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第21話 デザートは適量で


 おいしいばんごはんをたっぷり食べたので、おなかはいっぱい。でも、ガジガジは別腹デザート!


「真珠は本当にいい子だな。今回は無理だが、次はパパと一緒に旅行に行こうな。どこに行きたい? パンダか? パンダだな? パンダのいる世界の動物園を回るか? いや、その前にまず上野と和歌山に……」


 闇王パパ、真珠ちゃんに指をかじられながら、悲しげに夢見ております。娘と旅行に行きたかったんだね。

 でも、お仕事、がんばって! っていうか、早くヒロイン見つけてあげて!


「ぱぁぱ、がぁば!」

「がんばれって、ありがとう、真珠!」


 食後、みんなで移動したのはダイニングルームの隣にある広大なリビング。

 映画館のスクリーンみたいな巨大テレビが壁にかかってて、ソファセットがいくつも置いてある。ダイニングにもあるけど、ここにもピアノがあるよ!

 間の仕切りが取り外し可能っぽいから、このリビングとダイニングで一続きのパーティールームになるみたい。つまり、天井高くて、めっちゃ広くて、シャンデリアキラキラで落ち着かない! くつろぐ場所じゃない!

 その証拠に闇王パパがわたしを抱っこして座ったのは、一番端っこ。ここって目隠しの観葉植物と円形テーブルと本棚で区切られてて、ちょっと落ち着くもんね。


 だけど、全員長身で威圧感のある黒玄家三兄弟が同時に存在するのは、これくらい広い空間のほうがいいかもしれない。

 わたしと闇王パパと同じソファに月白お兄様が座って、スライムクアアは足元で猫みたいに丸くなってる。

 ばあやと白絹お祖母様と竜胆叔父様と憲法はそれぞれ一人掛けのソファ。

 そして、宵司はだいぶ離れた場所に陣取ったけど、暑苦しく目立つ! 筋肉ゴリラ! 長いソファの座面に足上げてだらんと寝そべって、ダメな大人まっしぐら。いやもう見るからに頭ツンツン悪役ヒゲ面マッチョ!


「ったく、わけわかんねーな。魔力差以前に、生殖能力なんて俺に残ってたのか? ガキの頃にダンジョンに入った奴は、そういうのがそっくり魔力だか魔石に置き換わったって話だっただろ?」


 宵司の疑問に答えたのは、凄腕魔医療師な竜胆叔父様。


「まだ例が少ないからはっきりとはわからないけど、もしかしたら、生まれつき魔力循環ができるできないの差かもしれない。少なくとも真珠ちゃんはできるし、闇王様も宵司様も憲法兄さんも子供のころから魔力操作ができてたよね? 先天的に魔力循環できるから、過剰な魔力が体内で魔石化しなかったんじゃないかな」


 そういう分析が好きそうな憲法が、すぐに納得してぐだぐだ考察しはじめた。


「なるほど。ダンジョンでモンスターを倒して経験値を稼ぐほど肉体の魔力量が増えるという条件は同じ。だが、魔力循環を習得する以前にダンジョンに入った人間は、過剰な魔力が特に生殖器官で魔石化して不妊症になる。しかし、大抵の人間は第二次性徴を終える頃には自然に魔力循環できるようになっているから、十六歳以降にダンジョン入りすれば生殖能力に影響を及ぼさない可能性が高いというわけか」


 うわ、おなかいっぱいになったあとでちょっと小難しい早口の説明聞くと、眠くなるね。

 手の中の真珠ちゃんがねむねむし始めたのに気づいて、闇王パパが抱っこしなおしてくれた。背中トントン、ゆーらゆらねむねむ、パパ大好き!


「あぁ? けど、兄貴の歴代の嫁は、どの女も兄貴と結婚してる間は妊娠しなかっただろ。確か魔力量に定評のある血筋で、本人もきっちりレベル上げしてて、妊娠能力に問題ないって医者のお墨付きの女達だったはずだ。しかも、兄貴と離婚後に再婚した男との間には、すぐガキができたとかなんとか……」


 このゴリラの声って耳障り! 言葉遣いが悪いし下品! 子守唄にはぜったいにならないよ。でも眠い……パパ、あったか!


