13.夜の病院探検!
「うごはぁ!!」
突然腹部に激痛を感じ目を覚ます。痛みの原因を探すと腹の辺りに紙袋が置かれていた。
「ナニナニナニ!?コワイコワイコワイ!?」
「いつまで寝てんのよ。晩ご飯買ってきてあげたんだからさっさと起きて食べなさい」
「俺一応怪我人なんだけど!?」
「聞いたわよ。アンタ美人な治癒師にデレデレしてたんですって?」
「違う!誤解だ!弁護士を呼んでくれ!」
そう弁明をしているとベッドの隣に座っていたサラが俺の肩に額を押し付ける。
「……バカ。……心配したんだから」
「…………」
「……ワタシのせいで死んじゃったらどうしようって。……何度も何度も考えたんだから」
サラの顔は見えないが声が震えていることから泣いていることが伺える。俺はあやすようにサラの頭を軽くポンポンと叩きながら言う。
「サラを置いて行ったりしないさ……。まだ孫の顔も見てないしな?」
「……バカ」
「熱いねぇ!お二人さん!」
「「!?」」
突然ジョンの声が聞こえ俺たちは飛びあがる。いいところだってのに空気を読まないやつだ……!
「おろ?泣いてんのか?」
「そ、そんなんじゃないわよ!」
「邪魔しちゃ悪いですよジョンさん……」
「もしかして俺らはお邪魔だったかな?」
「クッソ邪魔だわお前ら(そんなことないさ仲間だろ?)」
「本音と建前が逆になってるわよ……」
その後ニヤつきながら茶化すジョンを引っ叩いておき。今後の予定について話しをする。
「で、だ。一応ルシールとサラがいれば戦力的に問題ないワケだが……」
「今のままだと命がいくつあっても足りないわよ?」
「それなんだよなぁ……」
「その事なんですが……」
ルシールがおずおずと手を上げ伺うように口を開く。
「冒険者ギルドでの新人研修を受けて戦力の底上げを図るのはどうでしょうか?」
「そんなのがあるのか?」
「はい、冒険者になりたての人向けに引退したベテラン冒険者が稽古を付けてくれるプログラムがあります。僕も受けようと思っていたんですがタイミングが合わずに見送っていたんですよね」
「それは良いな。今回みたいな目にあうのはもうカンベンだしな」
そうして明日以降は研修を受けて今後の冒険に向けて地力を鍛えることに決まり、三人は宿に戻った。俺?俺は明日まで安静にする必要があるらしく病院でお泊りだ。夜の病院に一人でいろって正気じゃないね!
「昼散々寝たし全然眠くないんだが……?」
いいだけ惰眠を貪り尽くした俺は悩んでいた。
「どうしようかな?暇だし病院探検したいけど一人だと怖すぎるし……」
「夜の病院で独り言が聞こえると思ったら君か」
「うぇい!?」
誰も居ないはずの病室で声をかけられ飛び跳ねる。声のする方を見ると男が立っていた。
「あんた誰だ?」
男は値の張りそうな鎧に身を包み整った顔立ちでこちらをじっと見ていた。金持ちで高身長でイケメンって俺の勝てる要素なくない?
「夜の病院で独り言が聞こえるから様子を見に来たんだ。病人なら早く寝ることをお勧めするよ」
「警備員みたいなもんか?格好的に冒険者だと思ったんだけども」
「そのようなものだ。冒険者もしているし合ってるよ」
「お!俺も冒険者なんだ。名前はアレスで職業は農民。よろしくな!」
「これはご丁寧にどうも。僕は……長いからアズと呼んでくれ。職業は聖騎士だ」
チクショウ!職業までカッコイイじゃないか。
「それで先程も言ったが病人なら早く寝て回復に務めるべきだ。変なことは企まずに安静にしていなさい」
「でも昼に寝ちまって眠くないんだよ……」
「ふむ……」
そう言ってアズは考え込む素振りを見せ、何か思いついたのか口を開く。
「なら僕が案内するからこの病院を見て周るのはどうかな?」
「良いのか?」
「あぁ、君一人にして騒がれると他の人達に迷惑がかかるからね。その代わり静かに着いてくること。これが条件だ」
「子供じゃないんだからそんな……」
「気づいてないかもしれないから言っておくが君の独り言、かなり声が大きいからな……」
「え!やだもう!恥ずかしい!」
くれぐれも静かにするようにとアズに釘をさされ、病院探検に繰り出すこととなる。ワクワクだね!
