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第18話 お花見日和

 桜満開な春です。

 いいお天気で、真珠ちゃん、完全復活しました!


「自分で歩けるようになると、それはそれで転びやすくなるんだな。真珠、大丈夫か?」


 庭の桜の下のピンクの絨毯がすっごく綺麗で、キャー!と走っていこうとしたら、ぽてっとこけた! 

 と思ったら、転ぶ前に後ろからひょいっと抱き上げられたよ。


「あーと、ぱぁぱ!」


 ありがとう、闇王パパ!

 がっちりした安定感のある腕の中から見下ろすと、足元でスライムクアアがぴょんぴょん跳ねてる。ピンクの花びらまみれの紅白パンダ、めっちゃ可愛い!


「くぁあ、きゃーい! あぅ、ちゃぁい!」

「真珠は賢いな。パパもクアアも言えるし、一歳でありがとうがちゃんと言えるのはすごいことらしいぞ。さすがパパの娘だ」


 闇王パパが感心して、頭なでなでしてくれる。

 真珠ちゃん、もう白絹お祖母様の強権発動で正式に闇王パパの娘になったんだよ!


 っていうか、実の父親は海底ダンジョンの魔境みたいなところで死にかけてたらしくて、白絹お祖母様の手配した一個大隊は天の助け。

 むしろ、このタイミングで呼び戻そうとしていなかったら黒玄宵司率いるダンジョン探索隊は全滅してたっぽいので、小説の『ダンレン! ~ダンジョンの数だけ恋がある~』がどんどん変わってるのかもね!


 でも、原作っていっても、あのオタクがピピッと宇宙と交信して書いた物語なんて、筋書き通りになってたまるかって気がするし、今、わたしが生きてる世界と『ダンレン!』世界は別物、気のせい。


 だって、わたしが黒玄真珠に転生した時点で完全に違う。


 あ、違うといえば、この世界って電化製品とかスマホ、インターネットとか、前世と同じように進化してるみたいだけど、動力源も違えばいろんな制度も違う。

 その一例が真珠ちゃんの戸籍問題。


 危険なダンジョン探索で命を落とす冒険者は毎年、数知れず。突然のダンジョン崩壊によって親兄弟、地域社会など、つながりのすべてを失う子供も日本だけでも相当数。

 なので、この世界では無戸籍・無国籍の無所属児対策として、すべての国で男性でも女性でも性別不詳でも、親ひとりで子供の出生届が出せるらしい。究極のところ、親なし、両親どちらも空白でもかまわない。

 名が公式に登録されることで、子供は医療とか教育とか、生きていくのに必要な社会保障を受ける権利を得るからね。


 結婚制度もゆるやかで、ある程度の経済力と関係者全員の同意があれば、一夫多妻でも一妻多夫でもOK。

 一応、前世みたいに日本では三親等以内の結婚は禁じられていて、四親等にあたるいとこ同士は結婚できる。でも、四親等でも結婚できない国もあるらしいし、日本でも時代によって変化している。

 

 で、もともと無責任なうえに、いつ死んでも悔いのない呑む打つ買うギャンブラー、黒玄宵司。財産がなくはないけど、それ以上に借金生活。そんな男の唯一の相続人になったら、真珠ちゃんが将来苦労するからって、最初から闇王パパがわたしのパパに!


 なので、今、黒玄家の戸籍には憲法・露茄夫妻の娘としての黒玄真珠のほかにもうひとり、闇王パパの娘としての黒玄真珠が記載されてることになる。

 同じ名前でまぎらわしいけど、いとこ同士だと同じ名前でも書類上の問題はないし、本物の真珠ちゃんが見つかったら、もう一度相談して改名届を出すみたい。

 そのあたりはぜんぶ月白お兄様の希望が通りました。


『お母様とお父様の娘って、僕と同様に東洋人なんだから、ぜったいに真珠ほど色白じゃないし、真珠以上に可愛いわけないから、真珠なんてキラキラネームはむしろ可哀相。おなかの子供が女の子だってわかったときに、お母様が最初につけようとした名前は風花かざはなに因んで、風花ふうかだったから、僕の妹は『ふうか』が妥当だと思う』


 そ、そうだね。風花なら普通に可愛い女の子の名前だね。でも、月白お兄様、真珠って、キラキラネームだと思ってたんだね……。

 いや、明らかに黄色人種じゃない真珠ちゃんの見た目には似合うんだけど、中身がおばさんなわたしは風花のほうがよかったような……でも、それでもメンタルが負けそう……。シワシワ精神としては、風子とか花子とか?


