青春の一ページ
突然だが、文学部存続の危機である。
理由は簡単。
武道部の部長である、ウェポンマスターのリヒトが、文学部の部室を賭けて、決闘を申し込んだ為だ。
まさか異世界にも道場破りみたいな事が起こるとは思わなかった。
「試合形式はそれぞれの部から三人ずつ選出し、一対一で戦う勝ち抜き戦だ! 君達が最後に戦う相手はもちろんこの僕! ウェポンマスターの――」
「きゃ〜! 誰この子! 滅茶苦茶可愛いんだけど!? もしかしてこの子、リヒト君の彼女?」
カンナのテンションが高過ぎる。
誰の事を言っているんだ?
「そこに誰か居るの? カンナちゃん」
サーヤにも見えていないらしい。
「え、二人には見えてないの? こんな可愛い女の子なのに? まさか、ユウレイ……」
怖い怖い怖い!
これが本当の幽霊部員ってヤツなのか!?
サーヤが別の眼鏡を掛ける。
何かが見えたかのように目を見開いている。
「そう言う事ね。見えざる物を見る力を与えよ。ディテクション!」
サーヤが指を鳴らすと、一瞬だけ空間が歪み、そこに居なかった筈の女の子が現れた。
だが、何だろう。
カンナが滅茶苦茶可愛いと言っていた割には地味過ぎると言うかなんと言うか。
「くっ……流石ワールドライブラリーね……私の認識阻害魔法を簡単に見破るなんて」
サーヤの魔法で、俺達にも見える様になった女の子が悔しがっている。
って言うかワールドライブラリーって何!?
異名みたいな物だろうか、滅茶苦茶かっこいい。
「今日はこれで失礼するわ。リヒト、行くわよ」
「ふむ、さらばだ文学部の諸君! 次に会う時が君達の――」
また最後までセリフを言わせてもらえなかった様だ。
リヒトと地味な女の子の姿が一瞬で消えてしまった。
「消えちゃった。名前くらい聞いておけば良かった〜あんなに可愛い子なかなか居ないのに」
カンナには何が見えていたんだろうか
それよりも問題なのは、道場破りの件についてだ。
「文学部からも戦えるメンバーを三人選ぶって事か……って言うか、ここの部室は文学部の物って正式に認められてるんだから、わざわざ応じなくてもいいと思うんだけど」
俺が率直な疑問を口にした。
だってそうだろう。
決闘だなんて、そんな危険な事しなくても良いじゃないか。
面白そうだけど。
「ブンドゥク君、実は文学部のメンバーって、私と弟のサイガだけしか居なかったんだよね……他のメンバーは何故か次々と武道部の方に引き抜かれちゃって、廃部の危機ってのは変わらないの」
メンバーが二人しか居ない文学部が、部活動として学園から認められなくなれば、どちらにせよ廃部と言うことか。
それにしても引っかかるな……
何故文学部のメンバーを簡単に武道部で引き抜くことが出来たんだ?
武道部と言うものは、体育会系な部活の様に感じた。
文学部に所属するような人間が、武道部に入りたくなるような理由でもあるんだろうか。
まぁ、サイガみたいなヤンキーも居るくらいだし、どんな人物が所属してたのかは想像できないが。
「ブンドゥクのアニキ! 俺達と共に、武道部と戦ってくれ!」
「あー……俺が戦うのは別に良いんだけど、他に後二人だろ? サーヤとサイガも出るのか?」
文学部に元々所属して居たのは部長であるサーヤと、その弟のサイガ。
俺とカンナは今日所属したばかりではあるが、俺が戦う事は確定だ。
問題は後二人。
クラス的には、俺が文具使いで後衛タイプ。
サーヤはウィザードだったな。
遠距離で戦う方が得意だろう。
カンナはクレリック。
何だかんだ、回復魔法を使っているところを見た事が無いが、どちらにせよ、一対一での戦いでは不利だ。
問題はサイガか。
「俺は戦士系クラスのバーサーカーだ。だから俺が戦うのも確定だぜアニキ!」
文学部に何故バーサーカーが居るのかって理由には突っ込まないでおくとして、兎に角マトモに武道部に対抗出来るメンバーが居るのは心強い。
「あ、じゃああたしも出るよ! なんか面白そう!」
最後の一人にカンナが立候補。
「じゃあこれでメンバーは確定で良いかな。ごめんね、部長である私が戦わなくて。私は分析に専念させてもらうよ。この戦い、何か仕掛けがありそうだし……」
仕掛けか……
確かに、元々戦闘が得意そうな武道部の方が、圧倒的に有利ではあるが、それだけでは無いな。
一番注意すべきなのは、部長であるリヒト、では無く、あの地味な女の子の方だ。
認識阻害魔法、授業で習ったな。
相手の精神に直接干渉し、見えているにも関わらず、そこに居ない物だと認識を書き換える効果がある。
俺の能力値評価では、精神操作魔法に関してはほぼ無敵だと言う評価が出ていた筈だ。
にも関わらず、カンナがその女の子を見つけ出し、サーヤが魔法で効果を打ち消さなければ気がつくことも出来なかった。
その能力を使えば、予め決闘場に細工をする事だって出来るかもしれない。
最大限に警戒して、準備を進めるべきだろうな。
どちらにせよ、仲間と協力して困難に立ち向かうこのシチュエーション。
これこそが青春の一ページだな!
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