彩色の三人
「逃げた!逃げた!悠理、追うよ!」
「ああ!」
俺ら二人を視認して、ファルコンは脱兎のごとく駆けだした。
くそっ! ここで取り逃がしてたまるか!
反重力を弱めて、高度を落とし、ファルコンの後ろをピッタリとついていく。
俺も先ほどの天音と同じように銃をホルスターから、抜き取り四発撃った。
三発の弾丸はファルコンの脇に逸れたが、一発はファルコンに向け飛んでいく。
ファルコンは警棒を使うことなく、ハードルを飛び越える要領で、俺の弾をよける。
「もう!下手っぴ!銃の使い方習わなかったの!」
言われたい放題だ。
天音の言う通り、俺は銃の扱いが本当に下手だ。一般人とまではいかないが、素人に毛が生えた程度に上手くない。実は自分でも結構気にしている。
「貸して!」
俺は天音の前に出て、銃を手放す。
慣性の法則を使って、真後ろの天音の右手に俺の銃が収まる。
銃を手放した俺は再度、高度を上げて、天音の射線から外れる。
数秒のうちに七発の弾丸が天音の両手に構えられた二丁拳銃から撃たれる。
これでファルコンを一度、止められる!
俺は止まったファルコンに一撃を加えるため、光粒子刃を起動して、追撃に備えた。
「足りないね……」
ハッタリだ、俺は光粒子刃に光子を流し、出力を上げる。
ファルコンはそっと呟く。
「……蒼燐花月」
ファルコンは撃たれた七発のうち、二発を身体を回してよけ、四発を蒼い軌跡で描かれる横八の字の剣戟で払った。
ここで彩色明衣流の蒼燐花月を使ってくることは読めている。
だが、一発分足りないはずだ。
俺は反重力を切り、自由落下のままに光粒子刃を振り下ろす。
「言っただろ、足りないって」
腹に凄まじい衝撃を受けて俺の身体が再度、空に上がる。
何が起こった?
「う、うそ…………」
これ以上高く空に上がらないように、第七能力で空気の壁を作り、体制を立て直す。
強い衝撃を受けて、上がった砂ぼこりが徐々に晴れていく。
ゆっくりと晴れていき、見えたファルコンの足元には、天音の撃った七発目の銃弾が埋まっていた。
「こいつ、どんな反射神経してるの…………?」
露骨に狼狽える天音を横目に俺は先ほどの攻防を冷静に振り返る。
最後の七発目、蒼燐花月で振り切った警棒の刀身ではいなせないと即座に判断して、グリップエンドで叩き落としたのか……。
何て状況判断してやがる…………。
ファルコンは自分で叩き落とした弾丸を天音に蹴り飛ばし、もう一度背を向けて駆けだした。
「遠距離での攻撃の効き目は弱い。近接戦闘でケリをつけよう」
俺と天音は地に足をつき、駆けだしたファルコンの背中を見つめる。
インカムのチャンネルが合う。
『笹宮少年、紺野少女。このまま目標を追跡。余計なことはしなくていい。ただ目標の足が止まるのを待て』
「「了解」」
もう一度、反重力を発生させ、低空飛行でファルコンを追い始める。
ファルコンの移動速度は先ほどよりも遅く感じる。
「気づいてるよな?」
「うん」
「黙って付いていこう」
明らかにファルコンは俺たちが付いてこれる速度で走っている。
全力を出せば、逃げられる可能性があるのに。
俺ら二人をどこかに連れていこうとしているのか?
それから俺らは数分、追いかけっこに興じた。
開けた場所に出た。
そこでファルコンの足が止まる。
ここは…………満岡公園。
陸上トラックほどのスペースを有し、休日はカップルや家族連れが遊びに来るような公園だ。春には満開の桜を目当てに花見にくる人も多い。多くの街灯で照らされてはいるものの日が落ちてきた満岡公園は昼の喧噪とは比べものにならないくらい異様な空気を放ち、不気味だ。
ファルコンは首を鳴らし、俺らに背を向けたまま言う。
「昨日に懲りず、今日も俺に倒されに来たか、笹宮悠理……」
「昨日とは違うぞ、ファルコン。今日、倒されるのはお前だ」
ファルコンがこちらに振り返ろうとする。
俺と天音は腰に下げた光粒子刃のグリップに手を掛け、攻撃に備える。
「…………女連れとは、呑気なもんだ。お前はいつも……」
「呑気に振舞っているのはどちらか証明してやるよ…………それにお前はこいつの実力をよく知っているはずだ」
ファルコンが天音に視線を移す。
少しでも動揺が見えたら、そこを逃さずに攻める!
