31.仲間の安否
「す、すごく美味しいです!」
「そうね、それに初めて見る食べ物ばかりね」
数十人で囲めそうな程巨大な長机の端にちょこんと座り目を輝かせるサラとルシール。
「ハッハッハァ!気に入っていただけて何よりだ!沢山あるから遠慮せずに食べるのだぞ!」
「お気持ちは嬉しいんですが……」
「ぶっちゃけて言うと、この量、二人だとかなり余ると思うわよ?」
遠慮がちにそう口にして眼の前の料理を眺める。それもそのはず、巨大過ぎる机に所狭しと並んだ料理は明らかに二人にとっては多すぎる。ゴンザレスが二人の十倍食べる大食漢だとしても目の前の料理の半分も減らないだろう。
「気にするな二人とも!余った物はダンジョンで消費すれば良いのだ!」
そう言って手に持ったカバンに料理を詰めていくゴンザレス。
「もしかしてそれ!マジックバッグですか!?」
「いかにも!ダンジョンでの戦利品である!」
「ここのダンジョンだとそんな物まで出るのね?夢が広がるわ……」
マジックバッグとは魔法的な要素で内部の空間を拡張されている鞄であり、非常に希少な物である。内部容量に当たりハズレがあり、少し大きめの鞄程度の物から一軒家が丸々入る程の物まで幅が広い。容量の少ない物であればある程度高名な冒険者や貴族であればそこまで入手が難しい物では無いが、容量が大きい物であれば「売るだけで城が建つ」と言われる程に高値で取引されている。
「でもマジックバッグだとしても料理なんて入れたら腐るんじゃない?」
「ハッハッハァ!これには特殊能力があってな【時間停止】付きなのだよ!」
「「特殊能力!?」」
先述した通り、マジックバッグとはそのものが非常に希少なアイテムであり、価値が高い。しかし、その中でも「特殊能力」が付いている物は取り分け希少性が高く、数の少なさから金品での取引は行われておらず、内容によっては国宝に指定される代物である。
「それって個人で所有して良いものなの!?しかも【時間停止】付きだなんてとびきりの当たりじゃない!」
「普通なら王に献上し、国に役立てるべきであろう。だが、容量も少なく入れられるのは料理のみなので我の所持が許可されているのだよ」
「そ、それでも活用すれば結構な国益になるんじゃないですか?」
この時代の物流は現代社会に比べ非常に劣っている。科学の代わりに魔法が発達しており、温度調整などが容易ではあるが、それでも魔術師が交代で魔法を掛けて運ぶことが主流であり、それでも状態は良くない。そのため、もしこの鞄を商業利用すれば、その利益は計り知れないだろう。
「それでも王は我に授けたのだよ!これこそゴンザーラ家の信用の証とも言える!」
そう言い胸を張るゴンザレスを呆れながら見つめるルシールとサラ。
「あれが手に入ればワタシ達の旅も随分楽になるわね……。それってダンジョンで手に入るのよね?」
目を輝かせてそう質問するサラ。ゴンザレスはその問を聞き、少し真剣な面持ちをしつつ、サラの頭を撫でながら優しく答える。
「あぁ、手に入る。しかし生き急いではいかん。我でもこれの出てきた階層では生死を彷徨う目に遭ったからな。今はゆっくり成長するのが最優先だ」
「そうですね。まず僕たちは生き残る為にも力を付けないとですね……」
「そうだ!そのためにもまずは目の前の料理を全力で食べるのだ!」
「「はい!」」
ゴンザレスに諭され、二人は勢い良く料理を平らげていく。時折聞こえる料理への賛辞を笑顔で聞きながらゴンザレスは料理を鞄へと詰めていく。
お腹が一杯になった当たりでサラがふとあることに気がつく。
「そういえばここってお手伝いさん居ないのね?」
屋敷自体はかなり大きく、装飾も豪華であり、貴族の家としても申し分ない程だ。しかし、この家に入ってからと言うもの使用人は愚か、自分たち以外の人間の気配を感じない。貴族がどの様な生活を送っているかは分からないし、その貴族の中でもゴンザレスはかなり異色なのだろう。しかし、ここまで広い屋敷で人っ子ひとり見かけないのは不自然そのもであった。
「あぁ、色々とあったのでな……」
料理を詰める手を一瞬止め、少し暗い表情をするゴンザレス。
「って事はこの料理は全てゴンザレスさんが?」
「その通りだ少年!貴族たる者は料理も完璧でなくてはな!」
筋肉を強調するポーズを取り、いつも通りの笑顔でそう答えるゴンザレス。先程の表情が少し引っかかるものの、詮索するのは失礼だと判断し、サラは疑問を口にはしなかった。
「そういえば二人とも、仲間の行方を探すのに良案があるのだが、神殿に依頼するのはどうだろうか?」
「「神殿に?」」
頭の上に疑問符を浮かべながら首を傾げる二人にゴンザレスは続ける。
「うむ、勇者というのは神によって定められるのであろう?であれば神殿が監視などを行ってる可能性もある故、いっその事神殿に聞いてしまおうと言うことだ」
「一理あるわね。それで行きましょう」
「僕も賛成です。案内はゴンザレスさんに頼んでも大丈夫ですか?」
「承知した!片付けが終わり次第向かうとしよう!」
