12.一難去って
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笑っている女性がいた。喪服のドレスに身を包み口元しか見えない顔は口角をこれでもかと釣り上げ笑顔であることが辛うじて分かる。女性は狂気じみた笑い声とも奇声とも言える叫び声を上げながら人の丈程もある大剣で周囲の人々を切り裂いていく。
疑問が浮かぶ。
なぜこの人はこんなに残酷なことをするのだろう。笑っているのだから人を痛めつけて殺すのが好きなのだろう。
いや彼女は泣いているんだから何か深い理由があるのだろう。泣いている……?
自分の思考に矛盾を感じなぜそう思ったのか考える。彼女の顔に涙が見えることに気が付き納得する。たしかに泣いている。
しかし、それなら何故笑ったりして楽しそうに振る舞っているのだろう?
理由を探るべく彼女を観察する。すると何故かは分からないが胸が痛み俺はいつの間にか泣いていた。
何でこんなに胸が痛み、悲しくなるんだろう。そんな風に考えていると彼女は目的を達したのか満足そうに息を着くと急に座り込む。
「……ごめんなさい。……私のせいで。……ごめんなさい。」
何故彼女は謝っているのだろうか?殺した人たちに向けてなら確かに謝る必要はあるかもしれない。しかし、彼女の視線や口ぶりからここにいない誰かに話しかけていることが分かる。
「……もう一度だけ。……アナタとやり直せるなら。……もう一度だけ。」
ここでやっと合点がいく。喪服なのだから誰か大切な人が亡くなったのだろう。それであれば先程殺された人たちは加害者だったのだろうか?
分からないことが多すぎる。殺された人たちは死ぬその時まで笑顔を崩して居なかった。加害者なら、いや加害者であったとしてだ。殺される人間が笑っている状況はそう多くない。
「君は一体…」
これは夢だとどこかで自覚しつつも言葉が漏れる。しかし予想に反し彼女はそのに反応しビクンと体を震わせ辺りを確認する。
「アナタ?アナタなの!?いるなら出てきてよ!」
女性の鬼気迫る様子を見て死別した相手を深く愛していることが察せられる。あぁ、俺がその相手ならここまで悲しませることはないのに。そう考えていると突然眠くなり、そのまま瞼が閉じていく。
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「お、気がついたか?」
「……ジョン?」
「頭は大丈夫みたいだな」
「俺は一体……?」
「あぁ、体は動かさないでそのまま聞け。ホブゴブリンを倒したところまでは覚えてるな?」
「あ、あぁ。……そういえばサラは!?サラはどうなったんだ!」
そう言い立ち上がろうとするも体が痛み床に転げ落ちる。頭はボーッとしてガンガンと痛むし右腕に力は入らない、それに全身が筋肉痛のような痛みに満たされている。
「おい!動くなって言っただろうが!ホラ、手貸せ」
ジョンに手伝われベッドへと横たわる。
「それでサラはどうなったんだ。もしかして……」
「そんな心配なさんな。医者に何で連れてきたのか聞かれる程綺麗さっぱり治ってたよ」
「よ、良かったぁ!」
「あぁ良かった。だが問題はお前だ」
「俺?」
「あぁ、お前だ。医者が言うには『魔力欠乏症』『栄養失調』『右腕部骨折』『重度の肺挫傷』『全身の軽度な筋断裂』らしい」
「え?なんて?」
「俺にもわからんが医者には『監禁して拷問でもしたのか』って凄い剣幕で叱られたよ」
「何言ってんのか全く理解できない」
「俺も理解できん。最低でも俺たちが見てる前でお前はそんな怪我をする状況じゃなかった」
「なら何で……?」
そういうとジョンが考え込むような素振りを見せゆっくりと周りを見回してから人が居ないことを確認して口を開く。
「ここからは俺の推測になるが、いいか?」
「ああ、聞かせてくれ」
「んじゃ話させてもらう。お前の加護の話になるんだが、確か何の加護か分からないってことだったな?」
「あぁ、教会の偉い人でも分からないらしい」
