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第10話 転生のひみつ

 パカっと急に明るくなって、ふかふかあったか、いつもの抱っこ。


「真珠お嬢様、ご無事でよかった!」

「ふえっ……ばぁば!」


 目を開けるとばあやの笑顔。でも、様子が変! 

 頬とか額とかあちこちから出血して汗ばんでるし、髪も乱れてて、よく見れば服も破れてる!?

 というか、ここどこ? 明るいけど暗いっていうか、ばあやは跪いてわたしを抱っこしてて、横に懐中電灯。

 周囲にぼんやり照らし出されているのは、瓦礫? わたしが入っていたと思われるスーツケースらしきものもある。なんか変なにおいがして、生臭いっていうか、この鉄臭さは血の匂い……?


「なんだ、生きてたのか。ああ、でも、次に使えるか。途中までは順調に作動していたから、後半部分を組み替えて出力を最大化……いや、月白も同時に捧げてさらに出力を上げるか。融解と均質化の魔法陣を追加することで、想定できる最大出力が少なくとも五倍になるからこの場合……」


 元凶の憲法氏は暗がりのむこうに立っていた。髪とか服とか乱れてる。爆発に巻き込まれたみたいな感じだけど、ぶつぶつ目の焦点が合ってなくて、完全に頭おかしそう!


「いい加減になさいませ、憲法坊ちゃま! このようなこと、露茄様がお望みだとお思いですか!?」


 わたしをぎゅっとして、ばあやが一喝。


「露茄の望み? だって、露茄は……だから、僕は露茄をこの世に蘇らせないと……!」


 こちらを向いた憲法氏。暗闇に光る眼には狂気が浮かぶ。

 その憲法に、ばあやはわたしをしっかり抱っこして切々と訴える。


「もし仮に、だれかを犠牲にして蘇って、露茄様はお幸せですか? そもそも、ご自分の幸せだけを考える人間なら、あの方には、もっともっと別の人生があった……。才能豊かで、心優しく、だれからも愛される光のような……ですが、だからこそ、露茄様はつねに人を救うことを優先されておられたでしょう!」


 ばあや、かっこいい! だけど、なんていうか、合間合間に息切れしてて、様子が本当に変。

 あれ? 手にケガしてない? 暗くてよく見えないけど、ぬるっとしてるような……指が! ぐるっとわたしに回された指の先が赤いっていうか、白いの見えてる!


「ばぁば!」

「ええ、真珠お嬢様、大丈夫ですよ」


 全然大丈夫じゃなさそうだけど、額に脂汗かきながらばあやは続ける。


「露茄様の、他者を思いやる慈悲の心が、あの取り返しのつかない日につながりました。ですが……たとえ事前に運命がわかっていても、あの方は同じことをされたでしょう。そして、露茄様がそういう方だったからこそ、あなたは惹かれてやまないのでしょう。憲法お坊ちゃま、もう一度、よく考えてください。あなたの愛した露茄様が、一体どういう女性であったのかを……!」


 ようやっと憲法氏の目がまともにこちらを見た。

 その瞳に、ばあやと、ばあやに抱っこされているわたしが正面から映る。

 だけど、わたしはそれどころじゃない。暗がりに目が慣れて、懐中電灯一個の明るさでばあやの悲惨さが理解できてしまったから。


「ばぁば! ばぁば!」


 どろっと溶けた指。ばあやの手が、身体のあちこちが溶けて、骨が見えてる!

 場所はどこかの崩れかけた建物内部、床に転がる瓦礫のあいだに生き物の死骸らしきもの。さらに、ばあやの足元でなにかがもぞもぞ動いている。いや、なにか得体のしれないものがばあやの身体を這い上がろうとしている! 食べてるよ!


「めっ! やっ! ばぁば!」

「大丈夫です、真珠お嬢様。これくらい、大丈夫。すぐに助けが来てくれますから、お嬢様だけは、ばあやが必ず……!」


 ばあやは気丈にもわたしを励ましてくれるけど、それどころじゃない!

 その足元の、なんなの? 暗くて黒っぽいものにしか見えないけど、逃げなきゃ! 黒くてどろどろに白い骨って……え? ばあや、もう歩けない!?

 ええい、ぼーっとつっ立ってるだけとか、ほんとに役立たずな憲法お坊ちゃま! クズ!

 とにかく追い払わなきゃ! 石投げる? あれ? わたし、なにか持ってる? あ、パンダだ!


「あうっ!」


 ばあやがクリスマスにくれたパンダぬいぐるみは、わたしの大のお気に入り。寝るときも起きてるときもいつも一緒で、よだれまみれにしても洗濯済みなのと交換してもらえて、いつもふわふわいい匂い。

 予備が何個あるか知らないけど、とりあえずわたしが毎日抱えまわしているのは、一個のパンダぬいぐるみ。

 そのパンダをいつものように両手で抱えていたので、ぺいっと投げた。


「めっ! やっ! あっち!」


 あっち行け! ばあやから離れろ!