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ゴンザレスが片付けを終えた後、三人で神殿へと向かう道中。ふと町の様子がおかしい事に気がつく。
「何か変な雰囲気ね……?」
「そうですね、何ていうか……その……」
うまく言語化できずルシールが口ごもる。
「歓迎されていない……か?」
「そうね、そんな雰囲気だわ」
周りを見ると至る所でこちらを見ながらこそこそと呟くように話をする人々がちらほらと居る。その表情から察するにあまり喜ばしい話題では無い様だ。
「済まないがそれは我の所為だろう……」
暗い表情をするゴンザレス。その時、急にゴンザレスの額に小石がぶつかる。ゴンザレスの身体能力の為か、小石は肌を傷つける事もなく地面へと落ちる。
「やべっ!逃げろ!」
「コラ!待ちなさいアンタたち!」
石の飛んできた方向には、少年達がおり、こちらの視線に気付いて逃げようと走り出す。それを見たサラが憤慨しつつ追いかけようとするも肩を掴まれ急停止する。予想外の展開に自分を掴む者の方へ首を回すと、食事の時の様に暗い表情をするゴンザレスが居た。
「いいのだよ」
「何言ってんのよ!ちゃんと叱らないと禄な大人にならないわよあのガキンチョども――――」
「それでも……!」
突然大きな声を出され身体が硬直する。肩を掴むゴンザレスの手には先程よりも力が込められており、少し痛い程だ。
「それでもいいのだよ……」
「分かった。もう追わないわ。後で話は聞かせてもらうからね……」
「あぁ、用事を済ませたら説明する……」
なにかしら理由があることを察し、サラはゴンザレスの願いを了承する。一向は少し暗い雰囲気を纏いつつ神殿へと向かう。
神殿に着くと椅子に座っていた人々が一斉に振り返り、三人の姿を見るなり席を立ち神殿の外へと出ていく。人には寄るがすれ違い様に何か呟いていたり、ゴンザレスに肩をぶつけたりと、急用を思い出した訳ではなさそうだ。
「何よ!感じ悪いわね!」
「おや?珍しいですね。ゴンザーラ卿」
冷めやらぬ怒りを扉に投げつけていると後ろから柔和そうな男が話し掛けてくる。
服装からするに神殿関係者の様だ。
「すみません神官長殿。実は――」
旧知の仲なのか、ゴンザレスが神官長にサラとルシールの経緯を話、助力を願う。
「それは災難でしたね……。分かりました。確認するので少々お待ち下さ――」
「神官長、これを……」
確認の為、その場を離れようとする神官長であったが、いつの間にか後ろに控えていた女性に声を掛けられ、動きを止め、女性の持っている便箋を受け取り、中身を確認する。服装から判断するに女性も神殿関係者のようだ。しかし、その顔には目のマークが記された布を貼り付けており、率直に言うとかなり不審だ。
「ふむ……」
女性の事が気になりつつも神官長の確認を待っていると、少し考える仕草をして口を開く。
「どうやら向こうも同じ考えだった様ですな。アレス殿とミダス殿はサンザーラ王国にいらっしゃる様ですな」
「二人は無事なんですか?それとジョンさんに関しては何も書いて無いですか?」
「手紙によれば二人共に王国関係者に保護されており、無事な様ですね。しかしジョンという方に関しては書いておりませんな」
「まぁ、流石に転移したその日に手紙を送れるもんじゃないしね。何だかんだ運の良いジョンの事だから多分元気にやってるわよ」
「そうだと良いですけど……」
二人の安否は確認できたものの、ジョンに関しては記載が無いようだ。するとまたもや先程の女性が神官長に耳打ちをする。神官長は時折頷きながらその話を聞き、一通り聞き終えてから口を開く。
「ジョン殿は別の国で神殿側で保護しているそうです。手紙は預かっていないようですが、落ち着き次第送ってくるでしょう」
「ホラ言ったじゃない!アイツらの事は心配するだけ無駄ってものよ」
「そうですね。あの三人の事ですしね」
全員無事だという報を聞きルシールが胸を撫で下ろす。
「それはそうと、ソレは宗教的に意味のある物なのかしら」
遂に我慢ができなくなりサラが女性の面について口にする。
「いえ、私個人の趣味です」
「趣味……」
「はい、趣味です」
少し怪しいと思いつつも趣味と言われればそれまでだ。サラもそれを悟ったのか、それ異常追求する事もなく、神官長に他の仲間への手紙を渡して神殿を後にする。
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「で、どういう事なのかしら?」
屋敷に着き、先程食事をした部屋に入るなり、不満を表す様にキツい口調でサラがゴンザレスに詰め寄る。
「あぁ、聞いていてあまり気分の良い話では無いが、隠すのも不義理と言うものだ。座ってくれ」
そう言われサラとルシールは少し大きすぎる椅子に座り、ゴンザレスの言葉を待つ。
「では、話すとしよう。どうしてこうなったのか。我の過ちについて――」
一際大きな椅子に腰掛け、ゴンザレスは思い出すように、後悔するように過去についての話をポツリポツリと語りだす。