「それは魔力の型の相性だね。高魔力な人間ほど、えり好みが激しくなる。とかいっても……まあ、あんまり子供の前でする話じゃないからね。究極的にはお互いの愛情ってことかな」


 竜胆叔父様は苦笑しながら言葉を濁した。そうそう、子供の前でする話じゃないよ。月白お兄様への性教育にしても早すぎ。

 なのに、宵司はやはりゲスゴリラでしかなかった。


「つまり、兄貴以上に俺が女を妊娠させるわけないから、そのチビ、やっぱり兄貴がどっかで作ったんだろ。DNAの一致は検査ミスか、突然変異だ」


 うわ、これ、わたしがわたしじゃなかったら、傷つく言葉だよね……。いや、ふつうの一歳児は言葉の意味がわからないか。

 でも、父親の自覚ゼロっていうか、人間性に問題ありすぎな宵司。

 それに比べて闇王パパはおっきくて、どーんと大らか! うん、真珠ちゃんのパパは闇王パパだけ! ごろごろ、トントン、ねーむねむ……。


「そうなんだよね。条件として、宵司様は面白いくらい変わらない。どの女性に対しても扱いは同じ。だから、それでも真珠ちゃんを妊娠した女の人の方が特別なんだと思う。てっきり宵司様に長年片思いしてきた女性が意外に身近なところに存在しているのかと思ったんだけどな」


 竜胆叔父様の疑問に、白絹お祖母様がきっぱり言った。


「過去も現在も、宵司と一定期間一緒にいた女性で、この二年、妊娠出産した気配のある女性はいなかったわ。なにより絶望的に全員、既婚者なのよ。宵司を近くで見ていると、この世の他の男性がよほど魅力的に見えるみたい……」


 はい、終了!

 真珠ちゃんのパパは黒玄家次男の宵司じゃないから、もうこっちの調査は必要ないね。

 うんうん、あとは三男の憲法が自分の娘を探せばいいんだよ。

 えーと、魔道具。個人識別カードのセキュリティを強化するという建前で、DNAを分析する装置だったね! まあ、百万円くれるんだったら、誰もが十八歳以下の子供の登録し直しに行きたくなるもんね。

 万事解決、真珠ちゃんは長男闇王パパに抱っこされてねむねむ、すりすり。


「つーか、どの女も似たり寄ったり、兄貴の歴代の嫁達も、誰が誰だか見分けつかないレベルで大差なかっただろ。ああ、その意味じゃ、憲法の嫁だけ違ったが……確かに、そのチビの魔力も違うな。スライム抱えてるせいかと思ったが、魔力の質も量も別格だし、なにより、兄貴の魔力、喰って平気なガキとなると……」


 大人の話はもうどうでもいいやと、すっかりおねむモードに入ってた真珠ちゃん。おめめ、完全に閉じちゃってます。

 なので、わたしがなんにも気づかなかったのは当然だし、見た目や中身がどんなに猛獣でも、宵司は世界に名だたる高ランク冒険者。運動神経抜群っていうか、魔力使って肉体強化すれば、光速を超える速さで動けるらしい。


「ほら、チビ、本物の父親の魔力、喰ってみろよ。どうせどっかのダンジョンが生み出した魔生物なんてオチなんだろ。正体、見せやがれ、化け物」


 その場にいた他の大人が反応できない速度でわたしに近づいた宵司は、闇王パパの腕に抱かれたわたしの背中に高濃度の魔力を流し込んだ、らしい。

 らしい、っていうのは、なにが起こったのか、わたしにはまったく理解できなかったからで、ごわっと胸が熱くなって、うえっと吐き気。


「真珠お嬢様!」

「真珠っ!?」

「真珠!!」


 ばあやの悲鳴と、闇王パパと月白お兄様の叫ぶ声。

 

「宵司、この馬鹿! なんてことを!!」


 犯人はすぐに憲法が拘束して、白絹お祖母様にガ―ッと怒鳴られてるみたいだけど、わたしはそれどころではなく気分が悪い。身体の中が熱くてぐるぐるムカムカ、これイヤ! 気持ち悪い!


「ふぇっ、うえうぅぅ……!」


 結局、リバース。せっかく食べたばんごはんがぜんぶ出てきちゃったよ、闇王パパの高級スーツの上に……!


「真珠、大丈夫か? 可哀相に、守ってやれなくてごめんな。竜胆、なんとかしてやってくれ!」


 でも、パパ、嫌な顔ひとつしないで、わたしの背中をさすりながら膝の上で吐かせてくれる。うん、パパのせいじゃないからいいよ。吐けるだけ吐いたら気持ち悪いの収まってきたし、悪いの、どっかの筋肉ゴリラ!


