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猿、月に手を伸ばす  作者: delin
1章
15/30

強みで押すのが戦いの基本

「おう、ビビっちまって声も出ねえのかよ。何とか言ったらどうだ、ああ?」


こちらを見下ろし凄む小汚いガキ、あいつがこの集団のトップなのだろう。

ローグとか言ってたが意外と整った顔立ちをしている、今はチンピラにしか見えんが多分身綺麗にしてたら良いとこのおぼっちゃんって言っても通じる気がする、今はチンピラにしか見えんが。


「いやいや、すみません。こんな沢山の方々に囲まれるなんて滅多にないことですから、ついブルっちゃっいまして。ローグさん、あいや、ローグさまの縄張りだなんて知らなかったんですよ。この辺には初めてきたんですが、こんな大勢を率いる方がいるとは思っても見なかったですわ」

<サルーシャ、変>

(うっさい、集団に紛れ込むのが目的なんだ、トップに気に入られるのは必要な事なんだよ!)


自分でもわかってることを指摘されるのはイラっとくるものだぞ!

ゴマ擦って太鼓持っていい気にさせるのが一番だから仕方ないのだ。

下手に出る俺を見て周囲のガキがニヤニヤしてるのが不快だが、ここは我慢の一手。

逆に考えろ、この程度で侮る奴らなら騙すのなんてわけないこと、むしろ楽できてラッキーだと。

内心のイラつきは表に出さず、卑屈に見えるように振る舞う。

さあ騙されろ、子分にしても問題ない奴だと思え、お前らをいい気分にするぐらいどうって事ないんだからな。

そう思いながらヘコヘコしていたんだが……


「……舐めやがって」


ローグの奴がなにか呟き、近くのガキどもに向けて顎をしゃくった。

その途端取り巻き連中が山から降りてくる、なにやら物騒な雰囲気を漂わせながら、だ。


「あの、なにか、気に障った事でも……?」

「気に障る? ああ、気に障るなあ」


ジリジリと包囲を縮めてくる奴らに目を向けつつ訊ねれば不機嫌そうな声。


「おめえみてーな目はいやんなるほど見てきてんだよ」


逃げられないように取り囲む、大分慣れが見えるのは気のせいじゃないだろう。


「腹の底で俺らをバカにしてやがる奴の目はな!」


その声を合図にガキどもは一切に殴りかかってきた!


<サルーシャ!>

(手を出すなよ! お前じゃどう考えてもオーバーキルだ!)


大振りのテレフォンパンチを繰り出そうとしてる前側のガキに体当たりをかましつつ、ツクヨに手出し無用を告げる。


(後、魔法使う気はないから後の治療用に魔力練っとけ!)

<ええっ! なんで!?>


後ろから掴みかかろうとしてた奴に馬みたいな後ろ蹴りで撃退。


(大事になるとか、仲間になるつもりだとか色々あるけど!)


蹴った脚を横からきた奴に取られそいつごとずっこける。


(一番は、子供の喧嘩に武器は御法度だからだよ!)

