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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

クロノ皇王星侵略!

作者: KAZUHISA3

 この遥かに広大な宇宙では…

 銀河系では先史文明の影響で地球を含む多数の星に交配可能な様々な種族が存在し、いくつもの星間国家が形成されていた。



 1つの星間国家が形成されていたクロノ皇王星…


 美しい星である。


 星では優秀なクロノ民族に依って築かれた高度な文明が栄え、1つの星間国家としての機能と平和を保っていた。

 クロノ民族の中心で有り、国家を統括をしていたのが皇王・九呂乃秀忠を当主とした九呂乃皇家。


 皇王亡き後は、令嬢の妃弥子(ひみこ)が女皇王として国家のトップとなっていた。

 そして、亡き父君の意志を受け継ぎ国家の繁栄と安泰を進めていたのである。

 初めの頃は妃弥子が亡皇王の後継である事を良しと思わない一部の者たちが反乱を起こして、国内は内戦状態の危機に陥ってしまった。

 クロノ政府は反乱分子による皇室転覆を阻止すべく軍を出動させようとしたところ、妃弥子は武力による鎮圧を禁止した。

 幼い頃に戦の悲惨さを目の当たりした自身が、これ以上は血が流れる事を良しと思わなかったのである。

 そこで妃弥子は御自らが反乱分子の総大将に会い、話し合いをした。


 結果は如何に?


 妃弥子女皇王の命を取れると大きな期待を持っていた総大将だったが、実際には何も手が出せず争いにピリオドを打った。

 女皇王の和平への熱意と、相手を憎まない清廉な心に感化されたのだった。

 何よりも、その凛とした神々しい姿と雰囲気に圧倒されたのは言うまでもない。

 総大将を始めとする反乱分子の者たちは過去の深い因縁で秀忠に恨みを抱いていた。

 しかし、妃弥子女皇王が心の底から深く詫びをした姿を見て、長年のわだかまりが消えたのである。

 

 反乱分子が武器を捨てた事で内戦の危機は回避された。

 総大将は女皇王の推薦で皇室警護の防衛組織の指揮官のポストが与えられ、国家の為に身を捧げるようになる。


 これ以降、クロノ星は何とか落ち着きを取り戻したのである。



 美しく輝く都の中心に建っているやしろのような巨大な建物が、九呂乃皇族が住む黄金宮殿である。

 とても広い皇王の間には女皇王『妃弥子』の姿が有った。

 柄物の羽織袴をベースに打衣、表衣、唐衣を着こなし、頭に金色のティアラを着けた正装姿の若い女性である。

 父君である秀忠皇王、そして母君である沙矢子皇妃亡き後は九呂乃皇家の世継ぎ者としてクロノ星間国家を統括する身分だから、美しく可憐で気品溢れる雰囲気を醸し出していた。

