2.冒険の始まり(前編)
「やあ、人間の諸君 誠に勝手ながら君たちには死んでもらう」
山の上に映し出された男は優しくも芯の通った声で告げる。その額には角が2本生えており、肌は以上なまでに白く、死人を連想させる。先の戦争で殲滅されたはずの『魔族』だ。
「突然ですまないが、まずは西の大陸で一番の大国である『イーリス』を攻めることにした。魔物を10万ほど向かわせるがそこまで強い個体は存在しないので頑張ってくれたまえ。健闘を祈るよ」
その言葉を最後に映し出された男が消え、空の雲が散っていく。
「ねぇ、今のって……」
「あぁ、魔族だ」
「冗談……よね……?」
「俺には本気で言ってるように聞こえたけどな……」
そう答えるとサラは不安そうな顔をする。
「俺はおじさんの家に向かうから、サラは薪を家に置いてから来てくれ。」
「わかったわ」
サラに薪を渡しておじさんの家に急ぐ。慣れた道を走り息を切らせながらおじさんの家に着くと剣を腰に大柄な初老の男が立っていた。
「ニコラスおじさん、さっきのって……。」
「おぉ、アレス。お前も見たか……。」
「あれって魔族だよな……?もう居ないんじゃなかったっけ?」
「先の戦争でワシも見たが、さっきのは間違い無く魔族だ。生き残りが居たんだろう」
「ニコラス!王の元へ向かうぞ!」
「分かりました村長。馬を連れてくるのでここで待っていて下さい」
慌てて走ってきた村長が怒鳴るようにおじさんに告げ、おじさんは厩舎のある方向へ走っていく。
「村長、俺も行きます!」
「駄目だアレス、お前は馬に乗れないだろう。それにお前には娘を頼みたいんだ……!」
「いや、でも……」
「わがままを言うなアレス、俺と村長だけで行ってくる。その間に村のみんなを集めて避難する準備を進めといてくれ。」
いつの間にか馬を連れてきていたおじさんが言う。
「でも、なんか嫌な予感がするんだよ。もう二人が帰ってこないような、そんな気が……。」
「王都まではそんなに離れとらんし何がそんなに心配なんだ?」
おじさんの言う通り村から王都へは舗装された一本道であり、道中何かに襲われたとしても城門に駐在している兵が直ぐに駆けつけるだろう。しかし理由は分からないが、ただ漠然と二人はもう帰ってこないような、そんな予感がしていた。
「理由は分からないけど、なんかヤな予感がするんだよ……」
「分かったよアレス、ワシらは絶対に帰ってくる。もし帰ってこなければワシの部屋にあるコレクションを好きなだけくれてやるさ。」
おじさんは超が付くほどの剣マニアだ。前に一度見せてもらう機会があったが、剣を不注意で床に落とした時には日が暮れるまで説教された。
「分かったよ……。でもさ、気をつけて」
「あぁ、必ず帰ってくるさ。村のみんなへの説明をしっかり頼むぞ。」
そして馬に乗り王都へ向かうおじさんと村長の背中を見送った。
しかし、先程からするこの予感はなんだろうか。何か取り返しのつかない事態に陥っているようなこの焦燥感は……。