「真珠ちゃん、本当に上手に魔力循環、できるんだね。偉いね。いい子。意識がある状態なら、過剰な魔力は自分でぜんぶ排出できるみたい」


 竜胆叔父様もデロデロに汚いわたしを平気で抱っこして、耳の下から喉にかけて、触診。続いて手首に触れる。

 その間にばあやがわたしの顔を拭き拭き、靴と靴下を脱がせてくれた。

 竜胆叔父様はさらに足首足裏と、わたしのリンパの流れみたいな場所をチェックして、ほっぺた撫でながら口の中チェック。 


「もう大丈夫。胃液吐いたから、口ゆすいで、歯磨きはもうちょっとあとかな。ちっちゃい前歯、可愛いね。いい子。ああ、でも、おなかすくだろうから、経口保水液とミルクと、おかゆか何か準備してあげて」


 ふふっと竜胆叔父様、やさしく笑ってくれるけど、手とか服とか汚れちゃったし、くさいね。ごめんね。


「真珠、よかった!」

「今日はシャワーにしておきましょうか。少しお水を飲んだら、お部屋で綺麗にしましょうね、真珠お嬢様」


 でも、闇王パパもばあやもみんな、わたしのこと心配してくれてて、においとか汚物とか気にしてない。


「真珠、お水飲む? 僕、飲ませてあげるよ」


 月白お兄様もテーブルの上に置かれていた水差しから幼児用のコップに水を入れて、わたしのところに持ってきてくれる! やさしい!


 あ、むこうで憲法の足元に転がってる人だけ、鼻つまんでる! あの人、悪い人! 敵認定!!


 あ、白絹お祖母様が蹴ってる! 足蹴! キック炸裂!!

 筋肉ゴリラ、大ダメージ! 踏みつぶされてる!

 白絹お祖母様完勝! やったね!


 と、お祖母様の鉄拳制裁に気を取られてたら、いつのまにかこちらに来ていた憲法がなにかを唱える声がした。

 

洗口浄化マウスウォッシュクリーン


 ふわっと口の中にそよ風。

 すごくソフトタッチな微風が全身を包み込んで、一瞬後にはぜんぶすっきり。口の中のおえっとするにおいも異物感もぜんぶなくなってる。

 おまけに、きれい! 自分の服とかパパの服とかソファーとか床に吐き散らかしたものがぜんぶ消えてる! 竜胆叔父様やばあやの手の汚れまで!


「……ふぁ、ばぁっ!?」


 おめめ、ぱちくり。

 でも、驚いているのは周りもだった。


「憲法兄さん、今、洗浄と除去と消臭分解、ぜんぶ一度にやったの? これって、水魔法と風魔法の合わせ技だけじゃなくて、乾燥に、汚物だけ自動分析して分解するって……いや、これはすごいな。しかも、範囲指定と強弱が絶妙だから、魔法をかけられた本人の負担もまったくない。うわ、この魔法、教わっても真似できないかも。憲法兄さんはすごいね。綺麗にしてくれて、ありがとう」


 絶賛感謝の竜胆叔父様に、憲法はにっこり言ってのけた。


「露茄のためにこの魔法を組み込んだ洗浄用魔道具があるけど、竜胆が欲しいなら別に作ってあげるよ。仕事柄、魔医療師には便利だろう?」


 また出たよ『露茄のために』!

 でも、竜胆叔父様はすぐピンと来たみたい。


「この細かい洗浄を魔道具で? ああ、そうか、つわりか。そういえば、月白を妊娠してた時の姉さんはつわりがひどかったもんね」


 そうか、つわりか……。

 いや、前世のわたしは自分の身では経験してないっぽいけど、周りでこういう例があったような記憶がうっすら蘇ってくる。

 職場で続けざまに何人もおめでたで産休。もちろんおめでたいんだけど、急な代わりの仕事とか、その前につわりがひどくて吐いた子の後始末とかも中年おばさんが笑顔で引き受けなきゃいけなかったわけで……。

 まあ、今は自分が迷惑かける側になってるし、あの妊婦さんたちもその後、赤ん坊のお世話にてんてこ舞い。そして、いずれは誰もが介護される側。こういうのってお互い様なんだよね。

 たぶん突然死した前世のわたしは介護はされてないけど、孤独死だったら、その後の片付けをだれかがやってくれたんだろうし……。


 いやでも、だから、憲法、きみ、すごいよ! 世紀の大発明!

 こういうのって、雑巾とか掃除機とか口腔洗浄機とか洗濯機とか、いくら組み合わせても結局は人力必須だもん。これを一度にふわっとぜんぶ綺麗にできるなんて、妊婦とか病人とか、自業自得とはいえ二日酔いゲロゲロな人が大助かり! 正義だよ!

 クズ三男から昇格! 紙一重だけど、すっかり見直したよ、憲法!

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