36.ゴンザレスの過去5
日付超える前に出そうと思ってたのですが、遅れてしまいました……。
三連休なので最低でも3話は更新する予定です!お時間のある方はお付き合いいただければと!
豪奢な馬車に揺られ着いた先は大きな魔導書店だった。
「ゾーイ嬢は魔導書に興味がおありで?」
ゾーイ嬢が魔導書に興味があるという話は聞いたことが無い。それもそのはず、魔導書とは本来魔法の使えない者や加護や修練などで魔術の構築が済んでいない初級者が主に必要とする物であり、ゾーイ嬢は加護により【氷魔法】の構築が済んでいた。天賦の才もあってか齢17にして国内最高の魔術師と声が上がる程だ。
「いえ、少し人を探しに……連れてきてくださる?」
使用人に目的の人物を連れてくるよう指示をすると、返事もせず2人の大柄な男がスタスタと書店へと歩いていく。ゾーイ嬢が常に連れ歩くその二人は常に仮面をつけており、独特な雰囲気を放っており、正直な所不気味だ。その不気味さから「アンデットを使役している」や「実験で生まれたゴーレムだ」などという噂もあるがどれも根拠はなさそうだ。
などと思案していると店を訪れた客の波が左右に割れていく。
「助けてぇ!人さらいよぉ!遠くの国に売られちゃうぅう!」
使用人二人に抱えられ生きの良い魚のようにジタバタと暴れながら一人の男が現れる。
「セルド?」
「なんだゴンザレス。遂に人攫いに転職か?」
「口が過ぎますわよ。セルド」
そう笑顔で言いながらゾーイ嬢はセルドの顔を鷲掴みにしてギリギリと締め上げる。
「わたくしとゴンザレス様のでえとをサポートなさいな」
「イダダダダ!デートのサポートってなんだよ!?」
「着いてくれば分かりますわ」
「ちょ!離せ!大体何で俺が付きわにゃならんのよ!」
やっとの思いでゾーイの手を振りほどき一息ついてから不満を口にするセルド。ゾーイはへたり込むセルドの耳元まで屈むと耳元で何かを囁く。
「地獄までお供しますお嬢様」
「分かって貰えて嬉しいわ。でも、わたくしとゴンザレス様は天国に行くから地獄へは貴方だけで行ってらっしゃい」
影のある笑みを浮かべ高笑いをする二人。そんな光景を前にゴンザレスは頭痛が強まるのを感じるのだった。
--------------- 数 時 間 後 ---------------
仲間を一人増やし、またしても豪奢な馬車に揺られ着いたのは見慣れた景色だった。
「ここは……!」
「そう!ゴンザーラ領のダンジョンですわ!」
ゴンザーラ領にはダンジョンが存在し、スタンピードへの備えと同時に兵士や冒険者たちの鍛錬の場となっていた。9層までは至って普通のモンスターが出現するが、10層にはアイアンゴーレムと言う3メートル近くもある鉄でできたゴーレムがボスとして出現する。通常のアイアンゴーレムであれば炎系の魔法を習得した魔術師かある程度腕に覚えのある冒険者であれば容易とまでは行かずとも突破は可能であった。しかしこのダンジョンのアイアンゴーレムは素材が「魔鉄」と言われる魔力を纏った鉄であり、物理と魔法に対して高い耐性を持っていた。そのため、10層を突破できるのは一部の猛者だけであり、非才な者は9層までが半ば常識と化していた。
「一体なぜダンジョンへ?」
「婚約者が強くなるのを望んでるんですもの。それをお手伝いするのが妻と言うものですわ!」
「普通婚約者の為にダンジョン行くのは令嬢側では無いと思うぞ?」
セルドはその口が災いし、またもゾーイ嬢に顔を鷲掴みにされる。
「でも、よろしいんですか?デート先がダンジョンだなんて……」
「わたくしが良いと言っているんです!それともダンジョンはお嫌いでしたか?」
