ホットホットチョコレート
早朝から日が高い。
起きて3秒。
良く焼けた地肌に薄手のシャツをひっかけて、
短パンサンダル肩掛けかばん。
朝飯のフルーツを頬張りながら、
「いってきまぁす」
男の子は今日も学校である。
「今日は、チョコをあげる日なのよ」
バス停で待ち合わせるのは、幼馴染の女の子。
学年の女の子の中で誰よりも背の高いその女の子は、外見も目立つが声もよく通る。
「おばあちゃんが言ってたの、昔は手作りのチョコをあげたものだって」
「なんだよそれ、聞いたことねーんだよ」
聞いたことがないどころか、馬鹿にした様子で男の子、あの男の子である、は大声で返す。
かなりの大声だが周りは気にしていない。というかそれぐらいしないと聞こえないのだ。
朝のバス停は、人で渦なのだ。
「おばあちゃんがそう言ってたの、私も昔あげたって」
「おめぇのばあちゃん、ぼけたんじゃねぇのか? !! いってー」
女の子が男の子を、いわゆるげんこつした。身長差から言ってほぼ真上からである。あれは痛いだろう。
「この馬鹿力女っ!」
これが、ふたりの日常だった。
しかし男の子は気づいていた。最近、げんこつがそれほど痛くない。
昔のように真上から振り下ろされている感じがしないのだ。
事実、彼は成長期にあり、早熟の女性である彼女を、ごく近いうちに背も力も軽々と越えて見せるだろう。
男の子は痛みが和らいだことを素直に歓迎していた。しかし、やはり、同時に何か落ち着かないものも感じるのだった。何かが変わるとしているような、そんな予感。
痛みも治まり、男の子が頭をなでるのをやめると、女の子は意を決したかのように、それでいてつっけんどんに、
「だから、私も作ってきたのよ、はい」
男の子の胸に押しつけられたものは、はたしてチョコレートである。
「溶けるから、早く食べなさいよ」
確かにこの気温では、チョコレートなどすぐに溶けてしまうだろう。
今日女の子の荷物がすこし大きかったのは、保冷剤とこのチョコレートの分だったらしい。
そんなことより、男の子はきれいにリボンなどで包装してあるそれを抱えているのが、なんだかたまらなく恥ずかしくなっていた。
「えー、おれいらないよ。朝から食べたくない。返す」
よく見もせず考えもせず、横に投げて返した。
「きゃっ」
それは女の子の顔にあたると、地面に落ちた。
乾燥した地面に落ち、砂まみれになった包みを見て、男の子はしまったとは思ったが、女の子を見たとき、完璧な後悔へと変わった。
彼女は泣いていた。
彼は、その時自分が何をしたのかを一瞬にして理解したのだった。
砂まみれの包みを拾う男の子。
女の子の頬には、すでに溶けていたのだろう、チョコレートがついていた。
男の子はそれを人差し指で取って、口に運んだ。
苦い。
「おいしくねーよ、馬鹿」
女の子は答えず、また少し泣いた。
もうすぐ二人は卒業式だ。
未来のバレンタインを想像しました。
温暖化の影響はこんなところにも笑