「赤ちゃんって目線が低いから、咲いてる花より散った花に興奮するんだね。やっぱり真珠は可愛いなぁ」

「ほんっと、月白もついこないだまで真珠ちゃんと同じくらいの大きさだったんだけどね。あの頃はまだ日本語も片言で、可愛かったなぁ」


 わたしが闇王パパにお手てつないだりなんだり遊んでもらってるあいだに、竜胆叔父様が月白お兄様相手に昔懐かしトーク。

 でも、すかさず、ばあやと白絹お祖母様も思い出トークに突入!


「そういえば、憲法お坊ちゃまが露茄様の誕生日パーティに行くというので、付き添って行った先でお姉さまに遊んでもらっていた竜胆様がちょうど今の真珠お嬢様くらいの大きさでしたね、大奥様」

「ええ、そうね、竜胆さんもすっかり大きく綺麗になって。きっと真珠もびっくりするような美人に育つわね。竜胆さんの年の頃にはウエディングドレスかしら? それとも可愛い赤ちゃんを抱っこしているのかしら? ふふっ、長生きしなきゃね」


 お年寄りは過去を懐かしみつつ、すぐさま未来のドリーミング! めっちゃ気が早いよ!

 でも、月白お兄様、お目めキラキラでドリームトークに参入。


「竜胆お兄様って、今、二十五歳ですよね。真珠が二十五歳だと僕は三十一歳だから、その頃にはもうとっくに結婚してます! お祖母様、僕と真珠の結婚式で真珠の母親代わりになってくださいね。ばあやももちろん、真珠の家族として参加してね!」

 

 お兄様、気が早すぎます!

 だけど、それを聞いた闇王パパは「結婚……」とつぶやきながら、わたしの両脇に手を入れて、自分の目の高さまで持ち上げた。


「月白と結婚すればずっとこの家にいるから大歓迎だが、娘は一度くらいは『パパと結婚する』と言うらしいぞ。真珠、言えるか?」

「ぱぁぱ……」

「『パパと結婚する』だ」

「ぱぁぱ……ぱぁ、けあぅーう!」

 

 一応、努力しましたが、無理です。舌も顎も未発達。

 でも、もう少し大きくなったらうまく甘えてパパを真珠ちゃんのとりこにしてあげましょう。お祖母様だけでも遊んで暮らせそうだけど、パパにはいい就職先、斡旋してもらわないといけないからね。

 希望としては、このうちのお庭でお花の世話するパートタイム庭師とか? おばさんメンタルはゴキブリ退治できるし、クモとかミミズは益虫ってスルー出来るから、虫いっぱいの庭仕事も楽しめるよ!


「闇王様って、意外どころか、面白いくらいに子煩悩ですね。まあ、こんな強面のおじさんと正面からにらめっこができる赤ん坊なんて、真珠ちゃんくらいでしょうけど、この分なら、真珠ちゃん、宵司様に会っても泣かないで済むかな?」

「ダメよ。真珠が泣くまでいじめられるわ。あの子はもう憲法の実験動物になっていればいいの。それより、真珠、桜の下で記念撮影しましょう。色白でピンクが似合って本当に可愛いこと。お日様の下だと赤毛というより、ストロベリーブロンドっていうべきよね。ああ、そうだわ。今度はイチゴ模様の服と小物を揃えて、真珠のイチゴ祭りをしましょう」


 なんか『実験動物』とか、さらっと物騒な言葉が出てきた気もするけど、もう気のせいでいいよね。ストーカー三男とゲス次男は遠い親戚! 真珠ちゃんは闇王パパの娘!

 それより、イチゴ祭り、楽しそう!

