以降の近代史はそっくり変わってダンジョン史。大日本帝国とか、華族制度の行方は? 科学の発展にはぜんぶファンタジックな魔法やモンスターが絡んでる?

 それって、前世の固定観念にこりかたまったおばさん石頭だと、必殺聞き流し機能が働きそう……。

 ふっと意識が遠くなってるあいだに、通訳さんがおじさんの言葉を訳し終わってた。白絹お祖母様はそれを最後まで聞いてから、相手に答える。


「大型犬は孫が怖がるでしょうし、今回はほんのご挨拶ですので、お気になさらず。我々が願うことは世界の平和と安寧。しいて言うならば、この子たちが大きくなった時も可愛いパンダの姿を見られるように、貴国のパンダ保護活動が今後も永続的に続いていくことを願っておりますわ」


 持てる者、富める者ならではの余裕と寛大さ!

 白絹お祖母様、媚び媚びな相手に恩だけ売って、パンダ保護区に持参した空飛ぶ車で直行!

 でも、接待してくれるおじさんも白絹お祖母様が運転手付きでプレゼントした空飛ぶ車で追いかけてきたよ。


 超箱入りお姫様な真珠ちゃんは、実は目が覚めてる状態で空飛ぶ車に乗るのが初めて。この世界のほかの車も知らないから違いがわからないけど、憲法が作った空飛ぶ車は他のとはまったく違うものらしい。

 まだ数量限定生産っていうか、一般販売したくともできない製作者泣かせの特殊仕様。素材も激レアだし、根本的な動力装置の魔法陣を加工できるのが憲法だけなんだって。だから、車両を丸ごとプレゼントしても相手が真似できない、ザッツ憲法クオリティ!


 そういえば、前世で空飛ぶ車のニュース映像を見たけど、プロペラがブンブン回ってて、見た目はヘリコプターみたいだった。ヘリとの違いはヘリポートが必要ないとか、電動だから静かで経済的とか聞き流したけど、映像で見た限り、普通の車よりはるかにうるさそうな乗り物だった。


 なのに、憲法が開発した空飛ぶ車、無重力みたいにふんわり浮かび上がってる。プロペラがない! めっちゃ静かで、振動もなく、しゅしゅっと高速で進む。乗ってきた飛行機もそういえばこういう感じで静かに飛んでたね。

 なので、窓から見える景色は光。遠くの河や山々もあっという間に通り過ぎて、気がついたらパンダ保護区!

 すごい乗り物だよ、この空飛ぶ魔法の車!

 さっき中国のおじさんが一台でパンダのレンタル料百年分とか言ってたけど無理もないような……あれ? 前世のパンダ一年分のレンタル料は、一億円とかなんとかおぼろげな記憶が……いやいや、単純計算はできないね。この世界、為替レートも物価も違うだろうし。

 それに、黒玄家って兆単位のお金をばらまける家だし、究極のところ、憲法はお金がいくらあっても幸せになれない人だからね……。


『いやはや、噂には聞いておりましたが、まったくこの車はすごいですな。ぜひ個人で購入させていただきたいのですが、予約を受け付けていただけますか?』


 憲法印の空飛ぶ車にすっかり魅了されたらしいおじさんは、パンダそっちのけで白絹お祖母様に商談を持ち掛けてる。

 白絹お祖母様はにこやかに提案。


「将来的には貴国にも生産拠点を作りたいと考えておりますが、この車の生産に当たって一番重要なのは、Sランク冒険者並みの魔力量を持ち、なおかつ特殊で精巧な魔法陣加工ができる魔道具師だそうです。ですので、これから我が社は人材育成に力を入れ、独自の高度な教育機関を設立する予定です。興味がおありでしたら、ぜひ貴国からも才能ある子供を留学させてほしいですわ」


 実はこれが今回のパンダ旅行の真の目的というか、建前としての一番の目的になるらしい。少なくとも、相手の偉い人は孫にパンダを見せに来たのがついでで、こっちが本当の目的だと思うはず。

 いやぁ、本当に本当の目的は、月白お兄様の真珠ちゃんとのパンダ旅行なんだけどね!


