17.レペゼンチンピラ再び
「宿も取ったし少し買い物にでも出てみない?」
サラに提案され、少し悩む。正直今日は結構濃い一日だったからもう疲れてるんだよなぁ……。
「今日は遠くの町からサーカスの人たちが来ているそうだから見に行きましょうよ?」
「お、サーカスが来てるのか。小さい頃に見たが結構すごかったぞ?」
「僕も見たこと無いので楽しみです」
「あ~!もうわかったよ!行くよ!」
「じゃ、決まりね。着替えたら宿の前で集合ね」
俺以外全員乗り気だったので渋々了承し、サーカスを見るべく町へと繰り出す。表通りでは見慣れない格好をした女性や男性があちらこちらでチラシを配っていた。
「カラトーサ一座の見世物だよ~。見なきゃ一生後悔するよ~」
「一生って……。随分と大仰な歌い文句だな」
「オニーさんも彼女と一緒にどうだい?ダブルデートなんて洒落てると思うぜ?」
「僕は男です!」
「そりゃ失礼!したらパパママと坊っちゃん、それから……間男?」
「なんで俺が間男なんだよ!?冒険者パーティだよ!?失礼だなアンタ!?」
「そりゃ失敬!お詫びにどうだい?特等席を用意しておくよ?」
「随分調子の良い呼び込みね。まぁ、見に行く予定だったし良いか」
呼び込みの青年に調子を狂わされている。まぁ、俺がパパだと見抜いた観察眼は褒めてやろう。
「お坊っちゃん方。アッシの芸を少し見て頂いてもよろしいでしょうか?」
「おわ!ビックリしたなもう!」
突然下の方から声をかけられ心臓が飛び跳ねる。声の方向を見るといかにも道化だと言わんばかりの格好をした背の低い男がちょこんと立っていた。
「へへへっ、すいやせん。なにぶん背が低いもんで」
「で、芸って何を見せてくれるんだ?」
「そりゃあもう色々でやす。こう見えても世界を旅してるんですからね」
そう言って男はお辞儀をしてから自己紹介をする。
「アッシの名前はピエール・ピエーロ。気軽にピエちゃんとお呼びくだせぇ」
「ピエーロって、そのまんまじゃねぇか」
「へへへっ、孤児なもんでね。そう名乗らせて貰ってるんでやすよ」
ピエールは口を動かしながら自分の体の半分程ある大きなトランクケースをガサゴソと探り道具を取り出す。
「まずはコレ!なんとただのりんごが!ホレ、この通り!」
黒い杖でりんごを叩くとりんごは鳩へと変貌する。
「おお!魔法じゃないんだよな?」
「ええもちろん。種も仕掛けも御座いますが魔力は一切ございませんゆえ」
「本当みたいね。彼から魔力は一切感じられないわ」
魔法じゃないということは純粋な技術だけでの手品ということだ。しょぼくれた見た目とは裏腹に結構やりよる。その後もピエロは人体切断マジックや、トランプマジックなど、実に様々な手品を披露してくれた。
「以上がアッシの芸で御座いやす。どうでしたか?」
「案外楽しめたよ。見物料はいくらくらいだ?」
「いえ、お金は一切いただきません。その代わりここらへんの面白い話しや不思議な話しを聞かせていただければと……」
「面白い話し?なんでまた?」
「へぇ、アッシの話しを楽しみにしてくれている人が居ましてね」
そこで先程孤児だったと言っていたことを思い出す。国に帰って孤児院の子たちにでも聞かせるのだろうか?
「そういえば今日ちょうど不思議な体験をしたんだけど……」
「あ!いやがった!アニキ!こっちです!」
「そうそう、ちょうどあんな感じにモヒカンの男が三人……」
「おう!お前らか?俺らオルトロスに喧嘩売った野郎ってのは」
「わぁ、おっきぃ」
丁度モヒカンABCと出くわしただけでもかなり運が悪いというのにあろうことかオークと見間違える程大きな先輩まで連れて来ていたそうだ。オルトロスと言う名前は有名なのか周りの町人達が少し騒ぎ始める。
「おい、オルトロスって言ったら三大闇ギルドの一つじゃないか?」
「やめろ、目合わせんなって。こっちまで目付けられたらたまんねぇだろうが」
闇ギルドとは殺人や盗み、果てには人身売買や薬物の斡旋などの非合法な依頼を請け負う違法版ギルドのようなものだ。地域によって幅を効かせている組織は違うだろうが三大と言われるからにはかなりたちの悪い団体なのだろう。
「オルトロスをナメたヤツは生かしておけねぇなぁ?まぁ、この町に来たのは初めてみたいだからそこの女二人と有り金で許してやるよ」
振り返るとまたもやルシールと目が合う。もしかしてこの町のトレンドは男の娘なのか?