 国家のトップに君臨する身分に相応しい女性なのだ。


 この日は『高上沙麗伎たかがみさつき』と名乗る高貴な女性が親善訪問をしていた。

 聖凰せいおう星から訪れた女皇王様だと言う事で妃弥子を初め、九呂乃皇家挙げて歓迎したのだった。

 妃弥子と同じように長い黒髪の美しい女性で、穏やかな表情にも気品さが溢れている。

 唐衣、表衣、内衣の内側にきぬを数枚重ね着し、下に張袴を履いた衣装。

 頭に赤い紐の付いた金色の冠を被った艶やかな姿をしている。


 友好関係締結を含む一通りの歓迎儀式を終えた後、2人は別間へ移動した。

 皇接室で、ゆったりとしたソファで語り合う2人。

「ようこそ、お越し下さいました沙麗伎女皇王。長旅はさぞやお疲れ様でございましょう?」

 穏やか表情に優しい口調の妃弥子である。

 沙麗伎も同じような口調で語る。

「いいえ。女皇王様にお会い出来ると有れば、旅の疲れなど何のその」と言って、出された茶をすすり始める沙麗伎。

 妃弥子も同じように茶をすすり始める。

「とても美しく清らかで、それでいて男勝りの勇ましい女皇王様とお聞きしておりましたが、こうしてお会いするとそのような雰囲気が伝わって参りますねー」

「ありがとうございます。褒めて頂けて、光栄です」とまあ、沙麗伎は笑顔。

「上皇様や皇太后様は、お元気でいらっしゃいますか?」

「2人とも元気です」

「是非、お会いしたいですね?」

「なるべく早く親善訪問をしたいと言っておられます」

 他の星間国家と友好関係を結んでいるクロノ国家も、聖凰国家とは正式な国交は結んでいなかった。

 距離が遠い事も有って、互いの民族が行き来する機会がなかったのだ。


 それが半年前になって聖凰皇室から特使がやって来て、妃弥子女皇王と面会した。

 特使が沙麗伎女皇王からの親書を妃弥子女皇王に手渡した事から友好関係締結への準備が始まった。

 聖凰国家内の様子や高上皇家に関する情報とかは既に政府の方で入手済みで、妃弥子女皇王は改めて特使から色々と話しを聞いていた。


 妃弥子女皇王からの親書と手土産を持参して帰国した特使はさっそく、沙麗伎女皇王を始め上皇や皇太后たちにクロノ国家での事を報告した。

 親書と手土産を受け取った皆、大喜び。

 上皇の後押しで自らのクロノ国家への訪問実現に弾みを付けたのである。


 女性2人の会話は続いた。

 お互いの国の事、日常生活の事、共通の話題など話しの内容は途切れる事はなく話しが弾む。

 それぞれの星間国家を治める立場の2人だが、所詮は女性だから会話が弾む弾む。

 時には話しが脱線して卑猥な事を話題にする事もしばしばである。




 一通りの話しが進むと、沙麗伎はこう切り出した。

「我が父上…、龍玄上皇から重要な…、お伝えがございます」

 それまでの穏やかな表情から凛とした表情になった沙麗伎。

「何でございましょう?」

 ジッと相手に注目する妃弥子。


 高上皇家を中心とした聖凰族に依る国家が形成されている聖凰星国家。

 今、高上皇家を中心とする聖凰宇宙連合なる国際機構を立ち上げていた。

 宇宙的規模の恒久平和の推進を目的とした機構で、既に多くの星間国家が加盟しており聖凰国家政府が平和的指導を始めている。

 九呂乃皇家に対しても高上皇家の傘下に入るよう龍玄上皇が促していると言う。

「最近ではテイルズ星国家も連合に加盟して、殆どの国家が当家の傘下に入りました」

「加盟していないのは、私たちだけと言う事ですね?」

「そうです」

 妃弥子は内心、疑問に思った。

 力の大きなアリス家が実権を握るテイルズ星国家が他の星の傘下に入るなんて考えられないからだ。

 それに聖凰宇宙連合なんて言う機構の存在自体、初耳である。

 妃弥子は質問した。

「随分と大きな活動をなされておるのですね? 何か目的でも?」

「それぞれの国家が、まもなく迫り来る脅威から護られる為です」

「脅威とは?」

 沙麗伎は嶺翁星神高れいおうせいかむたか皇国を統治している神高美恵蘭びえら皇女ひめみこ各星間国家を襲撃している事を初めて語った。


 神高皇国は神高一族の宇宙武者『神高昴輝(こうき)』が嶺翁星で実権を握って国造りしたもので、昴輝自らが皇王に就任して統治するようになった。

 梛妓羅は昴輝の妻である貴美枝皇后の間に生まれた子。

 後に妹の磨婀羅まあらが生まれている。

 二十歳の時に初代皇女に就任し、侵略戦争で両親を亡くした後に自らが神高皇家の後継となった。

 その初代皇女自身が変貌して凶暴化し、配下の者たちを引き連れて極悪非道の限りを尽くしていると言う。

豫裳津よもつ星、L77星、デラ、青き円卓、天津星、エリアル、牛妃…色々な星や国家が、強大な力を持つ神高皇国の初代皇女に滅ぼされております。いずれはここ…、クロノも襲われてしまうでしょう」

