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幕間2


 いつからだろうか。僕は意味も無く病院を彷徨っていた。旧知の恩人に感謝を伝えることもできず、想い人に胸の内を伝えることもできず、ただ病院を彷徨っていた。


 いつまでだろうか。僕が死んでから10年近く経つのにいまだこの地獄から開放されない。やり残したことはあるがそれを解消することはできない。僕は何の為にここに留まっているのだろうか。いや、留まらされているのかもしれない。


 いつものように僕は病院を徘徊する。僕が死ぬ前はそこそこ患者が来ていたのに今では閑古鳥が鳴いている。ジルは酒浸りみたいだし、体に気をつけて欲しいものだ。


 この10年で分かったことがいくつかある。


 まず、僕の声は誰にも届かない。耳元で叫ぼうが皆が皆素知らぬ顔をしたままだ。


 次に、物には触れない。ジルのつまみを何度取ろうとしても取れなかったし、今ではドアは開けるものでは無く通り抜けるものになっている。


 最後に、非常に軽いものであればほんの少し干渉できる。ジルの消し忘れた蝋燭の火を消して何度も火事の危機から救ってやったものだ。


 今日も今日とて僕は病院を見回る。不審者が居てもどうすることもできないが、他にすることも無いので見回りを続けている。しかし、ふと人の話し声が聞こえる。


 声の方向に向かうと昨日運ばれてきた青年だ。年の頃は生前の僕と同じくらいだろうか?運び込まれた時は酷い怪我だったが治ったようで何よりだ。青年は独り言を言っているようだ。普通より大きいその独り言に思わず言葉が漏れる。


「夜の病院で独り言が聞こえると思ったら君か」

「うぇい!?」


 少年が僕の声に応えるように振り向く。僕の声が聞こえるのか!?


 理由は分からないがこの青年には声が届くようだ。僕は自分の無念を、感謝を、残された人たちに伝えてくれと叫びそうになる衝動を必死に抑えて考え直す。


 この青年に背負わせるのは酷だ。何故そう思ったのかは分からない。しかしこの青年を過去の精算に付き合わせる気にはならなかった。


「お!俺も冒険者なんだ。名前はアレスで職業は農民。よろしくな!」


 青年はアレスと言うらしく僕と同じ冒険者だと言う。命を落とすような無茶はするなと言おうと思ったが死んだ自分が言うのも説得力の無い話しだと思い言葉を飲み込む。


 その後久々に人と会話できる喜びを噛み締めながらアレスと楽しく病院を周る。用を足すために訪れたトイレで青年の手に僕と同じ紋章が見えた。


「その紋章は……!」

「え?お前知ってんのか!?」


 どうやら彼は紋章について知らないようだ。


「その紋章は『ヒトガミ』という神のものだ。~~~~」


 ふと違和感に気付く。


「~~~神の正体を知ったことがバレれば最悪殺されることになる。」


 言いたいことを伝えられないのに流暢に言葉が紡がれる。


「~~~絶対に神殿関係者にバレないように気をつけるんだ。」


 違う!違うんだ!彼にはもっと伝えなくてはいけないことがあるんだ!


「こんな時間に騒いでるのは誰じゃい!!」


 ジルの声が響いた瞬間、僕が失われていく感覚に襲われる。ああ、そうだったのか。これが僕の役割だったのか。あぁ、ヒトガミよ。あなたはなんて残酷なんだ。


 旧知の恩人に感謝を伝えることもできず、想い人に胸の内を伝えることもできず、やっと出会えた同胞に忠告を伝えることもできず、僕は消えた。


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