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弥勒門財閥、陥落す 2


「治療だと……不埒者が何を言うかッ!」


 響兵衛が、後期高齢者と言う年齢を感じさせない俊敏な動きで俺に襲いかかった。

 しかも、枕元に忍ばせていた短刀で俺の心臓を正確無比に狙い、


 ばきっという音と共に刃が折れた。


「えええええ!?」

「うわあああああ!? 我が家に伝わる短刀があああ!?」


 あ、危なかった。

 いやあサボらずに念動力の訓練もやってて良かったわ。


 俺の持つ最強の超能力は催眠だが、自分の身にバリアを張ったり鉄パイプを折り曲げたりする程度の念動力も使える。最強の念動力の使い手には遠く及ばないが、基本的な超能力スキルは習得しているのだ。


 とはいえ、そんなことなど響兵衛氏は知らないだろうし説明する暇もない。

 鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしている内に済ませてしまおう。


「あー、話を戻しましょうか。華や響子さんを始め、あなたを含めた弥勒門一族みんなの心を癒やしたいだけなんです」

「世迷い言を……」

【落ち着いてベッドに座って】

「ぐっ……」


 俺はそもそも華を救うために行動している。まず華を追い詰めたのは、響子さんだ。だが、響子さんを催眠して話を聞き出したところ、彼女にもまた重すぎる心の傷があった。


 そこからはまるで、すごろくのようなものだった。響子さんに心の傷を与えた人間を聞き出して、その人間に催眠を掛ける。だがその人もまた別の一族の人間から受けた傷がある。あっちへ行き、こっちへ行き、その過程で様々な人の心の傷を洗脳・催眠で癒やしたが、根本的にストレスの原因となっている人物が活動してダメージを振りまいていては俺の催眠も効力が薄れる。学校へ登校してきた華のようにただ消耗してしまうだけだ。


 そこで俺は弥勒門一族のトップ、響兵衛氏をなんとかすべきと結論を出した。この人を何とかすることが巡り巡って華の現状を解決することになる。


 それに響子さんの心の傷が癒えず認知が歪んだままであれば、華を虐待したことへの罪の意識さえもよくよく出てこない。ここは華と同様に真人間に戻ってもらい、真人間らしく、かつ、肉親として、罪の意識を感じてもらわなければ華が可哀想だ。


 まあ、強力な洗脳をかけて一族全員を華に都合の良い人格に改造してやっても良いのだが、そうしてできあがるのはネジの外れたロボットのような薄っぺらい人格だ。もはや人殺しと変わらない。


 それに、薄っぺらい人格になれば薄っぺらいことしかできなくなる。本人の持つ能力も消え去り弥勒門財閥は遠からず潰れることになるだろう。社会的な影響がデカすぎる。俺の超能力は、現代社会で大盤振る舞いするには強力すぎるのだ。慎重かつ繊細に行使しなければならない。


「あなたが一族の人間を虐げ、利用し、束縛する。だがそれもまたあなたの心の傷の問題だ。安心して下さい。目が覚めればきっと気分爽快ですよ。まあ、罪の意識に苛まれて罪滅ぼししたくなるかもしれませんが……」

「誰か……誰かおらんのか……」

「警備員については全員深く眠っています。あなたのご子息ご息女、ご親族については全員どこか病んでいたので治療させてもらいました。あなたが最後だ」


 そう言って俺は、自分の手を響兵衛氏の額に当てた。

 この人の心、そして記憶を探っていく。

 華以外の人間のプライバシーに配慮するつもりはあまりないし。


 ふむふむ……あちゃー、この人の経験も壮絶だな。

 若かりし頃、戦後の動乱期で地獄を見てきたようだ。

 多くの人に裏切られたり裏切ったりしつつ、それでも生き抜いてきた。

 そのために猜疑心と上昇意識があまりにも強い。


 だが、安心したこともある。

 この人に心の傷を負わせた人間はほとんどが故人だ。

 まあそりゃそうだよな。この人の年齢を考えたら。


「あなたの場合は華と違って追い詰めてくる人間などいない。あなたさえ直せばこれで全員分の治療が完了だ。少々大人しくしててくれ」

「や、やめろ……!」

【怖いのであれば、あなたを守ってくれる人、あなたに優しくしてくれた人のことを思い出して。もう忘れた? そんなはずはない……そう、ゆっくりと思い出して】


 俺が語りかけると、響兵衛氏の目がとろんと寝ぼけたようになった。

 よし。

 それじゃあ本格的にやりますか。


「えいっ」


 俺の手が、つぶりと響兵衛氏の頭の中へと沈んでいった。




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