上目遣いのうるうるとした目でそんな事を言われれば断る訳にはいかない。ゴンザレスはため息をついて口を開く。
「分かりました、行きましょう。でも危険だと判断したらすぐに撤退しますよ?」
「はい!」
そうしてダンジョンへと進む3人だったが、ゴンザレスがあることに気づく。
「そういえばそいつもダンジョンに潜る為に連れてきたんですよね?」
「そうですわね」
「であればそろそろ手を離されては?かなり危なそうな痙攣を始めてますよ?」
そう言い指を指す先には素人目に見てもやばそうなレベルで痙攣しているセルドだった。
「あら、わたくしったら!」
ゾーイが手を離すと強かに地面へ頭を打ち付けるセルド。心なしか痙攣が強まった気がする。
「ほら、シャンとしなさいな」
そう言いゾーイはどこからか取り出した明らかに高価そうな水薬をセルドへと垂らす。するとセルドの痙攣は収まり、ゴホゴホと咽ながら起き上がる。
「ぜぇ…ぜぇ…、マジでヤバかった……、死んだばぁちゃんが手振ってた……」
そんなこんなで無事蘇生したセルドを加え、3人はダンジョンへと歩を進めた。
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ダンジョン内はいつもの景色とは違い、ところどころに霜が降りており、歩く先には氷漬けのゴブリンやワーウルフにオークなど、まるで氷河期のような光景だった。
「おい、ダンジョンはいつからモンスターの冷凍庫になったんだ?」
セルドががたがたと震えながらそうぼやく。
「いや、すごいとは聞いていたがまさかここまでとはな……」
前を進むゾーイは鼻歌混じりに上機嫌でさも何も無いかのように歩いていた。その両脇と頭上には魔法陣が展開されており、近寄る魔物を自動的に冷凍保存していく。
「こりゃあ将来の旦那が大変だぜ。もう9層だってのに魔力の尽きる気配すらねぇ。」
ゾーイの魔法は年齢にしてはかなり強力ではあるものの、冒険者で言えばB等級程度のものであった。そんな彼女を国内最高と言わしめるのはその無尽蔵の魔力である。噂によれば4日間魔法を使い続けても平気だとか。
「それにしても俺等必要か?あの雪女だけで突破できるだろ……」
「さぁ、着きましたわ!」
ゾーイのその声に前を向くと巨大な門がそびえ立っていた。門の表面には大小様々な歯車やピストンなどが複雑な模様を成している。
「準備はよろしくて?」
「はい!」
「おうよ!」
二人が返事をするとゾーイが扉へ手をかざす。しばらくの沈黙の後、扉の部品たちが蒸気を噴出させながら動き出し、扉が徐々に開く。そして部屋へと足を踏み入れると入る時と同様の挙動で扉が閉まる。
部屋の中はこわれた剣や農具、何の働きをするか分からない魔導具など、様々な物が壊れた状態で打ち捨てられていた。その中央の一際大きな山が動き出す。
「先手必勝ですわ!」
ゾーイがそう叫び、ゴレームを取り囲むように幾つもの魔法陣を展開する。魔法が放たれる刹那、顔の中央にある赤い光をキョロキョロと動かし、人の丈の倍はあろうその腕で防御を固める。
ズンという重い音と共に凍える程の冷気が遅れてやってくる。致命傷とはならなかったのかゴーレムはギシギシと軋ませながらもがき、体にまとわりついた氷を砕いている。
「セルド!」
「あいよぉ!」
息の合った動きでセルドとゾーイの立ち位置が入れ替わる。そして手に持っていた小袋をゴーレムに投げつける。ゴーレムが腕を振り払い、投擲物を撃ち落とそうとするが、袋が破けてキラキラとした粉が舞い散る。そこへすかさず追加で瓶を投げつけると中から液体が飛び散り爆発音と共に火花が飛び散る。急激に熱せられた氷が蒸発し、水蒸気を立てる。
