そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)3.4 < chapter.8 >
カナリアの羽根を持てるだけ持って現実世界へと戻ると、嵐のような忙しさが待っていた。
なにしろ三千年前から観測されていた『攻略不能な呪詛』を解除してしまったのだ。魔法省、王立大学呪詛学研究室、王宮式部省、その他関係省庁やマスコミへの対応に追われ、息つく間もなく駆け回った。
竜族でさえも手出しできなかった伝説級の怪現象、《歌を忘れたカナリア》。その攻略法がどのようなものだったかを問われ、ベイカーとキールは胸を張ってこう答えた。
「魔法学者、呪詛学者の方々がアレを攻略できなかったのも無理はありません。最終的な決着は、キールの拳によってつけられました」
「物理的にぶん殴りました!」
「筋肉は、世界を救います!」
「パワー・イズ・ジャスティス!」
そう言いながら逞しい力こぶを見せつけられてしまっては、それ以上何も聞くことは無い。会見の様子は翌日の新聞、ラジオで大々的に報じられ、この日以降、老若男女を問わず「パワー・イズ・ジャスティス!」が流行語となるのだが、それはまだ少し先のことである。このとき特務部隊オフィスには、それどころではないミッションが届いていた。
「は? もう一度あの世界に行け?」
「ああ。すまないキール。あの羽根な、見た目はただの『デカい羽根』だが、成分分析の結果、とんでもなくレアな魔導鉱物を大量に含有していることが判明したんだ」
「どの程度のレア度だ?」
「錬金変性鉱物の『賢者の石』ってあるだろ? アレをさらに精製して純度を上げた『真理の石』と言うものがあるのだが……」
「それが入ってたのか?」
「いや、さらにその上だ。今の技術では精製不可能と言われている石で、ええと……」
ベイカーはメモを取り出し、それを読み上げる。
「錬金術理論における仮想領域上の許容限界を突破しうる第四次変性物質の亜型、カッコ正式名称未制定、カッコ閉じ」
「ワカラン!」
「読んでる俺にもさっぱりワカラン!」
「それが入っていたのか?」
「ああ。いや、入っていたというより、許容限界を突破した状態でカナリアの羽根に擬態……? じゃなくて、疑似様態変化? だかなんだかしているらしい」
「ワカラン!」
「俺にもワカラン!」
「とにかく、あの世界でカナリアの羽根を拾ってくればいいんだな?」
「ああ、そのようだ。それで人選なのだが、王宮側から指名があってだな……」
「誰だ?」
「ピヨちゃんの羽根回収班、班長、マルコ・ファレル・アスタルテ。副班長、キール・フランボワーズ。技術員、ジョリー・ラグー・フィッシャーマン。運輸担当一、デニス・ロットン。運輸担当二、ノルベルト・キンスキー。班員一、トニー・ウォン。班員二、ガルボナード・ゴヤ。班員三、ナイル。班員四、シアン。回収班への特別同行者として宮廷女官ラナンキュラス。その護衛として式部省職員ラジェシュ・ナヤル。あと、王立大学の各分野の研究室から教授や助手、研究員たちが全部で四十人ほど……」
「四十人!? 小学校の遠足か!?」
「これでも三分の一まで絞ったらしい。未知の亜空間ともなれば、植物学や地質学、気象学の教授陣も名乗りを上げて当然だからな。それでマルコが班長なのは、教授たちの経歴に『王子直々に指揮する回収ミッションに同行した』という箔をつけるための名目だ。実際の指揮はキールが執ってくれ」
「まあ、そういうことなら……しかし、アレだな。その面々、大事件の予感しかしない」
「ああ。実はな、亜空間に入って何分で事件が起こるか、女王陛下と賭けをしている」
「何分に賭けた?」
「俺が五分で、陛下が十分以内。ラジェシュが三十分、ラナ様が十五分、ナイルが『何も起こらない』に賭けた。お前はどうする?」
「賭け金はいくらだ?」
「五万」
「だったら三分以内で参加しよう」
「OK、伝えておく。出発は明日の朝八時だ」
「了解」
それからキールは手渡された指令書の内容に従い、ミッションの準備を始めた。
翌日、ジョリーと四十人の研究者たちが狂った笑いを全開にして超弩級の大事件を引き起こしまくるのだが、それはまた別の話である。