6.お前は…!
「何だお前ら辛気臭い顔して、腹減ったんならうちの店来るか?」
突然声をかけられ振り向くとそこにはいかにも平凡な感じの青年が立っていた。
「モブロスさん……!」
「いや誰だよモブロスって、俺はそこの酒場で働いてるジョンだよ」
「モブロスさん……じゃない?そんな顔して?」
「そんな顔ってお前……初対面の相手に失礼すぎねぇか?」
「こんな何の特徴も無い顔してるやつモブロスさん以外に存在する訳ないだろ!いい加減にしろ!」
「うわっ!何だこいつイカれてんのか?」
「やめなさいアレス!モブロスさんはもう……!」
「うぅ……」
モブロスさんとの思い出が甦え……らない!そういえばあんまり接点無かったような……。
「大事な人を亡くしたのか?悪かったな食事って気分じゃ無いだろうし俺は行くよ」
「いや。思い出したら昼飯食べて無かったし行くわ」
「お前サイコパスか何かか?」
「ワシらもまだだしお言葉に甘えるとするか」
呆れるジョンに連れられて酒場へと移動する。ってかジョンって名前からしてモブやん?
「おいジョン!忙しいってのにどこほっつき歩いてたんだ!」
「新規の客連れてきたんだよ店長!」
「そういう事は早く言え!お客さん!空いてる席に座ってくれや!」
大柄な髭オヤジに促され空いてるテーブルに座る。あのおっさん風格ありすぎじゃね?絶対人殺してるだろ。しかもダース単位で。
「ジョン!そのままオーダー取ってこい!」
「あいよ!というわけで何食べたいんだお客さん?」
「お前のおすすめで頼む。腹が減ってるから量は多めで」
「初対面なのにそんな頼み方あるか?信頼されるのは悪い気しねぇが何か気持ち悪いな……」
「何ていうか…お前とは初めて会った気がしないんだよ」
「モブロスとか言うやつどんだけ俺に似てるんだよ……」
そう言いジョンが店の奥へと歩いていく。
「ねぇパパ。村は大丈夫かな?」
「村のことはモブロスに頼んできたんだろう?なら大丈夫だろう」
「あんま話したこと無かったけどモブロスさんってどんな人なんだ?」
「アンタ知らないで悲しんでたの!?」
「いや、なんとなく雰囲気で……」
小さい村だからって全員と仲良い訳じゃないんだよ!
「モブロスのことならワシの方が詳しいだろう。」
そう言ってニコラスおじさんが語り出す。
「あいつはワシと一緒に補給部隊に配属されてな。基本的に何でもそつなくこなすタイプのやつだった。特段活躍する訳でも無いが失敗もしない。そんな男だったよ……」
「見た目通りの人だったんだね」
「あぁ、普段は……な」
「普段は?」
おじさんは表情を少し険しくしながら思い出すように言葉を続けた。
------------------------------
「おい田舎モン!さっさと物資を渡せ!騎士団長殿が戦っている間に物資を届けねばならんのだ!」
「はい!」
上司はそう言い物資を搬入する物資に詰め寄る。
「ええい!私も運ぶからお前らも急げ!」
戦場だから仕方無いものの怒鳴っても作業は早くならないのにと思いつつもニコラスは物資をせかせかと運ぶ。
「痛っ!」
「邪魔だ!モブみたいな顔して突っ立ってるな!」
どうやら上司がモブロスにぶつかったようだ。慣れない作業のせいだろう。
「大丈夫か?モブロス」
「はは、これくらい大丈夫だよニコラス」
「ホント上官なら指示だけ出してりゃ良いものを…。おい、鼻血出てるぞ?」
「へ?」
間抜けな声を出しながらモブロスが鼻の下を触り、手に付いた血を確認する。
「ったく、素人同然のおっさんが気張ったところで碌なことになんねぇな。おい、お前ホントに大丈夫か?顔色悪いぞ?」
ニコラスがモブロスの顔を覗き込む。モブロスは顔に特徴は無いが人並みに表情豊かな男だった。しかし自分の手に付いた血を一心に観察するその男の顔からは抜け落ちたように感情が失われていた。
「血……血……血……」
モブロスが壊れたようにそう呟いていると突然振り返り上司の元へと一直線に歩き出す。
「何だ貴様!何か文句ぎゃ!」
何か言いかけた上官は驚く程早いストレートを喰らい地面へと崩れ落ちる。モブロスは上官に馬乗りとなりそのまま殴り続ける。
「血……血……血……」
「おい!何やってんだモブロス!死んじまうぞ!」
ニコラスが羽交い締めにしようとするが尋常ならざる力で上司を殴り続ける。やがて気が済んだかモブロスは上官の腰に差さっていたの剣を奪い立ち上がると周りをキョロキョロと見回す。
「血……血……血……」
やがて獲物を見つけたのかモブロスは頭の動きを止めると、背筋が凍るような笑顔へと表情が一変し駆け出す。
「血ィィィイイイ!!!」
「おい、モブロス!モブロスゥゥ!!!」
