6話 仲間と、敵対者
2人が会話している間、ガーデンとセンリは途中から理解が追いつかずにこちらはこちらで会話をしていた。
「あの背の高い人誰なんだろうね?」
「うーん、赤いパーカーで、ダメージジーンズで、なんかすごい紐を沢山持ってて…うーん!わかんない!」
「難しいね」
「ガーデンさんもそう思う?僕も難しい話苦手だから全然わかんない!」
無邪気に話す。何も分かっていないからこその純粋な会話のため、そこまで雰囲気が重くならない。
ちょうどそこでウォームから箱庭に残った電子生命体の名前が出る。
「今のが残ったって人?」
「そうだよ!そっか、ガーデンさんは知らないんだっけ」
そう言うとセンリは自分の持っている印象も交えて話し始める。軽くまとめると以下だ。
・キャミア・インカー、コピー機。内気だが水色の髪をしたかわいい女の子。
・ウインド・イノセント、扇風機。毛先がカールされているツインテールが特徴的で、みんなが友達の女の子。
・シオン・ソウガ、音楽プレーヤー。夜の街でよく音楽のライブをしていた紫髪の女の子。
・クーリス・チェッカー、冷蔵庫。一匹狼で背の高い怖いお兄さん。
「残った人はこれくらいだよ〜…でも、僕やウォームさんみたいに敵にさせられてるなら助けたいな」
「…仰る通りです」
「ふふ、取り戻すもの増えちゃったわね」
「お話終わったの?」
2人が話している間にウォームとフィーネの会話は終わっており、途中からこちらの会話に耳を傾けていたようだった。
フィーネが口を開く。
「…はい。ガーデン様のご協力により、昼の街は半分以上戻ってまいりました。ですがキャミア様は恐らくまだ敵の手の内です」
「そうね、バグに侵されていると考えると戦うのもやむなしだわ。そうならないように皆を守るからね」
「ううん!ウォームさんは復活したばっかりだもん!僕が頑張っていっぱいやっつけるよ!」
「いいえ、休んでなんていられない。フィーネちゃんやセンリくんにばかりいい所を盗られてちゃ私の立つ瀬がないわ」
ワイワイと戦いの前だというのに盛り上がる。この戦いがいつまで続くかはわからないし、早急な事態回復を願うのは変わらない。だからといって葬式のような雰囲気でただ淡々とバグを倒す作業にしたくない!というのが後のセンリの言い分である。
そういえば、と出発直前にガーデンが口を開く。
「みんなの武器ってどこから出てきてるの…?」
一同ぽかーんと空気が固まる。フィーネが軽く咳払いした後に説明が入る。
「失念しておりました。ガーデン様にはお話していませんでしたね」
フィーネと最初に出会った時には槍を持っていたが、宙にういてバグに似たようなものに溶けて消えていた。彼女に限れば青い画面を出す時はたまに槍の姿が見えなかったのだ。
答えはデータの格納庫のようなものに片付けているから、というものだった。もともとバグの影響のなかった頃はフィーネ含め誰も武器を手に取っておらず、不要なものとして処理されていた。だが、箱庭の制作者が「俺がいない時にみんなで守ってよ」と念の為に作られた緊急コードの1つが武器の精製所兼格納庫のような場所だったとのこと。
この格納庫のような場所は原則1人1セットの武器を作り、フィーネがコードを使って鍵を開けない限り使うことは出来ない仕様になっている。しかし変わった性質があり、過去に居たミシンの電子生命体が作った衣装や着ぐるみなどの服を着ている時はこの武器が変化することもあったそうだ。ちなみにこれは今の比ではない人数の電子生命体がいた時に、用意されたものをいつの間にか着せられたフィーネがこっそり試した結果の情報なので間違いはないと言う。
「箱庭に関する緊急コードは他にもいくつか存在しますが、現在この武器データと壁の扉のみが常時解放中、といったところです」
「私達も初めは驚いたわ。一人一人に合った武器があるなんて想像もつかないじゃない?」
「そーそー!僕の銃も最初は難しそうだな…って思ってたんだけど、使ってみたら結構楽しかったんだ〜!」
「そっか!教えてくれてありがとう!」
分からないなりに理解をしてみるガーデン。感謝の言葉を述べ、もう一度昼の街へ全員で向かうことになる。
*
現在取り戻せているのは30%、昼の街のみに限れば60%も箱庭が戻ってきている。
早く、早くと焦る気持ちを抑えてバグの処理を進める。ガーデンの能力が広範囲に及んでいるのが救いで、浄化ビーム(※命名:センリ)と強化の力が箱庭全域にまで広がれば向かうところ敵無しかも?というのがセンリの安易な考えである。
しかしそれが上手くいくはずもなく、広範囲なのは強く祈った時のみで結局のところ彼ら自身が強化を受けて戦うのが手っ取り早い方法なのだった。
