表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猿、月に手を伸ばす  作者: delin
序章
8/30

猿、壁は厚いと思い知る

少しずつではあるが成果は出ている、おそらく後数ヶ月もすれば魔力の収奪は実用段階になる。

ツクヨという世界最高の収奪技術持ちが手本であったためだろう。

何か別の物に魔力を込めるのも意外なほど上手くいった、これも一年ぐらいでものにできるだろう。

そもそも俺にツクヨが宿るという事自体が、そのものズバリだと気づけたおかげだ。

魔力で魔力を生み出す理屈なんかも、なんとなく推測はできるようになってきた。

『魔力を生み出す器官の役割を魔力自身が担っているのでは?』などという乱暴な推測がほぼ合ってるとすれば、だが。

エネルギー保存の法則はこの世界では当てはまらないのかもしれない。

魔力が自然と減る理由なんかも、もしかしてって程度の推論は出せた。

『魔力には集まろうとする性質が僅かながらあるのでは?』というものだ。

ふとした瞬間意思の支配下から外れた魔力が、空気内の魔力に引っ張られるから自然に減っているように見えるという理屈だ。

魔力を動かせる奴と比べて動かせない奴は減りが早いような気がする事からの推論である。


「こうやって並べてみると少しだなんて言えない気はするな」

<並行してやってこれだから満足すべきじゃない?>

「魔法を使えるようになって二年未満、これでたいしたことありませんなんて言ったら普通の人から石投げられるだろうな」


季節はもうすぐ春、初めてウェルさんの娘さん、サティを見たあの日から既に一年が経とうとしていた。

この程度習っただけで世界の謎に推論を立てる6歳児なんぞ天才以外の何者でもないだろう、世間的には。

だが俺からみると、

『モルモン婆というおそらくは人間の中では最高位に近い使い手に教わり』

『別世界の前世40年分という別視点を持つにはうってつけな経験を持ち』

『何千万年もの生を生きている精霊(ジン)の知識と経験をいくらでも参照できる』

というお前どんだけ贅沢な環境下におるねん、とつっこまざるを得ない状況なので自慢する気になれないのだ。


「多分、同じ環境下なら似たような結果だったら誰でも出せる気はするんだよな」


無論、俺以下の結果を出す奴もいるだろうけど。


<でも自慢する気になれない一番の理由は、()()だよね>

「……言うなよ、これでも凹んでるんだ」


二、三か月前ぐらいからウェルさんは憔悴が激しい、愛娘のサティちゃんが長くはない、そう宣告されたからだ。

あれから何度か遊びに行かせてもらっているが、結局問題解決はできなかったのだ。

二年未満程度の人間に解けるほど簡単ではない、それだけの話ではある。

それだけの話ではあるのだが、しこりが残っている。

もっと何かできる事はなかっただろうか? 例えば一つの手段に集中していれば……いや、無理か。


<並行してやってたからこそ分かった事も多いもんね>

「収奪技術の練習していたからこそ、魔力自体に集まろうとする性質があるのではって思いついたんだし、空気から魔力を奪っていたからこそ魔力を生み出すのは魔力なのではって考えられたんだしな」


それぞれだけだったらここまでのレベルに到達はしなかったろう。

だが、それがなんの慰めになる。


「命を救うって難しいな、俺が救うんだって粋がってみたが俺じゃ届きそうにない」


モルモン婆や王国の誰かが救えるならそれはそれで良かった、俺以上の人なんていて当然だからだ。

問題はそういう人達でさえあの子を救えない、もしくは救うのにかかるコストを出せないようなのだ。

それだったらウェルさんという『王国の重鎮の子供』が憔悴するまで追い詰められない。


<そーれーでー?、どうするの?>

「意地の悪い質問だな、俺でもウェルさんのコネでもどうにもならないなら仕方ないだろ」


ツクヨが初めて使う口調で聞いてくる、普段周りで使う奴も結構いるから覚えてしまったのだ。

使う状況はあってるし、こいつが使える機会なんてなかったから喜んで使ってやがる。


<んー? 私に、何か言う事あるんじゃない?>

「くそっ! わかってる、わかってるよ!」


揶揄うように、いや、崩した表現でいこう。


「お願いします! 手を貸して下さい!!」

<ふふん、お願いされたら仕方ないなあ〜。手を貸してあげましょう!>


思いっきりマウント取ってきやがったこの野郎! 覚えてやがれ、いつかどっかでマウントとりかえしてやるからな!


「魔力を作り出す方法考えついたのは俺だぞ、先にできるようになったからって威張るなよ!」

<考えついたって言っても雰囲気だけじゃん、形にしたのは私ですー>


そう、俺には出来なかったが、ツクヨにも出来ないとは言ってないのだ。

できる限り俺がやりたかった、なぜならば、


「恩を売って王国の上層部にコネを作る計画が台無しに……!」


ツクヨがやったんじゃ言い出せない、つまり恩を着せられないのだ!


