4話 取り戻せ!
2人が元の場所へ戻ると、センリは自分の銃に弾を詰めているところだった。話を聞くに壁の妨害をすり抜けてきたバグを数体消し飛ばしていたとのこと。ガーデンは最初の戦いで弾の装填をしない戦いを見ているため、なぜ今装填しているのかはわかっていないのだが。
壁内部ですら異常の処理を目的としたプログラムが組まれているというのに…と言うのが呆れたフィーネの言葉である。
「それで、ここからどうするの?」
「…?どう、とは?」
「ほら、ガーデンさんが来てくれたってことは、やっと箱庭をとりもどせるきっかけが出来たってことでしょ?ならこれから僕達で別れて行くのかなって!」
「なるほど。そういう事でしたら否、です。センリ様のおっしゃる通り、ガーデン様のおかげできっかけは得られました。ですがガーデン様のお力は未だ目覚めたばかり。効果範囲がどれほどに及ぶのかわかりませんし、それをするには人数が少なすぎる。昼の街の方へと戻りましょう。気になることもありますし、なによりほかの御二方とどこかでお会いできるかもしれません」
昼の街、つまり先程までいた砂の街だろうとガーデンは察する。先程塔から出る際に追加で情報が頭に流れてきたのだが、その情報にある程度の箱庭内での呼称と意味も含まれていた。
塔の中で見た模型の半分、最初に居た砂の街は昼の時間が長いから昼の街。もう半分は夜の時間が長いことから夜の街、と呼ばれているらしかった。
「ん?2人?」
「ガーデン様は知らなくても無理はありません。先ほどお見せした模型の昼と夜のそれぞれの街で残っていただけたのは行方不明の方を除いてちょうど3名ずつなのです。昼の街の1人がセンリ様になります」
「7人…そうだったかなぁ…」
センリが首を傾げる中、なるほどと頷く。塔で聞いた残った電子生命体は7人。1名行方不明ならぴったり数が合う。
それならばと2人が了承したのを確認したフィーネは壁に先程出現させた扉を開く。念の為、と壁に電子生命体のみが再度入れるようプログラムを組みなおすと、虚空から槍を持ち直す。
「行きましょう」
それだけ言って他のふたりが頷いたのを確認すると、扉から昼の街へと向かっていった。
*
昼の街へと戻ってきた3人は、扉から出てすぐの所で立ち止まっていた。
フィーネが確かめたいことがあるとバグの浄化した部分と侵食されている部分の境目をじっと見ていたからだった。
「フィーネさん、ずーっとここに居るけどどうしたの?なにかあった?」
「…失礼いたしました。ガーデン様と出会った場所からここに来るまでで、おふたりの協力により現在10%取り戻すことに成功しています。しかし侵食は続くはず。そう思ったのですが…」
どうやらガーデンが力を貸して戦った場所に関しては極端に遅くなっている。やはり毎分0.001%ずつでも侵食は続いているのだが、これだけ囲まれているにも関わらず遅いというのは、初めての事象なのだった。
「そうなんだ…」
「やっぱりガーデンさんの不思議パワーが凄いんだね!」
そうですね、と微笑むフィーネ。槍を持ち直し、先へ進まんとした時だった。
「…!フィーネさん、危ない!」
センリの言葉で振り返る。突然の事でガーデンの補助も間に合わなかったが、フィーネは冷静に槍を両手で構えて敵の攻撃をはじき返す。相手も戦い慣れているようで、仰け反ることも無く一撃離脱で後ろへと下がる。
フィーネを襲った相手の武器はどうやら大盾のようだった。
「…ウォーム様、敵の戦闘人形にされているとは」
「え!?確かにそれっぽいけどアレウォームさんなの!?」
ガーデンも本当に電子生命体かと判断に遅れる。住民の情報は知らないが、なんとなく電子生命体の雰囲気はわかるとセンリと会った時に知った。だが相手が侵食の影響を受けているせいか電子生命体かどうかの気配が薄れている。行動の制御をするためにバグの膜のようなものがあるが、それほどに影響は強いと理解した瞬間だった。
「味方なの!?」
「はい。住民コード…つまりタグが一致しています。1部数字がブレていますが間違いありません」
「じゃあもしかしてバグにやられて…ってギャー!またすごい数に囲まれてるー!」
