33.ゴンザレスの過去2
お待たせしてすみません!転職のわちゃわちゃで更新遅れました。
仕事の方が安定するまでは更新頻度が落ちますが、気長に待ってもらえると助かります。
「はぁ……また失敗か……」
夕日の差し込む教室でゴンザレスは途方に暮れる。
「魔力量は問題無いはずだけど……魔法に対するイメージが不足しているのか……?」
ブツブツと独り言を呟くゴンザレス。その周りには様々な魔法書が散乱し、色とりどりの魔法薬が乱雑に配置されている。
「おい、ゴンザレス。今日も飽きずに魔法の研究か?」
突然の声に思考を乱されゴンザレスは大きくため息をつく。
「そういうお前こそ今日も飽きずに僕の邪魔か?」
「へへっ、そう言うなって。落ちこぼれ仲間じゃねぇかよ?」
「お前と一緒にするなよなセルド」
不機嫌そうなゴンザレスの返事を無視しながらセルドが教室へ入り込み散らばった魔法書を手に取る。
「傍から見れば大魔道士様って感じだな。これで初級魔法すら使えないなんて驚きだな」
ゴンザレスは領内の魔法学園と入学していた。この国の貴族は一定の年齢を超えると特殊な例を除いて魔法を学ぶため、魔法学園へと入学する。例に漏れずゴンザレスも学園へと入学する事となった。しかし、入学してから1年が経過しようとしているのにも関わらず、初歩である初級魔法ですら習得できずにいる。そのため、進学はできず、同学年の同期は同じ落ちこぼれであるセルドのみであった。
「茶化しに来たなら帰ってくれ。僕は忙しいんだ」
「魔法の使えないお前さんにプレゼントを持ってきたのになぁ?」
そう言って手に持った魔導書を投げ捨て、上着から怪しげな色をした魔法薬を取り出す。
「じゃじゃーん!最大魔力量を増やすと噂の魔法薬だ!」
胸を張り、魔法薬を掲げるセルド。それを見てゴンザレスはわざとらしく溜息をついて口を開く。
「お前さ、先週もそう言って魔法薬持ってきたよな?」
「あれは悲しい事故だった……」
「事故じゃなくて事件だろ!無理矢理飲ませやがって!あのあと3日も寝込んだんだぞ!」
セルドが怪しげな魔法薬を持ってくるのはこれが初めてではなかった。どこから入手してくるのかセルドは幾度と無く似たような魔法薬を持って来てはゴンザレスに飲ませるのが半ば恒例となりつつあった。しかし毎度謳い文句のような効果は現れず、大抵はゴンザレスが体調を崩す結果に終わっていた。
「今度こそ本物だぜ!かの有名な魔女ベアトリーチェ様……の親戚の娘の旦那の同級生の母親が作ったらしいぜ?」
「それほぼ他人だろ……」
セルドに呆れながら散らばった魔法書を拾い集め机に向かう。
「そう言わずにさ、一口だけ!な?」
「そんなに言うならお前が半分飲んでみろよ」
「馬鹿野郎!こんなヤバい色の液体飲めるか!お前みたいなゴリラと一緒にするんじゃねぇ!」
「ほぅ?いい度胸だな?」
そう言い流れる様な動きでセルドを拘束しコブラツイストを掛けるゴンザレス。
「イタタタ!ギブ!ギブゥ!ちぎれる!なんかちぎれちゃう!」
そう叫びながらゴンザレスの腕を叩いて降参の意を伝えるセルド。
「おい!何遊んでんだよ落ちこぼれ共!」
突然の怒鳴り声が聞こえ、扉の報を見るとニヤニヤと意地の悪そうな笑みを浮かべる三人組が居た。
「初級魔法も使えないヤツに遊んでる暇あんのかぁ?」
ズカズカと中へ入り込み部屋を荒らしながら嫌味を言う三人組。
「サイモン……」
「先輩をつけろよ落ちこぼれ」
「で?その先輩は何の御用で?」
ゴンザレスとサイモンの間にセルドが割り込み、からかう様な口調で尋ねる。
「あのゴンザーラ家の次期当主様がお困りだと聞いたもんでな。俺等が手ほどきしてやろうと思ってな?」
「あー、ゴンザレスは今体調が優れなくてな。ご指導はまたの機会に……」
「遠慮すんなよ?元同級生の仲じゃねぇか!」
そう言い切るか言い切らないかのタイミングでサイモンは手のひらから人の頭大の火球を投げつける。セルドは間一髪で身を捩らせて火球を避ける。火球はそのままゴンザレス目掛けて飛んでいく、が突然破裂音が響き火球が消え去る。
「他者に向けての攻撃魔法は緊急時以外禁止されているはずだぞ?」
火球を打ち消した影響か右手の拳から煙を立ち上らせながらゴンザレスがそう告げる。
「おいおい、勘違いするなよ。可愛い後輩に魔法の使い方を教えてやってるだけだろ?」
「何をしてる!」
二人がにらみ合っていると勢い良く扉が開かれ、眼鏡を掛けた男性が現れる。
「いやね先生。ゴンザレス君の成績が芳しくないようなんで同じ貴族のボクが面倒を見てやろうと思いましてね?」
「またお前たちか……。いいからさっさと家に帰りなさい。ゴンザレス君とセルド君も片付けが終わり次第帰るように!」
「へ~い」
サイモンは生返事をしつつも教師の指示に従い教室の外へと向かう。が、すれ違い様にゴンザレスにだけ聞こえる様に囁く。
「お前の姉貴も弱いから殺されたんだろ?」
