ギルド
「大きい建物ですね…」
「なんせ商人と冒険者の街だからな、冒険者が多いからギルドもその分大きくなる」
「そういえばキール君も自分もここで登録しましたねぇ」
「私は聖刻国で登録しました、出身もそこなんですよ」
ちなみにギンリュウさんから教えてもらったが聖刻国とは所謂宗教が国の7割ほどの実権を握っているらしい。治安は近隣国で一番いいとか、ファンタジーで宗教って結構あれなことが多い気がするけどこの世界の宗教はどうなのだろうか。ちなみに国によっては登録するのに何でも祖父の世代までの血筋を調べるところがあるのとか、警察でいうキャリア組みたいな扱いになるのかもしれない。
「まぁこの街だとろくに調べたりしないからな、楽だ」
「前科がある者でも登録できますからね。冒険者ばかりのこの街で何か起こそうと言うものは中々いませんけども……おっと立ち話でもなんですから入ってしまいましょうか」
「そうですね」
ギルドに入ると木製の床に机、どうやら簡易的な酒場も併設しているらしく木製のジョッキで酒らしきものを飲んでいるいかにも冒険者らしい男たちがいる。
妙に荒くれ者といった言葉が似合いそうな男達はこちらに気が付くと手を挙げてニカッという言葉が似合いそうな笑みを浮かべる。そのうちの一人は席を立つとボク達に、正確にはキールさんに話し掛けてきた。
「よう坊主、まだ生きてたか!」
「うるせぇよカマセ」
気安い仲のようでキールさんは頭をぽんっと叩かれるがその手を払いながらも笑みを浮かべながら受け答えしている。大分仲がいいようだ。
カマセと呼ばれた男性はボクのことを見つけると意外なものを見たという顔をした。そのままセシリアさんに顔を向け、ボクの方に手を指しながら聞く。
「お、セシリアの所。新入りが入ったのか?」
「いずれはその予定ですがまだ冒険者ではないんですよ。いろいろ事情はあるのですが今度お話しますね」
「…シェリーです。よろしくお願いします、カマセさん」
「ぶふっ」
とりあえず名前が分からなかったのでキールさんが呼んでいた名前を呼ぶとギンリュウさんが噴き出した。セシリアさんもあははと苦笑いをしている。カマセさんは額に手を当て溜息を吐くとキールさんの頭を拳をぐりぐりと押し付ける。
「嬢ちゃん、俺の名前はカーマ・セイーヌって言うんだ。決してカマセではない」
「いででででででっ」
あ、カマセって噛ませ犬みたいで酷いなって思っていたら名前そうなっていたんだ。というか名前も横棒を抜いたらカマセイヌだし、というかこの世界に嚙ませ犬って言葉あるんだ。
「改めてよろしくお願いしますカーマさん、シェリーです、魔法を使うことを得意としています」
「おう、改めてカーマだ。一応ここでのまとめ役ってことになっている、何かあったら聞いてくれ。簡単なことなら教えてやれるぜ」
そういって笑う、兄貴っぽい感じだろうか。
するとカーマさんは受付の方をチラッと見ると私達を自分が先ほどいた席へと誘導した。ボクも受付の方を確認するとパーティーらしき人達数組を対応しているらしく忙しそうだ。
「受付を見る限り少し待つことになりそうだしギルドや冒険者について教えてやろうか?」
「…ではお願いできますか?」
「俺達は今回のクエストを報告してくる」
「お金は気にしなくていいのでこの人に奢ってもらってください」
「変なことをされたらすぐに叫ぶんですよ!」
「しねぇよ!」
カーマさんがそういうとセシリアさん達は笑いながら受付の方に向かう、ボクを普通に預ける辺り信頼はされているようだ。席に着くとウェイトレスさんを呼び留めた、メニューらしきものは壁にかけてあるのだがよく分からないので軽い物と適当な飲み物を頼んでもらった。お金は本当に奢ってくれるらしい、いいのかと聞くと先輩からの投資だ。だそうだ。
「始めは何から説明するか…このギルドからにするか。ギルドとは冒険者と呼ばれる者達の仕事の斡旋や食事の提供、それに宿泊施設も兼ねている」
「宿泊施設?」
「ほれ、そこを見てみろ」
指を差された方を見ると二階に登るらしき階段がありそこからは武器や防具のない先ほど街で見た服を着た人達が談笑しながら降りていた。宿としての役割もあるのか、大きな建物だし部屋も多いのかな。
「冒険者なら安くなるし家がないやつがここで依頼を受けながら住むということもある。食事もな」