「それは恐ろしい。我々は、どのような対処を施したら良いのでしょうか?」

「だから連合入りを促しているのです。当家の傘下の元で国の防衛を進めるのが、お宜しいかと」

 目を閉じ、しばし考え込む妃弥子。

 沙麗伎はジッと相手の表情を見つめるが、段々と視線が鋭くなって来た。

 目を開けた妃弥子。

「連合への加盟手続き方法は?」

 待っていましたとばかり、沙麗伎は同行している1人の美しい側近女性に指示を送った。

 女性は持参している錦色の布閉じファイルから一枚の用紙を取り出してて広げテーブルに出した。 妃弥子は用紙を手にして、目を通し始める。

 それは加盟する為の契約締結書である。

 じっくりと目を通した妃弥子は用紙をテーブルに置くと、ジッと考え始めた。

 沙麗伎は言う。

「時は一刻を争います。恐らく、美恵蘭皇女は既にクロノ星へ向かって来ているハズですから早急に手続きを致しましょう」

 促すように言った相手の言葉に呼応するように、ペンを滑らした。

 妃弥子の後ろに立っている2人の側近女性たちが注目している。

 記入し終え、用紙の向きを変えて相手方に差し出す。



 女性が用紙を取ろうとした時、妃弥子は手で用紙を押さえた。

 驚いて妃弥子を見やる側近女性と沙麗伎。

 妃弥子はクールな眼差しで沙麗伎の顔を見つめる。

「この締結書は無効にしても、差し支え無いですねー?」

「え?」

「申し訳有りませんが、この書はお返しするワケには参りません。此方の方で処分させて頂きます」

「ちょ、ちょっと!」

 戸惑う沙麗伎の前で妃弥子は自分の側近の1人に用紙を手渡した。

 これには沙麗伎は不快感をあらわにして動揺し始める。

 妃弥子の方は冷静な態度を取っているが。

 沙麗伎が問う。

「無効とは、どう言う事!?」

 妃弥子が説明する。

「本当に連合自体が存在していますならば、私は喜んで加盟するでしょう。でも…」

 言葉を途切らせ、ため息を吐いた妃弥子。

「でも?」

 側近女性に目配せで指示した妃弥子。

 沙麗伎の目の前で側近女性によって用紙が焼滅してしまう。

 側近女性が手をかざして焼滅させたのだ。

「聖凰宇宙連合なんて存在しない。機構設立なんて言うのは偽りで、多くの星を実力行使で支配下に置いた。まあ実際には…、多くの星の高上皇家の支配下に入る事を拒んでいたみたいですから…、容赦無く襲撃して根絶やし状態にしてしまったと言っても良いでしょう。幸いにもテイルズ星は…、アリス=カイ司令官殿が率いる防衛軍の守りが固かったから、さすがに手は出せなかった」

「私どもが、各星間国家を襲撃したと仰るのですか!?」

「そうでしょう?」

「失礼な! 私どもは…」

 妃弥子は鋭い目付きになり、片手を上げた。


 もう1人の側近女性が部屋の壁の一部に手を当てた。

 何かのスイッチが入ったかのように壁の一部がほんわりと光を放つ。

 女皇王2人が向かい合わせで座っている席のテーブルの中央にホログラフィーの3D映像が現れた。

 どこかの星の都市だろうか?

