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夜。
まだまだ夜になると熱を出してしまうわたくしを心配して、お父様とミハエルが交互に顔をだしてくれた。
ミハエルが来てくれたのは、深夜だった。
暗闇にうかぶ、銀の髪。
わたくしの闇を照らしてくれる月のような。
わたくしのいちばん好きな色。
「姉様……」
ささやかれた声に、「なぁに」と言葉を返す。
ミハエルはわたくしが起きていることに気づいていなかったようで、ぎくりと体をこわばらせた。
「起きていたの?」
「ええ。月を、見ていたの」
ミハエルは分厚いカーテンで閉ざされた窓を見て、不思議そうに首をひねった。
そういう仕草は、あの幼い日の彼を思い出させる。
「ミハエル。わたくし、あなたが好きよ」
「……え?」
「姉としてではなく、ただの女として。ふふ……、あなたには迷惑かもしれないけれど」
ごめんなさいね、と枕に顔を向けて言う。
「あなたを困らせるつもりはなかったの。ただ言いたかったの。死ぬと思った時、この想いをあなたに伝えられなかったことが悲しくて」
ミハエルにとっては、重荷なだけかもしれない。
姉として育ったわたくしの恋なんて。
ヒロインとも仲良くしていたみたいだし。
でも、つたえたかったのだ。
どうしても。
彼の重荷になるとしても、心の片隅にでも、わたくしの気持ちを置いておいてほしかったのだ。
バレンタインに告白する気なんて、なかった。
そこまでの重荷を、ミハエルに負わせる気なんてない。
「ただ伝えたかっただけなの。困らせてごめんね、ミハエル。もう少ししたらわたくし、この家から去るわ。しばらく会わなければ、この気持ちもいつかは思い出になる。あなたの姉に戻るから」
「なんで、そんなことを言うんだ……?」
ミハエルが、低い声でつぶやく。
「俺が、どんな気持ちで姉様をあきらめようとしていると思っているんだ……!」
あらあらしく、肩をつかまれた。
ベッドに肩を押さえつけられて、目を開ければ、間近にミハエルの顔が迫っていた。
「ミハエル……?」
赤い目が、怒りに燃えている。
綺麗な、赤。
火のように燃えるミハエルの目に、小さなわたくしがうつっているのが見える。
わたくしはそっとミハエルに手を伸ばし、そのすべらかな頬に手を触れた。
と。
「姉様っ」
ミハエルはわたくしにおおいかぶさり、あらあらしい口づけを与えた。
奪うように二度、三度と唇を重ねられ、呼吸が熱を帯びる。
「ミハエル……?」
与えられる口づけが信じられなくて。
わたくしに口づけているのがミハエルだと信じたくて、彼の名前を呼ぶ。
するとミハエルは、熱っぽい目でわたくしを見つめて叫んだ。
「俺は、謝らない。ずっとずっと姉様が好きだった。俺みたいなやっかいものをひきとってくれたエリンギ伯爵への恩を考えても、姉であるあなたを想うなんて許されるはずがないって距離をおいて。けどあなたが王太子の婚約者になんかなってしまったから、苦しくて、苦しくて……」
ミハエルは、わたくしの頬をその大きな手でそっと撫でた。
大切なものをあつかうように、そおっと。
「信じていいんだな、あなたも俺のことを好きでいてくれるって」
「わたくしこそ……、あなたがわたくしを好きだなんて。信じていいの……?」
おずおずとわたくしもミハエルの顔に手を伸ばす。
その手が、彼の顔に触れたとたん。
ミハエルがぼろぼろと涙をこぼしながら、笑った。
「信じて、姉様。ずっとずっとあなたが好きだったんだ」
そうして、優しい口づけをわたくしにくれた。
次でラストです!




