2話 塔へと
キャラ増えます(小並感)
フィーネにセンリと呼ばれた彼?は目を覚ます。思考がはっきりしないが、聞き覚えのある声に自分に声をかける人物の名前を呼ぶ。
「うーん…フィーネ、さん…?僕は…えぇっと…」
起き上がったその姿は褐色に水色の髪、カーディガンにズボンという現代日本では割と普通の格好。特徴的なのは両頬と被っている帽子に文字が書かれているようだった。
先程フィーネが自身のことをAIだと言っていたが、なんとなくその少年は違う、とガーデンは察知していた。
「センリ様、大丈夫ですか?お体に異変は?」
「うーん、まだ頭が痛いし眠いけど…うん、”本体”は問題なく動かせそう」
「…バグに侵食されかけていたんです。しばらくは安静に、と言いたい所ですが…」
少し俯いてそれどころではないのも現状です、と言うフィーネにそうなの!?と驚くセンリと呼ばれた少年。少し話したあと、その少年はガーデンの方を見る。
「あ、ねえねえフィーネさん。そこにいる人って誰?」
「…紹介が遅れました。こちらはガーデン様。この箱庭の防衛機構であり、私と同じAIのようです」
「そうなんだ!AI…えっAI!?」
ガーデンに視線を移した後に1度フィーネを見てから2度見して、嘘ぉ!?と大げさな反応を示す少年。驚きすぎてガーデンを何度も見ていた。そんなに珍しいことなのかと首をかしげると、フィーネが今度はガーデンの方を見る。
「こちらの方はセンリ・ウタカタ様。洗濯機の電子生命体です」
電子生命体?
なんだか聞いたことあるような気がするが、思い出せない。そういえば自分が生まれるときに単語だけ頭に叩き入れさせられた気がする。
詳しい知識はないが本当に最低限、わかっていればいいということすら簡単に放り投げられた気分になるが、その時は意識すら曖昧だったのだ。文句を言っても仕方がないということでガーデンは素直に聞くことにする。
「あの…電子生命体って何…?」
センリがまた驚いた表情を見せる。知らないの!?と言わんばかりの表情だったのだが、フィーネが解説しますと続けた。
電子生命体とはいわば人間たちの世界にある機械の化身のようなもの。人間が大切にしている機械がこのデータの世界に人の姿で現れやすいが、最短3か月ほど使われて持ち主に思うところがある者が姿かたちを作ることもあるとのこと。
日本で言う付喪神が有名だが、それに似て非なるものというのがフィーネの説明だった。
「フィーネさん、僕らについて話すならあそこに行ってみたらどう?」
「あそことは…?」
「ほら、同じAI同士なら二人で入れるんじゃないかと思って!」
*
三人は走っていた。ガーデンだけ行き先がわからない様子だが、邪魔をするバグを消滅させながら進む。向かう先、目の前は壁。センリの話を聞いて妙に納得したフィーネは、思い出したかのように焦って「急いで向かいましょう」とだけ言うとそのまま走り出したのだった。
それを追う形で体感5分。ガーデンの力を借りながら、バグを順に処理しつつずっと進んでいた。センリが途中すごいね!!!と元気にうれしそうに言っていたのだが、ガーデンからすればその戦闘方法が変わっているように思えた。
彼は人間で言うリボルバー銃を二丁構えていたのだが、そこから放たれる弾丸が相手を殺すためのものではなく、言葉通り相手を洗浄するものだった。その弾丸が発射されると同時に弾の射線をなぞるように洗剤と思われる泡が流れる。そして対象に到達すると弾丸に残っていた洗剤?が破裂し、泡に包まれるというものだった。
銃に詳しい人間が見ればどうやって定期的な弾丸の補充をしているのか気になる速度で乱射している。しかしガーデンはまだそこまでの知識がなく、すごいなぁと思う程度なのだが。
「…ここです」
しばらく走った。いかにも自分たちを狙って浸食しようとしていたバグを処理しながらずっと。
そうしてたどり着いたのは遠目でも何かうっすらあるなぁと思っていた壁の前だった。近くで見ると圧倒的な高さで驚く。ガーデン目線、一体何人分の高さがあるのかよくわからないくらいである。
「壁?」
「うん。たしかこの先には大切なものが詰まっているんだよね?」
首を縦に振ることで肯定するフィーネ。ガーデンだけが話についてこれていないのだが、センリが壁に手をついて休もうとしていたところを彼女は止めた。
「僕はこの先には入れない。だからここで待ってるよ」
