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モンスタークレーマー幼馴染VS催眠能力 4




「よし、と……」


 保健室のベッドに華を横たえると、華はすぐに寝入った。

 心なしか、さっきよりホッとした表情をしているように見える。

 だが安心はしていられないな。

 原因をとにかく探らなければ。


「え、ええと……彦一くん、大丈夫?」


 そこに、おっかなびっくりに声をかけられた。


「うおっと!? 誰だ……って、ああ」


 背後から俺に声をかけたのは、地味な感じのショートカットのメガネっ子だった。

 背も小さく小動物的なオーラがある。

 確かクラスメイトだったはずだが、名前なんだっけ。


「砂川だよ。あんまり話したことなかったけど……」


 メガネっ子は苦笑交じりに名乗った。

 ああ、そうだ砂川だ。

 確かクラスの保健委員だったな。


「心配して来てくれたのか、悪いな」

「ていうか本来は私の仕事だし……いや、うん、弥勒門さん怖いから助かるけど」

「そこは慣れたもんだ。流石にこんな華の様子は俺も初めてだが……」


 ちらりと華を見る。

 すでに熟睡しているようで、話は聞かれなさそうだ。


「ところで、こないだチャットグループで華さんの話、してたよね」

「ああ」

「あ、あのね……ひとつ、誤解を解いておきたいことがあるの」


 もじもじしながら砂川は意味深な言葉を呟いた。


「何のこと?」

「弥勒門さんが、横山先輩を三階から突き落とした……って話」

「横山って誰かはわからないが、『突き落とした』って話は聞いたが……。もしかしてデマなのか?」

「ううん、そうじゃないの。ただ理由があるの。横山先輩が彼女を脅してて……そこに弥勒門さんが偶然居合わせたの」


 砂川が、具体的に説明を始めた。


 横山先輩とやらは付き合っていた女の子がいた。行為に及ぶ程度に仲が深まっていたそうだが、女の子の方が愛想を尽かして別れを告げたそうだ。だが横山先輩は女の子を隠し撮りしたあられもない写真を出して復縁と夜の行為を迫ったらしい。


 卑猥な言葉で脅している最悪の場面を、華が立ち聞きしてしまった。


 華の悪名は学校内に轟いている。華に弱みを握られるということはもはや終りに近い。粗相をしたアルバイトすら首になるのだから、悪事を知られた人間など、どうなるかわかったものではない。


 そこでパニックになった横山先輩とやらは、窓から逃げた。


「……しょ、しょうもねえ」

「そうなんだよね……。ただ、弥勒門さんも女の子を逃したり、助けようとはしてくれたんだと思う」

「げらげら笑ったっていうのは?」

「あ、それは本当。ものすごい大爆笑だった。いや……うん……人が飛び降りるのを見てあれだけ笑えるのは普通の人間を超越してると思う」

「そ、そっか」


 華は、言い訳無用のモンスタークレーマーだ。

 恐らく他人を攻撃できる口実を見つけたならば見逃すことなどないだろう。


「まあ弥勒門さんも暇つぶし感覚で人助けになったのは偶然かもしれないけど、また弥勒門さんが悪いことした……みたいな噂になるのって、ちょっと可哀想じゃない?」

「そうだな」

「あの笑い声だけは擁護できないけど……うう、まだ耳に残ってて悪夢を見るのよね……」

「どんだけ怖かったんだよ」

「と、ともかく……もしそのことが原因で弥勒門さんと彦一くんがケンカとかしちゃってたなら申し訳なくて」


 砂川が、華を心配そうに見つめる。

 華は俺たちの会話に気づくこともなくすぅすぅと寝息を立てていた。


「まあ……ケンカとも違うんだがな。ただこいつが元気出るよう励ましてみるよ」

「がんばってね」

「ってわけで、授業サボるわ。適当に言っておいてくれ」

「え?」

「こいつの家に行ってくる」

「あ、ああ、そっか。家族を呼んだりしなきゃいけないもんね」


 家族か。


 華との付き合いは長いが、家族関係やプライベートなことはあまり漏らさない。かろうじて知っているのは兄とは仲が良く、父が嫌いということくらいだ。母の話は一切出ない。知らないことの方がたくさんある。今までなんとなく避けてきた華の「家」のことに触れなければ、華の身に何が起きたかを知ることはできないだろう。


「それじゃあ先生には適当に伝えておいてくれ」

「わかった」


 俺はそう言って、保健室を後にした。


 砂川が、まるで我が事のように横山先輩とその彼女のトラブルについて詳しかったことは、聞かないでおくことにした。





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