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月夜烏は虹に舞う  作者: 遠藤紫織
13/32

天才たちとの会談ともう一人の天才

「今日、君たち二人に来てもらったのはこのファルコンなる犯罪者を指定目標に据えて、捕縛して欲しいからなんだ」

 俺と隊長は目を丸くし、もう一度深く代表の(あか)く澄んだ瞳を見据える。

 藍吏(あいり)さん、のぞみさんの二人は黙って紅茶に口を付けている。

 あらかじめ代表からそういった旨の内容を聞かされていたのだろう。

「やってくれるね?」

「はい、無論です」

 隊長が即答した。

 え?俺の意見聞かないの?

 隊長は晴れ晴れとした顔で言葉を並べる。

「元々、我々の関与した案件だったので、僭越ながら代表からそういったお言葉をいただけなければこちらから打診する所存でした。快くその任務天方、笹宮が引き受けさせて頂きます」

 えぇ……。

 何だこのブラック上司。

 俺の意見ガン無視じゃん。

 ちょ、やめろや、なに固く握手なんかしちゃってんの?

 やりたくないよ、俺。

 早苗の千里眼(せんりがん)なんか使わなくても、またボコられる未来が見えるんやが。

 俺だけこの場で置いてけぼりなんだけど、クラスだけじゃなくて、組織でもハブられたら俺いよいよ居場所ないんだが?

「ん?どうしたユウ。エサ待ちの鯉みたいに口開けて。何か不満があるのか?あったら言ってくれ」

「あ、いや。何でもないです……」

 言える訳ないだろ。こんな超アウェーな場所で。

 完全に同調圧力に負けた。日本人であるが故にノーって言えないんだな、俺は。

 いや、日本人だからじゃない、何処の国の人もこの状況は断れないよな。

「さて、話を詰める前に今回の任務から参加してもらうもう一人のメンバーを紹介しよう。笹宮くん、君は若いながらも適応力に優れどんな相手だろうと、支障なく任務をこなすことができると天方隊長から聞いているよ」

 隊長は俯いて必死に笑いをこらえている。

 この上司は……。

 この一件が落ち着いたら、絶対に相応の報酬をこの人から受け取ろう。

「はい、自覚はないですが、そう評価して頂いているのならば、それに見合った行動ができるよう尽力致します」

 紅隴(くろう)は俺の言葉に頷き、俺たちが入ってきた扉に顔を向ける。

「もういいよ、入っておいで。天音(あまね)

 ガタンと椅子が後ろに倒れる。

 動揺して、立ち上がった拍子に倒してしまった。

「あま…………ね……?」

 悪い冗談だと信じたかったが、天音なんて珍しい名前の人物はそうそう多くない。

 俺の心の準備など微塵も待たずに、扉が音を立て、ゆっくりと開いていく。

 俺と同じくらいの背丈、胸元まで流れる全ての色を吸収してしまうような黒髪、澄んだ漆黒の瞳。

 見知った同級生の女子――紺野天音(こんのあまね)がそこには立っていた。

 俺らが通う穂倉市立紫葉学園中等部の制服に身を包んだ天音はこの場をはじめから知っていた感じでまるで動揺などしていない。

 背筋を伸ばし、凛とした表情を浮かべる天音からはこういった会議などの場慣れを感じさせる。

「失礼します。紺野天音入ります」

 紅隴を見つめ発した声は室内全員に通る。

 隊長は俺の方を一瞥し、微笑を浮かべる。

「モテる男は辛いな、ユウ」

「……気持ちの整理が追い付いていないので少しお静かにお願いします」

 予想外の出来事の連続で今は隊長の言葉一つ返す余裕が無い。

「よく来たね、天音。笹宮くんの隣に座ってもらおうかな」

「はい、失礼します」

 軽い会釈をし、静かに俺の隣に腰掛ける。 

 天音の着席から、ひと呼吸おいて紅隴は天音に手をかざして、言葉を続ける。

「紹介するよ、彼女の自己紹介にもあったように名前は紺野天音。歳は笹宮くんと同じ十五歳だ。第七能力はまだ粗削りだが、戦闘能力――こと剣技においては他の追随を許さないほどの練度だ」