「…………さぁな、知らないな。メスのヒナ鳥が一匹増えた所で何も状況は好転しないぞ」
「分かった、もういい。倒されろ、ファルコン。次にお前とゆっくり会話するのはお前が目覚めてからだ」
腰を落とした姿勢で、光粒子刃を逆手に持つ。
威力よりも当てることに重きを置いた斬撃を直線に駆けて、穿つ。
彩色明衣流。
「楓緑迅」「黄牙」
緑と黄の輝きを帯びた剣戟がお互いの中間地点でぶつかり合った。
やはり、黄牙で来たか。
速度のある楓緑迅を止められるのは単発である黄牙くらいしかない。
斜め上から斬り下ろそうとする俺と身体を大きく開き、下から上に俺の剣を返そうとするファルコン。
上からの攻撃で体重が乗っている俺に分があるはずだ。
押し切る!
「はぁぁぁぁッッ!」
「…………軽い」
ファルコンの放つ黄色い軌跡を描いた剣戟で俺は持っている剣を軸に宙で横に回転し、重力に従い自由落下を始める。
天音に視線を配り、合図する。
狙い通りだ。
宙で再度、身体を折り技の発動に備える。
蹴り出し、威力をブーストさせるための風の足場を第七能力で即座に構築する。
彩色明衣流。
「楓緑迅、エアロ!」
俺の剣戟はファルコンの面の中心から肩に命中。
すぐさまバックステップで損傷を軽減しようとするファルコンに天音の追撃も左腕に命中した。
宙から落ちた俺は前回り受け身を取り、背中を向けたまま伸ばしている天音の手を取り、立ち上がる。
「流石は天音。俺の考えることは筒抜けか?」
「何年一緒にいると思ってるの。それよりも奴を見て、まだあれくらいじゃ全然沈む気配ないよ」
天音にやられた左腕は力なく垂れ、俺の一撃でヒビが入った面を警棒を持ったままの右手で押さえている。
「エアロか……お前にしか出来ない戦い方だな。正直、読み切れなかった。だが、次はない」
身体を震わせ、面の下で下卑た笑いをしてこちらを見てくる。
それにしてもあの圧倒的なまでの俺との筋力差は何だ……?
体格さは無論ある。だけど、それを差し引いてもおかしなまでの膂力を剣戟から感じた。
「ねぇ、もう気づいてるでしょ? あなたは一人、こっちは二人。数で上回っている上にこっちは無傷、あなたは手負い。もう勝ち目なんてない。大人しく投降しなさい」
「…………投降か、するのはお前たちの方だ!」
割れた面などお構いなしに今度は天音にがむしゃらに突っ込む。
正面からの立ち合いで天音が後れを取ることはまずない。
そう判断した俺はファルコンの背後に周り、うなじに光粒子刃を当てようと振る。
ファルコンは動物的本能で俺の動きを察し、蹴りで俺の剣を止めた。
足に攻撃が通らない?ゴムをふんだんに使用した素材で作られているのか?
蹴りの力で大きく後退したが、もう一度蹴りを避けるように距離を詰める。
その間に天音とファルコンが打ち合う。
「お前のそのすまし顔が気にくわないんだよ!」
「…………」
天音はファルコンの力任せな乱暴な剣戟を歯牙にもかけず、流麗な剣さばきと脚運びで威力を殺し、首だけを見据えて、剣を振った。
瞬間、ファルコンは後方に回転しながら跳び、俺と位置が入れ替わる。
まずい!
俺と天音の光粒子刃が重なり、刀身から光芒が溢れ落ちる。
意図せず起きたつばぜり合いの中で、俺と天音はアイコンタクトをして、それぞれ右に切り払い、ファルコンの背中に身体を向ける。




