21.性能検証
七階はコボルトチーフやコボルトソルジャーなどの上位種のコボルトが多数出現する階層だった。コボルトは人間より体格が劣るものの集団での戦闘が得意であり、役割を果たす為に死をも厭わない気質な為、ベテランの冒険者は負けはしないが怪我をする可能性が高いという理由からコボルトの集団と戦うのを避けるとのことだ。その中でもコボルトチーフは成人男性と同程度の体格をしており、単純に戦闘能力が高い事に加え、配下のコボルトの統制ができる為、新人冒険者は見たら逃げるモンスターとして教えられる。
「んじゃあ、聖剣(鍬)の力でも見せて貰いましょうかね」
「お前ゼッタイ馬鹿にしてるだろ」
「いえいえ、勇者様のことを馬鹿にするなんてワタクシめにはとてもとてもwww」
ジョンに馬鹿にされつつも鍬の性能を確かめる為、手頃な相手を探す。
「あそこのコボルトなんて良いんじゃない?」
サラにそう言われ見ると、手に槍を携えたコボルトが1匹だけ歩いているのが見える。コボルトランサーだ。コボルトは頭部の犬部分が個体ごとに違っており、今回はブルドックのような見た目でどことなく疲れた中年のような空気を醸し出している。
「よし、じゃあ行くぞ?」
「頑張って下さいアレスさん」
ルシールに応援されながらコボルトランサーへと駆け寄る。敵の存在に気付いたのかコボルトランサーはこちらへ槍を突き出し、歯を剥いて唸り声を上げる。
「そおい!」
掛け声と共に構えられた槍を弾くため鍬を下から上へと振り上げる。すると槍の中腹から先とコボルトランサーの上半身が消滅し、下半身は血が噴水のように景気よく吹き出しながら小さく痙攣を繰り返す。
「「「「………………へ?」」」」
あまりの光景に一同は絶句し固まる。しばらくの沈黙の後、コボルトだった物体が床に崩れそのまま塵と化す。
「なんコレ怖っ!!」
「アンタ何て事を……」
「流石にアレはちょっと……」
「今自首すれば罪は軽いぞ?」
「いやいやいや!モンスター倒しただけだから!?」
鍬の性能は正直言って想像以上だった。仰々しい見た目をしてはいるが所詮鍬だ。魔法的な効果がありそうな見た目ではあるが、普通耕した畑が良い土になるとかそういう効果じゃないのか?誰が好き好んで戦闘力マシマシの鍬を作ると言うのだろうか。
「鍬だからと侮っちゃいたが、ぶっちゃけかなり強くないかコレ?」
「大当たりってのは嘘じゃ無かったみたいね……」
「こんなのあれば魔王にも勝てるんじゃないか?」
「あ、アレスさん!後ろ!」
「へ?」
鍬の予想外の性能に驚いているとルシールが声を荒げて警告を発する。後ろを振り返ると一際大きなコボルトチーフが立っており、奥には十数体程のコボルトの集団が戦闘態勢を取っていた。
「うお!あぶねっ!!」
ルシールの声で間一髪コボルトチーフの奇襲を防ぐ。しかし、ガードに使用した鍬が手から弾き飛ばされ鍬は壁際まで飛んでいく。
「鍬が!」
「一旦下がりなさいアレス!ルシールとジョンはアレスの援護を」
「おう!」
「わかりました!」
仲間達が俺の援護の為走り出す。しかしコボルトチーフと俺の距離は近く、トドメを刺す為に剣を振り上げるコボルトチーフ。ふとその瞬間何かが光り、俺とコボルトチーフは動きを止めそちらを見る。するとなんと弾き飛ばされた鍬が宙に浮き光を放っている。
「なんで鍬が浮いてるか分かる?」
「クゥーン?」
俺が疑問をぶつけると分からないと首を振るコボルトチーフ。二人で鍬を見ていると鍬は徐々に輝きを増していく。
「何かやばいぞ!全員逃げろ!」
「ワンワンワン!」
俺の声を聞きその場の全員が後ろへと全力で逃げ出す。俺も全力失踪をしていたが後ろでコボルトチーフが足を取られたのかその場に倒れ込む。
「おい!早く立て!」
「クゥーン……!」