「やらせないわよ!」
戦っているのはたった3人、されど3人。
先程まで対処しきれなかった背後に現れるバグに、ウォームが靴裏の熱と盾で殴る。彼女はスピードこそ2人に劣るが一撃は重い。そしてそのぶん察知能力がセンリより高い。フィーネも本来は全ての行動に予測を立てられるのだが、箱庭が万全でないせいか察知能力にマイナス補正がかかっているのだった。
突如として地面、建物の屋上(1階〜2階分程度)、屋根の上などを飛び回って比較的遠くを見続けられたセンリが叫ぶ。
「フィーネさん!なんか変だよ!バグがバグじゃないかも!」
その声に反応すると同時、フィーネは近くにいるバグを刺す。だがそれは他のバグと何ら変わりはない赤いものだった。
「センリくん!どういうこと!?」
「わかんない!けど遠くに人影が見えるの!その人からバグっぽいのが生まれてるみたいなんだ!」
「…ぽい、とは?」
「わかるのはその人がさっきの赤い服のお兄さんじゃないってことだけ!」
赤いパーカーの男ではない。つまり、味方だった相手の可能性が高い。その相手は恐らく複製、印刷を得意とした…
「急ぎましょう皆様。キャミア様をお救いしなくては」
*
センリが何か変、と言った理由は相手に近づけば近づくほど理解できた。
本来のバグは赤く、全体的にノイズがかかっている。しかし今対峙しているのは一撃当てるとノイズが剥がれ、結果的にそれが無く色が青いのだ。
理由は、わかる。これが出来る電子生命体はバグの複製と箱庭内でのみできる自分の味方を作ることが出来ないかと試行錯誤していた。その時に言っていた言葉はこうだ。
『バグさん、私達と戦う時はとても怖い顔をしてるんですけど…ほんとは違うみたいだから、そのほんとの姿を見せて欲しいなって…あと、赤い色だと怖くて…』
フィーネが知っている限り、対峙するであろう相手は持ち主が絵描きであると同時に立体の造形物も好きで、よくペーパークラフトも作っているとの事だった。それも影響してか立体物を作ることも出来なくはない、というのが相手の能力の理由付けになっていた。
当の本人の力は3Dプリンターにも似ている部分はあるが、あくまでペーパークラフトの応用だと話していたという。
「ガーデン様は私達から離れぬよう。ウォーム様にセンリ様は周辺のバグもどきをお願いできますか?」
「えぇ、任せてちょうだい」
「キャミアちゃんはどうするの!?」
「そちらはどうにかします。その援護を」
「りょーかい!」
即時判断、のちの行動。フィーネの強みはこの演算能力にあった。
槍術も元々扱えた訳ではなく、インターネット上にある動画やまとめサイトなどを見て覚えたもの。それに加えて棒術と呼ばれる長物を使う技術も自分にトレースしたという。このトレース期間はおおよそ2時間。
箱庭の製作者がフィーネの性能を高めに作ったと言えばそれまでなのだが、おかげで戦闘能力もそこそこ高い水準を保てている。
フィーネは戦闘慣れしてない相手をなるべく傷つけないように足払いという形で槍を振るう。しかしそれは当たることはなく軽々ジャンプで避けられてしまった。
「流石は電子生命体…手加減は無用ですか」
ガーデンの方をチラと見る。それまでよりも強く浄化の力を溜めて祈っている。ウォームを救った時のように、拘束や気絶などの行動不能状態にすればすぐにでも戻せるであろうことはなんとなくわかった。
他のふたりは自分の指示通り周囲のバグの複製体を消滅させ続けている。目の前の電子生命体を元に戻せば複製体も軒並み消えると推測したフィーネは再び槍を振るう。
当たらない、当たらない、当たらない。槍は当たっても掠めるばかりで避けられ続ける。相手はバグの影響によって恐怖心が消され、普段はできないアクロバットな動きもさせられているようだった。
…だが。
「ガーデン様、お願いします!」
目的は槍を当てる事ではなく、拘束。ウォームよりも体の小さい相手には、バグに乗っ取られていたウォームとぶつかり合ったのと同じ回数強化を受けた槍を掠めるだけで表面のバグは全て消し去れるのだった。
フィーネが縛った後、声を聞いたガーデンは頷く。そしてウォームの時と同じように浄化の力を放つ。
「ガーデンさんやっちゃえー!」
誰もが相手を救えたと思った。刹那、それはすぐに否定される。
フィーネの足元に何かが投げられたかと思えばそれはすぐに爆破、ほとんどが煙幕となる。そして拘束した相手に届きそうだった光を大量のバグをぶつけて押しとどめた人物がいた。
それは、少し前に姿を表した赤いパーカーの男だった。
またお前か赤いパーカー
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