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月夜烏は虹に舞う  作者: 遠藤紫織
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最年少の起用

三条早苗。チーム最年少十二歳。そして、チームに加入した時期も現状最も遅い。言わば新参者。こうして作戦に参加するのも今日を含めて片手で数えるほどしかない。

「気遣いありがとうございます。何とか元気にやれてる感じです」

「いや、気を使ったつもりはなかったんだが。まぁ、元気でやれてるなら、それでいいよ」

 この子の能力は使えるはずだ。

 それが今日、実際に任務を通して確認できるのは楽しみだ。

 見せてくれよ、最年少でチームに入ることになった上の奴らの采配ってやつを。

 離れた所で隊長が清羅さんと打ち合わせを終えた様子で、こちらに振り返る。

「集合だ」

 低く呟いた隊長の周りに一瞬でチームメンバーが集まる。

「皆んな、待たせてすまなかった。これから本作戦の概要についてブリーフィングを行う」

 さっきまで各々、暇を持て余してたチームメンバーの空気が変わった。

 早苗は明らかに緊張している。

 無理もない。まだ任務に直接関わったことはそう多くないのだから。

 それにブリーフィングはいつも緊張感が伴う。今や情報はれっきとした武器だ。ここでの情報共有の有無で作戦が成功するか失敗するかは大きく変わる。

 危険な任務ともなれば命を落とす可能性だってゼロじゃない。その落とす命は自分かもしれないし、チームメンバーの誰かかもしれない。

「冬樹は今日も来てないっと。そろそろあいつにも現場に出てもらわないとな」

 隊長は困った顔で頭をかく。

 今回は一人を除いてチームの全員が参加している。

「柊さん、あいつはいいですよ。自分の実力にあぐらをかいてる奴なんて……」

「今度は俺から注意しておくから、また仲良くしてあげてくれな?」

「柊さんがそういうなら……」

 苦言を呈するメンバーの一人を隊長はなだめる。

「さて、作戦の説明を始める。今回の作戦内容は事前に通達した通りだ。貴族、市原ケイジの夜間の動向調査だ」

 先ほどまでの緊張感がまるで消えたように赤茶色の頭のチャラチャラした男が言う。

「どうせ、女でしょ。お・ん・な!貴族の方々は節操ないからな。家を守るーだの、子孫繁栄だーだの、そんな大義名分並べれば何でも許される――」

 ポカッと軽快な音で男は頭を叩かれた。

「いったいな。何すんだ、花宮」

「了、やめなさい。ブリーフィング中でしょ。それにサナちゃんもいるんだから……」

 隣に立っていたミディアムヘアの勝気な女が腕を組んで注意する。

「チッ、わるかったよ。早苗ちゃんもごめんね」

 男はまったく悪びれることのない笑顔で両手を合わし、早苗に謝罪する。

「こんなやり取り慣れっこですから、大丈夫です」

 早苗は苦笑いを浮かべて、俯き答えた。

 こういった難易度が低く感じられる作戦の時に話が脱線するのはいつものことだ。

 いつも了さんがふざけて花宮さんが止める。この光景を見るのは何度目だろう。

 一連のやり取りが終わったことを確認してから、隊長は言葉を続ける。

「メンバーなんだが、夜間の任務であるということ、貴族を対象にしているということ

 この二点から今回は少人数で行く。異論ある奴いるか?」

 皆、それそれ沈黙を保つ。

 それを肯定と捉え、柊さんは続ける。

「で、メンバーだが、俺、清羅、悠理、早苗の四人で行く。他はバックアップに回って欲しい」

 それに先ほどの赤茶頭の了が食ってかかる。

「ちょっと待って柊さん、それはないでしょ。早苗ちゃんはまだ子供だ。しかも今回は夜で視界も良くない。少し酷なんじゃないですか?」

 隊長は目を伏せる。

「無論、俺もこんな判断をしたくない。だけど、今回早苗を起用したのにはちゃんと理由がある。それにまだ子供? すごく残念だけどな、ここにいる者は例外なく皆、子供だ……」

 場が静まり返る。

 了を含めたチームメンバーの全員がそれぞれ目を伏せて沈黙する。

 そこで俺は今さっき隊長が言った一言が気にかかり、質問をする。

「具体的に早苗の起用理由をこの場で説明していただいてもいいですか?」

「分かった。大きく二つある。一つは先ほども話したように早苗の能力は今回はうってつけなんだ。今回はユウ、お前が早苗と組んでもらう。後でもう一度早苗とブリーフィングしておけ」

 まるでこの質問が俺からくることを想定していたかのようにすらすらと答えた。

 この人はどこまで俺のことを見通しているんだ。

「そしてもう一つが上からの命令だからだ。三条早苗を実践起用しろとな。今回の任務はそこまで難易度も高くないし、デビュー戦としてはうってつけだと上も判断したようだ。俺も清羅も今回は上と同様にそう判断した」

 なるほどな、そういうことなら合点がいく。

「分かりました。ありがとうございます。ブリーフィングの途中に止めてしまってすいません、続けて下さい」

 俺の言葉を柊さんは手で制す。

「他に質問がある者はいるか?」

 皆、沈黙する。

 隊長は総員を見渡し、声を張る。

「よし、これにてブリーフィングを終わる。詳細情報は改めて各自の端末に一斉送信する。必ず目を通してくれ。各々、準備はしっかりとするように。解散!」

 柊さんの一言を皮切りに各々が自分の成すことを成すべきため、足早に散った。

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