プロローグ こんにちは赤ちゃん転生
現代ダンジョン×悪役令嬢転生×取り替えっ子
オンギャーオンギャーと赤ん坊の泣き声がする。
眠いのに……。
ただもう眠いのに、ギャーギャーとうるさくて眠れない。
「つーか、ショニュウ飲ませろって、他人の赤ん坊、押しつけるかよ。しかも自分で生んだ子はぜんぜん飲まないのに、金持ちのうちの子は意地汚く吸いついてくるってさ。ほら、おまえも飲めって」
低くかすれた女の人の声。
赤ん坊の泣き声はやんだけれど、口の中になにか柔らかいものが入れられる。
でも眠い。眠らせてほしくて顔をそむける。
「うーん、おいしくないのかなぁ。でも、飲まなきゃ死んじゃうよ。ほかに食べ物ないし。なんか、世の中ってほんと不公平。金持ちのうちの子は食べ物に困ることもないし、寝る場所もあるのに、おまえもあたしもこれからどうしよっか?」
静かに語りかけてくる声と、頬をくすぐる甘い肌。
とてもとても眠くて……でも、ちょっと待って! よく考えなくても、全部おかしい!
女の人が話しかけているのは、『赤ん坊』。
そして、もしかしなくても話しかけられているのは、『わたし』。
ということは、『赤ん坊』イコール『わたし』!?
「あ、そっか。取り替えちゃえばいいのか。まだ毛も生えてない赤ん坊なんてよく似てるし、こっちの子はあたしのおチチ好きそうだし。おまけにあいつがあたしの赤ん坊を自分の家族として可愛がるってサイコー。あーあ、男の子だったら、あいつにおしっこかけてやれって言えたのに」
おかしい、おかしすぎる!
たとえ自分が赤ん坊でなくても、その話の内容がやばすぎる。
赤ん坊取り替えるって、なにごと!?
あいつって、だれ!?
そもそも、ここはどこわたしはだれ!?
「ねえ、赤ちゃん、大きくなったらあいつのこと、思いっきり困らせてやってね。クサいオジサン嫌いって、わがまま放題、死ぬほど貢がせて、あんな奴、破産させちゃえ」
身体がふわりと横たえられる感触がする。
あまーくあたたかくて、ずっとそのまま浸かっていたくなるようなぬるま湯の心地よさ。
眠くて眠くてたまらない。
深く深く、暗闇に引きずり込まれるように遠のく意識の中で、どこかせつなく祈るような声が聞こえた。
「もう一生会うことはないけど、元気でね、あたしの赤ちゃん。あんたはあたしよりましな人生、送れるといいね」
……って、いやいや、赤ん坊取り替えるって犯罪だから、そこのお母さん!
それ以前に、なんでわたしが赤ん坊!?
わたし、働けど働けどって、じっと手を見る勤労女性だったはずなんですけど!
なにがどうなってるのって叫びたいけど、眠さに敗北。
かくしてわたしの転生第一日目は終わりを告げたのだった。
……ばぶぅ!
チェックしていただいてありがとうございます!
この物語の構成要素は【目標ほのぼの、一部シリアス、大体コメディ】となる予定です。
もし少しでも波長の合う読者様がいらっしゃったらとても嬉しく思います。