その場から逃げ出す為コボルトチーフに手を差し出す。その手を取るためコボルトチーフが手を伸ばした瞬間、鍬から謎の光線が射出され、コボルトチーフの腕を残し体が消滅する。鍬から放たれた光線は次々とコボルト達を捉え、この世から消し去る。その場のコボルト達が消えた後、満足したのか鍬は地面へと落ち、静寂だけが残る。
「チーフゥゥゥゥ!!!」
「いや、コボルトは敵だろ、てか今会ったばっかだよな?」
「おう、それもそうだな」
「俺は時々お前さんがサイコパスなんじゃないかと思えて仕方ねぇよ……」
とりあえず鍬を拾い、モンスターや他の冒険者が居ないのを確認して会議が開かれる。
「なぁ、どう思う?」
「どうもこうも強すぎだろ?その鍬」
「強いのは良いことだけど手放しには喜べないわね。アンタのスキルと同じで何かしらの代償がありそうだわ」
「アレスさん、体に違和感とかは無いですか?」
「いや、俺の体に異常は無いんだけど鍬が……」
そう言い鍬を全員が見えるように差し出す。鍬の刃床部に彫られた文字は光を失い、ただの模様が豪華な白い鍬になっていた。
「先程は彫られた文字が光っていましたよね?」
「そうね、ワタシも見たわ」
「魔力切れじゃないか?さっきの光線すごかったしな」
「魔力を動力にしてるなら……ちょっと借りるわね」
鍬を渡すとサラは目を閉じて集中する。すると文字が少しずつ輝きを取り戻し先程と同じ状態になる。
「はぁはぁ、キッツいわね……コレ……」
「やっぱ魔力で動いてた感じか、そんなにキツイのか?」
「かなりキツイわ。例えるなら、そうね……いつもの火球5~6発分は魔力を持ってかれてるわね」
「かなりの魔力量が必要みたいですね。アレスさんだけだと補充が厳しいんじゃないでしょうか?」
「そうだな、俺の魔力量はそこまで多くないしな……」
魔力量は個人の才覚に寄るところが大きい、人それぞれ生まれた時に器の大きさが決まっており、その大きさで魔力量が決まるイメージだ。しかし、後天的に魔力を伸ばす方法も存在しており、努力次第では魔力量を増やすことも可能だ。
「かと言ってワタシとルシールが毎回補充できるわけじゃないし、今後アレスには魔力拡張訓練をしてもらうしか無いわね」
「うげぇ……俺アレ嫌いなんだよなぁ……」
後天的に魔力量を増やす方法としてポピュラーなのが魔力拡張訓練である。魔力とは筋肉と同じで使えば使う程強くなるので、魔力が枯渇するまで魔法を使いまくるという至極単純な訓練だ。俺の場合魔法を使用出来ないので魔導具のランプなどで魔力を消費することになる。幼い頃魔法に憧れ、魔力拡張訓練を行ったが魔力を使いすぎた時に起きる倦怠感や吐き気などがキツ過ぎて断念したがこの年になって再開することになろうとは……。
「じゃあ、魔導具のランプでも買って今夜から訓練するか……」
「何言ってんのよ。魔力の消費ならソレがあるじゃない?」
「へ?」
そう言ってサラは鍬を指差す。
「それで戦って魔力がなくなれば補充する。それを繰り返せば効率的でしょ?」
その後地獄の訓練兼ダンジョン攻略が始まった。時に鍬を振り、時に鍬を投げ、魔力がなくなり次第魔力を補充する。
「うげぇ……ぎぼぢばるび……」
「喋れる内はまだ余裕ね。魔術師はそうやって強くなるのよ」
「ファイトですアレスさん!」
とりあえずわかった事としては『鍬の魔力が枯渇すると攻撃力が普通の鍬程度になる』『魔力を失っても異常なまでに頑丈』『鍬を振る攻撃は30回、光線を打つのは1回で魔力が尽きる』『魔力が足りないと光線での攻撃は発生しない』の4つだ。頑丈さに関してはサラとルシールの攻撃魔法で傷ひとつつかず、光線の攻撃は振る攻撃換算で20回分の魔力が無いと発動しない。
そうしてその日は魔力が枯れるまで検証を繰り返し、町へと戻った。途中ジョンが暇そうだったので魔力を補充させたが、案外魔力量が多く11回程補充させた辺りで盛大にゲロを吐いてた。ザマァwww




