3話 電子生命体とは?
超解説回。足りない情報はマシュマロとかで聞いていただければ。
あ、話の核心はダメだけど
「えっ、えっ!?落ちない!?」
なにごとかと慌てるガーデン。その理由はすぐにフィーネが解説した。
「ここは箱庭及び製作者が認めた者しか歩けないのです。センリ様のような電子生命体や私以外のAIは該当しませんでした。…先程までは」
足元の物が崩れたらどうしようかと心の中は平穏を保てないが、どうやらそうでは無いらしい。とはいえ恐怖が消える訳ではなく、足が震える。
「このまま先導し、手を引きましょう。しばらくしたら慣れると思います」
フィーネは1歩1歩歩きながら塔について説明をする。
曰く、この塔は箱庭が箱庭として構成するための必要なデータが詰まっていること。この場合のデータとは主に土地と建物が該当する。
曰く、塔から流れ出る液体のようなものは不要データの集合体であること。バグが現れる前は箱庭が塔とは別に小さな浮島を形作ることがあったらしい。その浮島は広さこそ箱庭の10分の1程度だが内容は定期的に変わっており、箱庭から提示される情報を元に興味がある電子生命体達が向かっていたとのこと。箱庭の外周をゆっくり何周も回って興味のある電子生命体がいつでも行き来できるようになっていたらしい。
曰く、不要データとはその浮島や電子生命体には嗜好品となる食べ物の使わなくなった部分を指すこと。その浮島の中で得られた食べ物や服の再現を好んでする電子生命体も居るため、それは不要データに含まれない場合も多いが、浮島はそうも行かない。浮島は内容が定期的に変わると先述したが、正確には一度データを全て破棄、再構築しているのが実態である。現在では主にバグの処理の際に出た残りカスを排出したものが流れ出ている。
以上がフィーネの説明だった。
「すごいね…」
「…到着致しました。こちらです」
ほへぇ、と間抜けな顔になりながら話を聞いていたガーデン。到着する頃には足の震えは止まっていた。
しかし、やはり塔にも入口はない。どうしたものかと思案していると、フィーネが急に手を引いた。
「わっ!?ぶつかるよ!?」
「いえ、大丈夫です。このまま身を投じてください」
先程と違い目を瞑る暇もなく塔へと突撃する。だが痛みはなく塔の中へとすんなりと入った。
*
中は外観と違い上から下まで繋がっていた。下は陸と同じ高さ、上は上限なく続いており、どれだけのデータ量で作られているのかをガーデンに予測することは不可能だった。
否、正確には上限はある。だが現在は先述した一定期間で内容が変化する離島が作られていない事もあり、容量がそこまで使われていないだけなのだが。
2人は陸地に立っていたのだが、ふとフィーネが宙を舞った。
「飛べるの!?」
「…失礼いたしました。塔の中及び壁の中は私の重力情報を解除しております。ガーデン様も只今解除いたしますね」
簡単な説明ではあったが、念じれば止まったり浮いたりすることが可能だという。とはいえフィーネ自身、ここには自分しか入らないからとガーデンの設定を忘れていたようだが。
しばらくするとガーデンも宙を舞うようになる。だが自分自身もAIとはいえ生まれたばかりの脳では調整が難しく、四つん這いで尻付近の服をつままれているのかというポーズになっているのだが。
「…ふむ、初めてにしては上出来でしょう。私も初めは常に逆立ちしているような状態でしたから」
「そうなの?」
「………………………………………冗談です」
それはさておき、とフィーネがいくつかの画像を見せる。その中の1枚にセンリともう1人、雰囲気の違う人間が写っているものがある。よく見ると装飾が似ているような…と考えたところでガーデンはひとつの考えに至る。
「もしかして、さっきセンリくんが洗濯機の電子生命体って言ってたけど、この写ってる人も洗濯機の人?」
「はい。彼らは持ち主や機体が違えば違った姿になります」
フィーネの先程より細かい説明はこうだ。
1、使われ始めてから最短数ヶ月、各々何かしらの理由を心に持って生まれるのが電子生命体
2、人間の世界で同じ総称が付けられているものであっても持ち主の性格や扱い方によって見た目や性格、得意分野なども変化する
3、電子生命体になる主な機械はコンセントで接続するものであり、有線で使用するものであれば踏切やメリーゴーランドなどの家電ではない機械もなり得る
4、3の特性上、携帯も有線で使用も可能な機械の場合はコンセントを外した瞬間に本体である機械に強制的に戻される。箱庭に長居できる機械たちはコンセント差しっぱなしのものが大半である
「つまり、いっぱい居たんだね!」
「そうですね…この箱庭には沢山の方々がいらっしゃいました。バグが現れてからは自身の身を第1に本体へと帰られた方がほとんどでして…センリ様のように残って頂けたのは計7名、うち1人は行方不明となってしまっております」
「どこにいるかわかんないの!?」
ガーデンの問いに無言で返す。フィーネ自身、手を尽くさなかったわけではないのだ。
電子生命体たちの名前について、最初から自覚していた者とそうでない者の二者が存在している。行方不明になった人物は後者であり、対象の電子生命体たちは名前というタグ…つまり識別呼称および発信機のようなものをつけられる。前者の名前を自覚していた者でも住民登録をすれば箱庭の探知機能で捜索が可能だが、名前ほど強力な識別番号はない。しかし名前というタグが付いた状態であっても見つけることが出来なかったのだ。
それの取り外しはその当人が名前を捨てるか、あるいは____
「…失礼いたしました。ついでと言っては何ですがこの箱庭についてもお見せしましょう」
見せられたのは小さな模型。大きな島が浮かんでおり、その中央に何かを囲むように高い壁があった。ガーデンにもすぐにわかる。
『これは箱庭全体の模型だ』と。
中央の壁は先ほど通り抜けてきた壁と雰囲気が同じであることから囲っている物は塔だとわかる。だがその壁自体はちょうど島が半分に分断するかのように設置されていた。よく見ると半分は最初に居た砂の街、もう半分は何やら高い建物が多く存在しているような街並みで構成されていた。
「ねえねえ、この壁って箱庭を半分にしてるみたいだけど…仲悪いの…?」
「いえ、そちらは多くの方がこの箱庭で過ごしやすいようにするための配慮となります。人間にも様々な方がいらっしゃるように、電子生命体にも様々な方がいらっしゃいます。どんな方でも受け入れるのが箱庭ですから、人間関係以外でどなたかが我慢しなければいけない場所にはしたくないのです」
フィーネの心からの想いだった。だからこそ常に気を張っていたし、バグの駆除ですら他の人に頼むことすら本来はしたくなかった。一部の住民は自分を頼ってほしいと願ってきた。だがフィーネはその気持ちは嬉しいが、としか思っていなかったのである。
結果が今の箱庭だからフィーネ自身怒られても文句は言えないのだが。
「…戻りましょう。センリ様にもお待ちいただいておりますし、何より箱庭に蔓延るバグをこのままにはしておけません」
フィーネはガーデンに視線を向けぬまま一言そういった。