許しを請う
ダルマが主人公の四コマ漫画を描き終えて、すぐに財布とタバコを手に取り、飲みに出掛けた。
「あら、ヤスさん」
「どうも、今日もつまらない漫画を描いてきました」
「お疲れ様でした」
ママが僕におしぼりを渡してくれる。それで手を拭いて、ビール、と言うと、いっちょまえに仕事をした気になる。カウンターの中で、ソラという名前の若い女がグラスを磨いている。あのダルマの漫画で出版社は納得してくれるだろうか、と考えていると、ビールが出てきた。ビールはいつも同じ色をしているな。僕は半分くらいを一息に飲む。しみる。
キムラが店に入ってくる。タイミングが悪い。先生もいらしてましたか、とキムラは言った。僕は左手を上げた。この男は出版社に勤めているから、無碍にはできない。この男もそれを心得ているかのように、僕の横に座ってくる。キムラが、ビールを、とママに注文した。
「先生、今回はどのような物を描かれてるんですか?」
「ダルマが主人公の、ブラックユーモアに富んだ作品ですよ」
「またダルマですか」
キムラの元にビールが届き、それをほんの少しだけ口にした。この男はビールをちびちび飲みやがる。僕はタバコに火を付けた。
「それにしても、先生のこの頃の作品の出来はひどい物ですよ。話はつまらないし、ダルマのことばかり描いているのに、そのダルマの片目を描き忘れたりもしている! 先生の作品を雑誌に載せ続けるのは、そうですね、希望ですよ、希望。こんな物が載る雑誌もあるのだという、生きていていいんだという、そういう物を人は無意識に求めてるんですよ」
この男は悪魔かもしれない。急に声を荒げて、おかしい。
「この前も先生の作品に関して電話が……」
「おい、これ以上コケにしたら許さないぞ! 俺は今ビールを飲んでるんだ!」
ママと、ソラと、目が合う。大きな声を出して、ごめんね。