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第20話 ばんごはん中


「魔医療師が自分の感覚で直感的に行っている魔力変換を魔道具で行うには、まず人が持つ魔力の型をすべて解析する必要がある。だから、魔力の型の分析装置を作ったんだ」


 今日の真珠ちゃんのばんごはんはお花見お弁当風!

 桜柄のミニお重がいくつも並べられてて、お花の形のおにぎりとか卵焼きとかサラダとか、めっちゃ可愛い! ひなまつりで食べ損ねたからかな、ハマグリのお吸い物もあるよ。

 なんか百日祝いのお食い初めのごちそうみたい! あの時は食べたふりっていうか、スプーンなめる程度だったけど、今回はうまうま食べられる! 幸せ!


「かーい! おいち!」

「真珠、お花見弁当、気に入った? よかったね。明日もお天気はいいみたいだから、明日はお外でお弁当にしよっか?」


 椅子を寄せてぴったり隣に座ってる月白お兄様の前に並べられているのもお重のお弁当セット。

 お重もお椀もコップもランチョンマットも、ぜんぶ、わたしとおそろいの桜柄! あ、でも、月白お兄様のほうにはこっちにないお重がある。お肉とお魚、おいしそう!


「あっち、あーん!」

「ん? これ、食べたい? ばあや、この唐揚げ、真珠にあげても大丈夫?」

「そうですね。そちらのお魚団子のほうが無難でしょうか。真珠お嬢様、お兄様がおいしいものをくださるようですよ。よかったですね。よーく噛み噛みしましょうね」

「あーい!」


 おいしいもの、くれました! 月白お兄様がわけてくれたお魚団子を噛み噛み、噛み噛み、いっぱい噛み噛みしてから、ごっくん。


「うまうま! にーた、あーと!」

「ありがとうが言えて、お利口だね。真珠は世界一、可愛い!」


 月白お兄様に頭なでなでされて、いつもののどかなごはんの光景。

 なんだけど……。


「人体に魔力を補充する場合、魔力の型の一致する割合が高いほど拒絶反応は抑えられる。これにさらにDNAの一致率を加味すると、回復効率が劇的に上がる。このことは闇王兄さんと真珠の例から他で実験してわかったことだ。だから、魔力の型とDNAの両方を分析できる装置を作ったけど、魔医療師の領域はまだまだ遠いよ。竜胆はすごいね」


 さっきからBGMがわけわからないことになってるせいで、白絹お祖母様と闇王伯父様は難しい顔したままだし、向こう側の真ん中に座ってる金髪マッチョは無言で詰め込み中。

 黒服のお兄さんがお皿を置いた端から、筋肉の塊みたいなゴリラが目にもとまらぬ速さで中身をひっさらっていく。あれだね、わんこそばマシーン。タンっとお皿が置かれて、ぱっくり、ごっくん!

 そして、BGMの元凶は竜胆叔父様に対してだけ、ニコニコ早口で語っている。 


「魔力の個人差が大きいのは魔力の型それぞれの果たす特性が違うからで、将来的には魔力の型とDNAの組み合わせで覚醒するスキルがある程度、予測できるだろう。さすがに組み合わせが膨大だから、今は回復に特化した魔力の型の特定を優先している。ただ、これもいろいろな組み合わせと幅があるから、魔力枯渇の治療を臨床試験に持ち込むのは来年までかかるかもしれない。でも、この研究のおかげで欠損部位の再生と移植手術補助の魔道具の研究はさらに進んだから、来月には竜胆の仕事が少しは楽になると思う」


 他の人が興味ないこととか、よくわからないことをだーっとしゃべるのって、オタクの特徴なのかな? 前世の記憶が頭をよぎる。

 でも、竜胆叔父様はさすがだった。


「僕のためにありがとう。でも、最近、あんまり寝てないんじゃない? 憲法兄さんが倒れでもしたら、結局、僕が大忙しになるから、身体を大事にしてね」


 それにね、と相槌のさしすせそよりもっと親身に相手を気遣いながら、巧みに軌道修正へと持っていく。


「これでも立派な成人男子だから、僕の優先順位はあとでいいよ。それより、いくら露茄姉さんの子供とはいえ、まだ真珠ちゃんと同じ赤ちゃんだからね。僕の姪っ子を早く見つけてあげてほしいな。おなかすかせてないかとか、ケガとか病気してないかとか、けっこう心配」


 オタクでもあり、ストーカーでもあり、視野狭窄のクズだけど天才な憲法は少し考えてから、まただーっと早口でしゃべりだした。


「日本国内に暮らす当たり前の親なら幼児に無料検診くらい受けさせる前提だったが、教育も常識もない人間が育てているとすれば、公的機関に赤ん坊を連れて行くことはない。その場合、大人、つまりそこにいる真珠の母親を探す方が早い。政府が導入した個人識別カードはすでにあるから、あれのセキュリティ強化の名目で全国民に魔力の型とDNAを登録しなおさせればいい。日本政府に働きかけて、そのための必要経費と機材は黒玄グループが提供。登録しなおすのを拒否する人間に対してのペナルティだと野党やマスコミが反対するから、今なら三歳までの赤ん坊に給付金を百万円プレゼントってことにすれば、少なくとも子供の個人識別カード登録を拒む親はいないだろう」