 完全武装した兵士たちが高層の建物付近で慌ただしく走り回り、それぞれが手にしている銃火器で戦闘を行なっている。

 数多くの弾丸や光弾が飛び、至る所で爆発が起きている。

 その中で一際目立つのが和服のような衣装を乱れ着している1人の若い女。

 手に持っている鉾を振り回して多くの兵士をバタバタと切ったり刺したりして倒しているのだ。

 時には両手から発する何か見えないような衝撃で兵士たちを木の葉のように吹き飛ばしたりしている。

 極め付けは背中から触手のように伸びて来る黒帯らしき数本の細い物体の猛威だろう。

 蛇のようにクネクネとうねりながら宙を舞い、兵士たちを打ちのめしたり身体に巻き付いて投げ付けたりしているのだ。

「いずれの星々を襲った後、同じように聖凰星をも襲ったのですね?」

「私が襲ったとでも?」

「貴女しか考えられませんから」

「何と!」

 襲撃者扱いされたものだから沙麗伎は怒り心頭になった。

「貴女はいったい何者なのです?」とクールな眼差しの妃弥子。

 沙麗伎は更にカッとなり、テーブルを両手でバーンと叩いて立ち上がる。

「我を聖凰高上皇家・女皇王高上沙麗伎と分かってて! そんな愚問を発しておるのかッ!?」

 すると、それまで冷静だった妃弥子が怒り出す。

「あの御方は既に亡くなっておるわッ! 聖凰国家自体が滅ぼされ、死の星と化していると言っても過言ではなかろう!」

「!?」

 目をカッと見開いた沙麗伎。

 妃弥子は鋭い眼差しで相手の固い表情と目の動き、息遣いをジッと観察している。

 聖凰高上皇家とは長い付き合いが有る事を妃弥子は初めて教えた。

 最近、凶悪な皇女に依って滅ぼされてしまった事に自分を初め、クロノの民たちも悲しい思いをしている事も。

 動揺している相手を見て妃弥子はニヤリと微笑む。

「あの美しい星をも襲い、可憐で愛らしい沙麗伎女皇王の命を奪った張本人が何をほざいておるのですか?」と妃弥子。

「いずれの星も滅ぼしたのは、美恵蘭皇女だと申しましたでしょう?」

「…」

 指をパチンと鳴らした妃弥子。



 すると、黒系のカーゴパンツに上衣。更に柄物のジャケットを羽織った男たちが手に小銃を持ったまま慌ただしく部屋に入って来た。

 沙麗伎もお供の側近女性も男たちから銃口を向けられて呆然となった。

「そなたたちは!?」

「クロノ皇軍・皇室警察隊です」

 妃弥子はゆっくりと立ち上がり、後ろへと身を引いた。

「私をどうする気ですか?」

 警察隊の隊長播磨拳児が言う。

「貴女を拘束し、明日にでもスペースポリスへ強制送還します」

 銀河系を中心に宇宙の平和と秩序を守る公安組織の事である。

 沙麗伎皇女は激怒した。

「戯けッ! 客人である私に対して、何と言う応対ですかッ!? この私が美恵蘭皇女…」

 沙麗伎が言い終わらないうちに妃弥子が再び怒鳴る。

「戯れ言は聞きとおないッ! 大人しく、お縄を頂戴されよッ!」

「おのれー!」

「確保ッ!」

 妃弥子の命令で播磨隊長は持っていた機械のスイッチを入れた。

 電子式の手錠である。

 表示ランプが点灯し、輪っかが自動的に開く。

「美恵蘭皇女、貴女を逮捕します」と言って、播磨隊長は沙麗伎に歩み寄った。

「すずッ!」

 沙麗伎が自分の側近に指示を出したのだ。

 すずと名乗る側近女性は警護するように沙麗伎の前に立ちはだかると、播磨隊長に襲い掛かった。

 隊長は心得たもので、すかさず応戦に出る。


 すずは美しい姿からは想像出来ないぐらい格闘の達人だった。

 屈強で大の男に対し早業で両手を交互に繰り出して相手に迫るのだ。

 相手の動きに反応するかのように両腕で防御に出る隊長。

 更にすずは様々な蹴りやチョップの攻撃を行うが隊長は余裕の表情で応戦し続けた。

 タイミングを見計らったところで隊長は猛反撃を行った。

 素早くジャンプして回し蹴りを行い、すずをノックダウンしたのだ。

 さすがは百戦錬磨の闘志がみなぎる播磨健児隊長である。

 気を失った我が側近を見て沙麗伎はため息吐いた。

 そのまま立ち尽くす沙麗伎の両手首に輪っかが閉じられる。


