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私のホンダビート

作者: べんけい

     私のホンダビート


 私は少年時代にスーパーカーブームの影響をもろに受け、スポーツカーが好きになり、以来、童心を失わないから未だに好きだ。そして彼是、運転歴30年を数えるベテランドライバーとなった。

 私が免許取りたての二十歳の時、日本はまだまだモータリゼーション華やかなりし頃で而もバブル景気全盛期で今と違ってエコロジーとかエコノミーとか地球温暖化とか、そういうことが全然叫ばれていなかったから環境に優しくなくて不経済なスポーツタイプの車が若者を中心に好まれ幅を利かしていた。

 スポーツカーが廃れエコカーが尊ばれる今、隔世の感がするが、私が20代の頃に尊ばれていた車と言えば、スポーツタイプでエコでない上に大抵ツードアかスリードアで車高が低いので乗り降りがしにくいわ、中が狭いわ、人も荷物もあまり載せられないわで実用性も利便性も低い物だった。

 RVとかミニバンとかワンボックスとかに好んで乗っている今時の人間、況して車離れが進んでいる若者にとっては何でそんな物が良かったのかと思うかもしれないが、兎に角、運転が楽しかったのだ。

 一言で言えば、ドライバーズカー、取りも直さずドライバーのための車、そういう車でしか味わえない運転の楽しさがあったのだ。

 殊に私は硬派の乗り手でオートマなんか絶対選ばなかったし、マニュアルじゃなきゃスポーツカーじゃないとそこまで思っていたから自分で操ってる感が半端ない運転の楽しい車を求め、マニュアルシフトのスポーティーカーを乗り継いで来た。

 私が現在セカンドカーとして所有しているホンダビートは1991年5月にデビューしたから丁度バブル経済が終焉を迎える頃に誕生したオープンミッドシップスポーツカーで世界的に見ても珍しタイプの車だが、私の所有するビートは1992年型で一年半くらい前に買ったから、なんと27年落ちになる訳だ。走行距離も10万キロをオーバーしているが、呆れる程、調子が良く、やれも少なく意外な程、よくできた車なのだ。

 まず感心するのはミッドシップなのに直進安定性に優れている所だ。以前所有していた同じミッドシップの初代MR2とは大違いだ。それにフロントが軽いからパワステが付いていないのだが、ステアリングに適度な手ごたえを感じられてスポーツカーらしくて良いのだ。

 斯様にステアフィールが好ましいし、何と言っても良いのが、シフトフィールだ。シフトストロークが短くてこきこきと節度よくシフトチェンジが決まって最高にフィーリングが良いのだ。ヒールアンドトーが巧く決まった時なぞはスポーツライクな気分を高めてくれる。

 エンジンフィールも良くウルトラスムースな回転フィールを味わえる上、本田宗一郎の最後の息吹が掛かっているからなのか、古き良きホンダエンジンその物のビ-トの効いたサウンドがドライバーズシートの直ぐ後ろからダイレクトに聞こえて来て7000回転以上回すと、F1譲りの3連スロットルが採用されているからなのか、古き良きホンダF1マシンの如き痺れるようなエンジンの快音と猛々しいエキゾーストノートを奏でてくれて私を愈々以てロマンへと誘い、ホンダにF1初勝利の栄冠を齎したRA272を駆る名ドライバー、リッチー・ギンサーになった気分にさせてくれるのだ。

 その気分を味わうにはオープンにする必要があるが、オープン走行を思う存分堪能するには夏の土日祝日の早朝が良い。

 車がほとんど走っていなくて道が空いていて思い切り走れるお陰で常に風を感じられて涼しさが心地よくて、おまけに人目を気にしなくて良いからだ。

 オープンカーならではの加速感と風を切る感覚とひんやりとした感覚、これらがファンツードライブに加味されて、いやあ、全くサイコーだね、ビートって!今まで乗った車の中で一番楽しい!しかし、車文化に胚胎する地球温暖化などの弊害を意識していなかった若い頃と違って排気ガスや騒音をまき散らすことに罪悪感を覚えるようになってしまったからその分、楽しさがスポイルされる。だけれどもだ、もし、若い頃にビートを買って運転出来たのなら今よりもっと楽しめたかというとそうではない。色んな車に乗り継いだからこそビートの良さが分かるのだ。

 若い頃はスペック重視で矢鱈にパワーのある速い車を求め、何度もスピード違反で捕まって馬鹿を見たが、公道で楽しむには非力なビートが最適で車重がメッチャ軽いからパワーが充分だと思えるし、パワーが有りすぎると持て余すが、ビートならバイク並みに回るエンジンをレッドゾーンが始まる8500回転まで使い切ることが出来るのだ。

 それにサイズが小さいのも良い。人馬一体感を味わえるのだ。それに引き替え、今時の車は昔より道が広くなった訳じゃないのに幅が広いわ、背が高いわでデカくなり過ぎた。シートポジションの低いビートで大きなワンボックスカーの横を通った時なぞはビルディングを横目に走ったような気になる程だ。そんな時、私とビートはどんな風にワンボックスに乗っている人から思われるのだろうか。多分、ビートの良さも楽しさもスポーツカーの何たるかも分からないから私もビートも超変わり種として馬鹿にして笑い飛ばすのだろうなあ。しかし、スポーツカーに乗りたくても乗れない事情があり、已む無く時流に合わせている人から見れば、衷心では羨ましく思われるのだろうなあ。

 何れにせよ、強がって薄ら笑いを浮かべていることが多いから対向車に乗っている人の顔を見ないように走ることを心掛けている。

 偶に目が合って、その人が冷笑を浮かべていると、やっぱりかと思って心がひんやりする。無論、風に感じる爽快感とは違って嫌悪感を抱きながら・・・そして、それは羞恥心へと変わり、やがて悲憤慷慨するのだ。そんな時、顔が朝焼けした朝日みたいに熱くなって赤くなるのを感じる。青年のように・・・


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