「おい、レペゼンチンピラども。流石にここでやるのはマズいんじゃないか?」
そう言いジョンが親指で指差す方には衛兵の方々がチラチラとこっちを見ている。
「あぁ?俺は善良な市民だぜ?紳士的に話し合いで解決しようとしてるしな」
「最近の紳士は金品巻き上げて女さらうのか?」
「何も命を取ろうって訳じゃない。一晩楽しく過ごして貰えれば万事解決なんだWIN-WINだろ?」
「お前の一人勝ちじゃねぇか。冗談は顔だけにしとけオークもどき」
「あぁ?」
二人が無言になり不穏な空気が流れる。いつになく強気なジョンをドキドキしながら見守っていると突然大男が背にかけた剣を抜き俺へと振り下ろす。
「!?」
「坊っちゃん危ない!」
声と共にピエーロがタックルをする形で助けに入り、間一髪避けることに成功する。
「おい、ピエーロお前……」
状況を確認しようとピエーロの方を見ると右足が切断され右腕は変な方向に曲がっている。
「あ、コレは元々作り物なんで問題ないでやす」
「お、おう……」
ケロッとした様子で腕を元の方向へとねじり、落ちた足をカチッと嵌める。
「何をしているんだお前ら!」
「チッ!命拾いしたな。顔は覚えたからなお前ら、今度じっくり遊ぼうや」
「おい!待て!」
衛兵が異変に気づき駆け寄って来ると男たちは不穏な言葉を残してそそくさと退散していく。
「おいジョン!変なのに目付けられただろうが!変に突っ張るなよ!」
「すまん、何かアイツの繋がった眉毛が気に食わなくてな」
「眉毛ってアンタ……。でも厄介ね、闇ギルドだとすると油断出来ないわよ?」
「ギルドに相談するのはどうでしょうか?少しの間なら宿舎で保護して貰えると思いますが……」
「そうね。一旦保護して貰ってから今後について考えましょうか」
「ピエちゃんはどうする?俺達と一緒に来るか?」
「お気遣い有難うございやす。掃除が終わり次第向かうので坊っちゃん方は先に向かってくだせぇ」
そう言いながらピエールは散らかった手品道具を拾って片付けている。
「わかった。じゃあ、先に手続きしてるから受付で『アレスの連れ』だと伝えてくれ」
「へい!ではお気をつけて」
その後ギルドへ向かい事情を説明すると今晩は保護して貰えるとのことだが、オルトロスはかなり性質の悪い連中らしく、町を出ることを勧められた。
「しっかしホント今日はツイてねぇなぁ。それにジョン。お前今日何か変だぞ?あんなに突っかかる必要無かっただろ」
「俺は昔から残業代払わねぇヤツと眉毛繋がったヤツが嫌いなんだよ」
「なんだそりゃ。身体的特徴で差別すんのは良くないぞ?」
「じゃあ何だ?サラとルシール差し出して有り金献上すりゃ良かったのか?」
「そうは言ってないけどよ……」
「僕ってそんなに女の子に見えるんですかね……」
「「そりゃ、お前……」」
二人でそう言いかけるが、部屋の隅でいじけるルシールを見て言葉を止める。女の子に間違えられて悩んでる男の娘もまた良きものである。
「にしてもピエちゃん遅いな。もしかして……」
「今回目の敵にされてるのは俺らだしピエちゃんは別に大丈夫だろうよ。むしろ俺らに関わるとアイツらに目付けられかねないから戻ってきたら関わらないように釘さしとくか」
確かに闇ギルドに目を付けられたパーティと仲良くして得することは無いだろう。
「今日助けて貰った礼も兼ねてメシでも奢ろうと思ってたんだがな……」
その後、ピエールを待つも戻ってくることは無かった。向こうも関わらない方が良いと判断したのだろう。俺たちはギルド職員にピエールと名乗る男が訪ねてきたら伝えてもらえるようギルド職員に伝えてから明日に備えて眠ることとなった。