「そこでだ、その分からない神様って悪神の類いなんじゃないか?どっかの冒険者が悪神の加護を受けて命と引き換えにドラゴンを真っ二つにしたって話しを聞いたことがある。類似する点があると思うんだ。」
「というと?」
「お前は自身の生命力と引き換えにサラを回復させたんじゃないかって事だ」
「生命力と引き換えなら他の外傷は何だってんだ?」
「おまけとか?…いや、冗談だ。俺だって確証があって言ってるわけじゃないからな?」
「あぁ…」
「これから能力を使う時は気をつけるこった。他人治して死んでりゃ世話ないぞ?」
そう言われ頷く。考えてみると今までただ漠然と能力を使っていたが分からないことだらけだ。とりあえず今回わかったのは「作用に応じてデメリットが発生する」ということだ。今後は迂闊に使えないだろう。
「それじゃ俺は治癒師が到着したか見てくるわ。一応勇者様認定されてんのか知らんが教会お墨付きの治癒師が来てくれるらしいぞ」
治癒師による治療は怪我や病気が重い程高価になる。現状俺の状態を聞くに野菜を売ってた頃の年収じゃ足りないだろう。しかも教会お墨付きとなるといくらになるか想像もできない。自分が勇者であることに心底感謝する。いや、勇者じゃなければ元々怪我してないのか?
「失礼しマース!」
元気の良い声が誰も居ない病室に響く。ドアの方を見ると背が高く、健康そうな褐色の肌をした綺麗なお姉さんが立っていた。胸の方はそこそこ、いやかなり…ゲフンゲフン!
「今から治療しマース!アレルギーとかございますか?」
「え?いやアレルギーはないですけど、治療に関係ありますか?」
「無いデース。じゃあ治療開始しますねー」
「ちょ、ちょっと…!胸!胸が!」
「ダイジョブですよー!」
そう言い豊満な胸を当てつつ治癒師の女性は俺の胸に手を当てる。優しい緑色の光が発せられ、ほんのりと暖かく心地の良い感覚が広がrイテテテテ!?急に痛いぞ!?
「イタイ!イタイイタイ!」
「ダイジョブですよー!」
「ダイジョばない!ダイジョばない!」
手を振りほどく為もがこうとするもピクリとも動かない。よく見ると治癒師の腕は非常に逞しく。筋肉が隆起し血管がピクついている。
「ご、ご立派ですね…!」
「セクハラですかー?もうちょっと痛くしちゃいますねー!」
「チガウチガウイタイチガウイタイ!」
そんなこんなで今度こそ死ぬんじゃないかと思うほど痛い治療が完了する。もうニ度と世話にはなりたくない……。
「バッチリ治りましたけど体力は消耗してるんで一日安静にしててくだサーイ!」
「……ウッス」
「もうこんな無茶したら駄目デスよー?」
「……ウッス」
生返事をしていると不意に頭を掴まれ強制的に目を合わせられる。
「ちゃんと聞いて。今回あなたは死んでもおかしくなかった。あなたが死んで悲しむのは仲間たちよ?仲間を悲しませない為にも気をつける義務があなたにはある。わかった?」
「……はい」
「ならよろしい!なら私は帰りマース!」
そう言って病室を後にする治癒師。それと同時に部屋に入ってきたジョンが「めっちゃ美人じゃねーかオイ」と鼻の下を伸ばしながら茶化してきたのでとりあえず引っ叩いといた。
「じゃあルシールとサラに無事完治したって伝えてくるわ」
「そういえば二人はどこ行ったんだ?」
「ギルドへの報告、装備のメンテナンス、宿の確保だな」
「あれ?昼前に取ったんじゃないのか?」
「気づいて無いかもしれんがお前が気を失ってから一日経ってるからな?」
「そ、そうなのか……?」
「そうなんだよ。じゃ俺は行くけどお前は大人しく待っとけよ」
「わかった。気をつけてな」
こっちも見ずに手を振ってジョンは部屋を後にする。俺は朗らかな木漏れ日の中もう一度微睡みへと落ちていく。
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また、同時に連載してる「最強少女救世主伝説」も時間があれば読んでみて下さい!




