殿下の愛人は男性近衛兵
「いたっ!……痛いよマルクス……昨日の痛みがまだ残ってるんだから」
「確かに昨日は酷くやり過ぎましたが、それは殿下がやってくれと言ったからで」
「と…とにかく!今日は優しく頼む……あっ」
「優しく頼むじゃありませんわああああああああああああ!!」
私は礼儀など忘れ、扉が壊れるのではないかというぐらいの勢いで開け放ちました。
私はウェルトン公爵令嬢ユリアーナと申します。
なぜ私が婚約者であるレオハルト殿下の部屋に突撃したかと言うと、殿下についてのよからぬ噂が流れていたからです。
近衛兵のマルクス様を愛人にして、毎晩、如何わしい行為をしているという噂が!
噂は所詮噂だと思いつつも、婚約者として事実は確認しなければなりません。殿下は昼も「夜」もお忙しいようで、1週間程顔を合わせておりませんでした。
王妃教育の為に王宮には出入りしているので、それとなく調査する事にしたのです。
「最近は毎日ですね。マルクス様が殿下の部屋に入った後、殿下の甘い声が廊下に響いておりまして…終わるとマルクス様は何事も無かったかの様に部屋を出られるのです」
「私はマルクス様が退出された後、汗だくになった殿下の湯浴みの準備を毎晩やっております」
「時々、痛がる殿下に無理矢理している様な会話も聞こえましたわ」
確定です!噂は事実の様です!又聞きではないのです!お世話をしている人達の生の証言なのです!悲しいやら悔しいやらで、私の頭の中はごちゃごちゃになっていました。
それでも何かの勘違いだと思いたかった自分もいて、私の目で確認してやろうと決意し冒頭の突撃に至ったわけです。
「優しく頼むじゃありませんわ!婚約者の私というものがありながら、歳が近いとはいえ近衛兵となんて、それに愛人を作る事に私が反対するとでも思ったのですか?結婚してからの心構えなどがありますから、側室や愛人関係の事はちゃんと相談してくださいませ!それから………って…あれ?」
部屋に入るなり言いたい事を言っていた私ですが、何か違和感がありました。
突然、部屋に入って来た私をポカンとした顔で見つめている殿下は、上半身裸で足を広げ、マルクス様に背中を押してもらっていました。マルクス様も殿下と同じような表情をしています。
「ユリアーナ?夜遅くにどうしたんだい?」
殿下は何も隠す事の無いような態度で尋ねてきました。
まさか、まさかこれは、
「最近、殿下がマルクス様を愛人にして、夜な夜な……その………なんと言いますか……」
「ブフッ!」
私の態度にマルクス様が耐えきれずに吹き出してしまいました。
「これは失礼。ユリアーナ様?私は殿下の柔軟運動を手伝っているだけで、如何わしい事などしていませんよ?」
「フフ……確かに誤解を受けるような声を出していた気もしてきたが……しかし……マルクスが僕の愛人……フフ……ありえない!ハハハハハ」
殿下もついに耐えきれずに大声で笑い始めてしまいました。
私は勘違いだった事を認識して、顔を真っ赤にして俯くことしかできません。
いつの間にか殿下は私の前まで来ており顔を耳元まで寄せて
「結婚した後は、ユリアーナに手伝って貰わないとね。あと、レオって呼んでって何回も言ってるよね?」
「はい……レオ様……」
私はレオ様の鍛えられた上半身を近距離で見たのと優しく囁かれたので床にへたりこんでしまいました。恥ずかしくて走ってこの場から逃げ出したいのに立つことができませんでした。
この夜の騒動は私の大声とレオ様の笑い声によって「噂は勘違いだった」という事が瞬く間に知れ渡り、社交シーズン中の笑い話として盛り上がり、そして収縮していきました。
「いやぁ〜マルクス、今回は何とか誤魔化せたけど、ちょっと迂闊だったね。反省反省」
「無駄に大騒ぎして笑い話に出来て良かったですよ本当に。でも、殿下に嘘でも愛人なんてありえないと言われて、少し落ち込みましたが…」
「今は誰もいないから名前で呼んでよ!言葉使いも普通に!」
「…………わかったよ……ハルト……」
「………マルクスゥ……………」