さっき壁の中に入らせてもらってよかったー!と叫ぶセンリを他所に、フィーネは考える。周囲のバグ、敵となった相手の戻し方、現状における解決法の数々。ひたすらに頭を回す。ひとつ、今のガーデンには難しいかもしれないが…と考えてやめる。しかし敵は待ってくれない。今も自分の方へと向かってきている。
…その時。
「負けないで!」
ガーデンからの強化が入る。壁の中に入る前より少し強い物だと即座に解析したフィーネは、ガーデンをちらと見る。
フィーネが無理だと切り捨てた浄化と強化の同時行使をしようとしているようだった。最初はぼんやりと腰が抜けた状態で強化をかけていたにも関わらず、塔に入る前の経験や後の知識で足は震えているものの、足を肩幅に開き祈るような体勢で少しはサマになっている。
しかしフィーネの心配がないわけじゃない。
「ガーデン様!どうかご無理は…」
「大丈夫!ちょっとだけ戦ってくれれば味方に戻ってくれると思う!」
そう言ってる間にも相手はフィーネの方へと走り続けてきている。周囲にいるバグも徐々に徐々に近づいてきている様子。
考えている暇はない。
「ガーデン様!ウォーム様をよろしくお願い致します!センリ様は…」
言い終わる前にまた盾と槍のぶつかり合う音がする。長物であるが故のリーチの長さで吹き飛ばすと、相手もそれに合わせて着地の姿勢をとる。
その一瞬交わっただけで相手のバグの侵食は止まったようで、あと数回ほどぶつかり合えば表面のバグは全て消し飛ばせると確信を得た。しかし相手に集中しすぎた。バグが背後からフィーネを喰らおうとしていたのだ。
…センリが居なければ危なかっただろう。
「いっぱい撃つぞー!!」
刹那、バグが泡に包まれ消える。どうやらガーデンとフィーネそれぞれに近づくバグを一掃しようとしていたらしく、センリの弾は1発1発をなるべく正確に当てていた。だがその乱射を上手く躱してフィーネの背後まで到達、チャンスを狙って攻撃しようとしたのが先程のものらしい。
余談だが、センリは自分の立ち位置を理解していた。相手は盾、フィーネは槍、自分は銃。フィーネがどこから学んできたのか様々な槍術で応戦できている。
それは周囲のバグがいなければ、の話だ。バグは今にもフィーネやガーデンに襲いかからんとしている。もともと飛距離が短いリボルバー銃をガーデンの強化で少し伸ばせているものの、盾には弾かれて終わり。かといってこの現状を静観するだけなど出来るはずもなく、ならばと武器を手に取り援護に徹しているというわけである。
しばらく戦っているとガーデンの手元から光が発せられる。
「準備できたよ!」
「ガーデン様、もうしばらくお待ちください!座標の固定をいたします!」
何度かぶつかりあった相手にまとわりついているバグは表面上ほとんど無くなっており、あとは固定するだけ。
…だが、フィーネとこの相手とは相性が悪い。
最初の戦闘で使っていた地面から生えた緑色の物は実は植物のつるである。これを利用して先程から縛って宙に固定しようとしていたのだが、相手の靴裏は熱いと言う言葉で表せないほどの熱源となっているため、縛る直前に踏まれて燃やされてしまう。しかも燃やしたあとの熱は相手の力となっているようで、つるの燃える速度も上がっているのだ。
「うおおおおー!フィーネさんちょっと避けてー!」
その声が聞こえたあと、フィーネの横を弾丸が通り抜ける。センリだ。
弾は相手に当たる前に床に着弾、泡が出ると一気にその周辺の足元を塗りつぶしていった。フィーネは弾が自分の元へ来る直前に後退する。
「センリ様、バグの方は?」
「だいたいは片付いたよ!たまに街の乗っ取られたとこから出てくるからキリないんだけど…」
ガーデンは周りを見る。確かに周辺にいた大量のバグは半分ほど消え、残ったものたちはセンリの泡による洗浄の消失を恐れて近づけないでいるようだった。
だが目の前の相手だけはそうもいかない。足を踏み込み、フィーネに再び突撃…
するかと思われたが、足元にまとわりついた洗剤に阻まれ滑って転ぶ。
「…!ガーデン様、今でございます!」
「うん!」
強く祈る。目的は目の前の相手の救出と街の美しい姿を取り戻すこと。広範囲に使用するのは初めてだが何故かできると確信していた。いける、行ける!と自分を鼓舞する。
準備完了してからもずっと祈っていたために力は絶大、解き放つ。
「いっけー!」
祈っていたその手をフィーネと相対していた相手に向ける。周辺は光に包まれた。