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月夜烏は虹に舞う  作者: 遠藤紫織
31/32

夜空に架かる虹

「どうしたさっきまでの威勢は?もうお前を排除して俺だけの世界を創る。安心しろ、天音もすぐにそっちに連れていってやる。愚図なお前は天音が必要だろ?」

 ずっと気になっていた。世界を創る、という言葉。

 隼介は、いや隼介たちは一体、早苗の千里眼(せんりがん)を使って何をしようとしているんだ?

「…………やめなさい」

「何だ天音、命乞いならもっと可愛い声でなけよ」

「…………同じことは二度言わないわ。これ以上は私が許さない」

 刀身が煌々と赤く輝く光粒子刃(フォトンエッジ)を強く握りしめて、天音が隼介を睨みつける。

「…………あと一つ、あと一つなんだから…………」

 満身創痍になりながらも天音はぶつぶつと一人で呟く。

 天音はまだ何か狙っているのか?

「もう幕引きなんだよ、お前たちの小賢しい剣技は見飽きた。来世があるとするならばそこでいくらでも手合わせしてやる」

 鳳切(ほうぎり)の切っ先を膝の位置に構え、居合の要領で天音に切り掛かってきた。

 まずい! 今の天音ではあの速度と威力では防ぎきれない。

 俺は必死に手を伸ばして、天音の前に風の障壁を展開する。

 膝立ちの天音の剣と隼介の横薙ぎの一閃とが激しくぶつかり、隼介が二歩後退した。

「ユウゥゥゥ!テメェェェッ!」

 隼介が怒り狂って咆哮する。

 俺はそんな隼介をどこか遠くの存在のように感じていた。

 自分の目に触る。

 今、隼介の動きを追えていた?

 しかも、速度や筋肉の動きや呼吸から威力も割り出せていた?

 目が活性化しているのか?

「クソがぁぁぁ!」

 怒りに身を任せた隼介の斬撃は俺に向かって一直線に飛んでくる。

 第七能力の発動が間に合わない!

 そう思った刹那、俺の正面に天音が割り込む。

「天音!」

「心配しないで、悠理」

 優しく俺に笑いかける天音は光粒子刃を胸の前に構えた。

 やめろ、今のお前にもう一度それを使うだけの余力は残ってない。

「何度だって使うよ、これからも悠理と過ごすために」

 天音の光粒子刃の刀身が白く輝きだす。

 だが、一度目とは比べものにならないほどの淡い光だ。

 ボロボロの傷だらけの身体でも、天音は声を振り絞る。

「…………御白鏡面(みはくきょうめん)ッ」

 白く輝く刀身を顔の前で高速で二回転させ、白色の盾を展開する。

 幾重にも渡る隼介の斬撃を切り伏せ、追加の一撃を加える。

 重く入った天音の一撃で隼介は大きく後方に跳ぶ。

「天音!天音ッ!」

 隼介との剣の打ち合いで、倒れようとする天音を胸に抱く。

 こんな細い腕で、こんな華奢な肩で、よく真剣を持つ隼介とやり合えたな。

「…………うぅっ、まだここで倒れるわけにはいか……ない」

「もういい!もういいんだッ!あとは俺が!俺がケリを着ける!俺が間違ってたよ、俺が終わらせる」

 この瞬間にも隼介は鳳切を夜空に掲げ、刀身から零れ落ちる黒い羽根を一身に浴び、回復をしている。

「…………立つよ、私も。二人で終わらせよう。悠理、見ててね、これが最後のピース。藍吏さん、ちゃんと悠理は強いですよ…………」

 体内光子がもうほとんど残っていないのか、天音の光粒子刃の刀身はとても淡く光っている。

 そんな光粒子刃を杖に天音は再度、立ち上がる。

「悠理、瞬きしちゃダメだよ?」

 俺は目元をごしごしと擦り、頷いた。

彩色明衣流(さいしきあかはりゅう)…………藍瞳麗寂(あいどうれいじゃく)