<……なにそれ、わけわかんない。いいよ、なら私はこもってるから終わったら呼んで!>


馬乗りになられ顔面を殴られたのでその拳に噛み付いた時を境に、ツクヨは中に閉じこもってしまった。

ついでに俺の反撃もそこまで、そっからはひたすらボッコボコにされるだけであった。

数の差はちょっと体格がいい程度では覆せない、当たり前であるが世界の真理の一つをその身で味わった俺であった。



目が覚めた時に言う定番と化したネタに『知らない天井だ』って奴があるだろ? あれって仰向けで寝てたからそう言えるんだよな。

なにが言いたいのかって? 簡単な話だ、俺が気絶から目覚めた時仰向けじゃなかったってことと、


「おらぁ! いつまで寝てんだこら!」


モーニングコールは顔面への蹴りだったてことだ。


「おい、起きたならなんとか言ってみろ」

「……知らない靴底だ」

「ああ゛っ! まだ余裕そうじゃねえかよ……」


なんとかって返そうかと思ったが、喧嘩売りすぎかなぁって思って別のにしたんだが……あんま変わんなかったか。


「テメエ、自分がどういう状況なのかわかんねえのか?」


ふむ、自分の状況か……


「とりあえず、ふん縛られてどっかの家の中にでも居るってとこか?」

「わかっててその態度とは、テメエやっぱ俺らをバカにしてんだろ」


相当ピキピキきてるなこれは。バカにはもうしてないんだけどなあ、素で対応してるのがその証拠だ。


「それよか、あんた一人か? ローグさんよ」

「おうよ。テメエにゃ聞きてえことがあっからなあ、他の子分どもに見せたらビビっちまうこともできるように俺一人だぜ?

おっと、逃げようなんて思うなよ。この家の周りには沢山の子分がいっからな、すぐに捕まえられるぜ?」


逃げようとは考えてないんだよなあ、だって手段を選ばなければ殲滅も全員拘束もあっさりできたんだから。


「で、俺に聞きたいことって?」

「なあに、簡単なことだぜ。テメエ、金をどこに隠した」

「金……?」

「惚けんな! そんないい服着てるくせに体のどこにも金がねえ、ここにくる前にどっかに隠したんだろうが! 素直に吐きゃよし、吐かねえんならもっと痛い目に遭ってもらうぜ……!」


そういえば村だと金ってほぼ使わなかったなあ、子供だから持たされなかっただけで村に貨幣経済が浸透してないわけではないが。

必要な物は自作か譲ってもらうかで、金銭取引は全然やってなかったわ。大人たちの間では普通にやってたけど、子供にはお金を持たせない方針だったのだろうか。

いや、それって俺だけか? よく思い出すと他の子は行商人から玩具買ったとか言ってた気がする。

というかいい服なのか? 確かに俺の体に合わせて採寸した新品だったけど、擦り切れたり穴が開いてないだけなんだが。


「おいおい、ダンマリかよ。どうやらもっと痛い目にあいてえみてえだな!」

「まあまあ、ちょいと待ってくれ、そっちの期待するような物は残念ながら隠してないんだ。そのあたりどう説明すっかなと悩んでたんだよ」

「ふん、判断するのは俺だ、いいからとっとと隠し場所を吐くんだよ」


凄まれたんで素直に考えてた事をしゃべってみせるが、どうやらお為ごかしと思われたようだ。優位に立っているという考えからくる優越感と、それなのに怯えない俺への苛立ちと半々ぐらいで再度命令してきた。