 この高度な冒険者だか魔道具師だか魔法使いだかの育成計画は、中国だけじゃなく、世界各国に通達されるんだって。黒玄グループの大規模経済支援活動とともに。


 なんでこんなことをするのかといえば、もちろんヒロイン探し!

 だって、真珠ちゃん、この見た目だもん。出産は日本だったにせよ、その後、真珠ちゃんの本当の母親が海外に出た可能性もあるって予想。


 ……って、わたしがうろ覚えの産みのお母さん、日本人としか思えない日本語喋ってたから、日本にいると思うんだけどねぇ? 『ダンレン!』原作でもヒロインは日本のダンジョンにいるみたいだったけど、赤ちゃんなわたしは言語障害。周囲にそのことを伝えられない。

 それ以前に昨夜、わたしが寝ていたあいだに大人が話し合って決めてた話だからさ……。


 憲法の本当の娘が日本国内にいるのだったら、個人識別カードのセキュリティ強化とみせかけたDNA分析魔道具でいずれは見つかる。でも、他国にいる場合は今回の百万円バラマキ作戦では発見できないかもしれない。

 だから、憲法印の空飛ぶ車をエサにちらつかせながら、そういう高度な魔法陣加工ができる人材育成のための教育機関を黒玄グループが作ることにすれば、才能のある子供を世界各国が必死になって探すだろう、って。


 才能だけで優秀な魔法使いになれるわけじゃないらしいけど、憲法と露茄さんの娘ならわたしと同じように生まれつき魔力操作が得意なはず。

 なので、いずれは才能を見出されて、日本に、黒玄家に送られてくるだろう……って、お金に糸目をつけない、実にお金持ちらしい壮大な計画だよね。

 発案者は当然のごとく、憲法。 


「本当に才能のある人間が集まれば、僕がじきじきに課題を与えてあげるよ。うまくすれば竜胆に代わる魔医療師になれる人材もいるかもしれないし、優秀な魔力の型の特性をまとめて分析照合できる。ああ、講師には世界各国の高ランク冒険者を招けば、彼らからもメディカルチェックと称していいデータが集まるね。報酬として宵司兄さん死蔵の武具を与えれば、大抵の冒険者は喜んで駆けつけるだろうから、ついでにゴミ処理も進むよ」


 結局、憲法の本当に本当の目的は娘探しじゃなくて、竜胆叔父様のお仕事軽減作戦みたい!


 ちなみに、黒玄家の人々が宵司がダンジョンで拾った……いや、収集した超お宝武具を『死蔵の粗大ゴミ』扱いしてるのは、憲法がオーダーメイドで作る武具のほうが性能がいいからなんだって。


 ダンジョン産の武器とか防具とかは本来、ものすごく便利で強力で天文学的な価値があるんだけど、憲法ってば、元になるのがあったら分析して、もっと使いやすくなるように作れちゃうんだって。

 すっごいレアな素材を使って、すっごい威力の武器を作るのはむしろ憲法にとっては簡単なことで、露茄さんのためのお肌にやさしいつけアイラインまつげ魔道具のほうがよっぽど制作が難しかったらしい……。

 そんな変人鬼才な憲法自身にとっても、優秀な魔道具師育成のための教育機関は大歓迎。


「素材は妥協するにしても、他の魔道具師のレベルに合わせて、魔法陣を簡素化簡略化するのは時間の無駄だったからね。せめて魔力だけでも僕の半分くらいはあるような魔道具師が現れてほしいものだ」


 来る途中の飛行機内で、昨夜の息子たちとの話し合いの結果を白絹お祖母様がため息交じりに月白お兄様に話してたんだけどね、聞きながら月白お兄様もため息だった。


「僕が言うのも変かもしれませんけど、お父様は並みの天才に才能の限界を思い知らせて、ありとあらゆる向上心をくじくことしかできないので、教育機関には関わらせないほうがいいと思います。正直、僕は魔道具師の才能があったとしても、お父様にだけは教わりたくありません」


 まあ、でも、なんだかんだで黒玄グループの未来への投資計画はそれなりに元が取れそうな計算になるらしい。

 でも、こういう時こそダントラ警報! なにか落とし穴がありそうで怖いなぁと思ったら、あったよ、わたしに!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