 一歳になったばかりの幼児の腕力なので、もちろんパンダぬいぐるみはその場にぽとりと落ちただけ。

 なんだけど、ばあやの足元でもぞもぞしていたものに当たった途端、ぬいぐるみが光った!


「ぅあ!? う、ふぎゃあぁぁぁーっ!」

「まっ、真珠お嬢様!?」


 その光とともに、ずぼっ!となにかがごっそり持っていかれる。身体のなかにあるものを根元から引っこ抜かれるみたいな、それこそ、魂抜ける!って感じ。


 でも、痛みはない。

 ただ衝撃。

 身体か、心か、なにかがきれいさっぱり消え失せて、目の前が白く遠く黒くなって、聞こえてくるのは例の声。


「ダンジョンによってあなたの世界とこの世界の未来はすっかり変わってしまった。けれど、わたしの夢見る最良の未来は、あなたとともにある。だから、あなたをこの世界に生まれ変わらせることが、わたしに与えられた使命……あなたの未来に祝福を」


 キラキラ聖なる祈りに、ピー、ザザッ、ピー、ザザザッと異音混入。


「すげー、イマジネーションの創造神が降りてきた! ダンジョンで第二次世界大戦の終結か。よし、いける! アクセス殺到、大ヒット間違いなし!」


「……予知夢を共有しても、ダンジョンのある世界とない世界とでは、こんなに受け取り方が違うのね。ダンジョンのない世界の人々にとって、こちらの世界はただの夢物語。いえ、だからこそ、夢が、想いが強くなる。人の想いが強まるほどに、わたしの魔力は強まるけれど、やっぱりダメね。わたしの夢見の力ではなにも変えられない。この世界を破滅から救えるのは……」


「すっげー、あのおばさん、あれだけヒント出しても俺のこと全然気づかないとか、ありえねー! まあ、最初に本名で作家活動したのが失敗だったけど、母方の苗字に変えてもすぐに嗅ぎつけてくるハイエナばっかだったのに、そもそもダンレン!知らないとか、あのおばさん、スルースキル、パねぇ!」


 やさしい声と雑音が交互に聞こえる。ええい、ノイズキャンセリング機能希望! 雑音は打ち消して消滅させてください!

 というか、予知夢って、夢見の力ってなに? わたしの転生って、偶然じゃなくて必然だったってこと?


「夢を見るだけではダメ。夢に惑わされない冷静な判断力と相応の実行力。こちらの世界の魔力はあちらの世界の仕事の遂行能力に比例するのね。ええ、だから、真珠ちゃん、生まれ変わったあなたは初めから多くの魔力を備えているでしょう」


 いや、この女性の声もわりとひどいこと言ってる……。

 仕事の遂行能力って、それって滅私奉公な社畜適性? そんな能力が魔力に比例するんじゃ、もろもろぜんぶお断り! また過労死一直線フラグ!


「てか、そっか。あのおばさんにとっちゃ、俺が人気作家だろうが、そもそも金持ってようが関係ないのか。俺の金あてにして仕事辞めた親兄弟とか、金貸せむしろ寄付して当たり前教師とか、車買ってくれて当然の自称親友とか、托卵妊娠マンション買って慰謝料請求カノジョとか、そういう連中とは違うっていうか、地に足が付いた仕事人間って感じだもんな」


 雑音が、ひどい……。

 というか、あのオタク新人、実は人間不信だった? それでこちらの反応を試しながら、仕事さぼりまくってた?

 ああ、なんか、おばさん、無駄にじゃなく普通に人生長かったから、そういうのにぴったりな言葉知ってるよ。


 赤ちゃん返りと試し行動。


 ふつうは里親とかに引き取られた子供が示す反応だけどね、あのこじらせ覆面作家!

 でも、こっちの世界の憲法お坊ちゃまもそれに近いような……周りの人間の忍耐と愛情、試してんじゃねぇ甘ったれども! そんなに赤ちゃん返りしたいなら、おまえらが転生してばぶばぶプレイ実践しやがれ!!


 ……いや、でもあんな愛情くれくれ連中が赤ん坊になったら、世話する保護者が可哀そう。夜泣き試し行動でノイローゼになる。

 ものすごく迷惑だから、きみたちはわたしとは赤の他人に生まれ変わってね。いやこれフラグじゃないし、そもそもどっちの困ったちゃんもそれぞれの世界で無事に生きてる。


 となると、わたし、ひとりで理不尽な目にあってるような……。

 前世ストレス過労死。

 現世取り換えっ子&クズ偽父親!

 最低! わたし、可哀相!


 だからね、愛とか恋とか世界平和とか人類を滅亡から救え!みたいなのは、精神年齢中学生の夢見る若者にお任せします。おばさんも赤ちゃんも睡眠優先。戦うより安らかに眠らせてください。

 いや、でも、その前に、ばあやを助けなきゃ!

 ……って、ああ、これが悪いんだ! こういう責任感みたいなのがオーバーワークの苦労性体質につながっていくんだけど……ばあやは大事!

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