「多分それ専門の業者じゃないと買い取ってもらえんと思うけど、いる?」

「あん? 宝石とか美術品って奴か? ちっ、いけすかねえくそ野郎に頼むしかねえか」

「違う違う、毛皮だよ」

「……? ああ、貴重な種類の奴か。そういうもんも美術品に近い扱いだと思うぜ」

「いや、普通の肉食動物。荒野に生息してる群れで狩をする奴の」


目をパチクリさせるローグ、そうしてるとほんと顔立ちがいいのが際立つな。


「テメエ、ふざけてんのか! そんなもん後生大事に取っとく奴がいるか!」

「狩人にとっては飯の種の一つだぞ?」

「テメエは狩人じゃ……」


ローグの奴が言い終わる前に魔法で周りの空気を固めてやる、呼吸は最低限できるぐらいにしてあるがかなり苦しい筈だ。

ついでに俺を縛る縄を切って自由に動けるようにしておく、もう縛られてる必要がないからな。


「……!」

「おっと、悪いが逃がさないよ」


その状態でも冷静な判断ができるようで、素早く出口に行こうとするのを空気を固めて壁にして止める。


「危害を加えるつもりはないさ、狩人やれる実力がある事を証明しただけで」

「テ……メエ……どっかの……回しもんか……!? 上等だ、俺を、殺れるもんならやってみろ!」


うっわ、すげえ根性。辛うじて呼吸ができるかってぐらいに空気を固めているのにそんなに叫べるなんて。

叫べば周りの奴らが何事かと思って入ってくるはず、そう判断したから多少無茶でも叫んだんだろうな。


「残念、外には聞こえないようにしてるんだな」


ローグの顔色が悪い、外の反応がまったくない事で俺の言葉が真実だとわかったらしい。


「……なにが望みだ?」

「おっ? どうしてそんな事を聞くんだ?」

「ふざけんな、圧倒的なに有利に立ってたはずなのにわざわざ子分どもにボコられてたのはこの状況を作るためだろうが。俺にだけ聞かせたいなにかがあんだろ、勿体ぶってないでとっとと言え」


ふうむ、期待以上に頭がいいなこいつ、なら簡潔にいこう。


「そんじゃあ俺をあんたの下に置いてくれ、大っぴらに使う気はないが俺の力は便利だろ?」

「大っぴらに使う気がないって、俺に利がねえだろ。誤魔化しをひたすらやれってか、ああ? 体のいいテメエのための隠れ蓑扱いかよ」


言うべきは言うか、こっちにも押し切れない事情があるって気づいているんだろうな。

これはいい(かしら)を見つけたのかもしれないな。


「基本俺の仕業ってばれなきゃいいさ、いざって時は少数になら、ばれてもいい。それに俺の方が力があるってばれないほうがいいだろ?」

「で、俺が頭なことが都合が悪くなったら切り捨てるんだろ? それで子分ども丸まる奪われたら間抜けってレベルじゃねえぜ」


うーむ、リスク管理がしっかりしてやがる、そのくらいじゃないとこの辺りで子供たちだけで生きてけないんだろうな。


「そんな事はしない、っていうかできない。俺の方の事情でな」

「へえ、なら話せよ。知らねえうちに巻き込まれた、なんて冗談じゃねえからな」

「話してもいいんだが……」


言葉をそこで切って目をじっと見つめる、このローグって奴を信用できるのか? それを考えるのに自分だけでは無理だ、頼りになる相棒と相談が必要だ。


(ツクヨ、呼ぶのが遅くなった、すまん。こもるのをやめて話を聞いてくれるか?)

<やっと終わったの……ってとっくに終わってるじゃん! なんですぐに呼んでくれなかったの!〉

(悪かったって、っていうか気絶してたし目覚めてからそんな経ってないし、あとこんな状況だしな)

<むむむ、気にする余裕がなかった、そういうことなんだね。……こいつに私の存在を明かすのはサルーシャの好きにしていいよ、私じゃ裏切るかどうかなんてわかんないし〉

(おいおい、信用してくれるのは嬉しいがちゃんと考えてんのか?)

