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夢の中

作者: 三日月

 窓から入る冷たい風で目を覚ます。部屋の中は薄暗く、パラパラと雨の降る音がした。壁に掛かっている時計を見ると、針は午前5時を指している。半分起こした頭をもう一度枕に(うず)める。ぼーっと天井を見上げながら雨音に耳を澄ませる。ふわふわとした感覚に吸い込まれて、まるで夢を見ているかのような気持ちになる。頭の中は真っ白で何も浮かんでこない。目を閉じて深い眠りの中にいる心地良い感覚を味わう。今日は何曜日だっけ。確か土日のどちらかだった気がする。こんなに早い時間に目が覚めるなんてついてないなぁ、といつもなら思うはずなのに、何故か今日は清々しい気持ちでむしろ得をした気分だ。

 眠りから目覚める前、何かの夢をみていた。空はほんのり白く霞み、太陽の光はやわらかく地上を照らし、温かい部屋の中でお昼寝をしている、という夢。わたしの隣には同い年くらいの男の子がいて、程よく筋肉のついた腕で優しくわたしの身体を包み込んでいた。今この瞬間を永遠に閉じ込めておけたらいいのに、と思うほど幸せだった。

 夢の中でした会話を思い出す。

「今日はずっとこうしていたい」

「うん、ずっとこうしてよう」

 彼は寝起きの顔でふにゃっと微笑み、緩んでいた腕に力を込め強く抱きしめる。わたしもぎゅっと強く抱きしめ返すと、彼は痛いよと言いながらも嬉しそうに笑った。

 幸せな光景に笑みが零れる。

 あの男の人は誰だろう。わたしには恋人なんていないし、想い人もいない。ただの願望の表れだったのだろうか。

 雨音が強くなっていく。

 ふと目を開けて我に返り、夢の中とは違う、今ひとりで眠っている現実が寂しいと感じている自分に気がついた。あの夢のように抱き締めてくれる恋人もいなければ、太陽のやわらかい光を浴びることさえできない。このまま時間だけが過ぎて、幸せなんてものは手に入らないのではないか、という不安がよぎる。

 明日になれば雨は止んでいるかもしれない。素敵な人との出会いだってあるかもしれない。今のこの不安な気持ちを無くそうと、再び目を閉じ眠りにつこうとした。しばらくしてから目を開け、時間を確認してみる。すると時計の針はさっきと同じ時刻、午前5時を指したままだった。慌ててスマートフォンを確認してみると、こちらも時計と同じ時刻を示していた。

 時間が流れていない。

 心臓がバクバクと音を鳴らす。とりあえず時間が過ぎるのを待とうと、毛布を深く被った。早く、早く。

 どれだけ待っても時間は動き出さない。本当にこのまま止まったままなのか。

 目の前が真っ暗になっていく。何もない世界に閉じ込められる、と感じた瞬間、パッと視界が開けた。

 明るい部屋、カチカチと時計の針が動く音。むくりと起き上がって辺りを見回す。隣にはスヤスヤと気持ち良さそうに眠る恋人の姿があり、時計の針は午前8時を指していた。

 あれ、どこからどこが夢だったんだ。今隣にいるのは、わたしの彼氏。でも、さっきまでは恋人もいないし、想い人もいないって思っていたはず。

 ぐるぐると混乱する頭を必死に動かす。

「ん・・?おはよう、もう起きたの」

 眠い目を擦りながら彼が起き上がる。その仕草をぼーっと見つめながら、わたしもおはようと返事をする。

「どうしたの?怖い夢でもみた?」

 彼は心配そうな顔でわたしの頬に触れる。その言葉で、いつの間にか自分が涙を流していたことに気がつく。まだ上手く働かない頭で涙を拭う。

 今が現実だ。

 大きな手で頭を撫でられ、その温もりと安心感でやっと心が落ち着いた。

「もう大丈夫。ありがとう」

 笑顔を向けると、彼は安心したように良かった、と呟いた。そして再びベットに寝転び、スヤスヤと寝息を立て始める。

 寝顔を見つめながらほっと息をつく。彼の頬に触れ、ゆるく閉じられた唇にそっとキスをした。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 素敵な作品ですね マーラーの交響曲第5番4楽章アダージェット聴きながら読むと良いですよ ゆっくりとね
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