「くそう、何度見てもやり方がわからん。イメージ送られても魔力操作技術の差でやれる気が全くしない!」

<こういう時はこうだっけ? ねえどんな気分? ねえ、頼らないつまりだったのに頼らなきゃいけないのってどんな気分?>


NDKはやめろぉ! どこで覚えて…俺だよ! むしろ俺から以外有り得ねえよ!

掲示板ネタなんぞ話すんじゃなかった、後悔先に立たずである。

この後、俺達はどうやってこっそりとサティと二人だけの状況を作りあの子の魔力を回復させるか、作戦を練るのであった。



作戦のポイントはツクヨにやらせる場合、実はそんなに多くない。

サティと二人だけの状況を作ることと、あの子が気づかないうちに終わらせること、そして魔力の痕跡を残さない事、この三つだけに絞られるのだ。

つまり気にすべき点は、他の誰かに精霊(ジン)がいる事を気づかれないようにするだけなのである。

本来なら、他人の中に干渉するには幾つもの障害がある。

それは魔力操作技術であったり、相手の体の構造の知識であったり、対象の魔力量を圧倒できる魔力量であったりと多岐にわたる。

だが、操作技術では精霊以上なんて存在しないし、人体に関する知識なら俺の前世知識と俺自身を使った確認作業で問題ないし、魔力量だって他の空気やら水やらから奪ってくればOKだし、あの子の魔力量が少ないのもこの場合はプラス材料だ。


「後は魔力感知器をどう騙すか、それだけなんだよなあ」

<ちょっと私が魔法使っただけで大騒ぎだったもんね>

「感知器のセンサー感度高すぎて困る」


それだけ精霊(ジン)が恐れられているって事だが、どうするかな。

やっぱりここは古典に従って、


「東声西撃、だったかな? それでいこうと思う」

<囮を出して別方向に注意を引いて、その間に目的を果たすわけだね>


イメージ送っただけで理解できるのか、うーむ年の功かな?


<似たような事ヒトにやられた事あるし>


納得、経験からはやっぱり学びやすいよね。


「具体的な方法についてだけど、先ずツクヨの魔力を森の奥にばら撒く。これは決定だな」

<気づかれないほど遠くじゃ意味ないけど、簡単に探しつくされるぐらい近くちゃダメ、程々に村から遠い場所だね>

「そう、そして()()()()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()


この技術を開発できたからツクヨに頼るという選択肢が選べた、そう言っても過言ではない。

まあ、これのせいで精霊はまだこの近くにいる、と判断される羽目になっているので総合的にみてマイナスな気もするが。

だって仕方ないのだ、こうでもしないとツクヨが見本を見せられない。

ちなみに普段は一箇所を覆ってその中でツクヨが魔法を使用、用が済んだら覆いごと遠くに飛ばすという手段で隠蔽している。


「サティちゃんをどうこうする時もそうするつもりだけど、さすがに見られたら一発アウトだからなあ」

<同種族がごめんなさい、かな?>

「お前はやってないの?」

<覚えてない!>


他人事みたいな言い方に呆れながらツッコめば、威勢のいい返事が返ってきた。

多分こいつ自身もどっかでやってんだろうなあ、まったくもって力だけは持ってる子供ってのは厄介にすぎる。

種族全体がそんなんだから大人達の対応が正しいのだが、それはそれ、面倒くさいのはかわらないのだ。


「本当に面倒くさい……俺とツクヨだけ見逃してくれねえかなあ、無理だよなあ、信じる要素とか絶無だもんな〜」


決めるべき事は決め終わった後しばらくぶちぶちと愚痴をこぼす、無意味ではない理想の状況というのを口にして確認しているのだ。(キリッ

愚痴をこぼす理由を屁理屈で誤魔化して今日の分の練習を開始する、あの子を救ってそれで終わりではないので日々の練習は欠かせないのである。



作戦の第一歩として、数日間かけて村に近くもなく遠くもない辺りの森にツクヨの魔力を撒き散らした。

案の定、すぐに森への立ち入り禁止が通達されたので、朝早くからドルス家のお屋敷へ向かった。

朝一に近い時間にきたおかげだろう、門前でちょうど出るところだったウェルさんと出会えた。


「やあサルーシャ君、今日もサティの遊び相手になりに来てくれたのかい?」

「ええ、また精霊の痕跡が見つかったって聞いたんで、寂しいだろうなって思ったんで」

「ありがとう。だが、君の家は大丈夫なのかい? 君はよく働く子だから、いないとなると君のお母様が大変じゃないかい?」

「昨日の昼過ぎには森への立ち入り禁止出てたから、昨日できる事は今日の分まで終わらせましたので」


うちの事を心配してくれたので、問題ないことを理由と一緒に伝えたらなぜか一瞬傷ついたような顔をしたな。

すぐに表情を戻したようだけど、この人自身が大丈夫か?