 闇王パパもわたしを抱っこしなおして、うんうんうなずいてくれる。


「そういえば、真珠はイチゴが好きだったな。真珠が好きなだけイチゴをつまんで食べられるような温室を裏庭に作らせよう。今年は植木鉢のイチゴを手配するか」

「闇王伯父様、真珠は果物がぜんぶ好きですよ。こないだは甘い蜜柑もおいしそうに食べてたから、果樹園も作ったほうがいいです」


 あの、ここんちのイチゴ祭りって、なんかおかしくない? イチゴ模様のお洋服着て、イチゴいっぱいの可愛いティータイムとかじゃないの?

 闇王パパ、月白お兄様に続く白絹お祖母様の提案は、さらにぶっ飛んでいる。


「あら、それなら、宵司がゴミ置き場にしている一角を取り壊して、あちらに温室と果樹園を作りましょう。宵司がダンジョンで拾ってきた危険なものだらけだから、真珠が迷い込んだら大変だもの。でも、あのゴミの山、まだ使えるものもあるはずだから、竜胆さん、欲しいものがあれば持っていって」


 わりと金銭感覚のおかしい竜胆叔父様もそれには苦笑した。


「あの伝説的な武具の数々を宵司様の断りなしにいただくのは、さすがの僕でも躊躇いますね。普通に市場に出せない、値段がつけられないレベルの稀少さだから、警備の厳重なこの家に保管していたはずですよ」

「だったら、ぜんぶ、あなたにあげるわ、竜胆さん。自分の治療費としてなら、宵司も納得するでしょう。今回もずいぶんあなたのお世話になったし、本当ならとっくに死んでいたはずだから、あの子に発言権はないわ」


 ほほっとにこやかに言い切って、白絹お祖母様は真珠ちゃんに手を伸ばす。

 空気の読める真珠ちゃんは、極上のエンジェルスマイルでお祖母様をキャッキャといやします。

 そして、満開の桜の下で家族写真の撮影会。


「さあ、真珠、あのおじいさんに、にこっとしてあげて。可愛く撮影してもらいましょうね。あの庭師さんが小春の旦那さんって知ってる? あら、びっくりしたの? お目めぱっちり、可愛いわ。本当に綺麗な深い紫色だこと。あのおじいさんは柴山っていうのよ」


 カメラマンはすすきさんと庭師のおじいさんが交代でやってくれた。

 でも、庭師さんがばあやの旦那さんって初耳だったよ。庭のお散歩した時によく見かける人なんだけどね。

 七十歳前後のがっちりした体格で、身長は闇王パパより低いけど、厚みはごっつい! 樽みたいな体格のおひげのおじいさんだから、インパクトばっちり! 山に柴刈りに行くおじいさんは柴山さんだね。覚えたよ!

 せっかくだから、ばあやと庭師さんと真珠ちゃん三人の写真もパチリ。すすきさんとのツーショットも!

 でも、圧倒的に多いのは月白お兄様と真珠ちゃんとスライムクアアとのスリーショット!


「真珠は桜よりきれいで可愛いね。僕、真珠が一番好きだよ。真珠が一番好きなのはだぁれ?」

「ばぁば!」


 もちろん、真珠ちゃんは質問の意味を分かってて答えてるのに、月白お兄様ってば華麗にスルー。


「ばあやじゃなくて、にーた。あー、でも、そろそろ月白って発音できるようになるかな? げっ、て音も、パパも言えるもんね。げっ、ぱく、って言ってみて?」

「げっ……げっ、ぱぁ……」

「うーん、ぱぁは嫌だな。じゃあ、つきにーに、とか言える?」

「うちゅ……ちゅ、にに……」


 あー、この口、まだ「つ」の音は発音できないみたい。前後の音によるけど、まだまだ発音できない音が多いし、無茶ぶりさせられると舌噛むから、やめてー。という、噛み噛みイヤイヤは伝わったらしい。月白お兄様が妥協してくれました。


「うーん、やっぱりまだ、にーにとか、にーたでいいか」

「にーた!」

「うん、可愛いよ! 真珠、大好き!」


 ほほえましい児童と幼児のやりとりを見守る大人たち。

 とってものどかなお花見日和だったんだけど、その夜、事態は急変するのであった。

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