「…センリ様、今や箱庭本土の方が危険なのです。本来なら’’塔’’の近く、壁の中には誰一人として入れないところを緊急用コードで電子生命体でも入れるように一時的に再設定しておりますので、どうかご一緒していただけませんか?」
「え!?いくら緊急だからっていつも僕たちは入れなかったのにいいの!?」
再度バグに侵食されるよりは幾分か…となだめる。ガーデンには何がなにやらわかっちゃいない。自分の名を庭と称しておきながら何も知らないと少しばかり落ち込む。
「…気にされることはありません」
「え?」
「ここから先は製作者と私以外の誰も近くで見たことがないのです。詳しくは中で説明します」
中で、と言われても入口がない。壁のどこを見ても入れそうな場所は見当たらない。そう思うと同時、空中に青い画面を映し出して何かを打ち込むフィーネ。ガーデンが見ても何が書いてあるのかさっぱりなのだが、打ち込み終わった頃には何も無かった壁に扉が出現する。
「なんか出てきたよ?」
「凄いよね、フィーネさんってここの管理人だけあって色んなことできちゃうんだよ。…………それで、本当に僕もここに入っていいの?」
センリの発言の前者には「製作者とインターネットの知識を利用しているだけで…」と少し慌てるが、後者には「現状安全な場所はここしかありません」と肯定の意を示す。
その扉は3人だけが入るには仰々しくとても大きなものだが、そこには理由があった。開いた扉を通った隙を狙ったかのようにその場に集まっていたバグが後を追って扉に突撃しようとしていた。だが扉を通った後のガーデン達3人にバグの猛攻が届くことはなく、なんと透明な壁にぶつかった後に消滅していく。
言わば強力なファイアウォール、プロテクトプログラムというのが壁の正体である。
「…呆れました。ああやって玉砕し続けてでもこの箱庭を入手したいとは…ですが先程権限譲渡させられかけていたのもまた事実…」
「きっと大丈夫!ガーデンさんも居るからどこかにいるウォームさんやキャミアちゃんも戻ってくるよ!」
「…ありがとうございます」
また青い画面を出した後、徐々に扉が閉まっていく。
この時のガーデンが知る由もないが、こうして何度も数えきれない数の突撃したバグのうち、その壁…プロテクションと呼ばれる異常を弾くプログラムが重くなった隙をついて中に入ったものが侵食しようとしたというのが管理AIの許可なき権限譲渡の原因となったのである。
進行方向の先を見る。扉が開いたときにちらっと見えてはいたが、目の前にあるのはとても大きな建造物だった。
「ガーデン様。あちらが箱庭の守るべき象徴であり、奪われてはならないものです。私たちはあれを『塔』と呼んでいます」
それを塔と呼ぶにはとても不可解かつ人間の世界にはありえない形をしていることはガーデンにもすぐに分かった。
塔自体は、壁の中の中央に完全に地面が分離した離島のような形で存在している。だが地面から塔の頂上にいたるまでの道がつながっていないのだ。円錐台のようなものの上に大きな水色の正八面体が縦に3つ、間に小さな紫のものが4つ。1番上には大きな台座のようなものがあり、そこから青い液体?が流れ落ちているようだった。
「本体からここに来るとき遠目で見たけど近くで見ると結構大きいんだね…?」
「できるだけこの箱庭を形成するデータを減らしたのですが、やはり限界が訪れてしまい、あの大きさです」
壁ですら人5人分以上の高さがあったのだが、目の前の『塔』はその壁の高さを簡単に超える。変わった形で大きな建物だな。それがガーデンの思ったことであった。
「…センリ様、壁の中は安全です。しばらくこちらでお待ちいただけますか?」
「え?いいけど、なんで?」
「本来、壁の中も電子生命体は入れないところを製作者が念の為と用意していた緊急用コードで行き来自由とさせて頂きました。…ですが、塔の中はそうも行きません」
「あ、そっか!そういうことなら仕方ないね!僕も自分のこの体が大事だもん。待ってるよ」
ご理解が早くて助かりますと軽く会釈をするフィーネの横で、はてなマークが5個ほど並んだガーデンは唐突に彼女に手を引かれる。何事かと思えば橋のない離島、塔の方向へと走り出す。下に何も無く、このまま進めば落ちてしまうだろうと手を引かれたまま恐怖で目を瞑る。しかし、落下する感覚はいつまで経っても訪れない。
目を開くと足元には六角形の白い枠のようなものがいくつも陸代わりに広がっていた。
「やはりそうでしたか」