……大丈夫なわけないか、初めての子供が死ぬのを待つだけに近い状態なんだ、これで平気だったら人の心がないと思う。


「ありがとう、僕は森に向かわなければならないし、妻も家の事があるからつきっきりは難しい、使用人も家事があるから君がいてくれると助かるよ」

「はい、母さんたちからも助けてあげてと頼まれましたので」


ドルス家が今とても大変なのは村のみんなも知っているからなあ、母だけでなく会う大人全員に頼まれる勢いでしたわ。


「それじゃいつも通りにお願いするよ」

「はい、お邪魔します」


俺も初めて訪れてから今日まで何回もこちらにお邪魔しているので、もはやなれたもんである。

途中で出会った使用人さんに挨拶だけ済ませてさっさと家の中を進んでいく、勝手知ったる人の家、すいすいとサティちゃんの部屋まで向かう。


「おはようございます、今日もお邪魔しますねプルケさん」

「あら、今日も来てくれたのね、いつもありがとう。悪いけど今日もお願いするわ」


そういって部屋を後にするプルケさん、これから実家や王国内の伝手に書く手紙の内容を整えるのだ。

普段であったらウェルさんが考えて書くんだが、精霊捜索で森に行ってしまってるから妻であるプルケさんが考えておくわけだな。

そして、子守をしながらだと難しいから俺みたいな子供に任せざるを得ないのである。

可愛い娘を村のガキ程度に預けるのってどうなのって思わんでもないが、その信頼を得るためにこの一年ほど村のためとドルス家のために奔走してきたのだ。

魔法の練習兼ねて便利な家電用品替わりとして動き回ったり、遊びに行きたがったり派手で威力の大きい魔法を使いたがる子供たちを説得したり、精霊捜索に人手を取られた時は積極的にドルス家にきて子守を手伝ったりと悪ガキの汚名返上する勢いで頑張ったのだ。


<一部は私とサルーシャのせいだよね? こういうのってマッチポンプって言うんだっけ?>

(少なくともドルス家に対してはそういう扱いになるわな。最低限サティちゃんを救わないと暗躍する黒幕扱い不可避だな、恩を盾にむしるような真似はしなくても、な)


さて、サティちゃんの様子はどうかな。

この年ぐらいになればハイハイで動き回る、一人で立ち上がり歩き出すなどし始めるものなのだがサティちゃんはほとんど動かない。

辛そうな顔でこちらを見やり、口を少し動かした後すぐに目を閉じてしまう。


(一歳児の動きじゃねえな)


これをずっと見続けるってかなりキツい、プルケさんが少しも表面に出してないのが信じられないぐらいだ。


(さっさと助けなきゃな)

<はーい、それじゃ始めるよー>


俺が周りにバレないように魔力で覆うのと同時に、ツクヨが溜め込んでいた魔力を解放する。

突然現れた圧迫感にサティちゃんが泣きそうになるが、その前に頭をゆっくり撫でて落ち着かせる。

落ち着いたのを確認してツクヨがサティちゃんの魔力に干渉し、魔力を生み出す事に集中するよう仕向ける。


(これができねえんだよなあ、どういう理屈でやってるのかさっぱりわからん)

<私もさっぱりわからないよ、でもサルーシャにもやれたし気にしなくていいんじゃない?>

(理詰めで動いていたものが、いきなりそれをぶん投げてくるのやめて?)


魔力って物理法則に従ってなかったっけ? 少なくとも今までの魔法はどう動くかをイメージしなきゃ動かなかったんだけどなあ。


<イメージはしてるよ? この子の魔力が最大効率で魔力を生み出せるように、足りない魔力は外から吸収するようにって>

(その理屈が分からんって話。なんとなくだけど、外部からハッキングするようなもん?)

<多分そんな感じ>


すぐには魔力不足は解消されないだろう、この後も何回か同じ治療を続ける必要がある筈だ。

今日の分が終わった後、魔法の痕跡がバレないように覆っていた魔力をゆっくりと圧縮して手元に置く。

これでこの部屋に魔力の痕跡は残らない、ただしサティちゃんの体内に関しては不明だ。

多分大丈夫だが、治療中に精霊魔力感知器がこの家に来ないことを祈るばかりである。

評価、感想いただくと大変喜びますのでお時間ございましたらぜひお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