 天音は憂いを帯びたような藍色に刀身を染め、俺に背中を見せて剣技を始める。 

 十字を切るように突きをした後に、一回転してその十字を右下に切り払う。

 天音の背中には藍吏さんの面影がそっと写る。

 瞬きなど出来ようもない。

 やっぱり天音は天才だ、これ以上に流麗な動きで剣を扱える剣士は他に見たことがない。

 目の奥に藍色に光る火が灯る。

 視界が一気に広がる。

 この感覚は三年ぶりだ、世界の見え方がまるで違う。

 空気中に漂う光子の流れから、天音や隼介の身体や呼気から零れ落ちる光子のすべてに色づく。

 黒い羽根を吸収して、傷の癒えた隼介が立ち上がりこちらに向かう。

 天音は光粒子刃を地面に置き、俺の胸に両手をかざして白い炎を流す。

「これは…………?」

「一時的な回復だよ、あまり長く持たない」

「じゃあ、天音自身に使ってくれ」

「ううん、眼を取り戻した悠理に使わないと絶対に勝てない」

「そうか、天音がそう言うならきっとそうだ」

 優しい白い炎が俺に流れ込み、出血が止まり傷ついた皮膚が修復していくのが分かる。

「…………もう出来るよね?」

「ああ、もう迷わない」

 力を使い果たし、意識を手放す直前にいる天音をそっと木の幹に寝かせる。

「もう邪魔者はいない、手は使い果たしたはずだ。お前という存在をこの世界から葬る」

 鳳切を上段に構え、その刀身からは黒い羽根が燦々と零れ落ちる。

 対して俺の光粒子刃は赤く煌めく刀身を天音の白い炎が包み込む。

「御託はもういい、終わらせよう」

 何度目か分からない、俺と隼介は正面からぶつかり合う。

 隼介の刀が俺の剣と当たるときに黒い羽根が零れ落ちる。

 その羽根は俺の身体を蝕むように向かってくるが白い炎で浄化され消滅する。

「ガァァッ!」

「ハァァァッ!」

 満岡公園に白と黒の剣戟の光が散る。

 手数は得物が軽い俺の方が多い。

 だが、鳳切で身体能力がブーストされた隼介は俺の速度に追い付いてくる。

 眼を取り戻した俺は完全に隼介の動きを追えるし、次の動きを読める。

 ここは一歩踏み込んだ攻めをする!

 肩よりも高く振りかぶった隼介の間合いに剣を引いて踏み込む!

「ぬかったな、ユウ!」

「遅い!」

「なっ!」

 振りかぶった刀を下ろせず、俺の翡翠に輝く瞳を見て、隼介の顔が強張る。

 鳳切の太刀筋に風の障壁を張り、一時的に動きを阻害した。

「いくぞ隼介、これが俺の全力だ」

 心にどこまでも透き通る蒼穹を浮かべる。

 思い出の中の師範が俺に笑いかける。

 こいつを倒してもう一度、日常を取り戻す。

 皆んなの希望を背負って、ここで隼介を討つ!

「彩色明衣流!皆希虹天(かいきこうてん)!」

「うるせぇぇぇ!」

 俺が夜空に剣を突き上げるなか、隼介は鳳切から零れ落ちる黒い羽根を右腕に集める。

「彩色明衣流ゥ!喪滅黒刻(そうめつこくこく)

 お互いが持ちうる最高の技がぶつかり合う。

 俺は七色の剣技を始める。

 右上段からの斬撃は黒い羽根によって威力が殺されたが、続く二撃目の左上段からの斬撃で今度はこちらが隼介の技を相殺する。

 駄目だ、喪滅黒刻にはあと三連撃残っている。

 俺の今の第七能力の出力じゃ、あれは止められない!

 身体を回転させ、左から横薙ぎの一閃を放つが鳳切を縦に構えられた隼介に軽々と受け止められる。

 まずい!技が止まる!

 地面を蹴り、自分の刀身に蹴りを打ち無理やり膂力を上げ、押し切る!

 面を食らった隼介に再度、回転し遠心力を用いた横薙ぎの一閃を放つ。

「ハァアアァァ!」

「止まれェ、ユウゥ!」

 隼介は真っ黒な軌跡を描いた斬撃で俺の四撃目とつばぜり合う。

 眼の力を使って、鳳切で一番力が乗っていない箇所を見切り、そこに剣を滑らして競り勝つ!

「てめえぇぇ!」

「お前とは見てる世界が違う!」

 喪滅黒刻の突きと切り上げを俺は一撃で切り伏せる。

 技の反動で攻撃が止まった隼介は俺の残り二撃を避けるため、宙に身体を浮かす。

 隼介それは悪手だ、空は俺の領域だ。

「逃がすかァ!」

 第七能力で足元に風の奔流を作り、隼介を追って夜に駆けた。

 無防備に身体を晒した隼介をさらに切り上げる。

 風の障壁を展開、それを駆けあがり隼介の真上を位置どる。

「これで終わりだァァァ!」

「ガァァァァァッッ!」

 身体を縦に一回転させて最後の七撃目を振り抜いて、隼介の胸を大きく切り裂き地面に叩きつけた。

 空でそれを見届けた後に地面に風の膜を張り、落下の際のダメージを軽減し、ふわりと着地した。

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