 嫌というほど、良く知っている。

 家が近所で、小学校も通ってた道場も同じ、中学でも同じクラスだ。

 この場では間違いなく俺が彼女をより深く理解しているだろう。

 だが、半生を共に過ごしてきたと言っても過言じゃない俺がただ一つ分からなかったことがある。

 それは――天音が第七能力保持者(セブンスホルダー)であるということ。

 天音、お前の第七能力(セブンス)はいったい――。

「おい、笹宮少年。思春期ゆえ生殖適齢期の異性に発情することは悪いことだとは言わんが、場をわきまえてくれたまえ」

 向かいに座る天才がテーブルに肘を付き、俺に小言を飛ばす。

「ちょ、違いますよ!」

 それを見て隊長と藍吏さんの二人はクスクス笑っている。

「まぁまぁ、仲が良いのは良いことじゃないか。私も二人がこれから上手くやっていけそうで安心したよ。では早速、本題の作戦内容に行こうじゃないか。藍吏、よろしく」

「はい、代表」

 藍吏さんが手元のリモコンを操作すると、さっきまで映像が映っていた所に図が写された。

 アニメ風に可愛く目や輪郭がデフォルメされた俺と天音と隊長――ともう一人の顔が前方の壁の右半分に投射される。

 壁の左半分には敵であるファルコンまでもが可愛いイラストで描かれている。

 あの一際幼く描かれているロリは誰だ?

「もう一人は早苗だな」

 隊長はこちらに振り返ることもせずに、ボソッと呟く。

「ご名答です、天方隊長。それでは本作戦について説明致します。まず目標は敵勢力――今回はファルコンの捕縛です。そのため、彼を補足する必要があります」

 皆、藍吏さんが淹れてくれた紅茶にはまるで手を付けない。

 ただ話に耳を傾け、スクリーンに集中する。

 藍吏さんは奴を補足する必要があると言った。

 だが、俺は前回の戦闘で奴を取り逃がしてしまった。

 それなのに一体どうやって……。

 深く考え、スクリーンに写るもう一人を見て気付いた。

 目を開き、顔を上げる。

「――っ、そのための早苗!」

 藍吏さんはこちらに目を配り、説明を続けた。

「ティーンズの方々は聡明でいらっしゃるので、スムーズに理解していただき助かります。その通り、早苗さんの第七能力――『千里眼』を使ってあぶり出します」

 藍吏さんが手元のリモコンを操作するとスクリーンに写る早苗の顔からエコーロケーションのように同心円状の波が広がり、ファルコンの額には汗マークが浮かび、右上には!と表示された。

 イラストとか演出とかやけに凝ってんな。

「その後、補足したファルコンを笹宮、紺野両名が捕縛という流れです」

 俺と天音の顔がファルコンの顔に近づき、煙をもこもこと立てて、ボコボコにするアニメーションが流れる。昭和かよ。

 俺が目がバツで描かれたファルコンを縄にかけ、天音が背中を踏んでいるイラストでアニメーションは終わった。

 重要な戦闘描写がすげぇ雑だし、最後の天音のイラストには悪意が感じる。

 映像を隣で見ていた天音の表情も曇っている。

「一通り説明致しましたが、ここまでで何かご質問等ある方いらっしゃいますか?」

 スクリーン脇に立つ藍吏さん以外の四人は各々、納得した様子で黙っている。

 俺は疑問点があるので素直に挙手をする。

「笹宮くん、どうぞ」

 起立し、藍吏さんを見つめる。

「藍吏さん、ご説明ありがとうございます。作戦の概要は大方把握しました。それを踏まえて質問します」

 この場の視線が俺に集中し、次の言葉を促す。

「一つ目、フェーズ1の補足の要である早苗がこの場に出席していないのはなぜですか? 

二つ目、柊さんが図示されているにも関わらず、本作戦で動きが見られないのはなぜですか?」

 そして、最後にあまり自分では言いたくないが最大の不安事項を告げる。

 言う前に少し身体が震えたが、息を大きく吸って上手くごまかした。

「そして、最後に俺がもう一度ファルコンと戦闘するんですか? 一回負けてるんですよ? 自分で言うのは心苦しいですが勝算が低いのですが……」

 言い終えた後、力の無い自分が情けなくてもう一度座ることが出来なかった。

「お答えします。まず、早苗さんがこの場にいない理由ですが、それは眠っているからです」

 は?

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