 え? 早口で聞き取れないところも多かったけど、金額は聞き取れたよ。

 三歳までの赤ん坊に給付金を百万円って、それ、嬉しいけど、めっちゃ多額のお金がいるよね。

 なのに、白絹お祖母様も闇王パパもほっと表情をやわらげた。


「憲法、魔力の型とDNA情報を識別する装置を作るのに必要なものと、痛くない注射のために必要なものとでは、素材の手軽さや魔法陣に違いがあるのよね?」

「真珠の母親も、露茄の娘も、個人の特定だけならDNA情報だけで絞り込める。魔道具で分析するのがDNAだけなら魔法陣は相当簡単なものになるし、素材も一般的な材料で足りるだろう。そもそも、注射器の魔道具は都度使い捨て前提だったが、個人識別カードのセキュリティ強化に見せかけたDNA分析装置の魔道具なら、一台で使いまわしできる。魔道具制作のコストも時間も格段に削減できる」

「ならば、三歳までの赤ん坊への給付金は黒玄グループからの日本の未来への投資という形で寄付しよう。場合によっては、私の個人資産から出す」


 ふふっと、そこで竜胆叔父様がにこやかに提案した。


「だったら、十八歳以下の子供全員に百万円配れば? セキュリティ強化は給付ミスやなりすまし詐欺を防ぐためってことにしとけば、野党もマスコミも黙ると思うよ」


 え? 十八歳以下人口って、前世の日本でも二千万人超えてたよね?

 この世界の日本人口がどうなってるか知らないけど、百万円を百万人に配るだけでも一兆円。なのに、数千万人に百万円って、天文学的すぎて計算できない。国家予算? いや、この世界の貨幣価値とか年間国家予算も知らないけど……。


「十八歳以下全員に百万円か……。まあ、今、グループ内にある流動資産だけで足りるだろうが、インフレで年金生活者が困窮する可能性があるな」

「その辺は政府の人に対策してもらいなよ。黒玄グループが貯めこんでるお金、ごっそり吐き出してくれるんだもん。ものすごい子育て支援と景気対策」

「……さすがに日本国内だけでは恨まれそうだ。この機に黒玄グループは人類の未来のために投資を惜しまないと大々的なキャンペーンを行って、世界規模での経済支援を展開しよう。そうすれば真珠の母親が海外逃亡していた場合でも見つけやすい。継続的な取り組みとして、来年度からの新生児へも毎年、予算を計上する必要があるな」


 やばい! やばいよ、ここんち! ブルジョワすぎ! 大金、持ちすぎ!! お金の使い方、湯水!

 ……って、だったら、そのお金、使った方が世のため人のためになる? だって、それって今、この家が貯めこんでるお金なんだもんね。この先もいくらでも稼げるんだもんね……。

 お坊ちゃまな月白お兄様は、さっそく使い切る気満々だった。


「十八歳以下なら僕もその百万円もらえるんですよね? だったら、真珠と旅行に行こうかな。真珠、どこに行きたい? パンダ見に行く? うーん、中国に行っちゃおうか? パンダがいっぱいいる動物園があるよ」

「ぱぁだ!」


 パンダにつられて、真珠ちゃん、つい、おひざのクアアと一緒に喜んじゃいました。

 ああ、こうして金銭感覚がおかしくなるんだね。手に入れる前から使う計画。全額使い切って当然って、ダメダメ浪費家な悪役令嬢!

 でも、環境が悪すぎるっていうか、白絹お祖母様も孫と旅行に行く気満々だった。


「まあ、可愛いこと! そうね、月白が春休みのうちに真珠とパンダ旅行に行きましょう。闇王、中国政府との交渉はわたくしが引き受けるから、あとのことはよろしくね」

「い、いえ、それこそ父親の私が真珠と中国に……」


 闇王パパが向こうの席でなにか言ってるけど、竜胆叔父様がうふふと妨害。


「パンダかぁ。僕も見に行きたいな。月白、連れてってくれる?」

「もちろん、竜胆叔父様も一緒に行きましょう! あ、でも、旅行費用が百万円で足りなかったら、自分で払ってくださいね。真珠の分は使っちゃダメですよ!」


「我が家の自家用機で行くし、宿泊もあちらの知人に別荘を手配してもらうから旅行費用は気にしないで。自分のお金はお友達へのおみやげにでも使いなさい、月白。それより真珠のお洋服と、パンダのリュックを準備しなきゃ。月白も真珠とおそろいのリュックなら背負ってくれるわよね?」

「うーん、まあ、真珠が喜ぶならいいかな。真珠、パンダ、好きだもんね」

「ぱぁだ!」


 旅行計画は着々とできあがっていって、取り残される黒玄三兄弟。


「真珠と旅行……」

「モンスターと旅行って、おいおい……。入国拒否されて、地獄に強制送還されやがれ!」

「簡素化した魔法陣とコスパ重視の設計図は今夜中にできるから、僕は同行できるね。まあ、僕も竜胆も母さんも世界のどの国でもパスポート要らないから、同行者の月白や真珠もノーチェックで出入国できるし、念のためにスライムの偽装用スーツケースくらいは作っておくか」


 さすがストーカー! ついてくる気満々の三男!

 あとで聞いた話だと、ダンジョン崩壊対策として高ランクの冒険者はギルドカードがパスポート代わり。世界のどの国もぜひ自分の国のダンジョンに来てくださいって状態らしい。

 で、そもそもその国際的なギルド運営とか、ダンジョン崩壊対策にめっちゃ貢献してる黒玄グループのトップは世界各国の国家元首以上の国賓待遇。

 白絹お祖母様は全世界でVIP度マックスの女帝、いつでもカモン!

 その孫の真珠ちゃんって、ほんとにお姫様ですな!

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