------------------------------
「そうしてモブロスは目につく魔物や魔族を殺しては武器を奪い、武器を奪っては魔物を殺してを繰り返した……。その日ワシはモブロスだけは怒らせまいと固く誓ったよ。」
「こっわ……え?モブロスさんってそんなキャラなの?俺怖くなってきたんだけど」
「アンタ帰ったら殺されるかもね……」
「殺されるだろうな……」
「嘘だと言ってよバーニィ!」
「バーニィって誰だよ……。どうでも良いけど他の客に迷惑かけんなよ?」
そう言っていつの間にか近くに居たジョンが料理をテーブルに並べていく。
「そういえばアナタ、こんな状況なのにかなり落ち着いてるわね。怖くないの?」
「怖い訳あるか。ここには騎士団長様もいるしそんな酷いことにはならねぇだろう。それにもし騎士団長様が負けたとしても俺のユニークスキルで魔物なんて全部ぶっ飛ばしてやるよ!」
「ジョン!お前ぇのユニークスキルでどうやって魔物と戦うってんだよ!」
「うっせぇ!」
「ユニークスキル持ちなの!?」
「おうよ!最強のユニークスキルを持ってるぜ?過去にはこのスキルで千の魔物を潰し万の魔物を吹き飛ばしたものよ!」
「ホラ吹くのもそこらへんにしときな!お客さん、コイツのスキルは『完全記憶』って言ってな。オーダー取る時のメモ帳代わりにはなるが間違っても魔物なんて倒せやしねぇぜ!」
「ジョン……お前……」
「やめろ!そんな憐れむような目で見るなぁ!」
ユニークスキルは非常に珍しいものだ。ジョンのは戦闘向きではないようだが大抵強力なもので、有名どころだと騎士団長様は『超越者』というスキルを持っており、その名の通り全てのステータスが常人離れしており素手で大岩を砕いたという噂もあるぐらいだ。世界のどこかには時を操ったり死者を蘇らせるなんて言うマユツバ物の噂もある。
「おいジョン!お客さんだ!通してやってくれ!」
「あいよ!お客さん今席が空いて無くてな、相席でも構わねぇか?」
「はい、大丈夫です」
入り口の方に目をやると黒いローブに身を包んだ人物が立っていた。今日の気温的に暑くないんかね?
「すまんが相席してもらって良いか?」
「ああ、問題ないぜ」
「すまんな、恩に着るよ」
「何いってんだよジョン!俺とお前の仲じゃねぇか」
「だから初対面だろって……」
ジョンに通されローブの人物が席に着く、フードを取ると女性とも男性とも取れる中性的な顔をした顔が現れる。声から察するに若い男性のようだ。
「すみません気を使わせてしまって……」
「いいよいいよ。どうせなら人数多い方が楽しいしさ」
「ありがとうございます」
申し訳無さそうに席に着く少年。ローブから覗く服を見る限りだと結構良いところの坊っちゃんのようだ。
「失礼ですが、身なりから察するに貴族のご子息では無いでしょうか?」
少年に見惚れたのかサラが少し頬を赤らめながら質問する。
「いえ、全然そんなこと無いですよ!冒険者を目指して田舎からやってきただけで……。服はちょっと張り切り過ぎてしまって、変ですか?」
「いえいえ!とてもお似合いですよ!」
「少年気をつけろ、サラはイケメンに目がな痛っ!」
「余計なこと言うな!」
「愉快な方たちですね。皆さんはどうしてこちらへ?」
「ワシらは近くの村の者でな、昼にあった出来事を王城に報告しに来たんだよ」
「昼の……あぁ、アレですね。じゃあ騒ぎが収まれば帰る形ですか?」
「収まれば良いんだが、今日は街から出ることもできんだろうし泊まる場所を探そうと思ってたんだよ」
「あんたら今日泊まる場所ないのか?良けりゃウチに泊まっていったらどうだ?この店、宿屋もやってんだよ」
またしてもいつの間にか近くに来ていたジョンがそう提案する。モブ顔だと気配も薄くなんのか?
「それはありがたい、ぜひそうしよう」
「あ、それなら僕もここに泊まって良いですか?実は僕も泊まるとこ無くて……」
「そうしてぇのはヤマヤマだが、あいにく2人部屋が3つしか相手無くてな……」
「あ、そしたら俺がこの子と相部屋で良いぞ?」
「え?いいんですか?」
「あぁ……すまん名前なんて言ったっけ?」
「あ、自己紹介がまだでしたね。ルシールと言います。よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくなルシール」
そう言いルシールと俺は握手をする。ちくしょう!名前までイケメンじゃねぇか。
そうして食事を済ませた後は街で軽く買い物を済ませ。軽く晩飯を食べてから今日は早めに就寝することにした。ルシールは先に部屋へ戻ってきたのか既に寝ているようだった。顔だけ見るとほぼ女の子だしドキドキしちゃうね!