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「アリーシャ、すまなかった」


ベッドに横たわるわたくしに深々と頭を下げるのは、ラザン王太子。


あの襲撃事件の後、10日間ほど、わたくしは熱をだして寝込んだ。

キノコ王国は比較的平和な国なので、王太子の婚約者であるわたくしも、リアル襲撃は初めてだった。

見知った護衛たちも一時は命が危ぶまれる重症だったし、気持ち的にはだいじょうぶなつもりでも、体はショックが大きかったようだ。


おかげで、わたくしが目を覚ました時には事件はほぼ終結していた。


まず、事件の犯人はカエンタケ伯爵。

前々からやばめの噂がひっそりとささやかれていた伯爵だ。


わたくしを襲わせたのは、プレーンに王太子妃の後がま狙い。

カエンタケ伯爵には、美貌の三姉妹がいる。

妖艶な長女、清楚な次女、かわいらしい三女とそろい踏みなので、わたくしさえいなければ誰かがラザンの心をつかめると思ったようだ。

無計画ともいえるカエンタケ伯爵の行動だけれど、彼は国のお金を横領しているのがバレそうな瀬戸際だったらしい。

娘が王太子妃になれば、いろいろ誤魔化せると思っての犯行だとか。

……さらに無計画ですよね、ってつっこんでもいいのかしら。


ラザン王太子が、わたくしに頭をさげているのも、そういった事情である。

つまり、王太子や一部の方々は、わたくしがカエンタケ伯爵に狙われているのを承知の上だったと。

というか、他にもわたくしを狙っていらした方々はたくさんいらしたけど、そちらは事前に片付けてくださっていたらしい。

ありがたいことですこと……なんて笑えないよ。

ラザンったら、わたくしの仲良しのふりをして、かげではわたくしを囮にしているんだもの。

道理で、身分が微妙なのに王太子の婚約者としていられたはずだよ。

一部の方にとったら、わたくしったら国の膿をだすための囮なんですもの。


「頭をあげてくださいな、ラザン王太子」


わたくしは、つーんとして言う。


「わたくしったら、知らないうちに囮にされていましたのね。あなたも、国王陛下も、王妃様も。皆さまご存じで、わたくしにお優しくしてくださるふりをして、危険の矢面にたたせていましたのね」


「すまない……」


ラザンは悲壮な顔をして、言う。


「なーんて、ね!」


わたくしは、ぺしっとラザンの頭をたたいた。

不敬?

でもわたくしの恐怖をかんがえれば、これくらい許されるわよね?


「どんな理由があっても、あなたの婚約者としての位置にいたのはわたくしです。危険は、承知のうえでのこと。国のお役にたつのなら、光栄だと思いこそすれ、恨むなどありえません」


ベッドの上では格好がつかないけれど、胸をはって言う。


「だが、私は君に黙って、危険にあわせた」


「そう。わたくしに秘密にしていた、それは不愉快に思います。わたくしでは、あなたがたと意思を共有して、行動することができないと思われていたということでしょう?わたくしの実力不足ゆえかもしれませんが、それは不快に思いますわ!」


ラザンがまた「すまない」と頭を下げる。

公式な場ではないとはいえ、王太子たるものそんなに軽々に頭を下げるべきではないのよ、ラザン。

わたくし、ほんとうは怒ってなどいないんだもの。

あなたはわたくしを勝手に囮として利用したかもしれないけど、わたくしを好きでいてくれたのも本当でしょう?

好きな女の、好きな男の話をえんえんと聞いてくれて、慰めてくれて、ストッパーになってくれていた。

ひとつ隠し事をされていたからって、あなたと過ごしたすべての時間が嘘だったなんて思わない。


ラザンは、王太子だ。

国を守るためなら、好きな女を囮にすることだってあるだろう。


けれど優しすぎるラザンは、わたくしにまた頭を下げる。

ねぇ、ラザン。

ほんと、王太子って、そんなに軽々と頭を下げちゃダメなのよ?

わるいー女に付け込まれてしまうからね。


「わたくしに申し訳ないと思うなら、ラザン。国王陛下たちに根回しして頂戴。……わたくし、決めたわ。バレンタインに、ミハエルに告白する」


「え?」


ぽかんとした表情で、ラザンがわたくしを見る。

思えば彼のこんな気の抜けた表情は初めて見たかもしれない。


甘え通しだった幼馴染に、わたくしは意地悪く笑って見せた。


「死にかけたと思った時、いちばん後悔したのはミハエルに気持ちを伝えてなかったこと、だったのよね。うまくいかなかったら、わたくしが修道院にいけるように手回ししてよね?」


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