幕間3
『あんな雑魚気にしなくて良いんじゃないかしら?』
「そういう訳にもいかんのでさぁ」
『隊長ってば本当に真面目ね。あの憎たらしいおっさんなんて気にしなくていいのに』
「仮にも雇い主なんですから程々にしてやってくだせぇ……」
暗い夜道で道化姿の男が一人、古びた教会へと向かっている。
『だけどわざわざこんな夜に動くことあったのか?昼に殺しちまえばよかっただろ?』
「流石に目立ちすぎると仕事に支障をきたすんでね。……っとそろそろお仕事でやすよ」
道化は教会の扉に手をかざし力を込める。禄に手入れもされていない扉は悲鳴にも似た音を立ててゆっくりと開く。
『げぇ、埃っぽいわねココ。さっさと片付けちゃいましょう?』
「相変わらずあなたはせっかちですなぁ」
教会の扉を開くと埃が舞い。中に居た男たちが一斉にこちらを見る。
『結構多いのね?』
『事前調査だと5~60人くらいじゃ無かったか?倍はいるように見えるが……』
「お二人ともお静かに、数が多くても仕事は仕事ですし頑張るしかないでやすな」
「なんだぁ!?ここがオルトロスのアジトって知ってて来てんのかぁ?」
酒に酔っているのか赤ら顔の男がどこかおぼつかない足取りで道化に近寄る。
「お?よく見りゃ昼のヤツじゃねぇか?」
「その節はどうも」
「どうも、じゃねぇよ!邪魔しやがって、お前もぶっころーす!」
『品性のカケラもない男ね』
『弱い犬に限って良く吠えるようだな』
「お二人共、思っていてもそう言ってはダメでやすよ?彼らも必死に生きてるんですし……」
「なーにガタガタ言ってやがる!俺様をナメてやがるのか!?」
そう言って男は腰の剣を抜こうとするが違和感を覚える。確かに腰に付けたはずの剣の感触が無く、不思議に思い腰を見る。
「ぎゃぁぁぁああ!腕がぁあああ!」
男の腕は肘から先を綺麗に切断されており、男はその光景を目にして尻もちをつきながら後ずさる。
「お、お前ら!見てねぇでこのピエロをぶっ殺せ!」
「こんなチビにやられたのか?ダセぇなぁ」
助けを求める声を聞いてニヤニヤと様子を見ていた男たちが腰を上げ道化の男と距離を詰めていく。その様子を見て道化は口角を上げ、足を交差させ、右手を胸の前へ、左腕を大きく広げ、と大げさな動作でお辞儀をする。
「アッシはしがないピエロでございやす。皆様には申し訳ありやせんが、雇い主の意向ですのでここで死んでいただきやす」
少しの間沈黙が流れ男たちの笑い声が響く。
「ぎゃはははは!お前一人で何ができるってんだ?雑魚相手に不意打ちが成功したからって調子に乗りすぎだろ!」
ひとしきり笑い終わると何人かの男が剣を抜き道化へと飛びかかる。キリキリと何かの軋む音がしたと思った瞬間飛びかかった男たちは上下に両断されボトボトと地面へと落ちる。
「チッ、準備は大口叩くだけのことはあるってか?おい詠唱はまだか!細い糸か何か使ってやがるから注意しろ!」
「糸ではないんでやすがねぇ……」
『見当違いね』
『この距離でわからないってのは流石にレベルが低すぎるんじゃないか?』
「~~~~~炎よ!」
詠唱が終わり火球が道化へと襲いかかる。しかし道化は自分の背丈の倍ほどもある火球を腕の一振りで打ち払う。
「素手で魔法を!?そんなバカな!?」
「あ、これは自前では無くてですね……っと、ついでに魔力を封じる効果もある優れモノですぜ?」
道化は義手を取り外しヒラヒラと振る。
「魔力が通じないなんて卑怯だぞ!」
「それもそうでやすね。そいじゃコレはココに置いときやしょう。ついでに足も置いときやすか」
「!?へへっ、バカだぞアイツ!」
「今だ!やっちまえ!」
道化は義手と義足の両方を近くのテーブルへ置き、片足片腕の状態で器用に立っている。男たちは好機と見たのか飛びかかる。
「な、なんだぁ!?」
飛びかかると同時に室内の松明や蝋燭などの光源が消え、部屋を照らすのは月光だけとなる。
「皆さん、お仕事でやすよ」
道化がそう呟くように言うと黒い影が部屋を高速で移動する。影が近づくと悲鳴が上がり、一人また一人と消えていく。教会の広間は悲鳴や命乞いがあちこちで上がり、またたく間に混乱で満たされる。
「アナタがボスでやすね?」
「お、お前は一体何なんだ!?俺たちをどうしようってんだ!?」
「おやこれはこれは、自己紹介が遅れてしまいすみやせん」
そう言って道化は少し後ろへ下がり、光の差す場所に出る。先程まで片足片腕の姿だったが義手や義足を外した箇所には影が纏わりつき手足の形を成していた。怯える男の前で流れるように、そして大げさなお辞儀をする。
「アッシはピエール。王直轄諜報部隊《影》の部隊長を務めさせて頂いてやす。どうぞお見知りおきを」
「王直轄……?影……?なんでそんな大層なモンが俺たちを……」
「まぁ運が悪かったとだけ、アッシはこう見えても綺麗好きでしてね。ゴミを見たら掃除したくなる性分なもんで」
『おい、部隊の事言って大丈夫か?』
『そうよ。一応秘密の部隊でしょう?』
「聞いたところで伝える相手が居ないなら聞いてないも同然でしょう?」
そう言いボスの男を見ると小さく悲鳴を上げ後ずさる。ピエールは歩いて追いかけながら言葉を紡ぐ。
「世界はあるがままにある。だから何をしても世界はアナタ達を否定も肯定もしない」
ボスの男が転び、ピエールが追いつく。
「殺しも略奪も強姦も全て等しく『やってはいけないこと』ではなく『やれること』だ。神がこの世界を作ったのであれば、神が容認しているとも言えるだろう」
「じゃ、じゃあ……!」
「だけど君たちは『やれること』をやれる人間の機嫌を損ねた。ただそれだけの事だ」
「ク、クソがぁぁ!」
ボスの男が隠し持っていたナイフを振り回す。しかしピエールはそれを躱し、男の頭を優しい手付きで撫で、ゴキンという音と共に圧し折る。
『口調、戻ってたわよ?』
『珍しいな、隊長が感情的になるだなんて』
「いえね、昼に会った坊っちゃん方の目を思い出しましてね……。懐かしい目をしていやした」
そう話しながら義手と義足を付けると部屋の影が薄くなり、教会の内部が月明かりに照らされる。殺されたハズの男たちの死体は無く、ここで争いがあったなどとは夢にも思わないだろう。
「さぁ、仕事が遅いと怒られてやすし、残りも急いで片付やすか」
そう独り言をつぶやき、ピエールは少しだけ綺麗になった教会を後にした。