「ここが宿直室でこっちが診断室。ここから先は入院患者の部屋だ」
「思ってたより見るもん無いな。てか医者とか居なくて問題ないのか?ここ」
「ちゃんといるさ。というより腕だけは確かな頑固オヤジがここに住んでる」
口ぶりからその頑固オヤジとは知り合いのようだ。
「結構ここの仕事は長いのか?」
「あぁ、そんなところだな」
「どれくらい続けてるんだ?」
「どれくらいか…。うーん、ざっと10年ってところかな?」
「10年!?大ベテランじゃねぇか!」
「しー!まぁ未練がましくダラダラと続けてる感じかな」
「他の仕事はしたくならないのか?」
「事情があってね…。それに案外ここも悪くないもんだよ。ホラ」
そう言いアズの指差す方を見ると宿直室の扉が少しだけ開いており弱い光が漏れている。アズの顔を見ると口にひとさし指を当てながら開けろとジェスチャーをしている。俺は何だと思いつつも扉を開けてみる。中にはいびきをかいて寝ている白衣の男がいた。
するとアズはズカズカと中へ入っていきイタズラっぽく微笑みながら手招きをする。俺は忍び足で近寄る。
白衣の男は酒を飲んで寝てしまったのか飲みかけのグラスとつまみの乾燥肉が置いてあった。これがどうしたんだという表情でアズを見るとつまみを食ってみろと合図する。俺は男が起きないように乾燥肉を一つ手に取り口に含む。乾燥肉には味付けをしているのかすこしキツめに香辛料の味が口に広がる。うん、うまいから全部持っていこう。
目を輝かせて乾燥肉を全部もつ俺を見てアズは声も無く笑う。そして外へ出ろと合図をするので乾燥肉を落とさないよう注意しながら忍び足で外へ出て待つ。アズは机においてある蝋燭の火を吹き消して部屋を出る。
「病院で酒飲んで火を消し忘れたんだ。あの頑固オヤジには良い罰だろうさ」
アズが俺の持つ乾燥肉を指さして言う。
「雇い主じゃないのか?」
「うーん、どっちかというとただの腐れ縁だね」
「ほーん。ま、俺はウマい物食えて満足だけどさ」
その時不意に尿意を感じ身震いする。
「ワリィ、トイレ行きたいんだけど良いか?」
「ん?別に良いけど?」
静かに見つめる俺を不思議そうに見守り首をひねるアズ。
「…………」
「…………?」
「……怖いから着いてきてくれ」
「あぁ、そういうことか!ははっ、気付くのが遅れて済まない」
若干馬鹿にされながらアズとトイレへ向かう。
「ふぅ~。間に合った……。そういえばお前って彼女とかいるの?」
「藪から棒になんだ君は……」
「いや、金持ってそうだし、イケメンだし。彼女の一人や二人いんのかなって」
「二人いたら問題だろうに……。金も無いし彼女も居ないよ。想い人ならいるけど」
「お、恋バナ開催か?どんな人なんだ?」
「興味津津だね。うーん……。元気で明るくて、時々振り回されるけど僕のことを良く考えてくれる。そんな女性だよ」
「それもう付き合ってね?」
「まだ恥ずかしくて告白はしていないんだ。もし僕の勘違いだったらと思うと勇気が出なくてね」
「告っちまえよ。お前くらいイケメンなら絶対成功するだろ?」
「難しい問題なんだよ……。そういう君はどうなんだい?」
「昔から一緒にいる幼馴染みだな。少しツンケンしてるけど可愛いところもあるんだ。胸は小さいけどな。そっちは?」
「こっちは褐色の肌に豊満な胸がそれはそれは……って何を言わせるんだ君は!?」
「ははっ羨ましい限りで」
「君はその子に告白しないのかい?」
「あー俺は今の冒険が終わってからだな」
「何か目標でもあるのかい?」
「あぁ、神様が俺に魔王を倒せって言ってるんだとよ」
「……!それは大任だな。命の危険もあるだろう?怖くないのか?」
「怖くないって言ったら嘘になるな。今回も死にそうな目に会ったし……」
サラがホブゴブリンに吹き飛ばされた光景が脳裏をよぎり歯を食いしばる。
「なら旅が終わってからなんて言ってないですぐに想いを伝えた方が良い。僕みたいにタイミングを逃すと後悔することになる」
「?」
俺が用を足し終え手を洗っているとアズが突然声を上げる。
「その紋章は……!」
「え?お前知ってんのか!?」
「君はその紋章が誰から授けられたか分からないのか?」
「あぁ、神殿の偉い人に聞いても分からないって言われてお手上げ状態だったんだ」
「神殿で……。あぁそういうことか……」
アズは手を顎に当て少しの間考える素振りをし、意を決したのか口を開く。
「これは君の今後の人生に関わる話しだからしっかりと聞いてくれ。良いね?」
俺は唾を飲み込み頷く。
「その紋章は『ヒトガミ』という神のものだ。クセは強いが悪い神では無いから心配しなくて良い。問題は神殿だ。その紋章は神殿関係者にとっては非常に都合が悪いものだ。今は神託を受けたことと何の神か分からないことで問題になっていないが、神の正体を知ったことがバレれば最悪殺されることになる。やつらはどこにでも潜んでいる。絶対に神殿関係者にバレないように気をつけるんだ」
「殺される!?神殿がなんでそんなことするんだよ!?それよりお前は何でそんなこと知ってるんだ!?」
「それは……」
「こんな時間に騒いでるのは誰じゃい!!」
しわがれた声が響く。振り返ると先程の白衣の男が蝋燭を持って立っていた。
「びっくりしたぁ。急に脅かすなよ爺さん」
「驚いたのはこっちの方じゃわい。こんな夜中にトイレで騒ぐんじゃない」
「あぁ、すまん。ちょっと衝撃の事実が分かってね」
「ったく。こんな夜中にそんなでかい独り言を言うくらい衝撃じゃったのか?」
「独り言?俺はコイツと話して……!?」
男が変な事を言うのでアズのいる方向を見ると誰もいない。
「あれ?アズ……?おい爺さんここに警備員の男が立ってたよな?」
「警備員?こんな寂れた病院に警備員を雇う金何かあるはずも無かろう?」
「それなら患者の誰かだったりとか?」
「残念ながら今月の患者はお前だけよ。」
「え?ってことはつまり……」
「つまり?」
「オ、オバケ……」
俺はあまりの恐怖にバタンと倒れる。やっぱり夜の病院は探検するモンじゃないね!
「お、おい大丈夫か坊主!おい!」
「………」
「なんじゃ、気ぃ失っただけかい。しかしこの坊主……。確かにアズと言っておったのぅ……」




