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第一話

 ――――――この戦況を、俺は覆すことが出来ない。


「うぇ・・・・ひ、ひっく・・・・」


 目の前には泣きじゃくる女の子、周りの大人はそんな光景を見て口々にいう。


「かわいそう」と――――、


 ここは戦場だ、甘えなどいらない。

 何が可愛そうなものか。彼女は自ら選んだのだ、この戦場に来ることを・・・・俺と戦うことを・・・・。

 だが、何故俺は・・・・こんなにも嫌悪されているのだろうか――――。


 ◇◇◇


「・・・・ん?」


 目を開けると、そこは灯りの一つもない真っ暗な世界だった。

 おかしいな、俺は家で疲れて寝ていたはず・・・・何故こんなところにいるのだろうか。

 辺りを見回せど、そこらには何もなく・・・・どこか湿っている感覚だけが肌を伝って分かる。


 立ち止まっていても仕方がない、とりあえず進むことにしよう。

 そう思い、ただ真っすぐに洞窟を進む。

 すると、薄っすらと青白い光が見えるのが分かる。

 ・・・・あれは・・・・なんだ?


 奇妙な光に向かって小走りに近づく。

 これは・・・・将棋盤?


 将棋盤から光が出ている・・・・いや、そもそも何故こんなところに将棋盤があるのだろうか。もしかして、これはテレビか何かのドッキリ企画だろうか。

 頭の中をぐるぐると回転させ、思考を繰り返す――――なるほど、どうやら異世界とやらに来てしまったらしい。

 それも、なんともファンタジーの世界だろうか。ここには魔術というものもあるようだ、少しばかりだが、地面や空気から魔力のようなものを感じる。


 しかし――――この将棋盤、この将棋盤だけ、異様に魔力の濃度のようなものが濃い。

 それに俺のこの頭をもってしても解析が不可能だ。一体なんなのだろう。


「・・・・はぁ・・・・」


 まあいい。黒幕はもうわかったし、少しばかりこの将棋盤のことについて調べるとしよう。

 そうだな、とりあえず――――破壊でもしてみるか。


「フンッ!」


 拳を盛大に振り下ろし、将棋盤に力の全てをぶつける。

 最も最適化された力のぶつけ方だ。ゾウだって一撃で死ぬ。だかしかし――――こいつは耐えたようだ。

 

 下を見下ろせば、そこには何事もなかったかのように置かれている将棋盤だ。ヒビは1つも入っておらず、依然と青白く光っている。

 だが、何も分からないわけじゃなくなった。こいつは、何か魔術のようなもので防護壁を張られている。ならば簡単だ、魔術には魔術をぶつけてしまえばいい。そうすればこの将棋盤は簡単に砕け散る。


 ――――といっても、壊したところで何があるかは分からないがな。


 さて、どうしたものか・・・・一応将棋の駒は常備している。自分で考えた詰将棋でもやるか――――。


「おい!貴様何をしている!」


 どこからともなく、兵士のような恰好をした男たちが――――いや、こいつらは兵士だ。

 それも、結構大きな国の兵士みたいだな。さっきの将棋盤を壊そうとしたときの音で気づいてここに来たのだ。()()()()()()


「何をしているかと聞いているのだ!」


「将棋だよ、やるか?」


「?――――訳の分からぬことを!ここはチョン領主の領土であるぞ!許可なく立ち入ることは許されん!」


「大丈夫だ、そいつあと数日で流行り病にかかって死ぬから。なんなら次の領主は俺がなるか?それなら許されるだろ」


「流行り病――――!?今そんなものは起こっていない!デマを申すな!」


「デマじゃねぇよ、()()()()()()