 2人の隊員が背後から皇女の肩に手を掛けた時にそれぞれ、腹部に衝撃が走った。

 目を剥きうめき声を発した2人の隊員。

 断末魔の叫び声を聞いて振り返った播磨隊長にも腹部に衝撃が走って目を剥いた。

 口から血を吐き、床に多量の血が流れ落ちる。

 驚愕する一同。

 周りの女性たちから悲鳴が上がる。

 長い髪を振り乱し、鬼のような表情で沙麗伎皇女が苦笑した。

「せっかく妃弥子女皇王と親しくなれる思っていたのに残念な事だが、私の正体に気付いてしまったのなら仕方がない」

 衣装はそのままだが乱れ着の格好で、素足をだしたままの沙麗伎皇女。


 …もとい、神高美恵蘭皇女。


 背中から触手のように伸びた黒く細い帯が播磨隊長と2人の隊員の腹部を貫通したままだ。

 そのまま3人の身体を軽々と持ち上げて振り回し、遠くの壁へと投げ飛ばした。

 宙を飛んで壁に身体を打ち付けて、床に転げ落ちた男衆に女性たちは思わず後ずさりした。

 警察隊や驚きの声を、女性たちから悲鳴が上がる。

 あまり騒ぐものだから妃弥子が一喝する。

「騒ぐではない!」

 残忍な行為が目の前で突然、起きても妃弥子は冷静になれるとはさすが。

 動揺する事で敵に隙を見せてしまうのを躊躇った判断である。 




 沈黙の空気が流れる。

 床に倒れこんだままの、すずを焼滅させた美恵蘭皇女(自身が片手から火球を放って)はゆっくりとした歩調で妃弥子の傍へ歩み寄って来た。

 両拳を作り立ち尽くす妃弥子。

 美恵蘭皇女は目を細め、冷たい笑みを浮かべて言う。

「白旗を上げる事だな妃弥子女皇王。私に忠誠を近い我が星と和平を結べば、このクロノだけは何もせぬ事を約束しよう」

「笑止! 殺戮と破壊を繰り返す者が和平など、口にするとは! 虫酸が走るわッ!」

 怒りをあらわにする妃弥子を見て、美恵蘭皇女は大笑いする。

「そなたも美しく、それでいて骨の有りそうな者だと私は見たが」

「見たが何なの!?」

「素直ではないのが良くない」

「勝手にほざくが良い!」

 妃弥子はサッと後ろへ身を引くなり警察隊に発砲命令を下した。

 警察隊の隊員たちに依る射撃が始まった。


 レーザー弾が一斉に飛び、美恵蘭皇女に浴びせられる。

 一斉攻撃を受けて最初は戸惑いを見せた美恵蘭皇女だが、すぐに落ち着きを見せた。

 見た限り、余裕の表情を見せるではないか。

 いくら銃や火器を浴びせても、全くダメージを受けないのには驚かされる。

 不思議な事に全てのレーザー弾は美恵蘭皇女の艶やかな生身の身体の中に吸い込まれているのだ。

(美恵蘭皇女! 何と言う不思議な体質をしているのッ!?」

 警察隊の火器攻撃をものともしない、美恵蘭皇女の身体に妃弥子は驚愕するのだった。

 やっかいな侵入者が現れた事に気が滅入りそうである。


 やがて銃撃が止まった。

 攻撃の効果が無い事に隊員たちは呆然となり、互いに顔を見合わせる。

 仁王立ちの皇女は腕を組み、笑みの表情で一同を見渡す。

「少しは考えよ! むやみに発砲していては、銃のエネルギーを無駄に消費してしまうだけだ! それに私は、いくら銃撃受けても何とも感じないぞ!」

「…!」

 隊員たちは発砲を再開しようとするけど、身体が震えてしまって引き金を引けないでいる。

 再び沈黙の空気が流れる。

 ビビって誰も発砲しない事に歯がゆい思いになっている1人の隊員が叫ぶ。

「ひ、ひるむな! 撃てッ! 撃つんだッ!」

 隊員の叫びに促されるようにして一同は再び引き金を引いた。

 激しいビーム銃声音が鳴り響き弾丸の光が宙を飛ぶ!

 これだけの数の光弾を浴びてしまえば身体へのダメージは避けられないようだが、それでも美恵蘭皇女は冷静のままでいた。

 虚しくも全てのレーザー光弾は、艶やか衣装に包まれた細身の身体に吸い込まれるだけ。

 炸裂する事も貫通する事もなく、ただただ体内へと吸収されているのだ。

 隊員の1人が手にした携帯ロケット砲のスイッチを押した。

 炎を出しながらロケット砲弾が発射され、美恵蘭皇女に着弾した。


 激しい爆発が起き炎が上がる。


 妃弥子や隊員たちは遠巻きで息を凝らして様子を見守った。

 さすがの、美恵蘭皇女もこれで!