その瞬間ゴンザレスの理性が弾け飛びサイモンの横っ面を思い切り殴りつける。殴られるのは想定済みだったのか半透明の板が拳の前に出現する。しかし威力は想定外であり、魔法で作られた防壁は砕け拳が顔を叩きつける。
「おい!やめろゴンザレス!」
初撃で壁際まで吹き飛んだサイモンを追いかけ、馬乗りになり二度三度と拳を叩きつける。
「ゴンザレス君!」
一際大きなその声で我に帰り手が止まる。振り返ると先程の教師が杖をゴンザレスに向けている。既に攻撃準備ができているのか杖の先に光が集まっており、魔力の高まりを感じる。
「サイモン君から離れなさい」
ゴンザレスは両手を小さく挙げながらサイモンから離れる。サイモンは完全に意識を失っているのか取り巻きの二人が肩を組み、引き摺る様に教室から運び出す。
「君の処分は追って連絡する。今すぐ私物を片付けて家に帰るように」
冷たい声でそう言い放つと杖を上着に戻し、教師も教室を出ていく。
「あーあ、流石に暴力はマズいって……」
「反省はしている、後悔はしていない」
わざとらしく肩を落として溜息をつくセルド。そんなセルドを横目にゴンザレスは片付けを終わらせて帰路へと向かう。
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「貴族たるもの、常に冷静であれ」
「…………」
「貴族たるもの、無闇に力を振るうな」
「…………」
「そう教えたはずだが?」
幼い頃から変わり映えしない書斎で肩を小さくさせて父の言葉に耳を傾ける。
「返事」
「はい、父上……」
「そろそろ次期当主としての自覚を持ちなさい。そんな事ではゾーイ嬢にもいらぬ迷惑を掛けることになるぞ」
「はい、父上……」
「もういい、部屋に戻れ。学園は10日間の謹慎だそうだ」
「はい、父上……」
トボトボと部屋を後にするゴンザレス。扉が閉まった後、ゴレアスは大きな溜息をつき愛飲している頭痛薬と胃薬をボリボリと噛み砕き飲み込む。
「はぁ、あんなので私の跡を継げるのだろうか……」
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言いつけ通りに部屋に戻り、魔法書を読み漁るゴンザレス。手元にある本を読み尽くし、他の本を取ろうと顔を上げるとふと目の端に何かが映る。
「あの光は……?」
目を凝らして窓の外を見ると屋敷の裏側にある小さな森の奥で光がゆらゆらと漂っている。
「もしかして盗賊か?」
基本的に貴族の屋敷は警備が厳重であり、通常であれば盗人が入る事は無いが一般家庭の比では無い収入を目当てに、定期的に盗賊の類いが現れる。
「はぁ、運動がてら様子を見に行くか……」
そう独り言を呟き、窓を開けて飛び出す。ゴンザレスの部屋は4階に位置しており、常人であれば足の骨が折れるだろう高さである。しかし、天性のものか、はたまた鍛錬の成果か、ゴンザレスは事も無げに石畳へと着地し、そのまま森へと歩いていく。
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「ここら辺だと思ったが……」
部屋から見えた辺りまで辿り着くも特に異変は見当たらない。
「見間違いか?」
そう言いながら首をかしげて部屋へ戻ろうと振り返る。
「―――闇よ……!」
何者かの声が聞こえ、拳を前に突き出す形で振り返るゴンザレス。
「闇魔法か……!」
先程まで月明かりで見えていた景色が闇に包まれ、完全な黒へと変化する。視覚は頼れないと悟り目を閉じて耳に全神経を集中させる。
「レティアの弟、ゴンザレスだな?」
「!」
突然姉の名前を出され身を固くするゴンザレス。声から察するに若い男性の様だ。
「特に危害を加えるつもりは無いから安心しろ」
「お前は誰だ?姉上を知っているのか?」
どういう原理か、声は四方から響いており位置を特定できない。何処にいるか分からない相手にゴンザレスは問いかける。
「知っているさ。彼女とは志を共にした同志だったからな」
懐かしむような、悲しむような、そうな声で男は続ける。
「姉が何故殺されたのか、誰に殺されたのか、知りたくは無いか?」
「知っているのか!?」
「あぁ、知っているとも。それで、知りたいか?」
「当然だ!知っているなら教えてくれ!」
尚も姿を現さない男に苛立ちを覚えながらも必死に懇願する。
「知りたいならば強くなれ、今の状態で知ればお前も殺されるだけだろう」
「どういう事だ!?」
「いずれ分かるだろうさ。とにかくお前は強くなれ、十分だと俺が判断したらもう一度接触する」
その言葉を最後に沈黙が訪れ、視界が月明かりを認識する。
「強くなれ……か」
傍から見れば怪しい事この上無いが、ゴンザレスは謎の声から悪意や敵意などを感じられなかった。
「まぁ、やること自体は変わらないか」
そう呟き、ゴンザレスは屋敷へと歩き出す。