 キッと睨みつけると、兵士たちは一歩あとずさりをする。これで去ってくれればいいのだが・・・・。


「ひるむな!あいつを捕らえろ!」


 ――――まあ、分かってはいたが無理か。


「落ち着けよ、俺は領主の隠し子だ。ずっとここに隠されて生きてきた。そうしなきゃ、こんなところに入ることもできないだろ?あんたたちの仕事っぷりは凄いんだから」


「隠し子・・・・?なるほど、その可能性も考えられなくもない・・・・」


「だろ?ここで俺を捕らえてみろよ、領主に隠し子がいたことがバレて奥さんはカンカンだ。あんたたちも、クビになるかもな?」


「!!」


「だけど、ここで俺を見逃せば・・・・あんたたちはむしろお礼を言われるかもしれない。報酬だって俺から出そう。どうだ、少し考えてみては?」


「・・・・領主様に確認をとってくる。お前らは見張っていろ!」


 そういうと、1人の兵士が領主のもとへと去っていく。

 一度ムチを見せてから飴を出す・・・・簡単に引っ掛かるもんだ。


「・・・・あの・・・・」


「ん?なんだ?」


 兵士の1人がコソッと、耳打ちで話しかけてくる。


「本当に・・・・領主様の隠し子なんですか?」


「そうだけど?なんならお前も確認に行ってこいよ」


「い、いえ・・・・1つ聞きたいのですが・・・・あの光っているモノは、一体なんなのでしょう?」


 そういうと、兵士は将棋盤に目線を向ける。

 どうやらこの世界に将棋盤とやらは存在しないようだ。仕方ない――――ここは1つ、将棋について伝授でも――――、


「あの変な物はいったい、なんなのでしょう?」


「・・・・変な物?」


「ひぃ!」


 兵士が怯えた顔でこちらを見る。どうやら腰も抜けたようだ。

 だが、許すわけにはいかない。こいつは今――――将棋をバカにした。


「お前・・・・将棋をバカにしたな?」


「ああぁぁああぁああ・・・・・!」


「気が変わった。穏便に済ませようと思ったが――――どうやらそうもいかないらしい」


 周りの兵士たちも俺を見て怯え始める。

 何かおぞましいものでも見たように、悪い瘴気に触れたように。

 幼児退行、健忘症、幻覚症状に心因性視覚障害。

 たかが人間を見た程度で――――こいつらは精神障害を起こしてしまったらしい。


 だが――――許すわけにはいかないんだ。


「死ねえええええええええええ!」


 拳を一直線に振る――――これが本気のパンチではないことが、唯一の慈悲だ。


 空振りに終わったかと思われたそのパンチは、後からロケットのように威力だけが付いてくる。

 その威力に、風圧に、兵士は跡形もなく吹っ飛んでいく――――この狭い空間と共に。


「・・・・正義執行!」


 拳の風圧によって全てが吹き飛んだ。洞窟も、兵士も、そして――――慌ててこちらに走ってきたもう一人の兵士もだ。

 洞窟が吹き飛んだことにより、太陽の光があたりを照らす。

 だが、ただ一つ。唯一それだけは、やはり平然とそこに――――。


「・・・・ま、この程度で壊れるとは思ってないけど」


 青白く光る将棋盤は、いつの間にか光ることを忘れ。

 ただの木の将棋盤となって、そこに居座っていた。


「あーあ、いきなり飛ばされた場所は異世界で、それも魔力とかいう意味の分からないものまであって・・・・まるで将棋だな」


 悩めば悩むほど頭がかゆくなる。だがまあ、こんな世界も悪くない。

 どうやらこの先に町があるみたいだ。行ってみるのもいいだろう。


 さて――――せっかくの異世界だ1つ目標でも立てるとしよう。


「どうやらこの世界の住人は将棋を知らないようだしな・・・・この世界に将棋を普及させる。なんてのもいいだろう。よし、それで決まりだな」


 置かれてある将棋盤を担ぎ上げ、ポテポテと歩き、とりあえずこの場所を離れることにする。

 まずは手始めに――――次の町で将棋を流行らせる。そして、それを起点にして全国展開する。

 絶対に、将棋はバカにはさせない。






 目標1――――『異世界に将棋を普及させる』

 目標2――――『次の町で将棋を流行らせる』

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