表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/10

6

あっという間に、季節はすぎて、2月。

ヒロインは、攻略対象たちと順調に仲を深めているようだ。

剣技にすぐれたシイタケ伯爵子息、魔術の特別講師であるエリンギ公爵。

それから、ミハエルとも。


ヒロインが、誰とのルートを選んだのかははた目にはわからない。

ただ彼女が、彼らと一緒にいる姿は、よく見かけた。

ミハエルが放課後、彼女に魔術の使い方を教えているところも、何度も見かけた。

かわいい笑顔をうかべた彼女が、ミハエルに手作りらしきお菓子を手渡しているところも。


ミハエルが、ヒロインと結ばれたら、あきらめる。

そう決めているのに、心は「嫌だ」ってさけぶ。

ミハエルに、わたくしのことを見て、って言いたくなる。


実際、わたくしもヒロインにならって、手作りのお菓子をつくったりもした。

前世の記憶をたよりにつくったクッキーは、我ながら上手にできたと思った。


けれど、ミハエルが不機嫌そうにそれを受け取って、言った。


「ふぅん。姉様でも、クッキーなんてつくるんですね。王太子がお好きだからですか?」


「ラザン……?えぇ、彼もクッキーは好きだけど」


これは、あなたのためにつくったのだ、なんて言えなくて。

口ごもるわたくしに、ミハエルはクッキーを食べながら言う。


「初めてつくったんでしょう?これ」


「え、ええ。おいしくできているかしら」


「俺は毒見ってわけか。……うまいですよ、姉様が初めてつくったクッキー」


その言葉にまいあがりそうになったわたくしは、ミハエルの表情を見て、おしだまった。

ミハエルは、おいしいものを食べて嬉しいという表情をしていなかった。

毒でも食わされたかのような、苦々しい顔。


「まぁ、俺は、自分のためにつくってくれたものがいちばんうまいと思いますけどね」


それは、ヒロインの手作りのお菓子のことなの?

ミハエルの言葉に、胸が痛くなる。

わたくしは、なにも言えなくて。

そんなわたくしを見て、ミハエルは気まずそうに家から出かけて行ったんだっけ……。






わたくしの1年弱は、常にそんなふうだった。

ヒロインがミハエルと笑いあっているのを見て、羨ましくなって、真似をして、けっきょくうまくいかなくて。


傷ついては、生徒会室に逃げ込んだ。

そこには、ラザンがいるから。


ラザンはあれ以来、わたくしにはちっとも優しくなくなった。

わたくしが落ち込んでいると、嬉しそうに言うのだ。


「ほらほら、あと1か月でタイムリミットだよ」


「結局、ミハエルには彼女がお似合いなんじゃないか?」


って。

わたくしはそのたびに「ひどい!」「そんなことないわ!」なんて、言って。

それこそが、ラザンの優しさだって、知ってる。


……タイムリミットは、あと14日。

バレンタインに告白できなければ、ラザンの卒業をもって、わたくしは彼の妻になるんだろう。





さんざん、ラザンに愚痴を言って、生徒会の仕事をして。

気が付けば、帰宅時間を大幅にすぎていた。


「こんなに遅くまで二人きりで生徒会室にこもっていたら、また噂になるね」


ラザンが軽口をたたきながら、帰宅の用意をする。

お互いの馬車が園庭に到着したので、わたくしはラザンに「ふんっ」と鼻をならして自分の馬車に乗った。


まさかその馬車が、襲われるなんて、思いもしなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