<だって私としてはヒトの群れの中より森の方が生きやすそうだし、サルーシャと一緒に逃げるぐらいならできるから裏切られても別にいいし〉


人になるならもうちょい他人に興味持ってほしい、これは情操教育がもっと必要ですね。

そのために、ってわけではないができればこいつが信用できる奴であってほしい、巻き込める人間の選択肢は少ないってレベルじゃないしな。

だから、最低でも口だけでも裏切らないといえるかどうかぐらいは確認しときたい。


「なんとなく程度は想像ついてると思うが、俺は追われる立場の人間で、俺の事情を知ったら突き出すか最後まで隠し通すかの二択しかない。ここまではいいか?」

「ふん、そんなもんすぐに分かるってんだよ、こんな場所に来る奴なんて脛に傷がある奴ばっかさ。さすがにテメエみたいなガキでそうな奴は見たことなかったけどな」

「だから、事情を聞いて決して裏切らない味方になってくれるってんなら、相応のメリットは提示する」


鼻を鳴らすローグ、どんなもんを出すんだ? とっとと言ってみろ、って顔だな。

少し息を整え自分の中の考えを整理する。


「お前には選択肢が四つある。一つはこのまま事情を聞かずに俺を追い出すこと」


無難っちゃ無難、一番安全だけど毒にも薬にもならない選択だ。


「二つ目は事情を聞かずに俺を下につけること。これのメリットは俺の事がばれたとき知らなかったで済ませられること、そのかわり俺がこの力をお前のために使うことはない」

「おいおい、テメエの追手はそんなお優しい奴らなのかよ、知ってて匿ってたに違いないって言って皆殺しすんじゃねえのか?」

「お優しい連中だからそりゃないな、あっちの目的を達成できるなら俺の罪ですら問わなそうな連中だぞ」


王国の方はここは別の国だから追手を気にする必要はない、あるとしたらラテベア教の方だ。

そっちにしたってツクヨを突き出せば精霊付きじゃなくなるからな、ラテベア教が婆の記憶通りの組織だったらだが、監視はつくだろうが命までは取らないだろう。

そもそも追手があるかどうかがあやしい、実は一番いい選択がこれかもしれない。


「三つ目は事情聞いて俺を突き出す選択、これをこの場で選ぶことはないだろうからメリットは割愛する」

「そりゃそうだ、そんな馬鹿正直に裏切るって言うやつがいるかよ」

<私の事を知ったら選ぶ可能性もあるんだよね?〉

(あるだろうけど、その場合は逃げるだけだ、また別の町に行ってみようぜ)

「んで、最後の奴は?」

「おう、最後に四つ目、事情を聞いて俺を下に置く選択。詳しいデメリットは後にして、提供できるメリットは……」


見せつけるように手の中に光球を作り出す、薄暗かった室内が明るく照らされローグがまぶしそうに眼を細める。


「この力、使えるようにしてやるよ」

「……いかれてんのかテメエ、自分の強みを他の奴に分けてやるとか何考えてやがる?」

「そんぐらいじゃないとデメリットに釣り合わないんだよ。で、どうする? 正直おすすめとしては二つ目だ、一つ目を選んでも報復とかはしないし敵対することもない。まあ三つ目は少しは覚悟してもらうが……多分そんな余裕ないだろうしな」


眉間にしわを寄せ考え込むローグ、きっとこいつの中では忙しなく損得計算が行われているのだろう。


「……そいつはすぐに使えるようになんのか?」

「お前のセンス次第だな、俺は習い始めてから半年ってところだ」

(魔力を認識できなかった期間ってだけで、きっかけになったのはツクヨの魔力いじりだけどな)

<嘘ではないけど正確ではない情報ってやつだね。平均はそのぐらいだっていってたっけ?〉

「その期間でテメエの追手が来るか?」

「保証はできないが、おそらくはないと思う」


本格的に考え込み始めた、あとはこいつの状況次第。

こいつが現状に満足していて未来に展望があるなら四つ目は選ばないだろう、だがそうでないならば……


「上等じゃねえか……! 四つ目だ! テメエの持つ力、事情ごと呑み込んでやろうじゃねえか!」


博打にみえるような選択だってしてくるわけだ。


「いい啖呵だ、俺の身の上聞いて腰を抜かさないでくれよ?」

(それじゃあ挨拶してやってくれツクヨ、声を出して、な)

<はーい、了解だよー>


先ほど作って出しっぱなしであった光球を消すと同時にツクヨを同じ場所に出す。

見た目的には何も変わっていないように見えるかもしれない、せいぜい光量が落ちた程度の物だろう。

だが、その場にいる生き物には違うことなど即座にわかることだ。

魔力を感知できずとも本能でわかるのだろう、自身より圧倒的な強者がそこにいることが。


「はじめまして、私は精霊(ジン)のツクヨ、よろしくね?」

「これが俺の事情、精霊付きだってことさ」


あまりにも予想外だったのだろう、二の句が告げられない様子のローグの顔はただの子供にしか見えなかった。

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