3.冒険の始まり(中編)
おじさんの家を出たところでサラと鉢合わせになったので、経緯を手短に説明する。
「サラ、村のみんなを集めてくれないか?」
「わかった、ちょっと下がってて。」
サラから距離を取ると詠唱を始める。
「其は彼の者を照らす光であり神に近づきし者を戒める警告である。飛び弾ぜよ『飛炎』!!」
詠唱を終えると指先から拳程の大きさの光が空に舞い上がり、そして小さく破裂する。この世界は神の加護を受けたものが魔法やスキルを使える。神に多大な加護を与えられた者や魔力が桁違いに大きな者に詠唱は必要ないらしいのだが、魔力効率を良くするために詠唱を行うのが一般的だ。行使する者がイメージを纏める為に行うので、魔術師によって詠唱文は違うと聞いたことがある。
「広場に急ごうサラ」
そして広場に向かい村の皆が集まっているのを確認し、大きな声で皆に避難するための準備をするように伝える。
「村は大丈夫なのかしら」「怖いよお父さん」「大丈夫だよ、国がなんとかしてくれるさ」「『魔物』は・・・『魔王』は滅びたんじゃないのか!?」「村にはもう帰って来れないのか……?」
村の皆が驚くのも無理はない。先の戦争で『魔族』は『魔王』と共に滅びたはずであり、存在しないと思われていた。そして村人の恐怖や不安は伝播していき、騒ぎは大きくなっていく。
「皆聞いて、まだ魔物が来ると決まった訳じゃないわ!それに王都には前の魔王を討ち取った英雄ボレミア様がいる!もし本当でも皆で力を合わせればなんとかなるはずよ!」
サラがそう叫ぶと皆が真剣な眼差しでサラを見る。
「まずは万が一に備えて荷造りよ!もし本当に魔物が攻めて来るなら王都に避難しないといけないから、食べれるものや生活に必要な物を集めていつでも出れるように準備をしておいて!」
そう指示をすると村人は足早に散り家に帰っていく。やはりサラには敵わない。この短時間で村人の不安を取り除くなんて俺にはできない。しかし、ふとサラを見ると肩が震えている。村長の娘として気丈に振る舞ってはいるが、やはり年相応な女の子なのだ。サラの肩を抱き寄せ決意を固める。俺がサラを守るんだ!
「すごーい!お兄ちゃんの手光ってる!」
「ん?」
鼻水を垂らしたガキがなんとも不思議なことを言っている。決意を固めはしたが拳を光らせた覚えはないので握った手を見てみる。左手の甲には見たことのない紋様が主張激しく白い光を放っていた。
「え・・・マジで?」