「今だゴンザレス!思いっきりぶん殴れ!」
「今ですわ!ゴンザレス様!」
打ち合わせなどなかったものの親友と婚約者に焚き付けられ走り出すゴンザレス。ゴーレムはゴンザレスを迎え撃つため、腕を振り上げる。しかし極度な温度差で強度が著しく落ちた体にヒビが走る。
「おおおおおぉぉぉ!!」
ゴーレムの振り下ろした腕に、雄叫びと共に拳が叩きつけられる。拳から血が吹き出すもゴーレムの腕は崩れ落ち。残る腕で顔面に正拳突きを放つ。拳は隠れていた核を砕き、勢いそのままに頭を貫通する。ゴーレムはガタガタと震え、沈黙した。直後ゴンザレスの体に温かい何かが流れ込み、右手に熱を感じる。
「……!!」
「おい!それって【探求神】の加護じゃないか…!?」
驚くセルドの声も耳に届かず、ゴンザレスは己の手に刻まれた紋章を見つめ肩を震わせる。ゾーイはそんなゴンザレスの肩を抱きかかえ、ぽんぽんとあやすように軽く叩く。
「ありがとうセルド……。ゾーイ……。僕が加護を授かれるなんて……。」
ゴンザレスのその言葉に照れくさそうにセルドが拳を突き出す。小さく笑い、ゴンザレスも腕を突き出すが拳の先は空を切った。
「がはっ……!」
血を吐き出す音と共に不自然な体勢でセルドが吹き飛ぶ。セルドの立っていた後ろには小柄な銀色の塊が佇んでいた。塊は人型をしており、手足は刃物のように鋭く。バレリーナのような出で立ちだ。
「……は?」
状況が飲み込めずそう口にするゴンザレス。
「……ス。…ロス。」
その銀の塊は口など無いのにもかかわらず言葉のような音を発していた。
「コロスコロスコロスコロスコロスコロスゥ!!」
銀色の塊が絶叫と共に飛び出す。呆けていて判断の遅れたゴンザレスだったが、その間を氷壁が隔てる。
「ゴンザレス様!逃げて!」
ゾーイの声で現実に戻るゴンザレス。敵の位置を把握しようとするも氷壁が分厚い為確認ができない。先程吹き飛んだセルドを思い出し駆け寄ろうとするがゾーイの隣の氷壁にヒビが入り、銀色の塊がゾーイに突っ込む形で体当たりをする。
セルド同様に吹き飛ぶゾーイに銀色の塊は追撃をかけようとするが強い衝撃を受け後ずさる。敵意すら感じる顔の赤い点の先には拳を構えるゴンザレスがゾーイを守るように立ちはだかっていた。
両者が機を伺い沈黙が流れる。その沈黙を破ったのは銀色の塊だった。
「ジンドウ ヲ リカイデキヌ ケモノ ハ コロス」
機械的な声に並々ならぬ敵意を感じゴンザレスは唾を飲む。
「オイテケ オマエ ハ カンケイ ナイ」
自分と相手の力量差からか、先程から滲み出ている敵意からか言葉を出すことはできなかったが、構え直すことで意思を伝える。
「ナラ シネ」
先程の言葉より温度を失ったその声と共に弾けるように敵が距離を詰める。ゴンザレスは辛うじて初撃を回避し、反撃を繰り出そうとする。しかし、脇腹に鈍い痛みを感じると同時に体が宙に浮く。その刹那、銀色の塊は回転で勢いを付けゴンザレスの鳩尾を蹴りぬく。
二度、三度と地面に叩きつけられながら転がるゴンザレス。その様子を見届けた後、銀色の塊はゾーイへと歩いて近寄る。
「やめろ!」
立ち上がることもできずゴンザレスは倒れたまま声を上げる。その声を無視するかのように一歩また一歩とゾーイへと近寄る銀色の塊。
「やめろ……!やめてくれ……!」
銀色の腕を振り上げゾーイに狙いを定める。
「やめてくれぇ!!」
絶叫するゴンザレス。しかしその叫びは届かず銀色の腕は振り下ろされる。
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