ふむ、カーマさんが食事を奢ってくれるのは安くなるからというのもあるのか。厨房や受付のお姉さん綺麗だなーって思っているとカーマさんはカードを取り出した。恐らく冒険者カードと呼ばれるものは知っているのだがカーマさんは何故かカードの表面を何度かなぞり、ボクへと差し出してきた。
「それは冒険者カードですか?」
「流石に冒険者カードは知っているか、まぁこれを見てみろ」
「…? っ、これは」
少し前に見たキールさん達の冒険者カードとは違い、項目が増えている。
「適正武器…?」
「あぁ、前に見たのと違うだろ? これは能力表記と言ってな。簡単に言うと適性のある武器と身体能力をある程度のランク付けして表記してあるんだ、下からF,E,D,C,B,A,Sの順番で順位付けされている。で、その中で特に適性の高い武器三つがカードに表記される。まぁランクは表記されないしどのぐらい強いのか分からないがな」
カードには無理矢理日本語に翻訳すると『適性:両手剣>拳>槌』と書かれており。あとキールさん達のカードになかった『LEVEL:Ⅺ』という表記、ボクの目で見ると数字の部分がローマ数字に見える…つまりレベル11と言うことだろうか。
「おっと、段位も普通は見れないんだったな。レベルについては…そうだな、まず経験について説明しないとな」
と言ったところでウェイトレスさんが料理を運んでくる。見た感じサンドイッチとアップルジュース…あ、さっきの林檎もどきかこれ。
「ビュッフェサンドとアリンジジュースです」
「おう、サンキュ」
「ありがとうございます」
「ごゆっくりどうぞ」
ウェイトレスさんはそういうと笑顔で去っていく、サービスいいなぁ…。
「食いながらでいいから聞いてくれ。経験って言うのは魔物や戦うことという未知なことなどを経験することで得られる…得点? みたいなものでな、個人差はあるがある程度経験が貯まると段位と言われる肉体の上限が強化されるんだ。簡単に説明すると段位が低い…例えばⅠからⅢほどの者がナイフで俺を刺したとしても俺に傷一つ付けることが出来ない」
「カーマさんは強いんですか?」
ビュッh…言いにくいからサンドイッチでいいか、話を聞きながら食べると瑞々しい野菜とジューシーな肉が挟んであり。美味しい、というか両方とも新鮮だ。アリンジジュースと言われたものも美味しいオレンジジュースみたいなものだし。とりあえず口に合ってよかったどころかもっと色々食べたいぐらいに美味しい。
食べながらカーマさんに質問するとカーマさんはニィッと笑みを浮かべてどや顔のような物を決める。
「これでもこの街でまとめ役やってるんだ。弱いんじゃ勤まらないぜ」
「おぉ…」
とても自信ありと言った感じだ、というかレベル11でそんな感じなのか…。ゲームとかだと99とかが上限だけど…。
「ちなみに歴史上最高段位は段位38だ。現在では人族の限界段位は40と言われている」
…最高が40なら11は確かに高い。こういうものは後半上がりにくくなるものだし。
「この街の平均は7~8ぐらいと聞くな、冒険者の街だからもしかしたら俺よりも高いやつはいるかもしれないが」
「他の人の段位も分かるんですか?」
「いや、この街を拠点にしているやつで段位が分かるやつは俺を含めて片手の指の数で足りる。俺のカードは特別性でな、本来は適正武器ぐらいで段位や能力表記は分からない」
「でしたらどうして…」
「まとめ役、所謂ギルドリーダーって役職を持っていてな。ある国でその役職を貰い、特殊な冒険者カードを貰えるんだ。その冒険者カードではレベルというものを確認することが出来る」
…と、いうことは本来は段位と能力表記は分からないのか。自分がどれぐらいか気になったけど調べられないなら仕方ないか、カーマさんの能力表記が分かるのはボクとかに教えられるようにとかかな? 国の名前も言わずにある国と言ったのもその国のことをあまり教えてはいけないとかあるのかもしれない。
「おいシェリー、受付空いたぞ」
「…ちょうどいいな、教えられるのはそんな感じだ」
「はい、色々と勉強になりました。ご飯もありがとうございます」
「おう…嬢ちゃんはそのままでいて欲しいなぁ…」
キールさん達に受付が開いたぞと声をかけてもらい、礼を言って席を立つとカーマさんはそう呟きボクに手を振った。よく分からなかったがボクはぺこりと頭を下げ受付に向かう。受付に向かうとキールさん達と受付嬢らしき綺麗な女の人が立っていた。
「ようこそ、ギルドへ。ご用件は何でしょうか?」