 誰もがそう思った時、驚愕の展開が起きた。



 燃え上がる炎の中に黒い人型のシルエットが上がったかと思うと次の瞬間!

 炎がサッと消えたではないか!

 無傷で何も汚れていない美恵蘭皇女が両腕を左右斜め前に伸ばしたまま立っている事に一同は度肝を抜いた。

 ニヤリと笑む美恵蘭皇女。

「もうそろそろ、私の方から礼をしなくてはな」

 この時、美恵蘭皇女の瞳がギラリと光る。

「や、やべーッ!」

 屈強な隊員たちは美恵蘭皇女に対して恐怖を感じ、青ざめた表情で逃げ腰となり始めた。

「私に火遊びをしてくれた礼だ! 快く受け取るのだ!』

 美恵蘭皇女は両手首を胸の辺りでクロスさせると、赤いの光が眩き始めた両拳をサッと左右斜め前に突き出した。

 同時に開いた手のひらから強烈な熱線がレーザーのように放たれ、隊員たちの身体に直撃した。

 熱線は太くなって宙を飛び隊員たちを木の葉のように吹き飛ばしてしまう。   


 次々と焼滅して行く隊員たち。

 九呂乃皇室を警護する為、多くの国家公安委員から選抜されたエリート隊員たちも、嶺翁星の初代皇女の前では敵なしと言えるようだ。

 部隊は全滅したのだ。

 熱線が自分の方にも飛んで来るのを目にした妃弥子は、死を覚悟し始める。

 だが幸いにも巫女姿の1人の若い女性が駆け寄って来て、片手を突き出して熱線を遮ってくれたから難を逃れた。

 美恵蘭皇女は尚も熱線を発射するが、女性が放った青白い火球の直撃を受けて後方へ吹き飛ばされてしまった。

「女皇王様!」と振り返った女性。

「コウ!」

 護り女役の側近であるコウが動いてくれて妃弥子は安堵する。

 だからと言って油断は禁物。

「危険ですから避難しましょう!」

 妃弥子が返事する間もなく、護り女コウは強引に引っ張った。


 急いで皇接室を出て来た時、美恵蘭皇女が大扉を突き破って後を追って来る。

 怒りの表情で熱線を発射する美恵蘭皇女。

 咄嗟に護り女コウは火球を放って熱線と衝突させた。

 空中で衝突する熱線と火球。

 激しい爆発が起き炎が上がる。

 大広間にいた宮殿の女給たちや男子使用人たちが逃げ惑う。

 同じ巫女姿の別の若い女が走って来て、美恵蘭皇女に飛び蹴りを喰らわせた。

 又もや後ろへと飛ばされた美恵蘭皇女。

「リフィル、注意しなさい! 初代皇女はかなり手強いわよッ!」

 もう1人の護り女リフィルに対して妃弥子からアドバイスが飛んだ。

 赤い髪を後ろに紐で束ね、男のような荒々しさを感じるが澄んだ目をしているキレイな女性だ。

 ニヤリと笑みを浮かべてうなづいた護り女リフィル。

 何か呪文のような文字が描かれた札を出して、美恵蘭皇女に向かって交互に投げ付けた。

 フリスビーのように激しく回転しながら宙を飛ぶ数枚の札。

 フラつきながら立ち上がった美恵蘭皇女の額や全身にベタベタと貼り付いた。

 それぞれの札に描かれている文字が一斉に光ると全身に稲妻が走り出した!

 断末魔の叫び声を上げた美恵蘭皇女。

 護り女リフィルは目を閉じ、指2本を立てたまま呪文を唱えていた。

 やがて美恵蘭皇女は光に包まれた後、そのまま床へ倒れ込んだ。





美恵蘭皇女はその後、テイルズ星の最高評議会の決定でスペースポリスへと身柄を送られた。


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